2022/7/21

【澤円の仕事術】年間340回のプレゼンを実現する「集中力の高め方」

NewsPicks / Brand Design 編集者
 仕事のパフォーマンスを左右する要因の一つが、集中力。ところが、作業中にチャットで横槍が入ったり、オンラインミーティングが隙間なく設定されることで食事や休憩が思うように取れなかったりと、集中をキープするのは難しくなった。
 そこで、「プレゼンの神」と称される澤円さんにインタビュー。澤さんはビジネスシーンで「inゼリー」を発売当初から愛飲。忙しい時にすばやくエネルギーを摂取しながら、2021年は年間340回ものプレゼンを行ったという。
 多忙な中、どのようにプレゼンの準備を行い、本番に臨んでいるのだろう。

集中力は「まったくない」

──澤さんはプレゼンをはじめ寄稿や「Voicy」の配信など、さまざまなお仕事をしている印象ですが、集中力はあるタイプですか?
 まったくないです。時間内に一つの業務に専念する状態が集中の一般的なイメージだと思いますが、僕はADHDなので、常に気が散っている。だから「この日のこの時間に講演内容を考えるぞ」というやり方はできないんです。
──澤さんは2021年に340回ものプレゼンをしたと伺いました。どうやってそれだけの数のプレゼン内容を考えているのでしょうか。
 プレゼンの予定が決まった時点から、常に「何を話そうかな」と頭の中でぼんやり考えています。
 パソコンにメールが届くと、別の作業をしていてもポンって通知がきますよね。それは、常駐ソフトとして、メールソフトがずっと裏側で動いているから。
 同じように、さまざまなプレゼンがいわば「常駐タスク」として、脳内にいくつもプロットされている感じです。
──考えようとしているのではなく、自然と考えている?
 そうです。そうやって脳内でイメージができたら、10分くらいで資料に落とします。プレゼン資料作りは、感覚的にはダウンロードに近いですね。
──チャットが飛び交うなど、集中を阻害する要因は増えているようにも思いますが、常に気が散っている澤さんにとって、それはあまり影響しないのでしょうか?
 全然大丈夫です。むしろ僕にとっては、世の中がどんどん働きやすい環境になっている感じがします。
──そうなると、澤さんにとって仕事の集中力を削ぐ要因は何ですか?
 「空腹」ですね。おなかが減った途端にパフォーマンスが激落ちします。機嫌も悪くなるし、脳内の糖分が減ると集中力はさらに散っていっちゃう。まったく駄目になりますね。
 そもそも僕にとってのプレゼンテーションは、非常に孤独な作業です。代わりにやってくれる人はいないし、当日は自分の全身全霊を込めて行う。その時におなかが減っていると、違うところに意識を持っていかれてしまいますから、ものすごい阻害要因です。
 とはいえ満腹になると眠くなっちゃうので、「ある程度空腹を抑える」ことはかなり意識していますね。

プレゼン先が変わっても、普遍性はある

──常駐タスクとしてプレゼン内容を考えているとのことですが、それぞれプレゼン先は異なりますよね。その切り替えはどのように行っていますか?
 切り替えるという感じではないですね。僕が常に考えているのは、抽象概念化されたものです。レイヤーとしては上流で、根本的なところ。だから、最終的には誰であっても受け取れるような普遍的なところに行き着きます。
──その普遍性は、具体的にはどういうものですか?
 「全てのビジネスは社会貢献である」ということです。その方法が会社によって異なるだけで、「何のためのビジネスなのか」に立ち帰れば、普遍的な要素が見えてきます。
 例えば「DXを何のためにやるのか」という問いに対して、ほとんどの人はデジタルに引っ張られてしまう。そうではなくて、DXの目的は「人類の幸せのために、より良い社会を実現する」こと。そのための手段がデジタルなわけです。
 日々のタスクに過集中してしまうと「作業=仕事」になりがちだけど、本来は世の中を良くするために自分のリソースを使うことが仕事であり、その実感が得られる状態がハッピーだと僕は思っていて。
 だから僕は、「その会社の人がなぜその業界で、その仕事を選んだのか」にフォーカスし、それを肯定的なものに変えたい。各社の社会貢献の仕方を言語化して、素晴らしい仕事をしているのだと社員の皆さんに再認識してもらう。
 それが僕の役割だと思っています。
──ビジネスそのものや業界構造に目が行きがちですが、澤さんは「人」に注目するんですね。営業などのプレゼンでも「目の前の担当者がこの提案によってどう変わるのか」という視点を持つことが重要でしょうか?
 僕はお客さんと話す時、「あなたは何をしたら褒められますか?」を最初に必ず確認しています。要は評価軸を聞いて、それを実現するための提案をする。その人が社内で褒められることは、その会社の社会貢献にもつながっていますからね。

