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連載特別編

オーストリア2部・SVホルンのコーチに就任することになりました

2014/12/7
12月1日、嬉しい一報がオーストリアから届いた。本連載の著者、モラス雅輝がオーストリア2部・SVホルンのコーチに就任することがクラブから発表されたのだ。これからは日本人選手だけでなく、日本人指導者も欧州で活躍することが求められている。今回は特別編として、モラス雅輝がコーチ就任の経緯を報告する。
著者のモラス雅輝とプリシングGM。2人は『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミー』の同級生。今年9月に卒業したばかりだが、早くもプロの舞台で再会することに(写真:SVホルン提供)

著者のモラス雅輝とプリシングGM。2人は『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミー』の同級生。今年9月に卒業したばかりだが、早くもプロの舞台で再会することに(写真:SVホルン提供)

アカデミー卒業が後押しに

みなさんに報告があります。私、モラス雅輝はオーストリア2部・SVホルンのコーチに就任することになりました。将来、ヨーロッパのクラブで監督を目指している自分にとって新たな一歩となります。

その経緯は後ほど詳しく書くとして、大きな後押しとなったのが本連載で書いている『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミー』の存在でした。今回は「特別編」として、コーチ就任の経緯を箇条書きで報告させてください。

1. オファーが届いた経緯

・9月29日、シーズン中にそれまでのコーチが監督に昇格。この新監督(クリストフ・ヴェスターターラー)とは以前からの知り合いで、2005年から2006年12月まで一緒に仕事をしていた。当時はインスブルッカーACというクラブの監督-ヘッドコーチの関係で、一緒に4部で優勝して3部に昇格した。

・10月下旬に就任したSVホルンの新GM(マーク・ケヴィン・プリシング)と、それまでの旧GMは共に『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミー』で知り合った仲(旧GMは現在クラブのアドバイザー)。新監督就任と共に新しいコーチが必要になったということで、スポーツディレクターや監督が会長と共にコーチを探していた。

・11月上旬、新GMから興味があるかどうか直接話があり、具体的な話が始まる。ビジョンや目標、仕事・役割分担などについて。他にもコーチ候補はいるとのことだが、さらに具体的な話をして、どの候補にクラブがオファーを出すか決める、とのこと。

・監督と直接話し合い、チーム状況や彼のビジョンについて話し合う。様々なことを共有できるかどうか確認。

・11月中旬にホルンの練習施設・クラブハウスを視察、取締役やGM、監督、チームマネージャーと様々な用件について話し合う。「最終判断は会長」とのこと。GMは僕を第一候補として会長に推薦。また、旧GM(現クラブアドバイザー)からいくつか助言をもらう。

・11月下旬に再びホルンのクラブハウスに。会長、取締役、GM、監督と約2時間のミーティング。最終候補は2人だったらしい。その日の夜にコーチ就任決定。

・契約書が準備され、次の日にサイン。オーストリアのメディアから取材を受ける。オフシーズンのメニューについてフィジカルコーチと最初の打ち合わせ。

2. ホルンからの口説き文句

「今シーズンのリーグ残留のため、そして2017年までのブンデスリーガ昇格のためにチームを強化しなくてはならない。是非コーチとしてクラブに来てトップチームを見てほしい」

「第1コーチとして全ての面において監督のサポートとチーム力アップに力を注いでほしい」

実はホルンとは別のクラブから打診を受けて話をしていましたが、そちらのクラブはコーチとしての仕事・役割についてよりは、アジアの選手獲得やスポンサー提携などの話が多く、1人のサッカー指導者としてあまり心に響きませんでした。その点ホルンは自分に求めることがはっきりとしていました(詳細は下記4.にて)。

