2022/9/27

【香川】無駄を出さないサステナブルな「てぶくろ屋さん」

株式会社ソトエ代表、フリー編集者・ライター
アパレル業界が直面している問題が、大量の衣服の売れ残りやB級商品の処分です。そうした大量生産、大量消費の問題を、SDGsへの取り組みの中で解決していこうという動きが始まっています。

香川県の手ぶくろ卸・製造会社のフクシンもその一社。手袋は寒い時期だけのいわゆる季節商品で、使い捨てが大量に発生するため無駄が多い製品だと思われてきました。そうした手袋の問題について、独自の方法で環境に優しい解決策を考案。今では地球環境に配慮した自社ブランド品を都心の大手百貨店に展開するほどまでに活動領域を広げています。
INDEX
  • アパレル業界で持続可能なモノづくり目指す
  • パッケージやリボン、保証書まで再生素材
  • 使い続けてもらうために修理や片方だけ販売

アパレル業界で持続可能なモノづくり目指す

大丸や西武、そごう、阪急といった大手百貨店や大手コンセプトショップ、大手雑貨店から取引の依頼が絶えないアパレルブランドがあります。香川県東かがわ市の手ぶくろ卸・製造会社、フクシンが立ち上げた「ecuvo,(エクボ)」です。
流行に左右されないベーシックなデザイン(写真提供:フクシン)
2020年2月のブランド創設以来、地球環境に配慮した製品づくりやシンプルなデザインが共感を呼び、2021年度の「グッドデザイン賞」やソーシャルプロダクツ普及推進協会の「ソーシャルプロダクツ賞」を受賞。
「新型コロナ禍でも引き合いがあり、消費者ニーズが高まる時期の需要に供給が追いつかない状態」と、フクシンの福崎二郎社長はうれしい悲鳴をあげます。
フクシン 代表取締役 福崎二郎氏
一般社団法人「エンづくり研究所」代表理事。武蔵大学を卒業後、日本生命保険相互会社に就職。事業承継のため帰郷。企画営業部長、専務取締役を歴任し、時代の流れを読んだ独自のブランディングと販売戦略で年商5億円程度の売り上げだった会社を年商10億まで成長させる
顧客の共感を呼ぶのは、「ecuvo,」が自然環境に配慮する姿勢を貫いているから。SDGs(持続可能な開発目標)が世界的な潮流となっている昨今、ファッション界でも、衣服の生産から回収までのプロセスで自然環境に配慮する「サステナブルファッション」が注目を浴びています。
同様のコンセプトを掲げるファッションブランドが続々と立ち上がる中でも、「ecuvo,」の自然環境配慮への“こだわり”は徹底しているのです。

パッケージやリボン、保証書まで再生素材

こだわりの一つは「サステナブル素材」を使うこと。
ニット帽や手袋、Tシャツ、靴下などの商材は、オーガニックコットンなどの天然素材や、ウール、ポリエステルなどの再生素材を使用。ポリエステルは国際認証を受けたペットボトルからの再生素材で、ウールはアパレルの流通倉庫に残った在庫を使用するほどの徹底ぶりです。製品だけでなく、パッケージやリボン(ひも)、保証書などもこだわって天然素材や再生紙を使用しています。
人にも環境にも優しい商品づくりを目指す(写真提供:フクシン)
さらに、顧客が飽きないように極力シンプルなデザインを追求。買い替える必要がない「永久定番」の商品であることも売りにしています。
福崎 「アパレル業界の悪習は毎年デザインを変え、古くなるとすぐ廃棄処分にする。そうではなく、長く使ってもらえるデザイン、つまり永久に定番商品となるデザインを目指しています」
ミトン型、スマホ用に親指と人差し指だけ出るもの、5本指のもの、などシンプルだがニーズに合わせたデザインを展開

使い続けてもらうために修理や片方だけ販売

永久定番に加え、顧客に長期間使用してもらうために導入したのが「永久修理保証」。通常の使用でできた傷の修理を何度でも繰り返し無償で受けています。
さらに手袋や靴下の片方だけをなくした場合、そのなくしたパーツだけを購入できる「片手片足販売」も展開。本来、利益追求の視点からは、片方だけなくしても、両方セットで買い直してもらった方が利益は出やすいはず。それでも、「余った片方を捨てることはもったいないというコンセプトに共感してもらうことで、より多くの人に「ecuvo,」のファンになってもらおうとした」(福崎社長)といいます。
穴の開いてしまった靴下や手袋も修理してくれる(写真提供:フクシン)
このように目に見える部分だけではありません。製造過程では「ゼロごみ組み立て法」を掲げ、ゴミを出さない編み立て法を採用。捨て編みや捨て糸が出ない独自の製法を開発しました。
加えて前述した「永久定番」の製品とすることで、製品開発の際に処分する糸が出ないことも“ゼロごみ”につながっています。
商品にも再生可能エネルギーを使用していることがわかるようにしている
工場で使用する電気も、「100%再生可能エネルギー稼働」を掲げ、自家発電した太陽光発電と外部から購入した再生可能エネルギーを利用。
福崎 「いくら製品でエコをうたっても、工場で二酸化炭素を排出しながら作っていたら意味がないことを弊社のメンバーに指摘され、再生エネルギーの利用に踏み切りました」
織機が並んだ工場内部(写真提供:フクシン)
このように、一般的なサステナブルファッションと比べても、自然環境への配慮を一際目立つ形で追求するのがフクシンの姿勢。その姿勢が結実した製品こそが、「ecuvo,」といえます。ただ「ecuvo,」は単にフクシンの“こだわり”の姿勢だけが生み出した製品ではありません。
その姿勢を商品にどう反映し、ブランド全体のメッセージとして落とし込んでいくのか。コンセプト設計力が求められるのです。
昔ながらのやり方もときには取り入れる(写真提供:フクシン)
後編に続く