2022/6/9

顧客に“寄り添う”営業が、成果を出せない理由

NewsPicks Brand Design editor
 新規顧客の開拓がなかなか進まない、マーケティング組織を立ち上げたけれど、売上増加につながらない──。特にコロナ禍でこれまでの営業スタイルが通用しなくなり、組織の売上停滞に悩む営業リーダーは多いのではないか。

 引き合い案件依存の「待ち」の状態から脱却し、積極的に売上を作り出せる「攻め」の組織に変わるために、営業プロセスや組織体制をどう変革すべきなのか。「売れる営業」に生まれ変わるための必要なスキル、マインドセットとは?

 2022年4月に開催されたオンラインイベント「脱・停滞の営業変革 “攻め”の営業組織の作り方」から、営業変革のために「組織」と「個人」の観点で語られた2つのセッションをレポートする。
 停滞する営業組織は、どのような共通課題を抱えているのか。新しい売上を作るための営業プロセス変革は、どう実現できるのか。
 現場の課題と具体的な解決方法を、営業組織変革の現場を知るプロフェッショナルが語り合う。

その戦略に「再現性」はあるか?

──コロナ禍で今までの営業スタイルが通用しなくなり、売上が停滞して悩んでいる営業組織は少なくないと思います。この「売上が停滞する営業組織」に共通する課題は何だと思いますか?
上島 営業組織の目標や戦略を、客観的データではなく「勘と経験」に頼って立てている。そういった企業はまだ多く、それが売上の停滞を招いているケースは多いと思います。
 もちろんデータが全てとは言いませんし、勘と経験が役に立つことも多々あります。ですがポイントは、「再現性」の有無
 たとえば営業の“嗅覚”が優れたトップセールスが大きな売上を上げていても、極端な話その人が明日退職してしまえば、その成功体験や要素は引き継がれないわけです。
 ですから組織として成長を続けるために、実績データを社内に蓄積し、分析・検証を繰り返すことが必要です。
 その結果、売上が停滞しているボトルネックはどこか、どのセグメントに成長チャンスがあるか、といった景色が見えてくるのです。
安田 私が問題視しているのは、データはデータでも、「営業活動」という定量的なデータ管理に終始している企業が多いという点。
 営業活動とはつまり、「今週は何件電話をかけたか」「何件提案したか」といった活動ですね。
 しかしこういった定量の管理だけしかできていないと、これらの数字の解釈に幅が出てしまう
「これだけ熱心に提案したんだから、受注してくれるだろう」というように楽観的に判断し、受注確度を見誤ってしまう懸念があるのです。

定量と定性、両方管理しよう

安田 そんな状況を防ぐためにおすすめしたいのが、定量的な「営業活動」だけでなく、定性的な「合意形成」も管理すること。
 商談プロセスには、上記のような商談フェーズがありますが、それぞれのフェーズで取っておくべき「合意」があります。
 活動履歴に加えて、「現場だけでなく上層部も合意しているのか」「発注に向けてアクションを起こしてくれているのか」といった点も押さえておく。
 そうすることで後々のフォローもしやすく、結果的に売上増加につながりやすくなるはずです。
上島 私が推奨しているのは、新規・既存のどの領域を攻めるのかを明確にして、そのアプローチ方法を見直すことです。
「売上を伸ばす」と聞くと、全くの新規顧客を開拓しなければいけないように聞こえるかもしれません。
 ですが、業界や業種によっては既存取引企業へのクロスセル(組み合わせ提案)やアップセル(上位商品の提案)などの、既存顧客の深掘り横展開が有効な場合も多々あります。
菊池 さらに組織として取り組むべきは、営業のITリテラシー向上だと考えています。オンラインできちんとお客様の心をつかむ営業ができているかは、自分では案外わからないものです。
上島 そうですよね。ITツールを使いこなせる若手のメンバーが大型案件を取り、ベテランメンバーが契約を取れないという“逆転現象”が起きているケースも散見されています。
菊池 だからこそ営業の誰もが、オンラインでも顧客とのエンゲージメントを高められるよう、スキルを磨くことが求められています。
 その取り組みとして、シスコシステムズで私が率いているチームでは、営業メンバー同士でオンライン商談のロールプレイをしています。
 外部の営業コーチがそこにオブザーバーとして入ります。「今お客様の本音を聞けそうだったのに、スルーしてしまっていましたね」といった客観的な意見をもらうことで、オンラインでの営業力アップを図っています。

マネジメントこそ意識改革を

── 安田さんは営業人材の育成での領域でのご経験が長いですが、セールスフォース・ジャパンでの取り組みを教えていただけますか。
安田 営業プロセスごとに必要なスキルや、習得すべき知識、育成プログラムなどを明確化し、営業メンバーがつまずいたときに、「何が足りていないのか」「どんな対策が必要なのか」がわかるようにしています。
 そうすることで、リーダーが的確な指導や育成ができるようになるのです。
 このような可視化を進めることにより、リーダーの過去の成功体験をメンバーに強要するマネジメントスタイルから、客観的なデータで一人ひとりが成功体験を積めるマネジメントスタイルに変わるという利点もあります。
上島 育成と聞くと、若手の育成を連想しがちですが、実はマネジメント層の意識改革も重要なんですよね。
菊池 そうですよね。コロナ禍もいつかは終息を迎えますが、全てが対面に戻ることはなく、対面と非対面のハイブリッド営業が当たり前になるでしょう。
 そのなかで、いかに顧客のエンゲージメントを高め、営業成績を伸ばせるか。それが「攻め」の営業組織をつくる鍵ではないでしょうか。
 案件を待つだけではなく、新しい売上を自ら作り出す営業になるために、求められるスキルとは何か。
 ベストセラー『無敗営業』著者のTORiX株式会社 代表取締役高橋浩一氏が、約1万人の法人営業に向けて調査した結果をもとに、営業プロセスごとに押さえるべきポイントを解説する。

