Sheila Dang

[22日 ロイター] - 5月最後の週、ツイッターは採用を内定していた一部の大学新卒者に1人ずつ連絡を取っていた。電話を受けた内定者数人によれば、15分の通話で伝えられたのは「内定取り消し」だった。

トロント在住で、プロダクトマネジャー補佐として採用予定だったアイリス・ギュオさんは、「トラウマになった」とロイターに語った。悪い知らせが届いたのは午後10時45分のビデオ通話で、ギュオさんが就くはずだったポストは廃止されたと告げられた。それ以来、米国での就労ビザを確保するために新たな就職先を見つけるべく奔走しているという。

人員削減の状況を調査しているウェブサイト「Layoffs.fyi」によれば、今年に入ってから米国で職を失ったテクノロジー系労働者は2万1500人を超える。再就職斡旋サービスのチャレンジャー・グレイ&クリスマスによれば、テクノロジー分野における解雇件数は、5月に限っても今年1─4月に比べて780%の急増を見せている。

だが、ウォータールー大学で金融マネジメントとコンピューターサイエンスを学んだギュオさんのような大学新卒者まで内定が取り消されるというのは、これまでの人員削減にない新たな局面だ。最初の1歩を踏み出しもしないうちに新社会人としてのキャリアが消滅することになる。このトレンドは、テクノロジー産業の中でも、暗号資産関連やベンチャーキャピタルの支援を受けた企業で新たに緊縮志向が生まれていることを反映している。

調査会社ピッチブックでベンチャーキャピタル担当の上級アナリストを務めるカイル・スタンフォード氏によれば、暗号資産関連企業における慎重姿勢は最近の暗号通貨の暴落が原因で、ベンチャーキャピタル頼みの企業も、追加の資金調達のために市場に頼ることを避けるためにコストを削減しつつある。

暗号通貨企業のコインベース・グローバルは今月、スタッフの18%を解雇。決済サービスのクラーナとボルト・フィナンシャルは2社合わせて900人以上を解雇した。メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)や米配車サービスのリフト、ウーバー・テクノロジーズなど著名企業も、採用を減速ないし見合わせるとしている。

大量の人材が新天地を求めて退職する「2022年大量離職(グレート・レジグネーション)」のトレンドに逆行するように見えるが、40年来の高インフレ、ウクライナを苦しめる戦争、まだ終わりの見えないパンデミックといった状況のもとで、このところテクノロジー系の求職者はコスト削減や採用凍結という事態に直面している。

ツイッターへの就職予定者の場合、富豪イーロン・マスク氏の気まぐれな動きもストレスとなっている。マスク氏は440億ドル(約5兆9000億円)でツイッターを買収することで合意したものの、最近の同氏のツイッター投稿により、買収完了の時期や、そもそも買収が実現しない可能性について疑問が生じている。

とはいえ、人材派遣会社やコンサルタント会社の専門家に言わせれば、テクノロジー部門全体としての雇用状況は依然として堅調である。人材派遣会社ロバート・ハーフのテクノロジー部門地域ディレクターのトーマス・ビック氏は、情報テクノロジー分野はもちろん、医療産業や金融産業でもテクノロジー関連職の重要性は高いと指摘する。

だが、大学を卒業して新たに就職しようとする集団にとっては、このタイミングでの内定取り消しは非常に痛い。メタ・プラットフォームズやアルファベット傘下のグーグルといった企業はすでに新規採用者を確保しており、その扉は閉ざされているという。

カナダ出身で電気工学を学んだルーカス・デュラントさんは、ボルト・フィナンシャルで先週からソフトウェアエンジニアとして働き始めることになっていた。数週間前、休暇先にいたデュラントさんは、内定取り消しのメールを受信した。ボルトでは、経済の状況を理由に、5月末に人員削減を開始すると発表していた。

「もっとひどい景気後退が来る前の、時間との闘いのように感じている」とデュラントさん。「じきに、2023年卒業組と競争することになるから」

<限られた選択肢>

ビジネス向け交流サイト「リンクトイン」への投稿や、内定取り消しを受けた人の新たな就職活動を支援するためにグーグル・スプレッドシートで共有されているリストによれば、ここ2-3週間で内定取り消しを受けた大学新卒者は少なくとも40人にのぼる。

21日の時点で、ツイッターから内定取り消しを受けた大学新卒者としてリストに記載されているのは22人、また別のリストではコインベースによる内定取り消しとして9人が記載されている。

ツイッターは声明で、内定取り消しによって志望者が困難な状況に追い込まれていることは認識しており、対象者には補償を提供していると述べている。

コインベースは、6月2日に投稿したブログ記事で、多くの内定取り消しに至った決断は軽々しいものではないとしつつ、「最も優先順位の高いエリアだけで成長できるようにするためには必要だった」としている。

カリフォルニア大学デービス校を卒業したばかりのクロエ・ホーさんは香港出身。9月29日までに新たな職に就かなければ米国を退去せざるをえない。ホーさんはコンテンツマーケティングの専門家として「ウィー(Weeee!)」というオンライン食品販売会社に就職することになっていたが、取り消されてしまった。

就労ビザを確保するためにはスポンサーとなる新たな勤務先が必要だが、「選択肢は非常に限られている」とホーさんは言う。

ホーさんは入居予定だったサンフランシスコのベイエリアの部屋をキャンセルし、友人たちと過ごす休暇の計画も中止した。これから3カ月、日中は新たな就職先を探すための人脈作り、夜は志望書類の提出に励むつもりだ。「あの仕事に就くことを軸にすべてを計画していたのに」と彼女は言う。

内定取り消しを受けた大学新卒者の多くは、リンクトインに落胆の思いを投稿している。国内を大移動する引っ越し計画が内定取り消しによって白紙に戻った状況が詳しく語られ、新たな就職先の紹介を求める訴えもある。

ロイターの取材に応じた大学新卒者は、驚くほど広範囲の人から支援の申し出があると話している。それでも、夢を描いていた仕事を失ってしまった痛みは消えないという。

コインベースに入社する予定だったある大学新卒者は、今も就職活動中であることを理由に匿名を希望しつつ、内定が取り消されるわずか1週間前には、コインベースから既存の内定を撤回する予定はないと保証するメールをもらっていた、と話す。

調査会社ガートナーの人的資源担当バイスプレジデントのブライアン・クロップ氏は、短期的には多少のコストを削減できるかもしれないが、こうした企業は評判という点で「破滅につながりかねない」ダメージを負うリスクを冒している、と指摘する。

「内定取り消しが、相手にとってどれほど不公正なことか考えるべきだ」とクロップ氏は言う。「ひどく辛い立場に追い込むことになるのだから」

(翻訳:エァクレーレン)