2022/5/25

なぜ今、医療には“実行者”が必要なのか

NewsPicks Brand Design editor
コロナ禍による不確実性の高まりや、DXへの取り組みなど、医療・製薬業界は急激な変革を迫られているが、それは同領域に関わるコンサルも同様だ。

長年、ライフサイエンス企業に伴走し、将来を見据えた課題解決をサポートしてきたデロイト トーマツ コンサルティングのライフサイエンス&ヘルスケア部門でも、クライアントと関わる際のレイヤーが大きく異なっているという。

今、医療・製薬業界のコンサルにどのような変化が起こっているのか。そして、国内150名以上の専門家が集まる同部門で働くことの魅力とは。執行役員を務め根岸 彰一氏と、西上 慎司氏の2人へのインタビューから明らかにしていく。

歴史の転換点に当事者としていられるか

──長年ライフサイエンス・ヘルステック領域にコンサルタントとして関わってきたお二人から見て、現在の医療・製薬業界にはどんな課題意識を持っていますか?
西上 社会の不確実性が増す中で、今、ライフサイエンスに関わる企業は「リスクと正面から向き合うこと」が求められています。
 例えばCOVID-19の流行後、約1年でワクチンが完成したことは記憶に新しいと思いますが、過去の歴史を振り返ってみても、こんなスピードで実現できた例を知りません。
 他にも、これまで病院で直接診療を受けるのが当たり前だったのが遠隔診療という選択肢も出てきていますし、テクノロジーの進化によって新しいサービスが次から次へと生まれています。
 そうした中で、単純に目に見えるものに基づき意思決定していたら変化のスピードに取り残されてしまう。不確実性の高まる現代だからこそ、企業もそれに対応するためにリスクと対峙しながら行動する必要があります。
 これは、ライフサイエンス・ヘルステックに関わる我々も同様で、単に戦略を描くだけでなく、「当事者として何ができるのか」が求められる。そんな時代の変化を感じます。
──コンサルと聞くと「上流の戦略を作る仕事」というイメージでしたが、違うんですか?
根岸 おっしゃることはよく理解できますが……今は少し違っていて、それだけではない、というのが答えになります。
「側から中心へ」と我々は表現していますが、患者さんの抱える課題を解決する際に、我々がアドバイスして企業がそれを実行するだけでなく、我々が実行者となって周囲を動かしていく、いわばカタリスト(触媒)のような役割も担うことが増えています。
 情報のアベイラビリティー(入手しやすさ)やリテラシーが今ほどではなかった時代では、企業とコンサルの間に情報の非対称性がありました。
 だから戦略を立てる場合も、まず海外や新しい領域の情報を我々が調査・分析してそこから何をするか計画するといったプロジェクトが多かった。
 でも、今のライフサイエンス領域のスピード感を鑑みると、「じっくり計画してから進めましょう」では遅いんです。

「アンメット・メディカル・ニーズ」を解決せよ

西上 最近では「一緒に実行してほしい」「結果にコミットしてほしい」という要望が非常に多くなっています。
 我々は「End to End(エンドツーエンド)」というような言い方をしますけれども、戦略立案からシステムの実装までクライアント様と伴走する形で関わっていますが、まさに、ご支援自体の形態やニーズも変わってきていますね。
 例えば、デロイトは今、希少疾患のひとつである遺伝性血管性浮腫(HAE)の早期診断を実現するためのコンソーシアムの事務局をやっています。
 国内においてHAEの有病率は5万人に1人と言われていて、珍しい病気ゆえにその存在が知られていないのです。
 仮にHAEが原因となる体調不良で内科にかかっても、専門医でないと「ちょっと原因が分からないから、とりあえず様子を見ましょうか」となりがちで、長期間適切な診断がなされずに多くの患者様が苦しんでいます。
 この課題の解決に向けて動いているのが本コンソーシアムで、医療機関、患者団体、IT/デジタル企業、さらには武田薬品、鳥居薬品、CSLベーリングの製薬会社3社が参加し、診断率を上げるためのエコシステムを作ることを目的としています。
根岸 HAEに限らず、これまで経済合理性の問題で診断率の向上や薬の開発が進まなかった希少疾患はたくさんあるんです。
 これを「アンメット・メディカル・ニーズ()」と呼びますが、サイエンスやテクノロジーの進歩によって、こうした希少疾患に対する薬が続々と開発されています。
※いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズのこと
istock/metamorworks
 そうすると、患者様のためになる治療薬があるならば多少投資が必要でも企業としては動きやすくなる。先ほどのHAEコンソーシアムが成立したのも、こうした業界全体の動向が一因となっています。
西上 とはいえ、おそらく昔であればこうして製薬会社からお声がけいただいても、デロイトとしては最新事例を調査し計画書を提出して終わっていたでしょうね。でも、今は企業さんと伴走して課題を解決するところまで求められている。
 まさに「側から中心へ」という、コンサルティングの役割の変遷を象徴するような事例だと思います。

