[サンフランシスコ 8日 ロイター] - 米国は先週、国内半導体大手エヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)に対して人工知能(AI)向けの主力半導体を中国に輸出することを禁じたが、これがかえって中国のスタートアップ半導体企業に好機をもたらしている──。業界幹部やアナリストが明らかにした。

米政府はかねて、自国企業が中国のAIとスーパーコンピューター(スパコン)に手を貸すのを阻止しようと取り組んできた。昨年は中国スパコン企業7社を経済的なブラックリストに掲載。先週発表した輸出規制では、その狙いを「最先端技術が間違った手に渡らないよう」にすることだと表明した。

そうした中で8日、AIのスピードを計測する独立系団体MLコモンズが重要な最新データを公表した。中国の無名スタートアップ、上海壁仞科技の最新半導体が、米政府が輸出を禁じた最先端半導体のうち1つの性能を上回ったことを裏付けるような内容だったのだ。

中国スタートアップ企業は、急拡大する国内のデータセンター向け半導体市場に一枚加わろうとしのぎを削っている。壁仞科技が築いた一里塚は、米国製半導体へのアクセスを断たれた国内市場にスタートアップ企業が食い込む道が開かれたことを意味すると、専門家は言う。

中国では何年も前から、エヌビディアやAMD製品に代わる自前の半導体開発を目指し、スタートアップ企業の資金調達と開発が進められてきた。

米国は、核兵器の設計など軍事用に使う計算ツールを中国が開発するのを遅らせようと取り組んできたが、AI用半導体を作る中国スタートアップ企業の台頭は、そうした計画を揺るがしかねない。核兵器の設計ではしばしば、コンピューターで高精度のシミュレーションを行う必要がある。これはエヌビディアとAMDの半導体が得意とする分野だ。

壁仞科技は、中国の電子商取引大手アリババとエヌビディアの元社員らが設立した企業。壁仞は自社の「BR100チップ」について、民間のデータセンターとクラウド関連顧客への販売に専念し、軍に売る計画はないと公には説明している。

コンピューターサイエンスの教授、ジャック・ドンガラ氏は、これは以前にも見た光景だと語る。「米国は、高性能コンピューターの開発を続ける中国の特定箇所に向けたインテル製半導体の輸出を禁じ、その結果、中国は自前のスパコン向け半導体を開発した」と指摘した。

CCSインサイトの半導体アナリスト、ウェイン・ラム氏は、壁仞科技は性能の高さを証明したところでビジネス機会が転がり込み、「サクセスストーリー」になるかもしれないと予想。中国のコンピューター企業は、システムを修正し、入手できる半導体を使ってスパコンを製造する必要が出てきそうだと述べた。

しかし中国のAI市場でシェアを獲得するには、高速度の半導体を開発するだけでは不十分だとみる専門家や業界幹部もいる。AI市場を支配するエヌビディアのソフトウエア・プラットフォーム「CUDA」に対抗できる、半導体用のソフトウエア・エコシステムを構築する必要があるという。

オルブライト・ストーンブリッジ・グループの中国担当上級バイスプレジデント、ポール・トリオロ氏は、市場に新規参入する中国企業はハードウエア面で信頼を獲得した後、「納得のいくソフトウエア・エコシステムを提供」しなければならないと述べた。

エヌビディア製に代わる半導体の開発に取り組んでいる中国スタートアップ企業は他に、寒武紀(キャンブリコン)、アリババ傘下の平頭哥、上海天数智芯半導体(Iluvatar CoreX)など数多い。

データ企業ピッチブックによると、こうした主要スタートアップ企業だけでも、ここ数年で25億ドルの資金を調達した。投資した上海政府系のファンドには、複数の米年金基金や米イエール大学が有限パートナーとして名を連ねている。セコイア・チャイナ、ライトスピード・チャイナ・パートナーズなど、有名なシリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)企業の中国法人も投資した。

シリコンバレーのVC企業、DCVCのマネジングパートナー、マット・オッコ氏は、米国資本の海外投資を制限しようと働きかけている人々にとって、こうした投資は懸念材料だと言う。DCVCは米国の防衛・諜報と関係の深い企業に多額の投資をしていると説明。「多額の米国資金が、AI半導体など米国の安全保障を脅かす中国軍事技術に流れているのは受け入れ難い」と眉をひそめた。

(Jane Lanhee Lee記者、 Stephen Nellis記者)