【高岡浩三】日本の将来を担う次世代に「イノベーション」の知見を伝えたい

2022/5/22
世界を驚かせるようなイノベーションが生まれなくなって久しい昨今、高岡浩三氏はネスレ日本社長として、「ネスカフェアンバサダー」や「キットカット受験生応援キャンペーン」など革新的なサービスを世の中に展開した。
その実績は、マーケティングの権威、フィリップ・コトラー氏らからジャパンミラクルと称賛された。
そのエッセンスを凝縮した新著『イノベーション道場 極限まで思考し、人を巻き込む極意』が先般刊行された。
本書では、著者が練り上げ、実践してきた、革新を生み出す手法を惜しみなく公開し、日本でイノベーションを生み出す術を伝授している。
また、高岡氏は後進に向け、「“真のイノベーション”を、それぞれのビジネス現場で巻き起こして欲しい」という思いから、経営者、企業に勤める次世代リーダー、若手社員などあらゆる立場のビジネスパーソンに向け、イノベーションの個別指導も実施している。
高岡氏の「イノベーション指導」にかける思いをじっくりと聞いた。

「新しい顧客の問題」とは

──今回、NewSchoolの講座をベースとして「イノベーション道場」が書籍として出版されました。「イノベーション道場」と、その出版に際しての思いを改めてお聞かせください。
高岡 そもそも“失われた30年”と言われる日本経済低迷の原因は60歳以上の元経営者にあり、私自身もその一端を担っていた責任を感じています。
その低迷からの脱却は当然困難を伴いますが、自分の第二のキャリアを「後進へのイノベーション指導(=イノベーション道場)」に託し、日本の将来を担う次世代に「イノベーションとは何たるものか」「いかにイノベーションを起こしていくのか」という知見を少しでも広げることで寄与したいと考えていました。
そんな思いを抱き、ネスレ退職後も「イノベーション道場」をライフワークとして続けていこうと考えていた際、出版社から「イノベーション道場が何なのかを、本にしてはどうでしょう?」という依頼があり、より広く周知するために出版に至った形です。
──書籍では「新しい現実を見る能力」といった印象的な箇所が多くあります。高岡さん自身がイノベーション道場で常々口にしていた、「問題解決能力よりも問題発見能力が重要」という考えに通じるのではないかと感じました。
「新しい現実を見る」という根本には、長きに渡って言われてきた「変化に適応する」という考えがあります。ダーウィンの進化論のように、生き物でも企業でも変化に対応できなければ廃れて滅んでしまいます。
しかし、そんな話は、40年前に私が大学を卒業する時点でも、ほぼすべての大企業の社長が口をそろえて言っていました。ただ、現実はどうでしょう。どこもかしくも変化に取り残された今の惨状があります。
わかっていながら、大きな変化に取り残されたのは一体どういうことなのか。
昨今日常的に使われている“イノベーション”や“マーケティング”という言葉も本来の意味はあまり知られていない様に、実は口にしていた経営者本人も“変化”という言葉の意味を理解していなかったと言えます。
“変化”とは一体何なのかー。
そんな問いに対し、私は「新しい現実によって作られる、新しい顧客の問題ではないか」と考えました。
そう捉えると、“変化”は若いからわかるわけでもなく、年を重ねて経験があればわかるわけでもありません。意識して懸命に探す努力を続けて、ようやく見えてくるものと言えます。
しかし、「新しい現実によって作られる、新しい顧客の問題」を見つけることができれば、変化も見えてくるのではないか。だからこそ、問題発見能力の重要さが増してきます。

本物のプロ経営者の仕事

──スピードの増す現代においては、絶え間なく新たな現実が生まれ、新たな問題が起こり続けるとも言えそうです。
日本電産の永守(重信)さんも、「不確実性の時代や10年先が見えないというのは、できない経営者の戯言だ。それを見通すことこそが経営者のつとめ」と話していましたが、私もまったくもって同感です。
日本企業はよく「中期経営計画」といって、3カ年計画を懸命に策定して株主総会で発表していますが、世界で見れば稀なことです。
世界における社長の仕事は、むしろ10カ年計画の策定で、まず10年後における目標を描き、それを現実のものにするために3カ年計画に落とし込んでいきます。
そのためにも、将来を見据えて世の中の変化を機敏に感じ取りながら、企業も適応していく必要があります。
言い換えれば、新しい現実から来る新しい顧客の問題を解決するために、ビジネスを変えていくことこそ、本物のプロ経営者の仕事になります。
「イノベーション道場」ではそのエッセンスを次世代に伝えていこうと考えていましたが、驚いたことに実際には大企業で新規事業を任された50歳前後の部長クラスにも大勢受講してもらえました。
確かに若手から部長クラスまで含め、イノベーションの本質を学んでもらえるのは、意味があるはず。
今の日本企業の社員や若手起業家がそういった経験を積めるかと言えば難しい現状がありますから、道場で鍛えながら受講者それぞれが自社、あるいは自部署の未来がどうあるべきか考える、社長の予行演習という経験を積んでほしいですね。
──社長の予行演習とは、まさにその通りですね。その上、長年にわたって経営者を務めてきた高岡さんから直接指導を受けられる機会はまたとないと言えそうです。
日本は、大企業の社長になったかどうかではなく、社長の在任期間に何を成し遂げたかを語れる経営者が増えるべきだと考えています。ただ、日本企業は社長の任期が決まっている場合が多く、だからこそグローバルで太刀打ちできない現状を歯がゆく思っています。
社長に就くのであれば、最低10年間かけて何かを成し遂げるべきで、そのために、10年先のプランを作る経験を「イノベーション道場」で積んでほしいですね。
そして、実際に社長に就任した暁には、経営者の任期をはじめとする古いルールをぜひ打ち破っていってもらえれば、私にとって最高の喜びになります。