HowからWhatの議論に

──「戦略立案」から「伴走支援」に変化すると、仕事の難易度が上がりそうです。
根岸 言葉を選ばずに言えば、そうした仕事を任されるにあたって業界知識が全くない状態では難しい時代になっています。コンサルとしてプロでありながら、業界コンサルとしてもプロである、この2つがないと太刀打ちできない。
 我々には長く業界に携わってきた歴史があり、クライアント様から業界業務に特化したご相談やプロジェクトの依頼が多い理由はそこにあると思います。
西上 在籍しているメンバーそれぞれの能力が高いという観点もありますが、ヘルスケア業界を軸にして他分野にも横断して新しい試みができるのが我々の強みです。
 例えばライフサイエンス&ヘルスケア部門だけを見ても、テクノロジーカンパニーや官公庁、自治体を担当しているメンバーもいれば、病院コンサルに特化したメンバーも在籍しています。
 そうした多様な属性を背景にして複合的にプロジェクトを推進する実行力があると、一定以上、クライアント様から評価いただいています。
 加えて、私や根岸もそうですが長く業界に携わっているので、そこに特化したナレッジや経験があるメンバーも揃っている。この「深さ」もデロイトの特徴です。
 正直お恥ずかしい話ですが、我々自身も一昔前のチームを立ち上げた頃は「How」の議論が多かったんですよね。ようは何をするべきかはクライアント様にある程度セットしてもらい、それをどう進めるのかを議論するのが我々の役割でした。
 それが、もはや我々のチームはクライアント様の状況が限定的でも、いきなり「What(=何をするべきか)」の議論を経営者やCxOレベルの方とできるような状態になっている。そうした背景も含めて、「実行力がある」と判断いただいているという状況です。
istock/kazuma seki
──お話を聞いていると、中途で入る方にとってもかなりハードルが高そうな印象ですが……。
西上 もちろん、今後入社いただく方にはそれぞれのレベル感があるので、「明日から根岸のコピーロボットになってください」と言いたいわけではありません(笑)。
 コンソーシアム運営のように、今では「側から中心」に入るような社会的意義の高いことを求められるようにはなりましたが、我々コンサルがやるべきことは通底しています。基本的なリサーチや分析など、地道な作業は当然やっていかなければいけません。
 だから、そうしたプロジェクトのなかでも若手のメンバーが活躍できる仕事はたくさんありますし、そんなにハードルが高いと思っていただかなくても大丈夫ですよ。
 多様性に富んだ多くの仲間がいるほうがお客様にも喜ばれる、社会に対してインパクトを出していけると考えて行動しているので、新しい方が入社後、徐々に活躍する場を広げていけるように応援する仕組みを整えていますしね。
根岸 「チームで価値を出す」というのはデロイトのカルチャーなんです。重要なのは役割分担をして、自分の持ち場を守りながら仕事を完遂できるかどうか。
 まずは、本人の力量に合わせたタイトルの役割を踏まえ、その範囲の仕事をしっかりやりきってもらえれば十分です。
 その後、徐々にコンサルとしての力を高め、業界知見を深めていけば良い。それに対して我々既存のメンバーは最大限サポートします。

変化を好んだうえで地道に成長し続けられるか

──カルチャーフィットという点ではどうですか。
西上 フィットするのは一言でいうと「パーパス」がある方ですね。
 例えば、我々のチームには入社2年目で元看護師のメンバーがいます。
「医療現場の非生産性な状況を仕組みで改善したい」という思いを持って入社してくれた方で、今はコロナのワクチン接種の予約システムの効率化や、陽性者に関する保健所からの問い合わせをデジタルでマネジメントする仕組みづくりに携わってもらっています。
 彼女は明確に「患者さんに貢献する」というライフサイエンス領域のコンサルタントとしてのパーパスと、「テクノロジーと看護師としての経験をかけ合わせて、医療現場の課題を解決する」という個人としてのパーパスを両方持ち合わせています。
 こうした方であれば、変化を好んだ上で地道に成長し続けられる可能性が高いので、活躍の場を広げやすいでしょうね。
 逆にフィットしないのは、利己的な人。「自分の成長だけ」とか「自分が偉くなることだけ」しか考えない人は合わないだろうなという気がします。
根岸 我々は新卒・中途、両方の採用をやっていますが、そこは必ず確認しますね。「私はデロイトで早く出世したいんだ」みたいなことを言った瞬間に、そこはもう違うなと判断してしまいます。
 我々は短期的な成果だけを見るのではなく、長期的な視点でクライアントやより広く世の中に貢献できる力を付けて、結果的に成果がついてくる、そのようなメンバーに仲間になってもらいたいと思っています。
 だから、そうした考え方を理解できない方はチームにも馴染むことは難しいですし、結果的に我々のクライアントに対して本質的なバリューを提供できないと思うので、現時点で極めて優秀であっても採用はしないようにしています。
──先ほどのお話も含めて、デロイトではどんな人材が活躍できますか。
西上 例えばライフサイエンスの経験がなくとも、グローバルに対応できるバイリンガルのスキルや、デジタルの経験がある人に関しては個人のキャリアを作りやすいでしょうね。
 特にコンサルティングのキャリアは複層的に形成していくものなので、何かに特化した強みがあれば、掛け算が利きます。
 なのでリアルなところで言えば、テクノロジー1本だと年収マックスが頭打ちするところを、ライフサイエンスを掛けることでそれが2倍、3倍になる可能性がある。
根岸 そうですね。まさに、今強みとしてお持ちのスキルをライフサイエンスと組み合わせる形でご自身のキャリアの変化や仕事そのものを楽しめるか。
 そういうマインドを持った人が活躍できる環境だと思いますし、我々も仕組みや制度も含めて準備して全力で応援しています。
西上 デロイトには“異能”を持つメンバーをグローバルで35万人も抱えています。そうした人たちと一緒に自分のキャリアを作っていきたい、未来に向かってチャレンジしたい方と是非一緒に働いてみたいですね。