(ブルームバーグ): 野村ホールディングスは、仮想空間「メタバース」でのビジネス参入を検討している。メタバース上の金融取引が活発になる将来に備え、同社が知見を持つデジタル証券の発行支援など事業化に向けた環境づくりや人材採用を急ぐ。

執行役員の沼田薫氏は、メタバース経済圏の拡大に伴い「空間内と空間外の実体経済をつなぐ仕事が絶対に出てくる」と予測。具体的には、決済の仲介では一般企業が参入するなど経済圏が拡大すると「マネーロンダリング(資金洗浄)の懸念や取引相手が実在するのかなど信用面のチェックがより重要になる」とし、既存の金融機関が付加価値を付けられる余地があるとみている。

また、メタバース上は同社が手掛けるデジタル証券との親和性が高いと考えており、企業や個人の調達支援やデジタル資産の証券化などの構想も描く。

野村HDは4月、デジタル・カンパニーを発足したほか、メタバースを含むデジタル空間についての政策提言などを目的とした「日本デジタル空間経済連盟」に創設メンバーとして参加した。代表理事の北尾吉孝氏の出身母体であるSBIホールディングスを除くと、大手金融機関の当初からの参加は野村HDのみだった。

参加の意図について、同連盟の理事を務める沼田氏は、現状、定義さえ固まっていないメタバース上でさまざまな金融取引が発生する都度、金融機関として法的に問題がないか確認する必要があると説明。「会員企業共通の課題であれば連盟として取り組んだ方がよい」と話す。

中途採用は数十人規模か

野村HDは、ブロックチェーン基盤開発のブーストリーを傘下に持ち、2020年に初のデジタルアセット債の発行を支援したほか、デジタル証券基盤開発の米セキュリタイズといったデジタル資産関連ベンチャーなどの発掘や事業への出資を続けている。こうしたブロックチェーン技術の知見を強みとした事業機会を検討したところ「そこにメタバースもあった」という。

野村HDは17日、デジタル・アセット関連のサービスを提供する新会社の設立を発表。同日の投資家向け説明会後の会見でスティーブン・アシュレー執行役員は、新会社でこれまで手掛けていた投資事業を引き継ぎ、主にデジタル資産の基盤関連分野のベンチャーに少額出資をしていく方針を示した。

デジタル・カンパニーではメタバースなどの研究・開発を進めるため、積極的に人材を募集している。沼田氏によると、採用人数の目標はないが、中途採用は数十人規模に上る可能性があるという。

メタバースはアバター(分身)を操作できる仮想空間を指す。ブルームバーグ・インテリジェンスはグローバルでの市場機会が20年の約5000億ドル(現在のレートで約64兆6300億円)から24年には約8000億ドルに急拡大すると試算する。潜在的な事業機会に引かれ、多くの企業が巨額の先行投資をしているが、オンラインゲームなどを除き、実体経済との結び付きはまだ弱いのが現状だ。

旧フェイスブックは昨年10月、「メタ」への社名変更を発表。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は同月の決算発表後の電話会見で、今後10年について「われわれの目標はメタバースが10億人に行き渡り、何千億ドル規模の電子商取引をもたらすのを後押しすることだ」と語った。一方で、今後数年はこの分野で収益が見込めないことを認めている。

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