2022/9/26

【超具体】中小企業でもDXで成果を上げる、5つのノウハウ

NewsPicks Brand Design editor
 今年こそDXで成果を上げよう。
 そう決意しても「IT人材がいない」「社内に知見がない」などの理由で、ツールを導入しただけ、部門を作っただけで終わってしまっている企業も少なくないのではないか。特に人手が少ない中小企業においては、尚更だろう。
 しかし、情報システム部門が不在のまま、全社的なデジタル化に成功している企業もある。1966年に創業、社員数40名弱の光学機器メーカー、ルケオだ。社内にITの専門家がいない中、どのようにDXを推し進めたのか。
 本インタビューでは、ルケオ代表取締役社長の吉村健太郎氏と、その変革に伴走したTOMAコンサルタンツグループの岩本慶氏に、そのプロセスを伺った。DXの進め方のイメージを掴み、自社で実施する際の参考にしていただければ嬉しい。

社内の資料は「紙、紙、紙」

──ルケオは、2017年からDXに取り組んできたとお聞きしました。ものづくり企業として独自の技術やプロダクトを持ち、創業から50年以上安定した経営を行ってきたルケオですが、なぜこのタイミングでDXに踏み切ったのですか。
吉村 最大の問題は、「業務の属人化」でした。
 私たちは、顕微鏡や各種検査装置に使われる偏光板・波長板と呼ばれる製品を主力にしています。
 差別化のポイントになるのが、その内部に組み込まれているフィルム。そのフィルムにこそ、ルケオが長年培ってきた技術とノウハウが詰め込まれているんです。
 このフィルムの製造には高度な技術が必要となり、社員一人一人が手作業で行っています。
 そのため、個人のやり方に依存する傾向がどうしても強くなる。将来を見据えたサステナブルな経営には、新しいメンバーへの情報共有や技術継承が重要ですが、それが思い通りに進んでいませんでした。
 さらに属人化の問題は、営業やバックオフィスの業務にも及んでいました。誰か一人が休むと仕事が回らない、仕事の進捗が他の人から全く見えない、そんな環境が常態化してしまっていたんです。

やらなきゃ……と思いつつ後回しに

 ──DXに着手する前は、社内のバックオフィスはどのような状況だったのでしょうか。
吉村 生産管理から売上・発注の管理、経理関連まで、全てが紙中心でした。各自が紙に情報を書き込み、ハンコを押して、次の部署に回す。その繰り返しです。
 例えば、社員が日常業務の中で「過去の見積書を見たい」「過去の仕様を確認したい」といった場合。
 わざわざ別の階まで探しに行き、大量のファイルを抱えて自分の席に戻り、そこから目的の書類を探すという状況で、大変な手間がかかっていました。
Getty Images / Skarie20
 この状況をどうにかしたいとは思うものの、ルケオには情報システム部門がなく専門家がいない。本業が忙しくて結局後回し、という状態が続いていました。
 そんなときに、TOMAコンサルタンツグループの業務改善セミナーに参加しました。
 決め手になったのは、TOMAコンサルタンツグループが、私たちのDXに“伴走”してくれるという進め方。
 それなら自社の事業戦略や現場の課題をもとに解決案を考えられるし、社内に専門家がいなくても進められそうだと考えました。
──そんなルケオのDXに、岩本さんはパートナーとして伴走してきました。DXを推し進めるにあたり、最初に取り組んだことを教えてください。
岩本 業務の棚卸しと課題の可視化です。これは、業務改善のファーストステップと言えます。
 そもそも日常的にどんな業務が発生しているのか。そこに、どれくらい時間がかかっているのか。
 それらを網羅的にかつ具体的に把握することで、課題のありかを可視化し、業務改善のポイントを浮かび上がらせるのです。
ファーストステップとして、どの業務にどれくらい時間を使っているのかを棚卸し。現状の業務を可視化し、改善できる箇所を洗い出す。
──業務の棚卸しをしないままDXを進めると、何が問題なのでしょう。
岩本 業務全体を把握しないまま、一部の部署や業務にだけITシステムを導入すると、部分最適になりやすいという問題があります。
 例えば、ツールを導入した部署では業務を効率化できたとしても、実際はその部署が入力しなくて済むようになったデータを、別の部署が入力するようになっただけ。
 全体で見れば何も効率化されていないという、本末転倒になってしまう懸念があります。