いきなり正解は与えない

──高岡さんはイノベーションを一人ひとりに指導する私塾もはじめています。その手ごたえについて聞かせてください。
日頃から感じていることとして、年間に数十回の講演依頼をされるものの、話を聞くだけでは自分事としてはなかなか落とし込めないのではないかという疑念がありました。
最終的にはイノベーションについても、個別指導をやらなければ、結果は出てこないのではないかと。
受講者はレクチャー部分だけでも高い満足度を得られているようですが、レクチャーに参加した受講生が個別指導も受けることもあります。
新規事業をはじめ現在取り組んでいる仕事をいかにブラッシュアップしていくかについて、長期間にわたって具体的に取り組むとなれば、やはり私との1on1を通しての個別指導にならざるを得ません。
もちろん、実践的により深く取り組みたいとなれば、私も受講生も労力は各段に上がりますから、個人指導の門はぜひ覚悟のある方に叩いていただきたいと考えています。
──個別指導は具体的にどのような形で進行していきますか。
基本的に受講生が抱えている仕事について、取り組んでいきます。
具体的には、イノベーション道場で相談したいことを直接挙げていただく際、私が常に口にするNRPS法(ニューリアリティ・プロブレムソルビング)に基づき、受講生が対峙している顧客は誰か、その顧客を取り巻く新しい現実は何かを、本人に考えてもらいながらはじき出します。
とはいえ、新しい現実は何かとひねり出したところで、すぐさま深い思考に移れないものですから、私も意見を出していきます。
もし20人の個人受講生がいれば、その20人分の案件すべてに自分の時間を使って考え、受講生とやり取りしていく流れです。
もちろん、いきなり正解を与えるわけではなく、順序を追って「こういった見方もできる」といったアドバイスをしながら新しい問題のソリューションを見つけることになります。
最終的には半年という限られた時間のなかで、スモールスタートでテストをしていきます。
場合によっては社内で完結できず、取引先の協力も必要にもなります。あるいは異業種と協業する可能性もあります。
なかには半年で終わらないケースもありますが、卒業生が集うコミュニティも作っているため、半年後も継続してアドバイスするような、フォローアップも実は整えています。
私にとって大事なことは、イノベーション道場を通じて新しいビジネスやイノベーションが生まれること。
するとほかの受講生や卒業生たちも啓発され、「もっと頑張ろう」と考えるものです。今はその流れが作られ始めているところで、個人指導ならではの具体的な成功事例が最大のポイントと言えるでしょう。

まずはスモールスタート

──小さく試すという点は、リーンスタートアップにもつながる考えと言えそうです。
そうですね。実は巨大な組織で新規事業を細々と長く続けても、大きな投資ができないため、拡大しない場合がほとんどです。
当然巨額の投資は失敗のリスクも膨らみますから、まずはスモールスタートで、「大きく投資してもまず失敗しないな」という、ある程度の結果を出さなければなりません。
イノベーション道場では、スモールスタートから巨大投資までをやり抜く点も重要なエッセンスとなっています。
──考えてまず試してみるのが大事だと。
実はネスレ時代から、社内研修による社員の能力アップには限界を感じていました。ビジネススクールに派遣する方法もありますが、企業のビジネスモデルをも変えるイノベーションにおいては、あまり効果があるとは思えませんでした。
イノベーション道場はそういった課題をカバーしようと開講し、実際に初年度から多くの受講生が集まりましたから、見立てに間違いはなかったと言えそうです。
その上、決して安くはない授業料にもかかわらず、企業からの派遣ではなく、ほとんどの受講生が自らの意思での参加になります。
自費であるため、熱量や真剣度合いはものすごく、私自身がエネルギーをもらっているほどで、イノベーション道場を開講して最も嬉しいことのひとつと言えます。
(構成:小谷紘友)
“真のイノベーション”を起こす、意欲のある方、求む。

【個別指導】高岡イノベーション道場は、高岡浩三のマンツーマン指導を月に1回×6ヶ月間受けられる定員制の特別コースです。

経営者、企業に勤める次世代リーダー、若手社員などあらゆる立場のビジネスパーソンが本気で起こすイノベーション行動 に伴走し、社会的インパクトのある事業創出を、高岡浩三が直接支援いたします。

難題に取り組む勇気ある個人に寄り添い、マンツーマンでのメンタリングを通して、イノベーションプランを現実のものとする 支援をしていくことが【個別指導】の目的です。

”真のイノベーション”を起こす意欲のある方の参加をお待ちしております。

お申し込み、詳細はこちら

「人を巻き込むイノベーションの扉」

5月19日(木)に配信の番組『New Door』では「人を巻き込むイノベーション」をテーマに、高岡浩三さんがゲストとして登場。4人の相談者のお悩みに回答しました。
当番組は視聴者の悩みに向き合い、解決へのヒントを共に考える「ユーザー参加型のビジネスお悩み相談番組」です。
MCはホスト/実業家のローランドさんとアナウンサーの奥井奈南が務めます。
番組の詳細はこちらからご確認ください。