アスリート解体新書

捻転差を最大化せよ

一流ゴルファーに学ぶスイングの極意

2014/11/10
ゴルファーにとって、プロアマ問わず自分の体に合ったスイングを体得するのは永遠のテーマだ。体は個人差があるため1つとして同じ答えはない。だが自分の体の能力を生かし切るという視点に立つと、やるべき正解は限られる。アマチュアのドラコン大会で好成績を収めてきた西本直が、身体能力を最大限生かすスイングを伝授する。
世界ランキング2位のアダム・スコット。西本にとって理想的なスイング(写真:AP/アフロ)

世界ランキング2位のアダム・スコット。西本にとって理想的なスイング(写真:AP/アフロ)

お手本になるウッズのスイング

ゴルフのスイングを語るとき、これが基本ですと言い切れるものは存在しないと思います。極端に言えば、その時代の世界ランキング1位に君臨する選手のスイングが理想のスイングということになるのでしょうか。

ゴルフのスコアには「スイングの良し悪し」だけでなく、グリーン周りの「アプローチショット」や「パター」の精度、またコースを攻略する「マネージメント能力」といった複合的な能力が要求されます。ただ、我々アマチュアゴルファーにとってとりあえずの目標は、やはりきれいなスイングをしたいということになると思います。

そのお手本になるのは、トーナメントで活躍する国内外のトッププロのスイングでしょう。

少し前までは、タイガー・ウッズのスイングがその対象でした。圧倒的なティーショットの飛距離とコントロールを誇るだけでなく、グリーンを外してラフに入っても、バンカーに入れても、他の選手を寄せ付けないアプローチショットの技術を持っていました。さらに正確なパターの技術もあるのだから、体調さえ整っていれば誰もタイガー・ウッズの牙城を崩すことができない時代が続いたのは当然です。

それがクラブの進化によって、タイガー・ウッズの飛距離のアドバンテージがなくなっていきました。あの驚くような飛距離が、今や当たり前の距離になってしまったのです。

ただし、ゴルフは「飛ばせばいい」というわけにはいきません。平均飛距離が伸びてきたことに合わせてコースセッティングを変え、「ちょうどこの辺りにキャリーするだろう」というところを狭くしたり、そこにバンカーを配置したりと、あの手この手で選手たちを苦しめます。

数年前にはタイガー・ウッズがドライバーを1度も使わずに18ホールを回って優勝したという試合がありました。

レッスン書ごとに書いてあることが違う

私は自分が趣味としてゴルフに取り組んでいることもあって、さまざまな選手のスイングを日常的に見ていますが、今回改めて記事にするという視点で見直してみました。

ジム・フューリックやバッバ・ワトソンのように、明らかに他の選手とは違う個性的なスイングをする選手もいますが、世界で活躍する一流選手のスイングは基本的にはそれほど違っていません。

しかし、特に日本のレッスンプロたちの指導書を読むと、ほぼ例外なくこう書いてあります。

「私の言うことは、皆さんが教わってきた内容とは、まったく反対のことと思うかもしれません。しかし、長年の経験から生み出した私の理論は全く新しいもので間違いのないものです。今までやってきたことを忘れて、一から取り組んでみてください」。

ゴルフ好きの方なら、何度か目にしたり聞いたことのあるフレーズではないでしょうか。

巷にあふれるレッスン書でも、1冊の中で矛盾していることがよくあります。あるプロはこうやれと書いているのに、他のページで別のプロが別の方法で指導している、というように。

ポイントは再現性のある身体の使い方

では一体我々は何を信じ、何を目標にして練習を積めばよいのでしょうか。本当の意味での「基本」というものはないのでしょうか。

その答えとまではいきませんが、地面に止まっている小さなボールを、長い棒の先に耳かきのような形のものがついている「ゴルフクラブ」を使って、真っ直ぐ遠くに飛ばすために必要な要素は何か。ということを考えた時、自分の体が持っている能力をいかに効率よく発揮させられるか――ということが一番大事なのではないでしょうか。

