ロジカル思考、デザイン思考、アート思考の関係性とは(次世代ビジネス書著者創出)

2022/6/21
多くのビジネスパーソンの支持を集めるなど、刊行直後から話題が広がっている『創造力を民主化する-たった1つのフレームワークと3つの思考法-』(BOW BOOKS)。
実は、今注目のこの一冊は、「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとする、新時代のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」の「次世代ビジネス書著者創出」プロジェクトから生まれたものだ。
このプロジェクトリーダーで、かつて勝間和代を世に出したディスカバー・トゥエンティワンの創業社長である干場弓子さんに「久しぶりの大型新人!すごいです!やばいです」(Twitterより引用)と称された著者の永井翔吾さん。
今回はこの著者の永井さんにインタビューを実施。
永井さんの著書『創造力を民主化する-たった1つのフレームワークと3つの思考法-』のポイントと出版にかけた想いとはー。
※前編はこちら

「創造社会をつくる」

──今回、書籍を執筆するきっかけはありましたか。
永井 自分自身のミッションとして「創造社会をつくる」と掲げています。今回の出版もそのひとつの手段になります。
実は3年前に心臓の病気で倒れ、生死をさまよったことがありました。幸い助かったこともあり、生かされた自分の命をどのように使っていくかと考えたとき、一人ひとりが自分の生み出したいものを生み出し、前向きに、そして幸せに暮らせるような社会をつくりたいと。そんな思いが、心の底から湧き上がってきました。
そんな思いを抱きながら、在籍しているVISITSでは創造性を科学したり、デザイン思考テストなどを扱うことができています。現在、創造力の重要さは認識されているものの、定性的な判断しかできないため、定量化しようという試みをはじめているところです。
定量化によって能力を可視化でき、トレーニングでさらに伸ばせると考えています。また、デザイン思考テストも新卒採用に活用する例が多く、面接官の感覚で学生の創造力を測るやり方からの脱却も狙っています。
もちろん、私たちとしてもテストによって学生に優劣をつけたいわけではありません。従来の手法に一石を投じることで、既存の学歴やWebテストではなく、クリエイティビティや課題発見力の必要性をあらためて意識してもらいたいという思いです。
今回の出版も、創造力の重要性を広める啓蒙活動の具体的なアクションとも言え、今後も自分自身のミッション達成に向けて、個人としても会社としても活動していきたいと考えています。
──クリエイティブへの憧れやコンプレックスを抱いている人々への、具体的なアドバイスはありますか。
創造力は一部の天才だけに備わっている能力と思われがちですが、本書でロジカルに体系的に学び、実践してもらうだけでも創造力を育むことができると自負しています。
たとえデザイン思考テストの結果が最初のうちは芳しくなくても、本書をはじめ意識的に自分のクリエイティビティを鍛えようとすれば、必ず能力は伸びていくと考えています。
繰り返しになりますが、創造力は決して一部の天才のみの特権ではないので、あきらめなければ必ず伸びていきます。
──周囲から影響を受ける場合もあるのでしょうか。
それは間違いなくあると思います。私自身もスタートアップで働くなかで、常識でないアイデアを出そうとする「転換思考」を持ったメンバーに囲まれています。
私がつい視野が狭くなってしまうときに、メンバーと話をしていると「そういう視点もあるよね」と学ぶことも多々あります。

起業のスイートスポット

──本の中では、アート思考と潜在ニーズの重なる部分が起業のスイートスポットと記されていたのが印象的でした。これも、スタートアップで働く中で感じられたポイントですか?
起業家は「これをやりたい」「世の中はこうあるべきだ」という、非常に強い思いを抱いています。そして、その思いは自分視点で考える所謂アート思考とも言えます。
次に市場が形成されているような顕在ニーズは、ロジカルシンキング、つまり合理的な分析などで探せたりするものです。したがって、起業家のやりたいこととマッチしているような顕在ニーズは、既に他企業が参入してレッドオーシャンになっている場合がほとんどです。
一方、潜在ニーズは消費者が、何らかの欲求はあるものの自分自身でも具体的に何が欲しいのか分からない状態のため、まだ商品やサービスとして生み出されていない部分。
そして、この潜在ニーズと起業家としての「こうあるべきだ」という思いがうまくマッチしたところから革新的な商品やサービスが生まれ、大きなマーケットが形成されていくのです。
まさに起業のスイートスポットと言えるはずです。
──確かに突き抜けている起業家の多くは、意識的か無意識なのかに関わらず、そのポイントを突いている気はします。
潜在ニーズを汲めばいいとも考えられがちですが、起業は非常に苦労するもの。自分自身で背負うリスクや労力を考慮すると、潜在ニーズだからと言っても自分自身の思いを持たずにやり抜くのは難しいのも事実です。
反対に、思いばかりが強くても、そこに潜在ニーズが伴っていなければ事業として成り立ちません。
潜在ニーズに自分自身の強い思いや原体験などが重なることで、はじめて大きな成長は見込めると言えます。

