2022/9/27

【香川】資源もノウハウも分かち合い循環を目指す

株式会社ソトエ代表、フリー編集者・ライター
香川県にある手袋卸・製造所の「フクシン」は、首都圏の大手百貨店やセレクトショップに並ぶサステナブルな商品ブランド「ecuvo,(エクボ)」を展開しています。同社の特徴は自然環境配慮への徹底した“こだわり”。そのこだわりはブランド名にも込められています。

「ecuvo,」のブランド名の由来は、笑顔にできる「えくぼ」。福崎社長は「目に見えて伝わる笑顔の象徴がえくぼ。名前の最後につく『,』(コンマ)は、えくぼの溝を表しています」と説明します。自然環境への配慮を追求することで、地球上を笑顔にしたいという思いを込めたといいます。
INDEX
  • 働く人のモチベーションを大事にする「笑顔循環企業」
  • 自社企画力を武器に、ソックスやマスクの製造も
  • 培ったノウハウを他の中小企業とも共有する助け合い

働く人のモチベーションを大事にする「笑顔循環企業」

手袋を生産している「フクシン」のサステナブルブランド「ecuvo,」はまさに笑うとできるエクボからきた名前ですが、「笑顔」は単なる製品のキーワードではありません。同社のモットーでもあります。フクシンが目指すのは「笑顔循環企業」。社員が笑顔で仕事をし、笑顔でお客様に商品を購入してもらい、その笑顔が返ってくるサイクルです。
多様な人々が集まり、仕事が楽しいと思える会社づくりに取り組み中(写真提供:フクシン)
企業理念に掲げるのは「たくさんの笑顔を紡ぐ」。その理念を掲げたのは2016年。フクシンの福崎二郎社長が先代から会社を引き継ぎ、社員とともに会社の企業理念の再構築に取り組んだことがきっかけでした。
福崎 「企業理念の再構築に取り組んだ目的は、社員やパートの仕事のモチベーションや帰属意識を高めることにありました。そこで最初に出てきた我が社のコアな価値観は、先代から受け継いだ社是『明るく、楽しく、元気よく』。その社是を自分たちの行動指針に落とし込み、『たくさんの笑顔を紡ぐ』に決めたのです」
「笑顔」をテーマに社内制度も見直したといいます。
例えば、子育てや介護などの際、正社員からパート、パートから正社員へと自由に移行できる「ステップアップ・ステップダウン制度」を導入。
性別や年齢、国籍、学歴などの採用条件も撤廃しました。
笑顔あふれる社内(写真提供:フクシン)
またコロナ禍でいったん中断しているものの、それ以前は社長と社員とのランチ会を定期的に開催。
デジタルの時代になっても給与支給日には社長が社員一人一人に声をかけ、給与明細を手渡ししているといいます。
普段から環境保護のために割り箸の使用を禁止し、マイ箸の持参を推奨。回収したペットボトルキャップをワクチンの寄付金にする支援活動も実践しています。
いずれの制度や活動にもベースにあるのも、「たくさんの笑顔を紡ぐ」という同社の企業理念です。

自社企画力を武器に、ソックスやマスクの製造も

「ecuvo,」のブランド育成には、フクシンのこうした“こだわり”の姿勢に加え、これまで培ってきた製品の“企画力”が生かされています。
1977年創業のフクシンはもともと手袋の卸会社。同社が位置する香川県東かがわ市は、明治時代からの「手袋の産地」として知られてきました。今も日本で生産される手袋の9割以上が東かがわ市で生産されています。そうした手袋メーカーと小売り店舗を仲介する役割を、フクシンは果たしてきました。
エアコンなどによる冷え対策にもなるレッグウォーマー(写真提供:フクシン)
昨今、暖冬や少子化、スマートフォンの普及などを背景に、手袋の需要は減少傾向が続いています。そうした中でも、福崎社長が入社した頃5億円だった売り上げが、今では10億円規模となるほどに成長。従来の手袋の卸業に加え、OEM(相手先ブランドでの製造)や手袋以外も含む自社製品の販売を拡大してきたことが業績拡大に寄与しています。
手袋をしていてもスマホが使えるように親指と人差し指だけ出せるようにしたミトン型手袋(写真提供:フクシン)
福崎 「うちは卸として、小売り店舗の手袋売り場づくりを丸ごと受託して成長してきました。手袋の売り場を一人のバイヤーが考えなくても、フクシンに任せておけばOKと思ってもらえたのです。加えて自社工場で生産したオリジナル製品も拡大し、今は約8割が自社企画の商品になっています」
これまでも、こだわりの自社製品を次々と企画・製造してきました。靴下より太い糸を使う手袋の自動編み機で製造した「5本指ソックス」、さらに光を浴びると抗菌・消臭・防汚の機能を発揮する「手ぶくろ屋さんがつくった光触媒マスク」などが好評を博しました。このようにして培った製品の企画力が、「ecuvo,」のブランド育成を後押ししているのです。
人気を博した光触媒マスク(写真提供:フクシン)

培ったノウハウを他の中小企業とも共有する助け合い

フクシンの強みはこうした製品の企画力にとどまらず、生産や物流の管理方法にもあります。
福崎 「手袋は季節商品ゆえに製造と販売のピークが一気に押し寄せる難しい商品。長らくその商品を扱ってきた中で、生き残るために培ったのが、徹底した生産管理や物流管理の方法でした」
店舗には広い年齢層のお客様が訪れる
その生産管理や物流管理のノウハウは、知人の経営コンサルタントに「これこそが小規模のものづくり企業が知りたい内容そのもの」と言わしめるほど。福崎社長は「弊社の経営ノウハウは中小のものづくり企業の課題解決にも役立つはず」と考え、「一般社団法人エンづくり研究所」を立ち上げました。
自社が培ったノウハウを、中小のものづくり企業の課題解決に生かそうとする試みで、フクシンの持つ500社、4000店舗の販売ルートの提供、都心の一等地で売れる商品企画力、一日2500万円分の注文にも対応できる物流能力、OEMと自社企画を並行する生産管理などを支援していく予定です。
製造を担うフクシンの香川工場
福崎 「急速な社会構造の変化や少子化など、地方を取り巻くビジネス環境は楽観できる状況ではありません。ですが、相互に助け合い、高めていくことができれば、地方の小さな企業でも世の中のニーズに合う商品を作ることができるはずです」
自然環境に配慮した「ecuvo,」ブランドを手がけるフクシン。同社はこれまで培ったノウハウも、周囲の企業にも“循環”させようとしているのです。
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(写真提供:フクシン)