(ブルームバーグ): 安倍晋三元首相の殺害事件は自民党を中心とする政治家と韓国で誕生した宗教団体の密接な関係をあぶり出した。事件の容疑者が殺害動機について、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への怨恨(えんこん)を示唆したことがきっかけだ。両者は選挙や広報活動を通じてつながってきたが、議員らは急速に関係の見直しを迫られている。

国内主要メディアの報道によると、安倍氏を射殺した山上徹也容疑者は母親が統一家庭連合に多額の献金をし、家族が崩壊したことで恨みを持ち、安倍氏が同連合と関係があると思い込んで襲撃したと供述している。

     統一家庭連合は11日の会見で、容疑者の母親が信者だと認めた。また、今回の事件が同連合の活動が原因かのような主張に対し抗議するとともに、事件はまだ捜査中で、動機などが真実かは明らかではないと17日付の声明文で反論した。動機の解明に当たり、警察の捜査に全面的に協力するという。

関連団体の天宙平和連合(UPF)のホームページによると、安倍氏は2021年に9月に行われたUPFの集会で、米国のトランプ前大統領らに続きビデオメッセージを寄せていた。

統一家庭連合は性的少数者(LGBT)や夫婦別姓に反対する保守的思想の宗教法人で、理想の実現に向け政治家に接近するのは必然だ。自民党所属の地方議員はブルームバーグの取材に対し、匿名を条件にこう語った。同議員は関連団体の集会や勉強会に参加したことはあるが、献金などの要求はなかったという。今回の事件を機に距離を置かざるを得ないが、次の選挙も応援してほしいと本音を漏らす。

全国霊感商法対策弁護士連絡会は、信者からの献金を巡り有罪判決を受けるなど統一家庭連合の反社会的な活動を問題視し、関連団体で演説したり、祝電を送ったりした議員らに関係を絶つよう要望してきた。渡辺博弁護士は、自民党議員とのつながりは「信者を鼓舞する大きな役割を持っている」とし、政治家には運動員の派遣や組織的投票など選挙上のメリットがあると指摘した。

宗教文化に詳しい北海道大学大学院の桜井義秀教授は、自民党議員と統一家庭連合の間に政策を左右する親密な関係があったとはみていないが、社会的に問題の多い組織と「関係を持つのは適切ではない」と話す。一橋大学の中北浩爾教授は、今後同連合には「相当なプレッシャーがかかる」とし、自民党側も「距離を置くようになる」と予想する。

ブルームバーグは複数の国会議員に統一家庭連合との関係について事実確認を求めた。多くの議員から回答を得られなかったが、自民党の石破茂元幹事長は15年に関連法人で講演したものの、旧統一教会系との認識はなかったと文書で回答した。安倍元首相の実弟である岸信夫防衛相は26日の会見で、選挙の際に同連合のメンバーに手伝ってもらったと語った。

自民党の茂木敏充幹事長は同日の会見で、同党と統一家庭連合に「組織的な関係はないことは既にしっかりと確認している」とし、個々の議員に同連合との関係は「厳正かつ慎重な対応をするよう注意を促していきたい」と述べた。

立憲民主党は21日、旧統一教会被害対策本部を立ち上げ、調査や対策を検討すると発表。泉健太代表は翌日の会見で、過去の祝電送付などが取り沙汰される党所属の国会議員6人に対し事実関係の確認を行ったと明らかにしている。

統一家庭連合の広報担当者はブルームバーグに対し、立憲民主党の動きは何をしようとしているのか分からず、同連合にとって何が弊害となるのか分からないと回答。また、自民党との直接的な関係については否定したが、関連団体は一部の政治家とつながりがあると認めた。

同連合は1954年に韓国で世界基督教統一神霊協会として誕生し、59年に日本へ進出。68年には創設者の文鮮明氏が提唱した保守系団体「国際勝共連合」が日本で作られ、党是で反共産主義や自主憲法制定をうたう自民党と結び付きを強めてきた。

関連団体での講演歴がある笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員は自民党と統一家庭連合の関係について、同党結成期に安倍氏の祖父である岸信介元首相らが北朝鮮や中国など共産圏と闘って韓国を救おうと結び付いたと解説。親の代からつながりがある議員も多く、「つかず離れずやっている」とし、「冷戦の遺物」だと話した。

自民党の青山繁晴参院議員は18日のブログで、7月の参院選の公認作業時期に統一家庭連合の選挙支援を受けるよう派閥のトップから指示されたが、断ったとの話をある議員から聞いたと記述。青山氏は、この宗教団体の支援を少なくとも一般の有権者が知らず、明らかにされていないのは問題だとこのトップに指摘したという。

渡辺弁護士は、30年ほど前から専門家らがさまざまな問題点を指摘してきたが、「手は打たれてこなかった」と振り返る。弁護士連絡会によると、同連合は宗教の勧誘であることを隠して被害者に接近し、高額な印鑑やつぼなどを販売。2012年結審の裁判では入院中の家族の命を救うためと称して聖書10冊の購入を迫るなど、女性に計4億9000万円を献金させた事実が判明した。

現代宗教と政治の関係に詳しい上越教育大学大学院の塚田穂高准教授は、政治家は違法行為やトラブルを積み重ねてきた旧統一教会と付き合うべきではなかったと強調。「宗教と政治家の結び付きがノーチェックで良いわけではない」とし、双方が可視化に向け努力することが必要で、市民が投票行動や言論などで判断を示すことが健全化につながるとみる。

仏教系の創価学会は、1964年に当時の池田大作会長の発意で結成された公明党の支持団体だ。同党は99年から2009年までと12年以降、自民党と連立政権を組む。皇室と日本文化を尊重し、憲法改正の必要性や同性婚への反対を訴える神道政治連盟の国会議員懇談会には衆参260人以上の議員が名を連ねている。

日本国憲法は信教の自由を保障する第20条や宗教上組織への公金支出を禁止する第89条など、国が公権力を使って宗教に介入することを認めない「政教分離の原則」を規定しており、裁判の判例を通じて確認されている。半面、宗教団体の政治活動自体を禁じるものではないことは国会で政府見解として示されている。

NHKの報道によると、公明党の北側一雄副代表は28日の会見で政治と宗教の関係を問われ、「表現の自由の一環として宗教団体がさまざまな政治活動をして、特定の候補者や政党を応援していくことは憲法上保障された権利だ」と述べた。

上越教育大大学院の塚田氏は、宗教団体は「理念を実現するために社会に働き掛けており、その一環として政治活動がある」とし、「そのこと自体は違憲ではなく、批判するのはやや的外れ」だと指摘。北大大学院の桜井氏は、政治家は多くの宗教団体と関わりを持ちながら、あたかもないように振る舞ってきたことが問題だという。

(19段落目に公明党の北側副代表のコメントを追加し更新します)

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