2022/9/22

【ロッテ×インフルエンサー】コラボのキーワードは「先進性」

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 女性に人気のメディアのInstagramで、お気に入りのグルメとお菓子やアイスを紹介する韓国美女。
 すらりとした長身としなやかなロングヘア、最新のメイクをほどこした華やかな姿が印象的な彼女の名前は、Lucy(ルーシー)。
 約1年半前に開設した自身のInstagramのフォロワーは10万人(9月20日時点)、今、韓国で人気を伸ばすインフルエンサーだ。
 Lucyは、デザイナーとして働きながらファッションモデルやインフルエンサーとしても活動。
 10代から30代まで幅広い年代の女性から支持を集め、韓国ではジュエリーブランドや大手飲食ブランドともコラボレーションするなど、各方面で引っ張りだこだ。
 いまや日本でも定番となったインフルエンサーという存在。Lucyは、そのよくある成功例に見えるが、実は少し事情が異なっている。
 なぜなら、彼女は実際にはこの世の中に「存在しない」からだ。
 Lucyの正体は、3DCGで作られたバーチャルインフルエンサー。
 SNSで多くの「いいね!」と共感を集め、巨大な経済を動かす、彼女のようなバーチャルインフルエンサーの活用が、今、韓国のみならず世界中で盛り上がりをみせている。
 そんな最新の潮流の中、Lucyと手を組んだのが日本の老舗菓子メーカー・ロッテ。
 同社を代表するブランドのひとつ、「砂糖ゼロ・糖類ゼロ」を掲げるゼロシリーズのマーケティングにLucyを起用。
 今回のキャンペーン投稿につながり、狙った女性層から高い反響を得た。
 発売から27年目を迎えるロングセラーブランドと、時代の最先端をいくバーチャルインフルエンサーのコラボは、どのように実現したのか。
※食品表示基準による。砂糖は食品表示基準における糖類に該当します。

なぜ、ロッテがバーチャルインフルエンサーを?

 ロッテでゼロシリーズのマーケティングを担当する黒島三都氏は、Lucyの起用について次のように語る。
「今、グローバルでは時代の最先端を象徴する存在として、バーチャルインフルエンサーの活用が急速に広がっています。
 そんな中、韓国ロッテグループのロッテホームショッピングが、Lucyの開発運用を行っているという共有を受け、日本でも取り組んでみようとなったのが、最初のきっかけです。
 バーチャルインフルエンサーという先進的な存在と最も相性が良いブランドとして、社内で白羽の矢が立ったのが、ゼロシリーズでした」(黒島氏、以下同)
 バーチャルインフルエンサーには、それぞれ緻密なキャラクター設定が施されていることが多い。
 それはあたかも人間の個性が、一人ひとり違うのと同じだ。
 自由にその姿を描ける“バーチャル”な存在であることを活かし、カラフルな髪色で奇抜なファッションに身を包み、サイバーな空間での写真を投稿するものや、実在する有名人に極限まで似せた存在など、バーチャルインフルエンサーも多様化。
 Lucyの特徴は、私たちの生活の延長線上にいるような“親近感”にある、と黒島氏は言う。
「バーチャルインフルエンサーの個性によって、フォロワーの属性も大きく異なります。
 当然、肝となる本人のキャラクターは、戦略的にかなり細かく考えられているようです。
 Lucyは、永遠の29歳。デザイナーとして同世代の女性たちと同じように日々の仕事をがんばりながら、モデル活動をしています。
 そのため彼女がSNSにアップする写真は、仕事の休憩時間や休日の公園など、身近なシーンが多い。
 10代から30代まで幅広く共感を集めやすい等身大の女性というキャラクターが、ゼロシリーズを届けたいターゲット層とぴったりだと考えました」
 今回のキャンペーン投稿では、単にLucyがロッテの商品を紹介するだけでなく、韓国ブームの中で流行に敏感な日本の女性の興味をひく仕掛けを盛り込んだ。
 たとえば、女性向けファッション雑誌『MORE』(集英社)のInstagramでは、韓国で人気の最新グルメを交えた投稿を展開。多忙なLucyの日常を彩る、息抜きスイーツとして『ZERO』をPRした。

最新技術は「不気味の谷」を越える

 ロボットやCGの世界には、「不気味の谷」という言葉がある。
 これは人間の心理現象のひとつで、人工物の造形をリアルな人間の姿にどんどん近づけていくと、ある程度精度が高まった段階において、急激に強い違和感や嫌悪感が呼び起こされる現象を指す。
 バーチャルインフルエンサーが、この不気味の谷をいかに越えるか。それは以前から課題のひとつだった。
「韓国のバーチャル技術は、世界トップクラスと言われています。
 私たちも、Lucyのリアルな存在感には驚きましたが、写真をひと目見ただけでは、CGだと気づかない方も少なくないのではないでしょうか」
 実在する人間か、バーチャルな存在か。進化するテクノロジーの中で、その境界線は溶けつつある。
 Lucyはすでにテレビショッピングでホストをするなど、写真などの静的な姿だけでなく、実際に動く様子も見せている。ドラマ出演のオファーも舞い込んでいるというから驚きだ。
 では、実在のモデルではなくバーチャルインフルエンサーを起用することで、企業側にはどんなメリットがあるのか。
 たとえば、人気者であってもスケジュールや場所に左右されない点や、スキャンダルなど炎上リスクの低減が挙げられる。
 加えて、バーチャルインフルエンサーの持つ先進的なイメージは、トレンドに敏感な世代を惹きつける。
 直近では、NFTとしてLucyの写真が発売された。メタバースやWeb3が話題になる現代において、バーチャルインフルエンサーが、ますます台頭することは間違いないだろう。

