2022/9/20

【Z世代対談】私たちが「ヴィンテージアイテム」に惹かれる理由

NewsPicks Brand Design Editor
 もしも、あなたが今着ているその服が、環境破壊の原因になっているとしたら――?
 身に着けることで気分を上げたり、自分の「個性」が表現できたりと、私たちの生活を豊かにしてくれる「ファッション」
 一方で、ファストファッションの流行などにより、「安く大量に服をつくること」へのニーズが高まった結果、環境破壊や動物の搾取、過酷な労働、大量の衣類ロスなど、世界中でさまざまな問題が噴出している。
 私たちの何げない買い物は、環境にどのような影響を与えているのか。
「おしゃれ」と「サステナブル」を、無理なく両立することはできるのか
 サステナブルに関する発信をし続け、自身もオールサステナブルなブランド「Jam apparel」を運営する、モデルの長谷川ミラさんと、若年層向けヴィンテージ品販売プラットフォーム「VALTIQUE VINTAGE(ヴァルティーク ヴィンテージ)をローンチしたオークネットの篭田久奈さん。
 2人のZ世代が、「サステナブル×ファッション」をテーマに意見を交わした。
INDEX
  • きっかけは「1本の映画」だった
  • ファッションには「魔法の力」がある
  • サステナビリティは「ブーム」じゃない
  • 未来とは「意思ある選択」の積み重ね

きっかけは「1本の映画」だった

長谷川ミラ(以下、長谷川) 今でこそ、モデル活動と並行して、サステナブルに関する発信をしたり、環境に配慮したファッションブランドを運営したりしていますが、もともと私は「ファッションが大好き」なごくごく普通の学生でした。
「サステナビリティ」を意識し始めたのは、「もっとファッションについて勉強したい!」と留学したロンドンの大学で、業界のビジネスモデルや環境配慮のあり方について学んだからです。
 特に、鮮明に覚えているのが、『ザ・トゥルー・コスト』というドキュメンタリー映画を観た時の衝撃。
 華やかなファッション業界の裏側がセンセーショナルに報じられていて、私はこの作品を観て、しばらく服を買うことはおろか、服を着ることさえ怖くなってしまいました。 
 舞台は、2013年のバングラデシュ。首都ダッカにある縫製工場が入った商業ビルが安全管理の不備で崩落し、1,100人以上の死者を出す大惨事が起こります。
 ですが、本来この悲劇は防げたはずのものでした。
 実は、事故前日にビルの異変に気付いた従業員から報告が上がり、地元警察からも退去命令が出ていたんです。
 それでも、ビルのオーナーは仕事の継続を指示しました。それは、「安価に大量の衣類をつくってほしい」という欧米企業からの要請が強くあったからです。
 当時の様子がありありと語られた映像を見て、新しい服を買うことが大好きで、服を着ることで自分らしさを表現していた私は、本当に心が痛くなりました。
篭田久奈(以下、篭田) たった1つの「事実」を知るだけで、価値観が大きく揺さぶられることってありますよね。
 ミラさんと同じく、私もファッションが大好きなのですが、大学入試の一環で、エッセイを書いた時に、業界のいびつな構造について知って、ショックを受けました。
 はじめは、日本に進出していなかったあるファッションブランドの誘致についてエッセイを書こうと思っていたのですが、先生から「それもいいけど、ファッション業界が社会に与えているダメージについて調べてみたら」と助言いただいて。
 それで、高校生なりに調べてみた結果、“想像もしなかった闇”を知ることになります。
 服をつくる工場から出る廃棄物で環境が汚染されていること、子どもたちが労働搾取されていること、そしてつくられた商品が大量に捨てられていること――。
 目を背けたくなるような現実ばかりで、ミラさんと同じように、新品の服を購入することに少なからず抵抗感が生まれました。
長谷川 悩ましいですよね。とはいえ、私は、ファッションが持っている価値を否定したいわけではまったくないんです。
 実際、服を買うと気分が上がるし、お気に入りの服に袖を通すと、パッと明るい気持ちになる。
 その日をハッピーな気分で過ごせるのは間違いないですから。
篭田 おっしゃる通りだと思います。
 私も服が大好きですし、今でも、いろいろと考えたうえで、新しい服を買うこともあります。
 ただ、ちゃんと調べるまでは、自分が着ている服がどのように生産されているかに、ほとんど意識が向いていなかった。
 事実を知ってからは、もっと1つ1つの服を大切に扱おうとか、本当に必要かどうかを考えようとか、そうした意識を強く持つようになりました。

