2022/5/2

【長野】AI導入後、生徒が「医師になりたい」。視座が変化

編集者・ライター
身近なDXのストーリーをお届けするNewsPicks +dの連載「隣のカイシャのDX」。今回は、AI教材を取り入れた学習塾のお話です。

長野県を中心に34教室を運営する「超個別指導塾まつがく」。

生徒ひとりひとりに合わせた指導という“超難問”をクリアするために、AIによる学習システム「atama+(アタマプラス)」を2018年から取り入れています。

講師が生徒に教えるという、それまでの当たり前はどう変わったのでしょうか。
この記事はNewsPicksとNTTドコモが共同で運営するメディア「NewsPicks +d」編集部によるオリジナル記事です。NewsPicks +dは、NTTドコモが提供している無料の「ビジネスdアカウント」を持つ方が使えるサービスです(詳しくはこちら)。
INDEX
  • 講師とAI、二人三脚
  • 生徒「頑張るのはダサい」→将来を語りだす

講師とAI、二人三脚

アタマプラスを学習に取り入れた「超個別指導塾まつがく」。それまで、講師に大きく依存してきた学習塾で、AIが学習指導を担うことは講師たちにどう受け止められたのでしょうか。
「もちろん、心配する講師もいました。自分が誇りを持ってやっている仕事を、機械がやすやすとこなしてしまうことへの抵抗感もあったのではないかと思います」
教務部の千木良晃作さんはそう振り返ります。
しかし、実際に講師に体験してもらったところ、「これはいける」という手ごたえを感じてくれたそうです。
「塾講師という仕事の一番の喜びは、自分が教えることで勉強が分かって、問題を解けるようになった子どもの姿です。講師の多くは『子どものためになっているか』を、まず考えます。子どもたちが『先生、これすごいよ!』と目を輝かせている姿を見て、アタマプラスが子どものためになるのだと確信したんだと思います」(千木良さん)
講師とアタマプラスは指導面で二人三脚の態勢をとります。
アタマプラスが生徒に問題を出している間、講師は、専用アプリで生徒ひとりひとりの学習状況を把握しています。
正答率やつまずいた箇所だけでなく、前は解けていた問題に時間がかかっているといった変化も一目で分かり、アラートでも知らせてくれます。
「不正解時に解説をきちんと見ていない可能性があります」。アタマプラスから講師向けアプリにアラートが出ました
このサポートで、講師はタイミングよく適切な声がけができるようになりました。効果的な声がけも、アタマプラス主催の研修で学べます。
AIとの役割分担を明確にできたことで、「教えること」が主体だった講師の視点が、「生徒をどう成長させるか」という、より俯瞰的なものに変わっていったといいます。まつがくを運営する「株式会社オブリガードス」代表の林部一成さんはこう話します。
「これまで教えることに割いていた講師のリソースを、生徒ひとりひとりの学習進捗状況やメンタル面のサポートはもちろん、将来の夢から逆算した、より本質的な受験指導・キャリア指導といったものに振り向けられるようになりました」
アタマプラスを使った学習は、AIによる理解度診断の結果を受けて、講義、演習、復習がレコメンドされます。まつがくでは小学4年生から高校3年生までが、数学(算数)、英語、理科、社会から選んで学んでいます
AIの学習システムは、生徒やその家族にはどう受け止められたのでしょうか。
千木良さんはこう話します。
「講師がついていてくれることに意味を感じてきた生徒やご家族の中には、AI教材の導入で突き放されるような冷たさを感じた方もいらっしゃったかもしれません。実際に心配されるご家族も、いらっしゃいました。ただ、実際にやってみた生徒からは『とても分かりやすい』と好評で、それでご家族も納得されたようです」
分かりやすいと生徒が感じる理由のひとつに、AIの特性もある、と千木良さんは言います。
「講師がマンツーマンで教えていた時は、生徒が分からないと言う単元や問題から入っていくことが多かった。対してAIは、その単元を理解するのに必要な単元まで立ち戻り、そのときの理解や集中の度合いなどに合わせて教材を提供します。だから、生徒が比較的つまずくことなく進められて、いつの間にか自力でできるようになるんです。これは嬉しい驚きでした」
アタマプラスの導入で、まつがくでは生徒のやりたいこと、なりたいものを講師がコーチングで洗い出し、「では、今何をやればいい?」という、より本質的な指導に集中できるようになったといいます。

生徒「頑張るのはダサい」→将来を語りだす

2020年、まつがくで実施したアンケートでは、生徒697人のうち96.7%が「(アタマプラスに取り組んだことで)勉強ができるようになった」と回答しました
AIと講師による働きかけで、生徒たちのモチベーションも明らかに変わったきたといいます。千木良さんによると、特に中学生の変化が目覚ましいそうです。
「小学生は『今が楽しい』ことがいちばんの関心事で、将来の夢を具体的に描くのはまだ難しい。高校生は大学受験という目の前の現実に向き合わなければならない。中学生はちょうどそのはざま。高校受験という初めての本格的な競争を前に『自分の夢ってなんだっけ?』と考え始める年頃なんです」
講師との対話を経て、生徒の「視座」が上がるケースは少なくないといいます。千木良さんは、親に言われてしぶしぶ来塾した、ある男子中学生の変化を教えてくれました。
「最初の面談で『塾行ってるなんて、友だちに絶対言えねー』と言うような子でした。頑張るのはダサいことだと思ってたんですね。でも、講師と対話を重ねるうち『県外に出たい』『映像に興味がある』という言葉が出るようになりました。自分の夢なんて恥ずかしくて誰にも話したことがなかった子が、目標が明確になったことで、最初の雰囲気からは想像できないほど頑張りだしたのです」
ほかにも、看護師を志していた生徒が「できれば医師になりたい」と、よりハードルの高い目標に目が向くようになったり、料理人を志していた子が「世界で活躍できる料理人に」と、より具体的な目標が出てくるようになったこともあるそうです。
まつがくでは、生徒が、こうした「願い」や「夢」を抱くことが、学習をするうえで、何よりも大事なものだと位置づけています。その思いを引きだすのは、講師にしかできない役割だと言えます。
林部さんは言います。「難関校を目指すことになったとしても、難関だから挑戦するのではなく、夢の実現のために必要だから挑戦する。だから納得して頑張れるんです」
AIによる学習システムを入れたことで、まつがくは「勉強が分からない子を救いたい」から「夢をかなえたい」という、教育のより本質に足を踏み入れ、塾の役割を拡張しているといいます。
「すべての生徒の能力を伸ばし切りたい」。林部さん、千木良さんはそう語ります。
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