グローバルタレントに会いに行く

凡人とタレントを分けるものとは

オラクルが注力する「トップタレント」の育成

2014/11/3
 国内労働人口の減少や事業の多角化・グローバル化、商品・サービスの早期コモディティ化などを背景に、 グローバルタレント(グローバルに活躍するタレント人材)の育成が日本企業の急務となっている。では、実際にグローバル・タレント・パイプライン(=経営者候補を長期にわたって育成する仕組み)に乗った人とはどのような人なのか? そして、日々どのような“特訓”を受けているのか? 彼ら彼女らの実像に迫る。

オラクルは、現在、各国の拠点をまたいだ、「グローバル・タレント人材」の育成に注力している。

詳しくは今後掲載予定の人事本部長のインタビューで明かすが、12万人以上に及ぶ全世界の社員の能力やコミットメント意識、意欲などを、現在の業績と今後の可能性という基準でマッピングし、データで一元管理。今後どのような経験やトレーニングを施せば、その人材が伸びるかを検討する。

中でも、同社が注力するのが「トップタレント」の育成だ。市場で生き残るための人材強化策が準備できているかどうかは今後の経営を左右する極めて重要な課題だからだ。

厳格な基準により選出された将来の経営予備軍の数はワールドワイドで毎年100名強。わけても、日本オラクルには5人しかいない。

アライアンス事業統括営業本部本部長の谷口英治氏は、そんな希少な「トップタレント」の1人だ。

果たして、選りすぐりの人材の素顔とは、どのようなものなのか? そして、トップタレントとして現在受けている訓練の内容とは? その真実に迫りたい。

日本オラクル・アライアンス事業統括営業本部本部長の谷口英治氏

日本オラクル・アライアンス事業統括営業本部本部長の谷口英治氏

32歳で営業部長にスピード昇進

谷口氏は、97年に、大手日系SIから同社に入社した「転職組」だ。

「前の会社では、エンジニアやITセールスを担当しましたが、会社が大き過ぎて立ち振る舞える範囲が限定的。また、評価されても、それほど差がつかず、リターンが少ない。そんな不満を抱いていたとき、取引先だったオラクルの西部支社の支社長が、引っ張ってくれた」

前職の職場の上司が「お前はこの会社にはおさまらん」と背中を押してくれたことも、転職を決断したきっかけになった。

最初の配属は、西部支社(現九州支社)。九州電力やTOTO、西日本鉄道や九州松下電器(現パナソニック)など大手企業の営業を担当した。

29歳で入社した当初はイチ営業だった。だが、谷口氏はわずか3年で7人の部下を持つ営業部長職にスピード出世してしまう。その理由とは?

「一つは数字を出したこと。もう一つは、面白いことを考えて周りを巻き込んで仕事をしてきたこと。あとは、自分で言うのもなんですけど、僕は人の世話を焼くのが好きで、面倒見がいい(笑)」

なかでも、谷口氏が西部支社で名を上げたのが、某電機メーカーにおけるオラクル製品導入プロジェクトだ。

「日本拠点がまだ売ったことがないモジュールを売るのだと決めて、実際に売ってきたことが評価された」

その背景には、谷口氏が描いた緻密な戦略があった。

「当時のオラクルは基幹統合システムのベンダーとしては業界一位に大きく水をあけられていた。一方、顧客のメーカーはこのシステムを導入するため、直系の子会社を作った。将来的に、基幹統合システムを導入する外販をしようとしていたからだ。そこで、私は、この将来は外販を強化したいという同社の戦略を刺激して営業する作戦に打って出た」

アイディアを思いつき、動けるかどうかの差

具体的には、こう言って、先方の社長を口説いたと言う。

「どうぞ業界一位の製品を使ってください。ただしそこの製品を100使うなら、オラクルを5でもいいから使ってください。そうしないと、御社の子会社はまるで、その製品の子会社のように見えてしまいます。そう見えないためには、オラクルの製品も使っています、二枚看板でやっていますと顧客にアピールするほうが、外販会社としての付加価値が上がります。それを考えたら、安い投資ですよ」と。

谷口氏は、自身はトップタレントとは自覚していない、と謙虚な姿勢を貫くが、凡人とタレントを分けるものとは、「アイディアを思いついて、実際にそのアイディアを実行できるかどうかに違い」だと分析する。

「ま、あれこれ、毎朝、ひげを剃りながら、戦略を考えているだけですがね」

この大きな成果をひっさげて、西部支社の営業部長に昇進した後、谷口氏は、後に世間の誰もが知ることになる大プロジェクトの陣頭指揮を取り、さらに名を上げることになる(以下、次号)。

※本連載は毎週月曜に掲載する予定です