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「出戻りOK」の社内ベンチャー制度はアリかナシか?(下)

成功の掟は「子を助けて、口出ししない」

2014/11/12
NewsPicks内で前月、もっとも話題になったテーマを、「サイボウズ式」とNewsPicks編集部がピックアップ。そのテーマについて、ピッカーや外部の専門家に意見を聞き、より深く、多様な視点を提供するHot Topicsのコーナー。第2回目は、「博報堂DYの社内ベンチャー」の記事 をきっかけに盛り上がった、「社内企業に失敗しても会社に出戻るのは、アリかナシか」についてです。NewsPicksのコメントでは、「セーフティネットがあるので挑戦しやすい」といったポジティブな意見が目立ちましたが、社内起業や起業の当事者は、どう思うのでしょうか?
三菱商事の社内ベンチャー第一号で「Soup Stock Tokyo」を成功させた株式会社スマイルズの代表取締役遠山正道氏と、日本の「女性シリアル・アントレプレナー」の草分け的存在であるiemo代表取締役の村田マリ氏が、議論を戦わせます。今回の後編では、社内ベンチャーは本社の介在とどのように向き合うべきか、そもそも失敗事例が多いにも関わらず社内ベンチャーブームはなぜ繰り返されるのかについて、両人のストレートな意見が飛び出します。
前編:「出戻りOK」の社内ベンチャー制度はアリかナシか?(上)はこちら。

大企業の魅力は豊富なリソース

――村田さんは、ベンチャーを創業して事業を立ち上げたのち、大企業に売却し、自身もその執行役員に就任しました。いわば、大企業から社内ベンチャーを起こすのと、逆のルートを進んでいます。

村田:ベンチャーとして立ち上げた「iemo」は、住まいの情報をスマートフォンで得られるサービスです。住宅関係の業界は大きい。ですから、ビジネスとして成立させるには最短5年はかかる事業だと思います。しかし、仮に5年もかけていると、たとえばスマホが次のデバイスに変わってしまう可能性もあり、旬を逃してしまうかもしれません。そこで、事業をさらにスピードアップしていくためにはディー・エヌ・エーの100%子会社になったほうが良いという選択をしました。

ベンチャーからすると、大企業に、借りたい力はたくさんあります。具体的には、“人材”と“資金”ですね。ディー・エヌ・エーのようなメガベンチャーの力を借りれば、iemoのような無名のベンチャーでは採用できないような優秀な人材の力を借りられますし、資金繰りに苦しむことなく事業に集中できる。それこそが、私が会社をディー・エヌ・エーに売却した決断の理由でした。

遠山:確かに、大企業にはブランドも人材も資金もネットワークもあります。ですから、私は個人の情熱と、企業のリソースが合わさるといいなと思う。企業も社員も、双方がお互いをうまく利用し合わないともったいないですよね。

村田:大きい会社は仕組みで回っているため、他部署との調整や調和ややりとりのなかで空気感を読んでいくことがとても重要です。だからこそ、周囲との調整や責任を考えるあまり、事業における決断や進めるべき物事が停滞する場合もある。けれど、新規事業においては、一人の強い意思を持った人間が、暴力的にいろんなものをなぎ倒しながら進んでいく勢いも必要です。

ですから社内ベンチャーは、会社組織のメリットを生かせる制度と、“なぎ倒し系”の強烈なリーダーシップを持つ人との相乗効果で進むものなのではないでしょうか。
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嫌ならはっきり嫌という

――社内ベンチャーはちょっと儲かってくると、本社が首を突っ込んでくるのでは?といった趣旨のコメントもいただきました。村田さんは、その可能性に対してどう考えますか?

村田:私は、ディー・エヌ・エーの傘下に入る直前、ちょうど大企業と一緒になることで、スケールを大きくしたいと思っていたところだったので、経営にいろんな人が参画してくれることはむしろ歓迎しています。ただ、もし私たちが嫌だと思うことが発生したとしたら、嫌だとはっきり言いますし、意見は対立することでしょう。

たとえば、利益を重視するあまり、私たちが大切にしてきたユーザーや事業者に何かを我慢させるようなことが起こったとしたら、私は断固異議を唱えます。

遠山:“子(ベンチャー)”が助けを求めているときには助ければいいし、それ以外なら“親”は口出ししないほうが、子は健全に育つ(笑)。私も三菱商事時代は、「私は一人旅をしますので、私のことは忘れてください。ちゃんとお土産を持って帰ってきますから」という気持ちでいました。ただ、ビジネスが右肩下がりのときには親から監査役が4人も入ってきて、「面倒くさくいことになったな」と思った時もありましたけど。

村田:そのときはどうしたんですか?

遠山:どうすることもできなかったから、MBOをしたんです(笑)。客観的にはありがたい親心なんだけれど、Soup Stock Tokyoのコンセプトである“共感”とか、“利益はお金ではない”などの思いは、資本主義の株式会社における正論ではないので説明しづらい。そこを親に分かってもらうのが面倒になってしまったんですね。
 hottopics_出戻りコメント_第2回

社内ベンチャーの流行は10年に一度周期

――ところで、どうして10年に一度ぐらいのペースで社内ベンチャー制度が盛り上がるんでしょう?

遠山:私は2000年に社内ベンチャーとしてスマイルズを設立したのですが、その頃は不景気の真っ盛りでした。だからこそ、普段は1000億円以下のビジネスはビジネスだと思っていない商社が、社員に対して、小さなビジネスでもいいから、「お前ら、なんかないのか?」と言ってくる。会社がこのままの事業の延長線上に未来はないと思った時。会社は社員に飯の種を探すんです。

逆に景気が良くなってくると、「そんな細かい事業はやめておけ」という話になり、社内ベンチャーは下火になる。つまり、不景気のときこそ、会社にお金を出してもらうチャンスなんです。

――結局、手厚い社内ベンチャー制度を利用して起業にトライしてみようと思う人が増えるのはいいことなんでしょうか?

村田:いいことなんじゃないですか。

遠山:せっかく会社が制度を設けているのに、いいアイデアが上がってこないのはもったいない。いいベンチャーが出てくれば会社側も制度を磨いていくでしょうから、むしろ社員側に、どんどんアイデアを出せと発破をかけたいですね。

村田:そして事業の成功に欠かせないのは、妄想力(笑)。事業って、普通にやっていたら十中八九失敗するじゃないですか。確率論的に失敗することが多いという事実に反して成功イメージを持つのは、妄想に過ぎないんですよ。それでも「絶対にうまくいく」、「その先に何かが見える」と思える人でないとダメ。つくづく、事業は熱だと思います。
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(聞き手:佐藤留美、構成:朝倉真弓、撮影:齋藤誠一)