アンテナが立てば日常生活がリサーチに

──普遍的な要素をベースにするとはいえ、相手によって話す内容は変わりますよね。常駐タスクで考えるための材料も必要だと思いますが、リサーチはどのように行っているのでしょう?
 まったく接点がない場合は調べますけど、53年間も生きていれば、何らかの形でユーザーとして関わってはいます。それに、プレゼンが決まった段階でアンテナが立つんですよ。
 例えば欲しい靴があるとき、世の中にその靴がたくさんあるように錯覚したことはありませんか? 自分が興味を持つと、そこへのアンテナが鋭敏になって、関連する情報が入りやすくなる。これをカラーバス効果というそうです。
 同じように、A社での講演が決まった段階で、ありとあらゆるA社の情報が目に入るようになります。
 それが食品メーカーであれば、スーパーマーケットの食品棚は全部A社の製品が置かれているように見えてくる。「同じ商品でも冷やすタイプもあれば、常温タイプもあるのか」「棚割りはどうやって決まるんだろう」など、想像しながら観察して、分析をします。
 あとはユーザー視点を持てるように、時間とお金を投資しますね。商品が出ているなら購入して、使ってみる。それは必ずやるようにしています。
──BtoBなど、あまり消費者の目に触れないサービスを扱う企業の場合はどうですか?
 例えば素材メーカーなら、主要取引先を見ることで使われている場面が想像できます。医療機器メーカーであれば、自分がクリニックに行った時に「このメーカー、知ってますか?」とお医者さんに聞きますね。そこで詳しく教えてもらったりもします。
 そうやって得たものは、自分の体験として「僕」を主語に語れるように心がけています。
 「僕から見たA社は」という話は誰も傷つきませんが、「A社というブランドは」と言い始めると、「お前に何がわかるんだ」となってしまう。主語が自分から切り離されて、かつデカい状態は危ないんです。実際、世の中の炎上の多くがこれですよ。
──1カ月後にプレゼンが決まったとしたら、その時点から「自分」を主語に体験を語れるようにアンテナを立てると。
 大事なことは、とにかく興味を持つこと。それによって理解は深まり、相手への問いが次々に出てくる。興味を持っていることが相手に伝われば、自己開示がしやすくなって、プレゼンもやりやすくなる。その環境をどれだけ作れるかが重要だと思います。
──プレゼンに向けて、準備らしい準備はしないんですね。
 そうですね。強いていうなら資料作成ですが、その際のポイントは作業のトップスピード、アベレージスピード、ミニマムスピードを知っておくこと。
 把握している人は意外と少ないですが、自分の作業スピードがわかれば、どれぐらいの時間を割り当てればいいのかがわかります。少なくとも、確保した時間を超えることはありませんよ。

プレゼンは「うまくできない」もの

──では、プレゼンの本番に向けて、どのように集中力を高めていますか?
 特別なことはしませんが、自分のホームグラウンドや使い慣れている機器、環境でやるのは絶対条件ですね。事務所には配信環境があって、イメージができあがっているから、10分あれば全ての準備を整えた状態で始められます。
 だからオフラインの際に、会場に行ってから自分のパソコンを手元に置かせてもらえないことが判明する、みたいなことが非常にストレスです。そういう意味では、オンラインが増えたのはありがたいですね。
──プレゼンに緊張してしまって、何時間も前から落ち着かないこともあります。その緊張感をやわらげるために、何かできることはありますか?
 まず、緊張するのは当たり前です。「あなたの苦手なことは?」を問うアンケート調査では、ほぼ全ての国や地域で「人前で話すこと」がトップに来る。日本人がシャイだから緊張するのではなく、人類全員がそうなんです。
 だから、「うまくできないのが当たり前」というゴール設定をした方が僕はいいと思っています。プレゼンにチャレンジをして、乗り切ったのであれば、めちゃくちゃ自分を肯定していい。
 その上で、緊張を緩和させるために、自分をご機嫌にする方法を知りましょう。再現性を高めるためには手軽な方法がいいですね。
 僕が男女ともにおすすめしたいのはネイルケアです。洋服は自分から見えないけど、ネイルはいつでも目に入りますから。女性ならジェルネイルにして装飾してもいいし、男性も指先が綺麗だと気分が上がりますよ。
──先ほどの「使い慣れているものを使う」にも共通しますね。
 そう。僕はガジェットが大好きなので、お気に入りのデバイスを使うことでご機嫌になれます。だからプレゼンの場で旧石器時代みたいな分厚いノートパソコンを使わなければいけないときは、ものすごい気分が落ちる(笑)。
──ということは、澤さんは環境さえ整っていれば、そんなに緊張することはない?
 そうですね。というのも、目の前の人数は僕にとってはあまり関係がなくて。基本的にプレゼンは一人の作業なんですよ。この取材もそうですが、自分の頭の中でずっと考えていることを、いかに言葉に落として伝えるか。そんな個人作業をしている感覚です。
──聞いている人たちのことは気にならないですか?
 気にしても仕方がないですから。もちろん相手のことは見ますし、それに応じた対応もしますけど、他人はコントロールできません。コントロールするのはあくまで自分。ゆえに自分の作業に集中することに尽きるわけです。