年齢や性別はもちろんのこと、関節の柔軟性や筋力など、1人として同じ条件の人はいません。だからすべての人に当てはまる基本というものが存在しないのだと思います。

いやそんなことはない、やはり基本は大事でゴルフを始めた時に、変な癖がつかないうちにレッスンプロについて基本を学ぶべきだという指摘もあると思います。

それは間違いではないと思いますが、1人ひとりの個体差に合わせた指導を受けられる環境を整えるのは難しいと思います。あくまでも教える人が正しいと思っていることを指導されるのですから。

乱暴な言い方になりますが、ある程度ボールを打てるようになってから、少しでも上達したいというときに考えなければならないポイントは、やはり「再現性のある身体の使い方」というところに戻ってくると思います。

現在の理想はアダム・スコット

クラブに仕事をさせるという言い方がありますが、それを使っているのはやはり人間の体自身です。

今、私が今理想としているのはアダム・スコット、世界ランキング2位の選手です。

185cm、75㎏とまったく無駄のない理想的な体型だと思います。ちなみにタイガー・ウッズは同じ身長で84㎏と発表されています。

タイガー・ウッズの元コーチに師事していることもあって、全盛期のタイガー・ウッズのスイングとほぼ同じように見えます。

アドレスからフィニッシュまで、まったく体に緩みを感じず、機械のように正確な動作を繰り返すことができています。まさに完成品です。

現在世界ランキング1位のローリー・マキロイは178cm、72kgで日本の石川遼とほぼ同じです。しかしその飛距離は石川選手はもちろん、アダム・スコットを超えるものがあります。

彼のスイングの特徴は、インパクトの瞬間、体の上下動をうまく使っていることと、他のどの選手よりも骨盤の回転速度が速いことです。これによってパワーを生んでいます。

松山選手はご存じのようにテークバックをゆっくり上げ、体の捻転を確認してから一気にダウンスイングに入ります。石川選手と並べた動画をスローで見ると、松山選手のグリップが腰の高さくらいになったときに、石川選手のクラブヘッドが動き出すのが分かります。

石川選手は体格のハンデを、スイングのテンポとリズムで補おうとしています。

それぞれの選手がそれぞれの特徴を生かしたスイングで、「飛距離」と「正確性」という相反する目的を両立させようとしています。

骨盤と肩のラインの捻転差を生かし切る

前置きが長くなりましたが、ここまでの説明では一般の方にどこをどう真似たらいいのかという指針にはなりません。

私が注目したのは、すべての選手に共通する「骨盤と肩のラインの捻転差」です。

アドレスからテークバックに移り、骨盤が右へ捻転できる角度はほぼ45度、その上に位置している背骨全体がさらに捻転を続け、肩のラインが飛球線に対して90度。この両者の捻転差45度がボールを遠くに飛ばすためのエネルギーとなります。

 

 

自分は体が硬いから、年を取って体が回らなくなったから、そう言って、せっかくの「捻転差」というエネルギーを自ら放棄してしまっている人がほとんどです。

どうすればこの捻転差が作れるか。一流プレーヤーの体の使い方、ここにそのヒントが隠されているのです。

上半身をしっかり捻転させる

まさか自分があんなスイングができるわけがない、その通りです。そのまま真似をしようなどと考えてはいけません。

真似ていただきたいポイントはいくつかあるのですが、人間の脳は同時にいくつもの箇所を認識することができません。そういう意味で一番無理のない部分は股関節であるということで、以前、ゴルフ場経営の『アコーディアグループ』の会報誌で「飛距離アップのための股関節の使い方」というテーマで連載をさせていただきました。

股関節の使い方の詳細はそちらに譲るとして(もしコメントでリクエストが多ければ、この連載で改めて取り上げます)、今回はその股関節を使った骨盤の捻転から、仙骨、腰椎、胸椎、頸椎と連なる背骨を使って、上半身をしっかり捻転させて、骨盤と肩の角度に「捻転差」を作るということを説明します。

