2022/8/23

【岡山】1400人の山村のローカルベンチャー、森も村も甦らせる

編集オフィスPLUGGED
岡山県、兵庫県、鳥取県の県境にある岡山県西粟倉村は、人口1400人の小さな村です。

平成に行われた市町村合併の流れには乗らず、自立する道を選んだこの村は、今やローカルベンチャーの先進地になっています。ここ15年で、多くの起業家やクリエイターら150人が新ビジネスの構想を携えて移住しそれぞれ成長を遂げました。

移住者の心を掴んだのは、合併をしない決断をしたときに村長が掲げた「地域を諦めない」という意思と、放置されていた森林に価値を取り戻し、村を創生させるという「百年の森林構想」。

村の一大プロジェクトの中心となっている株式会社西粟倉・森の学校と、そのホールディングスカンパニーであるエーゼロ株式会社の活動に焦点を当て、地方創生のヒントを探りました。(全3回連載の第1話)
INDEX
  • 50年後美しく蘇った森を目指したモノづくり
  • 西粟倉村の魅力を詰め込んだ場所づくり
  • 森の事業だからこそ、企画は森の中で考える

50年後美しく蘇った森を目指したモノづくり

2004年に市町村合併を拒み、村として自立する道を選択したことで財政難に陥った西粟倉村は「百年の森林構想」を掲げ、村の再生へと動き出しました。
3000ヘクタールの山を村が10年間一括管理し、1600人の所有者には利益を還元する形を取り、間伐材をはじめ森の恵みを循環させる仕組みづくりがはじまりました。自治体と一緒に森の再生に取り組む、株式会社西粟倉・森の学校の販売統括部 西岡太史さんに伺いました。
西粟倉・森の学校の販売統括部西岡太史さん
西岡 「西粟倉村の面積の95%は森林で、その90%が杉やヒノキなどの人工林です。今から50年前に、村の人たちが『子や孫のために』と植えた木々。輸入材の流通により林業が衰退したことで間伐などの手入れが行われずに放置されていました。山は荒れるばかり。そこで、村が誇る豊かな資源を50年先の世代に引き継ぐべく、森の再生事業がスタートしました」
緑豊かだが、間伐が進まずに放置されてきたため、細木が目立つ
村は森の資産活用と循環の知恵を外部に求め、誕生したのが村の総合商社的な役割となった、西粟倉・森の学校でした。材木をそのまま建材として売るのではなく、さまざまな商品に加工してインターネットで販売をはじめました。
西岡 「間伐材を利用して、敷くだけでフローリングになる杉や檜の『ユカハリ・タイル』や、購入者が彫刻刀などを使って木製のカトラリーを手作りできるようにした『ヒトテマキット』などをリリースしてきました」

西粟倉村の魅力を詰め込んだ場所づくり

木材を使える業者が出てきてこそ、木を切ることができる――。村とともに間伐材を使った建物の建築に着手し、徐々に、村外にも木材の納品先を増やしていきました。新しくなった西粟倉村役場や保育園などには、ふんだんに西粟倉の木々が使われ、木のぬくもりと香りに包まれています。
「今は西粟倉以外でも木造の建築物を建てるお手伝いしています。ただかっこいいデザインだと西粟倉の間伐材では、賄えないこともあります。僕らは『西粟倉の木材を生かすためには、短い木材をつなぐような構造設計をルールにしてください』というように、西粟倉の木材が最大限に生きる提案をしています」
間伐材の特性を生かして設計された村役場(手前)と、図書館(奥)
西粟倉・森の学校の立ち上げから10年、やっと建物を作るための木材一式を村の木材で提供できるようになったといいます。2022年、森の資源を余すところなく使い切りながら、西粟倉の魅力を多くの人に伝えるべく、新規プロジェクトが次々に立ち上がっています。
養蜂に最適な杉の木箱を製作したり、工場に隣接する畑では木材加工の折に出る廃材でいちごを栽培し、いちご狩りをスタート。さらに、木材の加工工場に併設した西粟倉のジビエ料理や、西粟倉の米、野菜、フルーツを使ったスイーツが食べられるカフェ『BASE 101%』が2022年3月にオープンしました。
西岡 「今目の前にあるものが100%としたときに、僕らが関わることで次の1%を生み出したい。引き出したい。そういう場所……基地になるように、と、このカフェには『BASE 101%』と名付けました」
カフェで提供されるジビエ料理。お盆ももちろん西粟倉の木で作られたもの

森の事業だからこそ、企画は森の中で考える

常に森を生かす視点で森と向き合う。西粟倉・森の学校では、森を使うだけでなく、森に対してどう良い影響を与えられるのかを考え尽くして、企画に落としていくといいます。
西岡 「3カ月に1度、3年後や5年後を見据えて、管理職の6人で経営合宿を行っています。これから関わりたいと思う人のところへ足を運んだり、気になる場所を見学しに行ったり。時には、森の中に椅子を持って入って、話し合うこともあります」
数字を見ながらの全体会議も1カ月に1度は開催されていますが、森に関わる事業だからこそ、会議室の中だけで物事が決まったり、完結したりすることはありません。
木材加工工場に併設された『BASE 101%』。ここにも木材がふんだんに使われている
近年は、西粟倉村の林業施策や西粟倉・森の学校の取り組みを知りたいと、工務店や設計事務所、林業関係者、行政、民間企業、ローカルベンチャー関係者などさまざまな人たちが視察に訪れています。
西岡 「学生さんたちがお小遣いをはたいて来てくれたりもしますし、同業者や、自治体の方が団体で来られたりもする。僕らがやってきたこと、経験を面白がってくれる人がいて、『一緒にやりませんか』って言ってもらえる。それが、僕らとしてはとても嬉しいんです。人と自然の『縁』を作り続けられる会社でありたいと思っています」
Vol.2に続く