ファッションには「魔法の力」がある

篭田 ミラさんは、「服を着ることさえ怖くなった」という過去を、どうやって克服したのですか?
長谷川 まずは、新しく服を買うのをやめました。
 手持ちのアイテムだけでも十分に楽しめますし、組み合わせを意識すれば、おしゃれのバリエーションだって増やせる。考え方を改めたんです。
 ただ、「新品をまったく買わない」というのも、いずれは限界が来ます。
 ある日、モデルをしていた関係で、「MARC JACOBS」のショーに招待してもらう機会がありました。そこで用意いただいた衣装に袖を通した瞬間に、もう、本当に涙が出るほど感動して。
 そこで、それまで我慢していた「ファッションが人をエンパワーメントする感覚」を思い出したんです。
 そうだ、たしかにファッションには人を豊かにする力があったな、って。
 それからは、「新品=NG」と、一辺倒に考えるのをやめました。
 服をつくることが、環境に影響を与えることは疑いようのない事実だけれど、私たち人間は生きていかなければいけない。
 生きていくということは、単に食事と睡眠を取ればいいだけではありません。
 だから、まずはファッションを心から楽しむ。そして、ハッピーに生きていくことと、環境負荷を軽減することを、なんとかして両立できるように頑張ろうって。
篭田 共感します。私も、ファッションに何度も、楽しさや勇気をもらってきた一人です。
 私が実践したアクションは、母や姉からのおさがり、いわばヴィンテージアイテムを使うことでした。
 今、着けているブローチも、履いている靴も、母から譲り受けたものです。
 以前は、トレンドに追いつくために、「新しい服やアクセサリーを買わないといけない」と思っていて、ファストファッションをなんとなく買ったりもしていました。
 でも、それが環境に対して悪い影響につながっている可能性もありますし、何より、周囲が持っていないアイテムを身に着けるのは、おしゃれなんじゃないかと思って。
 それで、自分のスタイルを変えてみたんです。
長谷川 自分らしいスタイルを体現するのって、すごくクールですよね。
 私も、学生生活を送っていたロンドンの空気感に背中を押してもらいました。
 それこそ、ロンドンには“ヴィンテージ文化”があり、「新しい服を持っている=カッコいい」というわけではなかったんですね。
 むしろ、年代物だったり、あまり流通していない古着だったり、そういうオリジナルなアイテムを持っていることのほうがステータスでした。
「新作が出たら、すぐにそれを買う」という考え方を否定したいわけではありませんが、中には、同調圧力によってそういった意思決定をしている人もいます。
 そうであれば、考え方を変えてみてもいいはずです。

サステナビリティは「ブーム」じゃない

篭田 ただ、ファストファッションに慣れきった若い世代の多くは、なかなか自分の消費スタイルを変えるのも難しいと思うんです。
 それこそ、サステナブルファッションと呼ばれるアイテムはまだまだ値段が高いですし、存在自体もあまり知られていません。
長谷川 「環境に配慮したアクションをしたいのに、どうしたらいいか分からない」という人は少なくないですよね。
 サステナビリティについて発信をしていると、高校生や大学生のフォロワーさんから「どこで服を買えばいいのか分かりません」とか「サステナブルブランドは高すぎて買うのを躊躇します」という声をいただくことも多いです。
 実は、日本にあるファストファッションブランドでも、サステナブルな素材を利用したラインがあるのですが、あまり知られていません。
 若い世代がサステナビリティへの関心を寄せ始めているのに、もったいない。
 だからこそ、そうした「選択肢」を提示し、それを知ってもらう活動をするのが、私たち大人の責任だと思います。
篭田 「選択肢を提示する」というミラさんの意見、すごく賛成です。
 私が勤めているオークネットは、創業から37年、一貫して「二次流通」と呼ばれるリユース品のマーケットで、BtoBをメインに事業を展開してきました。
 そこで培ったノウハウやネットワークを活用し、一般消費者向けに新たにリリースしたのが、ブランド物のヴィンテージ品を手の届く価格で買えるプラットフォーム「VALTIQUE VINTAGE(ヴァルティーク ヴィンテージ)」です。
 背景には、Z世代やミレニアル世代などの若い世代に、「ヴィンテージ」という選択肢を提示したいという思いがあります。
VALTIQUE VINTAGEの公式サイトの様子
 そもそも日本は、欧米諸国と比較して、おしゃれなリユースショップが多くありません。
 サステナビリティを意識してヴィンテージアイテムを購入しようと思っても、いわゆる“中古品”のイメージが先行してしまい、なかなか利用されない現状があります。
 それから、価格も非常に高い。
 ヴィンテージが新品より高くなるのは珍しいことではありませんが、それでも消費者の手に届く際の価格は年々高くなっています。
 そうしたボトルネックを解消し、若い世代でも手が届く範囲でヴィンテージを届けられないかとつくったのが、VALTIQUE VINTAGEです。
 テーブルの上にあるヴィンテージバッグは、どれも私たちのサービスで取り扱っているものです。
長谷川 状態もいいですし、最近では売ってないシリーズもあって可愛いですね。あ、シャネルの「マトラッセ」だ!これ、私も前から狙っていたんです。
どれも人気のあるアイテムだと思いますが、どうやって若い世代でも手が届く価格を実現しているのですか?
篭田 ありがとうございます。
 まず、当社は、以前からB2Bで毎週1万5千点から2万点以上を取り扱う、国内最大級の中古ブランド品のインターネットオークションをグローバル運営したり、エルメスなどハイエンドの中古ブランド品を中心に、年間100億円を超える個人向け買取・小売の事業を展開したりしています。
そうした事業で長年培ってきた目利き力、運営ノウハウを組み合わせることによって良質なヴィンテージアイテムを揃えられるというのが、最大の理由です。
 それから、常設の店舗を持たないため、家賃や人件費といった固定費を最小化し、効率的なオペレーションを組むことに注力しています。
 ただし、もちろんコスト優先でラグジュアリー感や各ブランドの世界観を損なうことがないよう、細心の注意を払って運営を行っています。
 ぜひ、若い世代の方に、憧れのヴィンテージアイテムを試していただき、おしゃれを楽しんでいただけたらうれしいと思っています。
VALTIQUE VINTAGEは現在、ルイ・ヴィトンやシャネル、セリーヌといった人気11ブランドのバッグ、時計を中心とした500点扱っているが、今後さらに取り扱い点数を拡大していく予定だ。
 それから、先ほどミラさんから「ヴィンテージアイテムは個性になる」というお話がありましたが、VALTIQUE VINTAGEとしても、そうした価値観を広げていきたいです。
 それこそ、ジェンダーレスという言葉があるように、女性が男性もののアイテムを利用することがあれば、その逆もしかりで、私たちの商品がそのきっかけになってくれたらうれしい。
 多様な価値観を持った若い世代に、自分らしさを体現するためのツールとして、ヴィンテージアイテムを手にとっていただければと思っています。
長谷川 素敵ですね。私は「サステナビリティ」って、ブームでもなんでもなく、地球上に住む生物としての義務なんじゃないかと思っています。
 ヴィンテージアイテムを利用することは、個性を出しつつ、それでいてサステナブルな社会への貢献を実現する方法の1つ。
 ぜひ、今後のファッションのスタンダードになってほしいですね。
ヴィンテージアイテムを試す長谷川ミラさん