「つまらなさそう」に責任を感じなくていい

──とはいえ、「聞いている人たち、つまらなそうだな」と感じたら、気持ちが折れてしまいそうです……。
 僕は「プレゼンは贈り物」と表現していますけど、相手への想像力を働かせて、ベストなものを用意したのであれば、相手の反応が悪いことの責任が全部自分にあると思う必要はないですよ。
 例えば、おいしく出来上がった料理をおいしくなさそうに食べた責任って、どっちにあると思いますか?
──……どちらとも言えないですね。
 そう、明確に言えないでしょう? プレゼンも同じです。作り手に全部の責任があるわけじゃない。
 それに、もし相手のリアクションが良くないのであれば「わかりにくいですか?」「聞こえていますか?」など、問いかければいいんですよ。
 「わからない」を言ってはいけない呪いにかかっている人は多いですけど、聞けば話し手が手にする情報量は増えます。
 そうやってすり合わせをした上で、それでもつまらなさそうにしているのであれば、「この話を面白がれないなんて、残念な人だな」くらいに思っていればいい。もしかしたらプレゼンは関係なくて、おなかが痛いだけなのかもしれないですしね。
 ただし、「オーディエンスが努力して集中力をキープしなければいけない状態」を避けるのは、プレゼンをする側の心遣いです。
──どういうことでしょう?
 集中力を保つには、緊張と弛緩が重要です。そのために、ユーモアも交えつつ相手が「へえ」となる話と、「なるほど」と思う話をちょこちょこ入れる。これは息継ぎみたいなもので、それによって弛緩できるんです。
 例えばDXの重要性を説明するのに、「データが世の中に溢れていて……」みたいなありふれた話をしても面白くないじゃないですか。
 一方、「現代の日本人の1日の情報量は、平安時代の人の一生分」という説明の仕方だと、ちょっと誰かに話したくなりません?
──なります……!
 その情報量で「源氏物語」を書いた紫式部、すごくないですか? すさまじい妄想力ですよね。
──たしかに(笑)。
 ね、こうやってちょっと笑いを入れることで、ふっと弛緩するでしょう? 次の話にも移りやすくなりますよ。
──なるほど。今日教えていただいたポイントは、オンラインでもオフラインでも変わらないですか?
 本質は同じですね。ただ一つお伝えしたいのは、いまだにオンラインのプレゼンテーションに抵抗がある人は、危機感を持った方がいいということ。もうコロナ禍になって2年が経ちますからね。
 苦手なのは仕方がないけど、逃げ回っているとキャリアを捨てることになりかねません。苦手なりの作戦を練って、自分なりの生存戦略を立てた方がいいと思います。

エネルギー不足を感じ取る力が重要

──空腹が集中力を阻害する要因とのことでしたが、澤さんはプレゼン前にエネルギー補給はしますか?
 おなかが空きそうな場合はしますね。プレゼンは単に話すだけでなく、カメラやチャットなどいろいろなものをコントロールしながら行います。脳はフル回転しているので、エネルギー不足は致命傷。物理的に口が回らなくなってしまいますから。
──プレゼン前のエネルギー補給には、どのようなものがおすすめですか?
 咀嚼の必要がなく、口内に影響を与えず、おなかが重たくならないものがいいですね。僕はパッと飲めて、喉にも優しいので、「inゼリー」を事務所に常備しています。食事と違って口の中に残らず、ベタベタしないのも気に入っています。
 発売当初からもう20年以上愛飲していて、これまではマスカット味をよく飲んでいましたが、ラムネ味の「inゼリーエネルギーブドウ糖」もクセになりますね。
ブドウ糖のほか、その代謝に必要なビタミンも含まれており、効率よく栄養補給ができる。集中したい時におすすめ
 これはプレゼンに限らずですが、自分のエネルギー不足を感じ取る能力は、ビジネスパーソンにとって非常に大切だと思います。
 特にリモートワーク中はひっきりなしにオンラインミーティングが入っている人も多いと思いますが、そんな時は5分でもいいから外に出て、陽の光を浴びるのが効果的です。
 その時に「inゼリー」を持っていくと、一石二鳥ですよね。隙間時間でリフレッシュと栄養補給ができて、サッと仕事に戻れますから。
 忙しくて時間がない時にエネルギー切れにならないよう、気軽に摂れるものを用意しておくのは、パフォーマンスを担保する上で重要だと思います。