スイングにおける広背筋の役割

彼ら一流プレイヤーのトップの位置での背中を見てください、シャツが破れてしまうのではないかと思われるほど背中が捻じれています。

この捻じれを可能にしているのが、アドレスでの背骨の緩みから(少し背中を丸めてはいるが骨盤は反っている。前回記事にしたメッシの前傾姿勢です)、広背筋を使って背中を反り上げ、右の肩甲骨を背骨に寄せている状態を作ることです。

この時の肘の高さは個人差があります。だからどの高さが正しいではなく、どこまで引き寄せられたかが問題となります。

クラブは両手で握っていますから、左の肩甲骨は背骨から遠ざけられ、左の広背筋は最大限に引き伸ばされます。この両方の肩甲骨を確実に最大限に動かしてから次の動作に移ろうとしているのが松山選手のスイングです。

引き伸ばされた左の広背筋は、伸張反射という筋肉の作用で、普通に収縮させるよりも数倍の速さとパワーを発揮して体を左に回転させてくれます。

右の広背筋は最大限の収縮から解放されることで、両者のパワーが合わさって、速さと強さを兼ね備えた回転運動がおこります。

その土台になっているのが骨盤であり股関節なのです。

捻れの最大値の作り方

どうやって真似たらいいのか説明します。図に番号を振りましたので、その番号と照らし合わせながら読んでみてください。

 

 

1. まずは肩幅に足を開きまっすぐ立って、両手を顔の高さで拝むように合わせます。

2.その姿勢から両肘を開いて肩甲骨を背骨の方に寄せてください。

3.次に下半身を回す意識ではなく、両方の手の平を高さを保ったまま(より上半身を捻るイメージで)右に捻じってください。

4. 直立したまま右に捻転しようとすると、これ以上回らないという位置が来て、すぐにきつくなりますが、そのときに膝を少し曲げて緩め、さらに足首を緩め、少しずつ股関節から前傾して体をやや前に倒すと、さらに深く右に捻れます。この深く右に捻れる前傾姿勢を探してください。これが本当に「これ以上は捻れない」という位置です。

5. この「これ以上は捻じれないという」姿勢から、開いていた左手を右の方にしっかりと突き出すことで、さらに捻転が深まります。

6. だけどこの状態では左手は右手には届きませんので、そこに右手を下ろします。

7. この時の「前傾角度」と「肩の捻転角度」が、今のあなたの捻転パワーを最大に生み出す準備ができた状態です。

作った捻れを途中で失わせてはいけない

骨盤の角度には触れませんでしたが、背骨や肩甲骨の動きを制御するために、骨盤は最も適した動きを行い、無理のない正しい角度に収まっています。

一生懸命頑張っても、アダム・スコットや松山選手のようにはなりませんが、がっかりしないでください。これが現実ですが、今まで行っていたスイングよりも大きな捻転差が生まれ、ヘッドスピードは間違いなく上がるはずです。

実はここからが問題なのですが、トッププロは作られた捻転差を、さらに大きくすることができます。

それは、トップの位置から切り替えしてダウンスイングに移るとき、手元を高い位置に残し、股関節を一瞬早く動かすことによって、捻転差をさらに大きくしているのです。

一般ゴルファーはせっかくできた捻転差を、手元から先に振り下ろすことでほどいてしまい、そのパワーを使えなくしてしまうために、自らの腕力に頼ってしまう。いわゆる手打ちになってしまうのです。

角度は何度まで回さなければならないではなく、ご自分で先ほどの動きを何度もやっていただき、自分の体が今できることを余すことなく発揮できる準備さえできれば、飛距離欲しさに最新のクラブやボール、はたまたシューズや手袋に固執することなく、「道具はあくまでも我が身ひとつ」と思えるようになるのではないでしょうか。

ただ体の動きが変わってくると、それに合わせたクラブが欲しくなるということもありますので、どっちに転んでもクラブに対する欲は消えないかもしれませんね。

体が一番捻転しやすい背骨の角度、姿勢を探し、そこからの回転動作のスピードアップを可能にする広背筋の働きをしっかり意識していただき、もっと遠くにもっと正確に、そして体にやさしく無理のないスイングで、少しでも長くプレーを楽しんでいただきたいと思います。

*本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。