2022/8/22

キャリアパスは自由自在。「営業職」が秘めた無限の可能性とは

NewsPicks Brand Design editor
なりたい職業を聞かれて、「営業」と答えるひとはどれくらいいるだろうか。いまだ「営業=つらい仕事」というネガティブなイメージは根強く、果ては、今後IT技術の発展により、AIに取って代わられるのではないかという「営業不要論」まで存在する。

一方、そうした言説があるなかで、パーソルキャリア人事本部長の喜多恭子氏は「スキルの伸ばし方や企業選び次第で、営業は自由自在なキャリアパスを描くことができる」と熱く語る。

コロナ禍以降、仕事のあり方そのものが変化している今、営業職を選ぶことのメリットとは何か。そして営業職として働くことでどのようなスキルが得られるのか。

NTTコミュニケーションズで「セールスイネーブルメント」を導入し、営業組織強化を推進する徳田泰幸氏と喜多氏が意見を交わした。

商品説明をするだけの営業は不要になる

──ネットで「営業職」と検索すると「なりたくない」「きつい」などネガティブなワードが並び、果ては「営業不要論」のような議論もあります。営業職はなぜ、こうした評価を受けるのでしょう。
喜多 近年の変化でいえば、インサイドセールスやカスタマーサクセスなど営業の工程を細分化することで「新しい営業職」が生まれています。
 しかし中途の方のなかには、これらがルーティンワークと見えるケースもあるようで、それが将来AIに取って代わられるのではという「営業不要論」や、キャリアアップにつながる仕事として認識されない要因となっているのだと思います。
 ただし、営業の工程を細分化する手法はあくまで方法論のひとつです。
 さまざまな価値観や一昔前の飛び込み営業など古い体質の名残が混在しているため、営業職への認識が人によって大きく異なるのが現在だと思います。
──そうしたなか、営業という業務全体の流れはどう変わってきているのでしょうか。
徳田 フィールドセールスの価値が変わってきています。これは「商品を売る役割の価値が薄れている」と言い換えられます。
 デジタル技術の発達によってお客様自身が情報を収集し、自分達が使いたい商品やサービスを目利きできるようになったことで、自社商品を勧めるだけの営業職があまり意味をなさなくなっています。
喜多 いままで商談をしないとわからなかった商品の詳細や金額の情報がオンラインで手に入るようになりました。そうするともう、商品の説明や見積もりをするだけの営業のニーズはほぼありません。
 古い体質から変わることができない企業では、結果として受注率やアポ取得率が低下するという話はよく聞きます。

営業の「意味」を再定義する

──従来の営業の役割が必要とされなくなると、今後の営業職には何が求められますか。
徳田 営業へ行くことのバリューをしっかりと出していかないといけません。オンラインで手に入る情報だけを持って行ったのでは意味がないどころか、相手の生産性も落とすことになりますから。
 例えばクライアントの事業をしっかりと理解したうえで、事業をより成功に導くためのメソッドを提案する。このように従来よりも更に高度化したスキルが求められるようになるでしょう。
 クライアントと継続的な関係を築くうえでも、御用聞き的な立ち位置ではなく、パートナーとして彼らと並走する役割に変わっていく必要があります。
 さまざまな知見やノウハウの提供、定量的な分析を実施しつつ、クライアントの事業を支えていく。そういう考え方にシフトしていくでしょう。
喜多 単一の商品だけを売る営業というのは減っていきます。ただ一方で、現在はさまざまなサービスが乱立していて、企業も自分達の課題解決や目的達成のために、何をどう組み合わせて取り入れたらいいかを判断するのはすごく大変なのです。
 また専門家でもないクライアントが、自らの課題解決のために想像できる手段というのは、非常に限定的。そこへプロとしての営業の知見や事例を交えた提案は、絶対に必要なものだと思います。
 実際にいまSaaSやウェブベンダー事業者さまからは、営業職・営業企画の求人がすごく増えています。
 こういった企業はもともと、営業はオンライン完結することを想定していたはず。しかしただ良いプロダクトを売るだけではなく、各クライアントの課題解決にそれをどう活用するかのニーズへ対応するには、不十分でした。
 そこにいま、多くの営業が求められている状況があります。
徳田 やはりいま必要なのは、売ったり買ったりする関係を超えた、クライアントとの「共創」ですよね。当社が最も力を入れているのもそこです。
 OPEN HUB for Smart World(https://openhub.ntt.com/)という、お客さまと共創を生むイノベーションハブをデジタルとリアルの両面で実現する取り組みを実施しています。
 ここではお客さまとの共創を実現するメンバーとして、人員配置と人材育成をセットで行っていますが、その中に「カタリスト」という職種を用意しています。
OPEN HUBの事業共創プロセスにおいて重要な役割を担うカタリスト。各分野に精通した専門家によって構成され、営業スキルを活かして活躍するメンバーも多い。画像はhttps://openhub.ntt.com/ から引用。
 これはビジネスの“触媒”を意味していて、さまざまな専門職のプロフェッショナルが集まっていますが、そこでもスキルを持った営業パーソンを必要としています。
 お客さまの事業をどう理解して、課題解決にはどうすれば良いのか。営業で培ったスキルを転化して、新しい共創人材として活躍してもらうのです。
 こういったコンサルタントやビジネスプロデューサーのような職種は、営業の新たな形として今後より求められるようになると思います。