3. 決断の決め手

・しっかりとしたビジョンと目標が、クラブにある(ホルンは2017年にブンデスリーガ昇格という目標を掲げている)。

・監督とは一緒に仕事をしたことがあるし、お互い特徴を分かっている。さらに新GMとも前から一緒に仕事をしたいと思っていた。

・現場視察とミーティングの際にホルンで出会った関係者はみんなハートフルで、本当にクラブのことを思って行動している。クラブを育てていきたい、という気持ちを全員から強く感じた(コーチ陣やクラブスタッフ、スタジアムでのファングッズやソーセージの販売スタッフまでみんな)。

・スタジアムを含めてトップチームが使えるピッチは6面あり、クラブハウスはまだ小規模だが、スタジアムや練習施設、クラブハウスに関して、これからの改善プラン・拡大工事の計画書が既にある。これからの伸びしろを感じる。

・育成部門も充実しており、U15からU18までのチーム用には3面のピッチと1面の人工芝のピッチがある。育成に力を入れていることは、長期的なチーム力アップを目指している証拠。

・ヨーロッパでのプロレベルでの仕事をすることによって、さらに多くのことを吸収し、今後に役立てたい。

4. コーチとしてチームから求められていること

・直接的にチーム力アップに繋がる指導(トレーニングのマネジメント、メニュー作成、フィジカルコーチとの連携、体力測定やオフシーズン中のメニューと準備期間の練習内容・負荷強度のコーディネートなど)。

・チームマネジメントのサポート(栄養面等も含めた選手の試合や練習前後の様々なサポートから、夏の移籍ウィンドウに向けての準備、短期合宿での対戦相手のコーディネートや来シーズンのチーム編成の準備)。

・スカウティング(自チームの試合、相手の分析、リーグ全体の選手に関するデータバンクの更新、セットプレー対策、自チームのデータ管理や映像編集のまとめ役、夏のウィンドウでの新加入候補の選手たちに関する情報収集など)。

・クラブ力アップに繋がる(かもしれない)様々な提案や情報提供(日本やアメリカなど他国で行われているマーケティングやスクール事業について)。

5. 今後のチームとしての目標

・今シーズンは稀に見る混戦(オーストリア2部順位はこちら。現在ホルンは10チーム中7位。下位2チームが降格する)なので、とにかく残留を果たすこと。

・来シーズン以降は2017年のブンデスリーガ昇格に向けて、クラブ力及びチーム力をアップすること。

6. アカデミー卒業で評価されたこと

・財務を担当している取締役及びGMから言われたのは、アカデミーを卒業していることもあり、「クラブやリーグの経営面も理解でき、チーム力のみならずクラブ力アップにも貢献できるコーチは貴重」ということ。

・短期的なチーム力アップのみが目的ならまだしも、中期的・長期的にクラブ力をあげることを考えると、「コーチとしてサッカーのことを理解している以外にも、様々な改善案を出せる人材を評価したい」とのこと。

ヴェスターターラー監督とは2006年にインスブルッカーACを4部から3部に昇格させて以来のタッグとなる(写真:SVホルン提供)

ヴェスターターラー監督とは2006年にインスブルッカーACを4部から3部に昇格させて以来のタッグとなる(写真:SVホルン提供)

現在、オーストリア2部はウィンターブレイク(冬休み)に突入しており、クラブの練習再開は来年1月上旬になります。それまでに監督やフィジカルコーチと連携を取りながら準備を進め、一方で以前から興味のあった『ライフキネティック』と呼ばれるトレーニング方法の資格を取る予定です。

これまで以上に忙しくなりますが、『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミ』の講義内容をぜひみなさんにも知って頂きたいという思いが強く、この連載を続ける予定です。同時にコーチという立場から見えるブンデスリーガ2部での出来事も紹介していきたいと思います。

今後も本連載からヨーロッパのサッカーの、そしてスポーツマネジメントの熱を感じて頂ければ幸いです。

*本連載は毎週日曜日に掲載する予定です。また、基本的に無料公開ですが、3回に1回の割合で有料会員のみ閲覧できる有料コンテンツ扱いとなります。