シリコンバレー発ロボット最前線

2016年に出荷スタート

家庭用ロボット。ジーボは何をしてくれるのか?

2014/11/24

十分に生物的

掃除や皿洗い、洗濯をやってくれる家事ロボットは、技術的にはまだまだ遠くの未来でなければ実現しそうにないが、別のタイプの「家庭用ロボット」ならば、その登場はもうすぐそこに迫っている。

日本では、ソフトバンクのペッパーがその先駆けになるだろうが、アメリカでは、ジーボが注目を集めている。(http://www.myjibo.com/

ジーボはペッパーと見た目から大きく違っている。基本的にはヒューマノイド的なロボットの姿で、小学校高学年くらいの背丈のペッパーに対して、ジーボはまるで卓上照明器具のような素っ気ないかたちだ。ペッパーのような手も足もないし、こちらに向ける顔や目もない。基本的には、丸いカバーの中に組み込まれたスマートフォン大のスクリーンが、その頭部である。

このかたちは、アメリカ流のロボットとしてもかなり抽象的なものなのだが、その動きには、かなり工夫が凝らされている。筆者はまだビデオでしか見たことはないが丸い頭部がクネクネと動き、機敏にあちらを向いたりこちらを向いたりする様は、もう十分に生物的な印象だ。左右上下という単純な動き以上のものを実現したのが、そのキーになっているだろう。

ジーボはアメリカ初の家庭用ロボット。価格は500ドル(http://www.myjibo.com/)

ジーボはアメリカ初の家庭用ロボット。価格は500ドル(http://www.myjibo.com/)

リマインダー、挨拶、本の読み聞かせ

さて、このジーボがいったいわれわれに何をしてくれるのかの詳細は、ペッパーと同様、まだよくわからない状態だ。だが、プロモーションのビデオや、開発の中心メンバーとなったマサチューセッツ工科大学のシンシア・ブラジル准教授の説明を聞く限り、次のようなことが可能らしい。

まず、家庭に1台あれば、家族それぞれの顔を見分ける。そして、その人にあった情報を提供してくれる。

例えば、「もうすぐお友達がショッピングに行くのに迎えに来てくれますよ」といったリマインダーを言ってくれる。このあたりは、すでにスマートフォンのパーソナル・デジタル・アシスタント機能のグーグルナウやシリなどが実現し始めていることと同じだ。違いは、リマインダーが音声になったり、その人を見分けて言ってくれたりすること。

一人暮らしならば、帰宅すると同時に「お帰りなさい」と迎えてくれる。それだけではなく、有能な執事よろしく、「○○さんから電話がありましたけれども、こちらからかけ直しますか」とか、「○○さんから、こんなメールが入っています」といったことを教えてくれる。その後、電話をかける、メールを出すといった作業を、ジーボに向かって音声で伝えれば、ちゃんと遂行してくれるだろう。

子供が相手ならば、童話本を一緒に読んでくれる。読みながら効果音を出したり背景音楽を奏でたりするのは、お手のものだろう。顔の表情をいろいろに替えて、優しい物語や怖い物語風に調整することもできるだろう。子供にとっては、演技力豊かなお母さんと同じくらい嬉しいことかもしれない。
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演技力のあるお母さん

現時点でジーボに想定されているのはこの程度の機能性だ。だが、今やロボットもスマートフォンと同じくソフトウェアが機能を拡張してくれる時代。ジーボも外部のディベロッパーがいろいろなアプリを開発することを目論んでいるので、もっといろいろなことができるようになるだろう。

例えば、小型の警備ロボット。誰かが入ってくるとその侵入を認識し、そちらに向かって証拠写真をパチリ、といったイメージだ。

スマートホームのコントロール・ステーションにもなれるだろう。ジーボに向かって、「寝室のカーテンを閉めてくれ」とか、「お風呂を沸かして」とか、「子供を起こして」などと伝えれば、こちらは居ながらにしてそれぞれの用事をやってくれる。

また、カメラの目もあるので、それにハミガキをかざし「同じものをアマゾンで3つ注文」などと言えば、明日にはそのハミガキが届いているだろう。要は、これからコンピュータでできることは、こうしたロボットにもできて、さらに音声や表情というおまけがつく、ということになる。

さらに期待したいのは、上述したブラジル准教授のこれまでの研究がジーボの中でどう実用化されるのかの部分だ。

ブラジル准教授は、ロボットの中でも「ソーシャル・ロボット」の専門で、人間とのやりとり、感情の認識、共同学習といったことでのロボットの機能や役割を20年以上にわたって追究してきた。したがって、ただ用事を済ませるだけでなく、相手の顔の表情や声の調子によって対応を替えたり、適確なやりとりを行ったりできるようになる可能性もある。

子供と一緒に童話本を読んでいても、どうやって読めば単語習得に役立つのかとか、学習意欲につながるのかといったことに基づいて振る舞ってくれたりするのではないか。そんなことが期待できる。ちなみに、一般消費者へのジーボの出荷は、2016年に予定されている。

万能ではないが、愛嬌のあるタイプ

さて、そうは言うものの、ペッパーであれジーボであれ、いわゆる家庭ロボットにおいては、何と言っても人々の期待を裏切らないようにするのがもっとも重要なポイントになる。産業用ロボットならば、機能も限られている上、ロボットを扱うユーザーも専門家なので、不備があってもそれなりに理解、納得するはずだ。

だが、家庭用ロボットが相手をするのは一般のユーザー。しかも、ロボットへの関心は高く、わざわざ購入したというならば期待もパンパンに膨らんでいる人々だ。そんな人々を相手にしながら、言っていることがうまく聞き取れないとか、こちらを見つめたまま顔を認識してくれないとか、用事の途中でフリーズしてしまうとかといったことが重なると、愛想をつかされるだろう。

ペッパーの開発者は、「ちょうど観葉植物くらいのサイズなので、邪魔にならない」といった発言をしているのをどこかで読んで感心したのだが、機能的に愛想をつかされたら本当に観葉ロボットにもなりかねないのだ。

これからロボット技術やAI(人工知能)技術はどんどん進んでいくものの、家庭用ロボットという言葉から想像できる機能性の実現は、まだ途上の状態。だから、限られた特定の機能を上手にこなし、それでいてできないことはうまくカバーするという方法が求められる。

そして、そんなカバーをする時は、ロボットがどんなキャラクターの持ち主なのかも重要になるだろう。できる顔をして本当はできない奴よりは、万能ではないけれど愛嬌があるといったタイプの方が、戦略上は安全かもしれない。われわれが人間の間で感じているものと同じような感情を、結局ロボットに対しても抱いてしまうとも想像されるからだ。その点、ソフトバンクの店頭で出会ったペッパーは、何があっても「ともかくしゃべり詰める」という社交型だと感じられた。

いずれにしても、家庭ロボットは一般の人々がロボットを初めて身近に体験する機会になる。コンピュータというマシーンだけでは見えなかった、人々の期待や反応が楽しみだ。

※本連載は毎週月曜日に掲載します。