2022/7/27

【注目】SDGs時代の目玉ビジネス「二次流通」を知っているか

NewsPicks Brand Design Editor
 消費者や投資家のサステナブルへの関心が高まり、企業の環境配慮が強く問われるようになった。
 そんななか、国内外の小売企業やメーカーからにわかに注目を集めるのが、「リユース(中古)市場」だ。
 これまでリユース品といえば、古着屋やリサイクルショップ、フリーマーケットアプリなど、「外部」での流通がメインだった。
 だが、今後は新品を売ってきた企業も、「自社で」リユース品を取り扱う時代が来ると予想されている。
 今回は30年以上にわたりリユース品を扱うビジネスに取り組んできたオークネットにインタビュー。
 リユース市場が秘めるポテンシャルをひもといていく。
INDEX
  • 「売った後」も企業責任が問われる時代へ
  • 参入メリットは「エコ」だけじゃない
  • ポイントは「熱量の高い“場”」をつくれるか
  • 形だけの「サステナブル」は意味がない

「売った後」も企業責任が問われる時代へ

 国内外で「リユース(中古)市場」に熱視線が注がれている。
 米国では、リユース事業を展開する企業が次々と上場。
 日本でも、古着ブームの到来やフリマアプリの台頭などにより、市場規模は右肩上がりで拡大し、2025年には3.5兆円に達すると予測されている。
 このリユース品を扱うビジネスは、一般的に「二次流通」と呼ばれ、新品の状態で商品が届けられる「一次流通」と区別される。
「新品を扱う『一次流通』企業も、続々と『二次流通』へ参入意欲を示しています
 こう話すのは、国内でオークション事業を展開するオークネットの藤原啓介氏だ。
 オークネットは、創業以来30年以上にわたって中古品オークションに取り組んできた上場企業。
 中古車を皮切りに、中古バイク、中古医療機器、中古スマホ、直近ではブランド品など、さまざまなリユース品を取り扱ってきた、二次流通のパイオニア的存在だ。
「これまで、二次流通といえば、古本屋やフリーマーケットアプリ、オークションなど、特定のマーケットプレイスで行われてきました。
 ですが、ここ4〜5年ほどで、小売企業さんやメーカーさんから、『どうすれば“自社で”二次流通を始められますか』と、お声がけいただく機会がぐっと増えています」(藤原氏)
 事実、環境意識が高いとされる企業は、いち早く二次流通に取り組んでいる。
 たとえば、米国のアディダスは、現地のリユース関連企業とタイアップ施策を実施。
「メーカー自ら」自社のリユース品の下取りを行うなどの取り組みに乗り出した。
 国内でも、エシカルなブランドを中心に、同様の構想を発表する企業が増えつつある。
 むしろ、「今二次流通に参入しないのは『リスク』にもなり得る」と藤原氏。
「欧米ではすでに、リユースやリサイクルなどに取り組んでいないと『投資家や消費者から見向きされず、円滑にビジネスを進められない』状況になっています。
 米国では、リサイクルの認証制度を取っていないと上場企業と取引できない、といった制約も出てきているくらいです。
 日本ではまだ明確な基準は出ていませんが、近い将来、国内でも確実に訪れるムーブメントだと思います」(藤原氏)

参入メリットは「エコ」だけじゃない

 サステナビリティの文脈で注目される二次流通。
 だが、「参入するメリットはそれだけではない」と藤原氏は強調する。
「商品を『売って終わり』ではなく、リユース品の買い取りや再販売によって、顧客との『継続的な接点』が得られること。
 これも、二次流通に注目が集まるもう一つの大きな理由です。
 顧客と常に繋がり続けられるため、より多くの顧客データが得られる、ブランドへのエンゲージメント向上に繋げられる、といった直接的なメリットがあります」(藤原氏)
 とはいえ、一次流通と二次流通では「流通のルール」がまったく違う。
 とりわけ二次流通は「リユース品の検品」や「買い取り/再販のフロー」など、新たな仕組みをゼロから構築する必要があり、参入に二の足を踏む企業も少なくない。
 そこで、昨年夏に小売企業・メーカー向けにリリースされたのが、二次流通の立ち上げを支援するサービス「Selloop(セループ)」だ。
 アパレル、ブランド品、家電、家具、アウトドア用品など、商材ごとの二次流通に必要な機能や流通網の整備はオークネットのノウハウを活用。
 新たなサービス開発のための情報収集・分析やサービス構想など「Selloop」の運営は、オークネットと日系戦略コンサルファーム・コーポレイトディレクションが立ち上げた「ストラテジックインサイト(以下、SII)」が行う。
 藤原氏とともにSelloopを展開する、SIIの藤本隆介氏は事業についてこう説明する。
「Selloopでは、一次流通と二次流通を組み合わせた流通を『サーキュラーコマース(=循環型流通)』と呼び、それぞれの商材・商習慣に合った仕組みをカスタマイズします。
 たとえば、ユーザー調査に基づいた買い取り/再販の体験設計から、オンライン上での販売チャネルの構築、顧客データの分析・管理、さらには適切な価格の設定、在庫管理まで。
 単に買い取りや再販の仕組みをつくるだけでなく、クライアントごとに最適なサーキュラーコマースを提案し、実装まで支援するのが特徴です」(藤本氏)
 だが、サーキュラーコマースと一口に言っても、アパレルと家電では、買い取り価格や検品の煩雑さ、物流にかかるコストなどがまったく異なる。
 こうした商材ごとの特性を踏まえ、最適な仕組みを提案するのがSelloopの特徴だ。
 実は、Selloopのような二次流通の支援サービスは、国内ではまだほとんど存在しない。
 同社がサービスを開始できた背景には、30年以上にわたって二次流通のノウハウ・ネットワークを培ってきたオークネットと、新規事業の構想・立ち上げ支援に多くの実績を有するコーポレイトディレクション「強み」の掛け合わせがある。
「ローンチから1年ほど経ちますが、アパレルや家電、雑貨、オフィス家具など、toC/toB問わず、さまざまな小売企業さん、メーカーさんから相談が寄せられています。
 二次流通の必要性は感じているけれど、『どう進めていくのがベストかわからないからまず話を聞きたい』と、ご依頼いただく場合が多いですね」(藤本氏)