時代を先取りしたブランド『ZERO』

 しかし、ここでふと気になるのが、ロッテ社内において新商品ではなく、なぜ誕生から26年も経つブランドが、Lucyのコラボ相手として選ばれたのかだ。
「ゼロシリーズは、発売26周年を迎えたロングセラーブランドです。
 1996年、『砂糖ゼロ・糖類ゼロ』のシュガーレスチョコレートとして『ZERO』が誕生。
 現在では、“ゼロ”を掲げるオフ食品や飲料が市場には数多く流通していますが、当時はかなり画期的な商品として、多くの賞も受賞しました。
 ゼロシリーズは、誕生時から『先進性』のあるブランドなんです」
※食品表示基準による。砂糖は食品表示基準における糖類に該当します。
 当時、人気絶頂期にあった安室奈美恵を起用した広告展開と、新市場を切り拓くコンセプトの斬新さで、一躍大ヒット商品になった『ZERO』。
 しかし、時代の流れとともに売上は徐々に下降。近年は、低空飛行状態が続いていたという。
「長年、愛され続けてきたブランドではありましたが、発売から時間が経つ中で、若い方からの認知度が低いという課題がありました。
 そこで思い切ってはじめての大きなリブランディングに着手し、デザインを全面的に一新。
 それまでゼロシリーズを象徴していた斜めになった『0』のロゴを取り払い、まったく新しいデザインを採用しました。
2017年のパッケージデザイン
 リブランディングに際しては、一般消費者の方にかなりヒアリングを重ねて、ニーズを深掘り。
 結論として、パッケージデザインでは余計なものをすべて削ぎ落とす方針を決めました」
 健康志向が高まる中、お菓子の陳列棚には、さまざまな付加価値をアピールする商品が数多く並ぶようになった。
 そこで、あれこれたくさんの価値を主張するのではなく、シンプルなメッセージをセンスよいデザインで訴求する。逆にそれが消費者の目にとまるはずだ、という戦略だ。
 コンセプトは、「プラス要素だけでなく、“おいしさ”の訴求を重視すること」。
「ゼロシリーズの特徴は、“砂糖ゼロ・糖類ゼロで、おいしい”ということにつきます。
 それさえ伝えられれば、消費者はきっと購入してくれるはずだと。
 パッケージカラーにもお菓子によくある派手な原色ではなく、ぬくもりのあるアースカラーを採用。若い女性の生活に溶け込む、心地よさを意識しています」
※食品表示基準による。砂糖は食品表示基準における糖類に該当します。
リブランディングによって生まれ変わった、現在の『ZERO』のパッケージ
 リブランディングの核となったのはデザインだが、品質面でも常に「おいしさ」を追求しマイナーチェンジを重ねてきた。
 一度、認知してもらえば、その「おいしさ」がリピートを呼ぶ。
 このリブランディングは大成功を収め、2018年から2021年にかけて、年間130%成長という驚異的な売上増を記録。『ZERO』を知らなかった若い世代からも大きな支持を得た。
「その特徴をひとことで表すネーミングのおかげで、一度知ってもらえれば、多くの方がリピートしてくれました。
 健康への意識を満足させて、かつ、おいしいというメッセージがうまく伝わった結果だと思っています」

後発メーカーだからこそ、挑戦し続ける

 とはいえ、ロングセラー商品のリブランディングは、企業にとっても大きな賭けだ。ロッテがその賭けに果敢に挑戦できたのはなぜか。
 そこには、創業時からの企業マインドがあるという。
「ロッテは70周年を超える企業ですが、国内の菓子メーカーとしては後発組です。
 そのため創業時から、“ほかにないものを作る”しかありませんでした。
 こうしたチャレンジ精神が、ロッテの企業カルチャーとしてしっかりと根づいています」
 創業時の主力製品がガムだったロッテがはじめて手がけたチョコレート「ガーナ」の場合は、スイスから技術者を呼び、一から製法を開発。それが現代に続くロングセラーに。
 さらに、おもちとアイスを組み合わせた「雪見だいふく」、飲むアイスという新市場を作りあげた「クーリッシュ」、チョコを中に入れることで手を汚さず食べられる「トッポ」。
 たしかにロッテを代表する人気商品は、斬新なアイデアから生まれたものばかりだ。
「オリジナリティがないと市場に参入できない。だから新しいことに挑戦し続ける。
 もちろん、砂糖ゼロ・糖類ゼロという今でも他社が真似できないプラス要素を打ち出したゼロシリーズには、そのマインドが色濃く引き継がれています」
 “チャレンジをよし”とするロッテで、時代の先を読んで開発されたのが、ゼロシリーズなのだ。
※食品表示基準による。砂糖は食品表示基準における糖類に該当します。
 今回、SNSで展開した「バーチャルインフルエンサー×ゼロ」の先進的なキャンペーンも、その歴史を知ると当然のチャレンジに思える。
「Lucyの起用のような新しい提案を続けていくことで、流行に敏感な若い世代のファンもさらに増やしていきたい。
 時代が求める付加価値を備えつつ、おいしさにも満足できる。
 ゼロシリーズならではのオリジナリティあふれる強みを、これからもより多くの人に知っていただき、愛される商品として成長していきたいと思っています。おいしさには自信があります。まずは一度、手にとってみてほしいですね」