10万字を書き切る経験が、新たな景色を切り開いた(次世代ビジネス書著者創出)

2022/4/8
「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとする、新時代のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」。
かつて勝間和代を世に出したディスカヴァー・トゥエンティワンの創業社長である干場弓子さんがプロジェクトリーダーを務めた「次世代ビジネス書著者創出」には約30名が参加。
約3ヶ月の時間をかけて、そもそもなぜ書籍を書くのかというミッションの定義に始まる企画の立て方から、構成案、原稿執筆、そして、ブックデザインからタイトル、帯コピーまで、著者の神髄とスキルを干場さんと一緒に学びあった。
今回は、プロジェクト内で優秀賞を受賞し、見事出版までたどり着いた倉嶌洋輔さんへのインタビューを実施。
倉嶌さんの著書「AI時代のキャリア生存戦略」が世に出るまでのストーリーとはー。

読書は本来、人にとって苦痛

──前編は、今回の書籍について倉嶌さんの視点から色々お話していただきました。後編では、講座や執筆の過程についてお話いただければと思います。まずは、干場さんの講座を受講した感想をお聞かせいただけないでしょうか。
倉嶌 受講によって、自分自身に2つの変化がありました。1つは執筆の過程で中身が深まっていく深化です。
本書の原型となる3つの戦略は元々抱いていた考えで、MBA在学中にも学友にAIの事業立案ワークショップを何回も開いておりました。実際に、それらの構想や教材をすべて書き切ると必要な文章量は5万字ほど。しかし、書籍には10万字が必要になります。
そのため、残りの5万字を、原型となる5万字のさらなる深掘りやブラッシュアップ、最新の事例を挙げていくことでより深い内容に仕上げていきました。
そして、その過程で私自身も思いがけないファクトに巡り合ったり、よりよい考え方に辿り着いたりと、新たな発見があり、もともと思い描いていた内容から深化するポイントがいくつもありました。
変化の2つ目としては、言葉への意識の変化でした。大人になると、言葉を直される経験はほとんどなくなりますよね。ところが、講座では干場さんのレビューとして、提出した原稿に赤ペンでの修正がたくさん入って戻ってきます。
その修正も「何を伝えたいかわからない」と、ハッキリとした内容。ビジネスの現場では言葉での補足もできますが、書籍の場合は書かれたことが全てなので、誰も補足してくれません。
また、書く以前に講座の序盤では、あるべき執筆のスタンスを教えられます。
「誰もあなたの本を読みたいと思っていない」
「読書は本来、人にとって苦痛」
「時間とお金を払ってまで、あなたの本を読む価値はあるのか?」
「それでも自分が書かなければならない重要なあなたのミッションとは何か?」
こういった自己満足の執筆を予防する重要なスタンスを干場さんから教わりました。
書籍はマイナスからのスタートであるからこそ、立ち読みされた時にスッと頭に入っていく文章かどうか、あるいは購入後に最後まで引っかかりなく読み通せる文章であるかどうかが大事だと考えさせられました。
やはり、読者が時間もお金も投資している以上、無駄な投資をさせてしまうわけにもいきません。
それらの教えは、執筆時はもちろん、本業のコンサルやYouTuberとして活動する際も意識するようになり、大きな変化と言えるはずです。
──重要なポイントである一方、指摘された際は苦しかったと想像します。
辛かったですね。やはり自分にとって当たり前だと思うことも人によってはわかりにくいという事実を突き付けられると、ショックでもあります。
「何を伝えたいかわからない」とバッサリ切られたときは、「これでもわからないのか」と悩んだものです。しかし、ビジネスの現場では、ある程度、同じ前提を持った人同士でコミュニケーションを取るので、伝わる文章でも、不特定多数の読者を想定すると、自分の普段の書き方では、到底ダメだということが分かりました。
実際に干場さんもIT系の人ではないため、辛さと同時に「言われてみればその通りだな」という納得感もありましたね。
──辛いものの、それを乗り越えると出来る事も増えて、見える世界も変わると。ある意味で筋トレとも例えられそうです。
まさに筋トレで、筋肉痛は痛いけれど、その後は飛躍的に筋力がアップしていった感覚です。

書籍はハードウェア

──実際に接した干場さんの印象を聞かせてください。
パワフルでしたね。前に突き進む力が非常に強いと感じさせられました。
ディスカヴァー・トゥエンティワンでの成功にとどまらず、そこから新たに起業することは素直に凄いと思います。
今でも著者になり得る方々に次々と声をかけ、企画書もガンガンつくり、出版しています。あそこまでバイタリティのある人はそうそういないのではないかと、思わされますね。
──改めて、干場さんに送るメッセージはありますか。
私に発信の場を作っていただいたことは、大変感謝をしています。
干場さんの立ち上げたBOW BOOKSはそもそも、価値基準の変化を受け止め、新しい価値観を持った著者を世に放ち、次世代の旗手を生み出すことをミッションに設立されています。その旗手の一人として私を選んでいただき、ありがたい限りです。
私の書籍はBOW BOOKSでの6冊目に当たりますが、これまでに出版された書籍や私同様にNewSchoolから選ばれた顔ぶれを見ると、かなり多種多様と言えます。
今後、私たちの書籍が新しい価値観を持つ多くの人々に読まれ、読者の人生が少しでも豊かにできればと、BOW BOOKSの著者の一人として願っています。
──出版後に訪れた変化はありましたか。
私はソフトウェア業界の人間のため、そもそも紙媒体の書籍をハードウェアと捉えています。ソフトウェアであれば完成度よりもスピードをある程度優先して、リリースしてから修正するといった手法が効果的だったりしますが、ハードウェアである書籍では、それができない。
執筆時は、精度の高い作業をし続けなければ修正ができないという状況に長く続いたため、出版を経た今でも品質へのこだわりに変化がありました。
あとは、出版すると読者の方から嬉しい感想をいただけたり、インタビューや連載、講演の依頼が舞い込んで来たりもします。
こういった反応を見ていると、「AIでこれから何が起きるのか」「AI時代に人生をどう歩めばいいのか」という話題の注目度が高いと実感しています。これからは、YouTubeやSNSでも今まで以上に積極的な発信をしていきたいと思っています。