「じっくり傾聴」では成果が出ない

高橋 このセッションでは、「攻め」の営業力の身につけ方をみなさんと考えていきたいと思います。
 ではまず、こんな問いかけをさせてください。とても誠実で共感力があり、お客様の話をしっかり傾聴する。ですが、売上が上がらない営業担当がいたとします。売上が上がらない理由は、なんだと思いますか?
 この答えを、約1万人の法人営業の方を対象としたアンケート調査のデータをもとに、読み解いていきたいと思います。
 この調査では、普段から目標を達成するのが当たり前の「ハイ達成者」と、なかなか目標を達成できない「未達者」の違いに注目。
 まずは、「質問を自分なりに工夫して、お客様のニーズや課題をうまく聞き出せた成功体験」について聞きました。
 するとハイ達成者は共通して、「事前準備」「キーパーソンの見極め」「質問の仕方の工夫」から、成功体験を得ていることがわかりました。
 一方で、未達者が選んだ中で圧倒的に多かったのが、「お客様の話の傾聴」だったのです。
 お客様も、最初からやりたいことや課題が明確に整理されているわけではありません。だから、お客様の話を傾聴しているだけでは、本質的な課題解決につながりにくいのです。
 それよりも、事前準備をして仮説を立てて、キーパーソンを見極めて質問を工夫し、お客様の真のニーズを探っていく。成果を上げるためには、この3つのプロセスが非常に重要なんです。

“御用聞き”より情報提供を

高橋 次は、ニーズや課題を聞き出した後、アポイントを取るまでの行動に違いはあるのかを探るべく、「お客様との関係性を深め、キーパーソンとのアポイントや自社への依頼を獲得できた成功体験」を聞きました。
 すると、ハイ達成者に多かったのは「問い合わせや宿題への早いレスポンス」「お役に立てる情報の提供」でした。
 これに対し、未達者が選んだ上位は「こまめにコンタクトを取ること」「雑談で距離を縮めること」「お客様の話をじっくり傾聴すること」「何度も足しげく通うこと」。
 この結果を見ると、ハイ達成者は、レスポンスの早さお役立ち情報の提供が強みと認識しているのに対し、未達者はいわゆる“御用聞き”の営業スタイルを強みと認識していることがわかります。
 こうして考えると、冒頭でみなさんに問いかけた「共感力があり、お客様の話をしっかり傾聴できるのに、売上が上がらない理由」が見えてきますね。

攻めの営業は「ハイブリッド営業」

大野 目標ハイ達成者と未達者では、かなり傾向に違いがあることがわかりました。
 営業として成果を出すには、御用聞きスタイルの「待ちの営業」から、主体的に仮説を立てて情報を提供する「攻めの営業」になる必要があるのですね。
 さらにコロナ禍で多くの企業が悩んでいるのは、オンラインでの営業でどのように成果を出すかという点だと思います。
高橋 そうですよね。コロナ禍では多くの企業が打撃を受けた一方で、実は2021年に過去最高益を出した企業は珍しくありませんでした。
 それらの企業に共通していたのは、対面とオンラインをうまく組み合わせる「ハイブリッド営業」に進化していたことです。
大野 なるほど。ではハイブリッド営業をする上で、一人ひとりの営業が成果を出すためのポイントは何でしょうか。
高橋 まずは、さまざまなツールを駆使して、お客様との接点を増やすことです。
 直接会わなくても電話やメール、オンライン商談でアプローチ回数を増やして、受注まで細かくフォローアップしていく。これでお客様との距離を縮められますし、認識の齟齬も減って生産性も上がります。
 さらに、お客様と「二人三脚」になることも重要。お客様との共同作業を通して、受注までつなげていくということです。
 具体例を挙げるとすれば、議事録作成。オンライン商談中にリアルタイム議事録を作成し、未完成のメモ状態でも、その場で画面共有する。
 お客様と一緒に商談を前に進められることで、お客様の熱量を上げることができます。
大野 なるほど。我々シスコシステムズが新しくリリースしたオンライン会議専門デバイス『Webex Desk Mini』には、画面共有をしながらお互いに書き込めるホワイトボード機能があるんです。
 商談の場で、お客様との認識のずれをなくしながら理解を深められるので、二人三脚の営業に役立てていただけるのではと思います。
ワンタッチでオンライン商談に参加できる『Webex Desk Mini』。写真はホワイトボード機能の実演の様子。
 また、会話を自動で文字起こしする機能がついています。議事録作成の手間が省けて効率的ですし、お客様との会話に集中することができますね。会議が終わるタイミングでお客様に議事メモとして渡せるので、商談スピードも上げられます。
高橋 オンライン商談の質を高められるツールを活用するのは、ハイブリッド営業を成功させるのに非常に有効な手段だと思います。
 営業部門は、コロナ禍で大きな打撃を受けた部門。だからこそ、多くの方がオンラインを活用したハイブリッド営業を実践し、成果を出す「攻めの営業」に転身してほしいと思っています。