「読書は苦手でしたが、一気に読めました」

──出版された後の反響について聞かせてください。
本当に多くの方に読んでいただけていると感じています。
出版後には多くの講演依頼をいただきました。そうした企業様には、「極めて完成度の高いフレーム」とか「創造的な思考法を限界までロジカルに説明しているのでトレーニングしやすい」とご評価頂いています。
また、「自分も少しはクリエイティブになれる気がしてワクワクした」とか「普段の仕事や生活で具体的に使えて楽しい」というメッセージもいただくこともあります。
「創造社会をつくる」という自身のミッションに対する使命感のような気持ちで書ききったと言えますが、本当に執筆してよかったと、今では心底思います。
──想定する読者層はありますか。
ビジネスパーソンや学生に手に取ってもらいたいですね。
手に取ると分厚く感じるボリュームですが、読者の方からは「読書は苦手でしたが、一気に読めました」というコメントも頂けています。
読者のみなさんの普段の生活や仕事が前向きになる一助になれば幸いです。
──著書に記されているフレームワークや思考法は、干場さんの講座に参加した時点で既に頭に思い描いていたのでしょうか。
そうですね。講座に参加するタイミングで、すでに「これを書きたい」という思いは抱いていました。
司法試験を受ける過程や官僚時代、BCGで働いた経験から、優秀な人材の集まりのなかでも圧倒的なパフォーマンスを残す人たちには、共通した考えがあることを知っていました。
そして、創造力を科学するという現在の仕事を通し、統合思考やアナロジー思考、転換思考といった思考法を整理していく中で、過去に出会った優秀な人材の思考を体系化できるようになり、書籍化すればより多くの人々に伝えられるのではないかと考えていました。

覚悟を持って出版する

──実際に関わった永井さんから見て、干場さんの魅力について教えてください。
ご自身でも起業されているように、干場さんは自分のやりたいことをどんどん生み出していますよね。まさしく「創造」されている印象があります。
自分のやりたいこと、やるべきことにものすごいエネルギーを費やして、実現していく姿は、私自身ものすごく勉強になりました。そんな干場さんのレーベルから出版できたのもありがたく思っています。
出版にまつわるエピソードもあり、実はタイトルは「創造的に考える技術」と想定していました。そのタイトル案のまま執筆も終わっていましたが、最後の最後というタイミングで、干場さんから「そもそも私は永井さんの創造力を民主化したいというミッションに惹かれた」と明かされました。
『創造力を民主化する-たった1つのフレームワークと3つの思考法-』という現在のタイトルも、「ストレートに永井さんのミッションを掲げて、世の中に届けませんか」と干場さんに後押ししていただき、最終的に変更しました。
自分のミッションをしっかりと伝えていく、そして、その覚悟を持って出版することを、干場さんには最後に教えていただいたと感じています。
──出版した今、改めてタイトルへの思いを聞かせてください。
“置きに行く”のではなく、自分のミッションをそのまま伝えていくタイトルに変え、本当によかったと言えます。
自分の今までの経験を通して得た思考法をできるだけ広く届けたいという思いから執筆したので、少しでも多くの方に手に取って頂き、琴線に触れられればうれしいですね。
(取材:上田裕、構成:小谷紘友)

干場弓子氏からのメッセージ

私は、本のあとがきを読むのが好きだ。たいてい、著者の人柄が表れているからだ(そうでないものもあるが、それもまた著者の個性だと思う)。
なので、新人著者の方には、あとがきには、個人的なことを忍ばせることを勧めている。
永井さんとは、私のNewSchoolのプロジェクト以来、ちょうど1年近くをご一緒し、そのピカピカの経歴、勉強熱心さ、緻密さ、想いの熱さは十分わかっていたつもりだったが、最後の最後、あとがきの原稿を拝見するまで、彼がわずか3年ほど前に、3人目のお子さんを死産で亡くし、ついで自身が生死をさまようような大病から生還したこと、現在、弁護士の奥さまが体調を崩していることもあり、3人の幼い子どもたちの面倒を見つつ、もちろん会社でも責任ある仕事をこなしつつ、毎日深夜、文字通り身を削って、376ページのまさに「創造力」の「技法大全」とも呼ぶべき本書を書き上げたことを知らなかった。
もちろん、個人のそうした事情と読者にとっての本書の価値は全く別のことだ。けれども、読書とは、著者と読者のONE ON ONE のコミュニケーションであり、もし読者が書物から深いインスピレーションを得るとしたら、行間からこぼれ落ちる著者の想いに共感するからだと私は信じている。
本書を通じて、永井翔吾さんそのもののファンが増えることを祈るし、応援しています。