竹中平蔵の経済がわかる

1年半で「給付付き税額控除制度」の構築を

解散・総選挙、世論の矛盾

2014/11/27
「この先の日本経済がどうなっていくのか」「世界経済はどのように動いているのか」――経営者にとっても、ビジネスパーソンにとっても、日々の経済動向をウォッチすることが不可欠です。本連載では、竹中平蔵氏が、経済の時事テーマやキーワードについて、鋭くわかりやすく読み解きます。

世論は明らかに矛盾している

いよいよ衆議院解散、総選挙です。

安倍総理は記者会見を行ない、今のような厳しい経済状況を考えると消費税増税を延期することが必要である、と述べました。そして、税という民主主義の根幹にかかわる政策の変更である以上、国民の信を問いたい、と述べたのです。

これには前の民主党政権が、公約(マニフェスト)に書かれていなかった増税を決めたことに対する痛烈な批判の意味もこめられています。これに対し、解散・総選挙の大義が見えない、といった批判も聞かれています。

さまざまな世論調査がありますが、「消費税増税に賛成か反対か」という問いに対し、国民の多くは「反対」と答えています。その意味では、増税延期を決めた安倍総理の決断は支持されていることになります。

一方で、今回の解散・総選挙の決定について問われると、国民の多くは「反対」と答えます。朝日新聞社が11月19・20日に行なった緊急世論調査では、62%が解散・総選挙に反対と答え、賛成(18%)を大きく上回りました。また「国民に信を問う」という解散理由に納得しないと答えた人も65%に達しています。

増税延期には賛成、でも解散・総選挙には反対。

私は、この世論は明らかに矛盾していると思います。安倍総理には、解散・総選挙をしないで増税を延期するという道はなかったからです。

前回も書いたように、そもそも消費税率の引き上げに対し、私は一貫して反対してきました。消費税増税は、財政健全化にも社会保障向上にも役に立ちません。景気を悪くし、デフレ克服を遅らせる(結果的に財政健全化を遅らせる)だけなのです。

しかし前政権時に、野党であった自民党も賛成したうえで、増税に関する法律ができたのです。総理といえども、使える政治的資源(ポリティカル・キャピタル)には限度があります。ですから、増税案を覆すことはできないだろう、増税を甘受せざるをえないだろう、と私は考えていました。

仮に増税を延期するウルトラCがあるとすれば、それは解散・総選挙で国民の支持を得ること以外には考えられません。

世論というのは、時に政治のプロセスを無視して、矛盾したものを政治に求めます。「選挙をしないで増税を中止せよ」というのは、政治の現実を考えれば無理な注文です。こうした世論の矛盾をじっくりと説得して正していくのは、政治の重要な役割と言えるでしょう。

踏み込んだ税制の改革を進めよ

そこで考えられる一つのアイデアは、単に増税を延期するのではなく、より踏み込んだ税制の改革を進めることです。

考えてみれば、増税の延期は、それによるマイナス効果をなくするという意味はありますが、さらに踏み込んで経済を良くするというプラス効果はありません。解散・総選挙を行う行以上、マイナスをゼロにするだけではなく、さらにプラスをもたらすようなものにする必要があります。

私が個人的に期待したいのは、増税が延期された1年半の期間をうまく活用して、税のインフラを整備することです。2015年にマイナンバー制度が動き出すことになっていますが、これをきっかけに、この際「給付付き税額控除制度」を構築してはどうでしょうか。

これができれば、本当の意味で低額所得層への分配政策が実現します。いま議論されているような軽減税率の制度より、はるかに優れています。

さらに進んで、税と社会保険の徴収を一元化して歳入庁にすれば、徴税漏れの問題も大幅に改善するでしょう。その財源を使って、法人税減税などさまざまな新しい政策を行うことも可能になります。

世論の誤解をただし矛盾を解消するためにも、選挙ではこのような前向きの改革を打ち出してもらいたいものです。

今週の経済ニュースの要旨

「解散理由『納得せず』65% 内閣不支持40%、支持39% 朝日新聞社世論調査」『朝日新聞』2014年11月21日付(朝刊第1面)

安倍晋三首相が21日に衆議院を解散すると表明したことを受けて、朝日新聞社は19、20日に全国緊急世論調査(電話)を実施した。

衆院の解散理由について、安倍首相は消費税増税の延期を挙げて「国民生活と国民経済にとって重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきだ」と述べたが、解散・総選挙をすることに「反対」(62%)は「賛成」(18%)を大きく上回り、消費税増税の延期について「国民に信を問う」という解散理由に「納得しない」(65%)は「納得する」(25%)を上回った。

※本連載は毎週木曜日に更新する予定です

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