“標準化”で属人化を打破せよ

岩本 業務課題を洗い出した後は、その課題を一覧化し、ルケオの皆さんと一緒に優先順位づけを行いました。
 時間が長くかかっている業務から改善することを提案し、kintoneを活用して、業務の標準化・効率化を図ることにしました。
吉村 ルケオには、いわゆる情報システム部門がないため、kintoneのアプリ開発に関するやりとりは、生産部のセクションチーフが担っていました。
 伴走パートナーの岩本さんと現場をうまく橋渡ししてくれたので、ルケオのやりたいことをシステムに反映する面でも、現場にシステムを浸透させる面でも、非常にスムーズに進められたと考えています。
生産部チーフ(注) 私自身はもともと、ITの専門知識はほとんどありませんでした。ですが、業務のことはよくわかっています。
 ですから、私から「こんなことをやりたい」と要望を出し、実現可否を相談しながら岩本さんにkintoneアプリを開発してもらう。そんな役割分担で進めてきました。
 アプリが完成したときは、使い方を岩本さんからみっちり教えていただき、社内で質問を受けても私が答えられるようにしていました。
注:ルケオのDX・業務改善の現場担当者
 業務改善においてまず着手したのが、振込依頼や稟議書の処理をkintoneに移行すること。
 新しいツールへのアレルギー反応を和らげ、慣れてもらうためにも、社員全員が触れるものから始めるといいのではないかと考えたからです。 
 従来は振込依頼もそれぞれの社員がExcelに入力し、各自のパソコンに保存している状態でした。紙に印刷して経理に提出したらデータは消してしまう人も多く、結局は紙でしか保管されません。
 しかも、依頼通りに振り込まれたかを確認するには、いちいち経理に電話しなければならず、お互いに手間がかかっていました。
 それをkintoneへ移行してデータ化し、振込が「済」か「未」かをリアルタイムで確認できるようにしたのです。
 振込依頼や稟議書の処理をkintoneで行えるようになってからは、注文書や納品書も同様にkintoneに移行。集計に時間がかかっていたデータも、簡単に管理や出力ができるようになりました。
現在のルケオのkintoneポータルページのイメージ。ゼロから始め、今となってはバックオフィス業務の大半がデジタルに処理されている。
岩本 さまざまな部署を横断してデジタル化を進めていく上でのポイントは、フォーマットの標準化でした。
 従来は注文や納品などのデータもExcelで経理に提出していましたが、フォーマットが統一されていなかったため、経理担当者がExcelのデータをわざわざプリントアウトして突き合わせる作業を行っていました。
 それではあまりに非効率なので、フォーマットを統一し、その上で“kintone化”を進めたのです。この標準化のプロセスは、業務の上流から下流までスムーズな流れを作るために欠かせません。

社内浸透は、スモールスタートで

──新しいシステムを導入しても、社員が必要性を理解できなかったり、従来のやり方を変えることに抵抗を感じたりして、定着しないケースも多く見られます。ルケオではkintoneを社内に浸透させるために、どのような工夫をしましたか。
生産部チーフ 例えば振込依頼をExcelからkintoneへ切り替えるときは、「○月×日からkintoneを使ってください」と全社にアナウンスして、その日以降はkintoneを使わないと振込依頼ができない状態にしました。
 いわば逃げ場のない状況を作り、まずは皆に新しいシステムを触ってもらったのです。
 その上で「わからないことがあれば何でも私に聞いてください」と伝え、質問や相談が来たらその都度本人のところへ行って直接教えました。
岩本 社内に新しい仕組みを浸透させるには、一気に全てを変えようとせず、スモールスタートで部分的に導入するのも大事なポイントです。
 ルケオさんの場合も、まずは操作が比較的簡単な振込依頼から始めて、皆さんがkintoneのシステムそのものに慣れた頃に次の業務に導入するといったように、段階的に進めていきました。
吉村 導入する前は、「今までのやり方でも問題ないのに、なぜ新しい仕組みを導入する必要があるのか?」という疑問の声が社内にあったのも事実です。
 ですが、社員も新しいシステムに慣れてくると、データ入力が楽になった便利さを実感するようになり、当初あった不満の声は今では全く聞かれなくなりましたね。
──DXにおいて、“プロの伴走者がいる”ことには、どのような価値を感じましたか。
生産部チーフ こういったDXの取り組みは、ツールを導入しても使い方がわからなくて頓挫するケースも多いと思うんです。
 ですが私たちの場合、毎月岩本さんとの打ち合わせを重ねてきたので、日々の業務で生まれた疑問や要望をその場で解消できました。使い方も、直接見て学べます。本当に困ったときは、電話で相談させていただくこともありました。
 情シス部門がない私たちとしては、DXを諦めずに続けるために、外部のプロの存在は非常に大きかったです。
吉村 加えて、ツール自体に“愛着が湧く”という点も、大きな価値だと考えています。
 伴走者がいれば、社員の声を拾いあげ、ルケオの業務内容に合わせた専用アプリを作成できます。さらにそれを日々改善して使っている。
 こういった進め方によって、社員がDXを自分ごとにできていると感じます。
 逆に、出来上がったものだけを渡されて「これを使ってください」と言われたら、社員もやらされ感があったかもしれません。でもkintoneのアプリは、私たちで作り上げている実感があります。
 今では新しい機能を追加すると社員はすぐ使ってくれますし、現場からも「こんな機能が欲しい」といった意見が活発に出されるようになりました。社員の業務改善への意識も上がっているように思います。
岩本 kintoneはITの知識がなくてもノーコードで簡単に使えるツールですが、例えば「顧客台帳のデータを振込依頼や請求書などと連携させたい」といった場合は複雑な構築が必要になります。
 その際にITの専門知識とkintoneの製品知識をあわせ持った伴走パートナーが対応することで、個々のお客様にとって最適なものを作ることが可能になる。これが「kintone伴走サービス」を利用していただく、最大のメリットだと考えています。
吉村 この5年間で業務改善が進み、業務の効率が以前とは比べ物にならないほど高まりました。これならば、ルケオは将来的に週休3日制も目指せるのではないかと、新たな可能性を感じ始めています。
 働く時間は減っても社員の給与は減らさず、むしろ増やしたい。そのためにはデジタル化や標準化をさらに進めて業務を効率化し、利益率を高める必要があります。
 これからもITのプロの力を借りながら、社員が働きやすく、安定的に利益を出せる会社にするため、DXの取り組みを加速させていくつもりです。