未来とは「意思ある選択」の積み重ね

篭田 利用者が増えることを願うサービスの運営者として、こういうことを言うのは矛盾しているかもしれませんが、商品を購入いただく際は「これからずっと使い続けるのか」を考えていただければうれしいな、と思っています。
 誰かが使っていたヴィンテージアイテムだからといって、簡単に購入してすぐに捨ててしまうのであれば、本末転倒です。
 環境に優しい素材でできた商品を買う、着なくなった服をリサイクルボックスに入れる、などのアクションと同様、「一つのアイテムを使い続けること」もサステナブルな選択肢の一つではないかな、と。
長谷川 非常に高価なブランドアイテムでも、20年、30年と使えば結果的にリーズナブルですし、エコですよね。
 私も革でできた洋服はほとんど買いませんが、祖父から譲り受けたジャケットは今でも着ています。
 つくられるまでの過程で、少なからず環境に負荷を与えていますが、とはいえ3代にわたって着られていることを考えれば、サステナブルな消費だとも言えるはずです。
篭田 「結果的にリーズナブル」というお話、おっしゃる通りですね。
 それから、ヴィンテージアイテムは「大切に使ってさえいれば、購入時とそこまで変わらない価格で売却できる」というのも、隠れた大切なポイントです。
 さきほど、ヴィンテージを手に取る際は「ずっと使い続けるのかを考えていただければ嬉しい」と言いましたが、もし仮に手放すのであれば、再び売却して他に欲しいと思う方へ譲っていただくのが、サステナブルかつお財布にとっても優しい選択だと思います。
長谷川 そう考えると、なおのこと、若い世代でも手が出しやすいですね。
 いろいろとお話ししてきましたが、強調したいのは「新品=悪」ではないということ。
 問題の本質は「大量生産・大量消費」にあると思います。
 深い理由なく、なんとなく新しいモノを買ったり、まだ着られるのに服を捨ててしまったり。
 そういった行動を遠ざけられるなら、新品を購入してもいいですし、もちろんヴィンテージアイテムを購入するのも素敵な選択だと思いますね。
篭田 「大量生産・大量消費」を遠ざけていくのは、ファッションに限らず大切ですよね。
 それこそ、フードロスの問題などにも通じますが、「自分に必要なモノを、必要な分だけ取り入れる」という意識が、今後ますます重要になっていくのではないかと思います。
長谷川 「環境に配慮して、今日はお肉を食べないでおこう」という選択と、「新品の服ではなく、ヴィンテージアイテムを買おう」という選択は、構造としてはかなり近いはず。
 無理をせず、自分がハッピーに続けられる選択を「選んで」いくことなんじゃないかな、って。
 私は服を極端に買わないようにしていますが、ヴィーガンではありません。それが、私にあったスタイルだと思うから。
 だからこそ、自分のスタイルを他の人に強要はしません。
 一人ひとりが実践可能なアクションをしていくことが、サステナブルな社会をつくる第一歩になるんじゃないでしょうか。
篭田 新品の服は買いません、お肉も食べません……と、すべての選択肢を切り捨てていくのではなく、自分にあったものを取り入れる、ということですね。
 まずは、「自分の行動が、もしかしたら環境負荷に加担しているかもしれない」と、少し立ち止まってみる。そのうえで、できることから始めてみる。
 そういった、「意思ある選択」の積み重ねが、サステナブルな未来をつくっていくのだと思います。
 VALTIQUE VINTAGEが、その一歩を踏み出す場所になってくれたら、うれしいですね。