コミュニティをつくりたい

──最後に、倉嶌さんの今後のビジョンについても教えてください。
YouTube、Udemy、noteのコンテンツを更に増やすこと。それと、人生を定期的に再考できるようなコミュニティをつくりたいとは考えています。読書サークルの人生版のようなイメージですね。
──テーマはAIに限らないのでしょうか。
そうですね。もちろんAIの潮流をインプットした上で、参加者が、それぞれ人生を振り返って分析をしてもらい、今後のキャリアを再設計していけるようにしたいですね。ただ、今の時点ではコミュニティの質とに広がりのバランスをどう担保すべきか、まだ構想を練っている段階です。
──今回の書籍もAIについて書かれている一方、キャリアや人生についても紙幅が割かれていました。
著書でもテクノロジーを礼讃しているわけではなく、適度な距離感を保って付き合う必要があるというスタンスを貫いています。やはりテクノロジーに振り回されてほしくないという思いは強くありますね。
例えば、スマートフォンにはSNSをはじめとする通知が絶え間なく届き、集中力が散漫になってしまいます。
テクノロジーに振り回されず、「人生のQOLを保つために必要なテクノロジーは何か?」「どのように付き合うべきか?」をしっかりと理解していなければなりません。このSNSの例ですと、SNSを見るほど幸福度が下がるというレポートもあるほどです。
テクノロジーは絶えず進化していますが、付き合い方次第では不幸にもなってしまう。その点は著書にも記していますし、コミュニティでも発信していきたい重要な要素になります。

まず「10万字」を書いてみよう

──著書によって個人としてのブランドが確立されたり、今までにない仕事の依頼があったりと、書籍は出版して終わりではなく、ある意味で新たな一歩とも言えそうです。
そうですね。とても大きな変化をもたらす一歩でした。
一歩踏み出すことを恐れる人は多いと思います。特に日本の場合、幼少期から答えのある教育を受けているため、「間違ってはいけない」という発想に至りがち。経験のないことを怖いと感じるのは自然で、尻込みしてしまうのも理解できます。
低スキルであれば、経験のないマニュアル業務への転職は怖いし、中スキルでも例えばビジネス領域から門外漢のテクノロジーやクリエイティブへと足を踏み入れる際の心理的ハードルは高いでしょう。マルチスキルの高スキルだとしても、AIが魔法のように見えていれば、中身はブラックボックスなので、不気味で恐怖心があるのではないでしょうか。
書籍にも「MagicからLogicに」と記したように、自分の知らないものは魔法のように見えてしまいます。ところが、一旦中身を知ってみると案外、恐れるほどのものでないとわかることが多いです。
学生時代は文系の人間だったのですが、私自身も新卒で入社することになるワークスアプリケーションズのインターンでプログラミングを初めて体験した際に、心理的ハードルが最初はありましたが、実際に触れてみると「意外と難しくないな」と実感したものです。
インターンがなければ、私は今でもプログラミングに触れることなく恐怖を抱いていたかもしれません。自分の世界を広げるためには、まずは踏み出す勇気が必要であり、怖がらずに手を出すことによって人生の選択肢を増やすことができます。
選択肢が増えることで、状況に応じて方向性を変えていけるようになるはずです。
──実感のこもったエピソードですね。踏み出す一歩として、書籍の執筆は勧めますか。
かなり勧められます。執筆にあたっては10万字が、まず目指すべき文字数になり、干場さんも「まず10万字を書いてください」と教えます。
すると、思いのほか脱落者が出てきます。私自身も、手持ちの経験や知見で5万字までは比較的容易に書けましたが、その先は苦しかった記憶があります。ただ、そこからの深化と発見が書籍をより深みのある内容にしてくれます。
10万字を書き切る経験を通して、自己成長やキャリア上の大きな変化に繋がるのは間違いありませんね。
(取材:上田裕、構成:小谷紘友)

干場弓子氏からのメッセージ

NewSchoolの『次世代ビジネス書著者創出プロジェクト』には、当初の予想以上に多くの、書くに値するテーマ、メッセージ、実績を持った「次世代」にご参加いただき、私にとっても非常に有意義な場となりました。
Bow Booksの巻末に掲げている「宣言」は、プロジェクトを進めていく中ではっきりしたことでもあります。
結果、30名中7名の方に、Bow Bookからの出版をオファーできましたが、倉嶌さんの『AI時代のキャリア生存戦略』はなかでも、当初から企画の完成度が高く、まさに、2022年の冒頭に書店に並ぶべき本として期待していました。
一口に10万字と言っても、初めての方にとっては結構たいへんです。最初の3万字ぐらいは瞬発力ですらすら書けても、自分が言いたいことを書くのではなく、読者に伝わるように書いていく作業は、持久走となります。
今回はスケジュールに無理を申し上げて、全速力での持久走となってしまったかもしれません。
にもかかわらず、読者が直ちに、AIとの付き合い方を決め、それに沿った第一歩を踏み出し、第一手を打てる、丁寧で愛にあふれた指南書となっています。
まさに、「次世代」が「次世代」に、ともに手を携えていこうと、呼びかける本だと思います!