ポイントは「熱量の高い“場”」をつくれるか

 では、サーキュラーコマースの導入企業は、具体的にどんなメリットを感じているのか。
 30〜50代の女性向けの会員制通販サービス『ベルメゾン』を展開する千趣会。
 同社は既存会員向けに、アパレル・ブランド品の買い取りサービス「kimawari(キマワリ)」を運営している。
 昨年7月に、オークネットと千趣会は「循環型流通社会の創造」を目的とした協業を発表し、kimawariは両社の「共創事業」としてローンチされた。
何点からでも送料/査定無料でまとめて買い取りし、ベルメゾンが代わりにリユース・リサイクル。買い取り額はポイントに還元され、同サイトでの買い物に利用できる。(出典:kimawari公式HP)
 会員制というビジネスがら、常に新しい顧客体験や、顧客とのよりよい関係づくりを模索していたベルメゾン。
 kimawariは、「1つ1つのモノを丁寧に長く使いたい」「もったいないことはなるべくしたくない」という会員のニーズに刺さり、開始から約1年経った今も、利用者数や流通総額は順調に増えているという。
「サービスを通じて環境負荷を減らせるだけでなく、ユーザーとの接点が増えたことで顧客理解がより深まり、新しい施策づくりのヒントにもなった、とフィードバックをいただいています。
 結果として、kimawari利用後の顧客LTV(顧客生涯価値)も大幅に向上しているそうです」(藤本氏)
 ユーザーコミュニケーションの一環として、今年7月から新たにkimawariに加わる機能が、「CO2や水の削減効果の可視化」だ。
 アパレルやブランド品を出品すると、出品数に応じて「どれくらいのCO2や水を削減できたのか」を、ユーザー自身がサイト上で確認できるようになる。
 この施策について「単に買い取りをするだけではなく、ユーザーに積極的にkimawariに参加してもらい、『場』の熱量を高めたい狙いがある」と藤本氏。
「一次流通では、『商品を買った総額』が顧客のエンゲージメントを測る、最もわかりやすい指標でした。
 ですが、二次流通では、たとえば『商品を売った総額』や、『自分のものを他者に譲った数』、ひいては『環境保護への貢献度』も、ユーザーと企業の結びつきを表す新たな指標になるんですよね。
 その意味で、サーキュラーコマースは、これまでとはまた違ったアプローチで、自社の『ファン化』を促せる、とも言い換えられるのです」(藤本氏)

形だけの「サステナブル」は意味がない

 Selloopのようなサービスも台頭し、今後も拡大が予測される二次流通。
 株式市場、取引先、消費者──あらゆるステークホルダーと向き合っていくには、「形だけ」のサステナブルは通用しない。
 生活に近く、レピュテーションが肝となる小売企業やメーカーであればなおのこと、ビジネスに「サステナビリティ=持続可能性」を組み込む「SX(=サステナビリティ・トランスフォーメーション)」への対応が求められる。
「DX(デジタル・トランスフォーメーション)において『デジタルの導入による業務効率化』は“入り口”であり、多くの場合“本丸”は『事業の提供価値の拡張・進化』です。
 SXも同様に、脱炭素の可視化や環境負荷低減の取り組みはあくまでも“入り口”だと考えています。
 本質は、サステナビリティをビジネスの根本に組み込み、『事業の提供価値の拡張・進化』に繋げられるかにあるのです。
 そして、早くからこの観点をもって取り組んだ企業が中期的に優位性を築いていくのではないか、と思います」(藤本氏)
 そして、この「トランスフォーメーション」を起こすという点で、二次流通のプロであるオークネットや、戦略コンサル・コーポレイトディレクションとのジョイントベンチャーであるSIIの果たす役割は決して小さくない。
 藤原氏は、「サーキュラーコマースの導入支援などを通じて、小売企業やメーカーのSXを支援していきたい」と意気込みを見せる。
「長年、リユース品のビジネスに取り組んでいますが、このビジネスには無限の可能性があると感じています。
 まだ使える価値のあるモノを、次に使ってくれる人に渡していく。
『眠っている価値ある資産を動かしている』という意味では、極めて環境負荷が低く、合理的な手法ではないかと。
 これからも、Selloopなどの取り組みを通じて、企業と消費者の『接点づくり』をプロデュースしながら、サステナブルな社会づくりに貢献していきたいですね」(藤原氏)