スキルは「伝家の宝刀」から、シェアする時代に

──とはいえ、営業職には「背中を見て学べ」のような、スキルアップしにくいイメージがあります。
徳田 確かに従来の営業職はスキルがブラックボックス化していて、若手はスキルアップしづらい状況がありました。
 それはこれまで営業職の評価が個人の成果だけに紐づいていて、ベテランが経験から得たいわば「伝家の宝刀」的なスキルをシェアすることにデメリットしかなかったから。
 しかし時代と共にそれだけでは売れなくなり、コロナ禍も影響して、スキルはどんどんシェアする方向に変わってきました。
 NTTコミュニケーションズでも、 セールスイネーブルメントという「成果起点の営業組織能力向上の仕組み」を導入するなかで、スキルの共有会を積極的に実施しています。
 具体的には「こういう話し方をするとうまくいった」「このホワイトペーパーが効果的だった」といった事例共有の場です。
 優秀な営業が一方的にプレゼンを行う形式ではなく、カジュアルな雰囲気の中、参加者とも対話しながら行っていたり、若手社員にも話してもらうことで、ベテラン社員も刺激を受けやすい仕掛けにするなど、楽しめる工夫も入れながら実践しています。
喜多 オンラインでの商談が活発になったことで、録画した商談を育成コンテンツに変えるなど、ナレッジシェアリングの流れがより進みました。商談での声のトーンなどをAIで分析するサービスも出てきており、営業育成に取り組む企業は非常に増えてきた印象です。
 かつては徳田さんが仰ったようにスキルのブラックボックス化や、営業自身のヒアリングスキルや上司への報告の仕方で、商談の内容や成果が事実と異なっており、改善活動に活かせるデータがない状態でした。
 しかし現在はハイパフォーマーから学ぶ流れや、オンラインのデータを用いることで、事実に近いベースでの営業育成ができるようになってきたと思います。

「とりあえず営業」は最適解

──営業という職種を選ぶことで、将来的なメリットはあるのでしょうか。
喜多 実はビジネスパーソンの中で、「このスキルを身につけて、5〜10年後にこのジョブをやりたい」と決められている方は非常にレアです。将来のことが決められず、いま何をすれば良いかわからないというとき、私がおすすめするのは、営業職です。
 仕事というのは結局、誰かのためにやることが前提です。つまりどんな仕事をするにしても、他者視点を学ぶことには必然性があります。それが最も身につくのが営業職。
 さらにリサーチやマーケティング、ライティング力すら身につきますし、もっと高いレベルでいうとビジネス構想力を伸ばすことも可能。幅広い知識とポータブルスキルが身につくジョブなんです。
徳田 私も営業職からキャリアをスタートさせて、いまはマーケティングや組織開発に携わっていますが、営業での経験を活かせている感覚がすごくあるのです。
 例えばターゲティングメールひとつとっても、「その言い回しじゃお客さまに見向きもされない」ということがわかる。
 一番お客さまに近いところで立ち居振る舞いや感触を見てきたので、どうすればお客さまをくすぐることができるのか、何が刺さるのかを、潜在的に把握できています。
 この感覚はどの業務をするにもすごく大事で、営業職を経験する最大の魅力だと思います。
 実際、すでに当社では営業から他のキャリア、例えば共創ビジネスをつくるコンサルタントや、先ほどお伝えしたカタリスト、営業の動きを可視化して効率化するような業務に就いているメンバーが大勢います。
 そういうメンバーは共通して、それぞれの部門を牽引するようなポジションを担っているのです。
 当社で言うとDXを通じてこれから社会貢献していこうとしていますが、やはり現場を認識していない方が現場のDXを進めていくのは難しい。
 ビジネスパーソンにおける最初の経験として、営業職というのは非常に役に立つと思いますね。
──しかし、未だ古い営業体質のままの企業もあります。どのような基準で企業を選ぶと、将来に役立つ営業の経験ができるでしょうか。
喜多 やはり営業育成に力を入れていること。具体的にはNTTコミュニケーションズさんのように独自の営業育成スキームを持っていることや、上司の評価基準の中に「育成」が含まれているなど、管理職が営業育成の役割をしっかりと担っていることが重要です。
 そのうえでもちろん、本人も自身の成長を認識することが必要です。
 一定期間ごとに、自分にはどういうスキルが身についたのかを振り返り、もっと成長させていきたい点や得たいスキルは何かを考える。それが将来の選択肢をより広げることにつながると思います。
 数年後に自分のやりたいことが見え始めたとき、最も「やっていてよかった」と思えるのが営業職ですし、実際にそう仰る方が非常に多い。少しスキルの使い方を変えるだけでキャリアチェンジができますし、キャリアパスも自由自在です。
 営業はそんな可能性を秘めている職業であるということを、もっと多くの人に知っていただきたいですね。