2022/3/14
【おすすめ動画5選】“2030年のあなた”を変える学び方
NewsPicksで2021年12月に実施した読者アンケート
『あなたの学びに対する価値観は?』によれば、回答者の多くは学びに対しポジティブだ。
自分の世界観を広げ、できることを増やすために学び、スキルにも自信を持っている方が多い。一方で、「5年前に想像していた自分になれていない」「自分の市場価値に満足していない」と感じる方も一定数いることがわかった。
なぜこうしたギャップは生まれてしまうのか。変化の時代に生きる私たちが、思い描くキャリアや人生を作っていくために、未来をどのように予測し、何を準備すべきなのか。グロービス講師の鳥潟幸志氏に聞いた。
失敗直後「1分の投資」で差が出る
鳥潟 アンケートの結果を見ると、多くの方が未来に対し前向きで、学びや変化を楽しんでいるように感じます。
学ぶ目的として「世界観を広げる」「できることを増やす」などが多かったのも、興味深いですね。ひと昔前まで学ぶ目的の上位だった「収入アップ」や「出世」が、如実に低い結果でした。
また、学びが必要だと思った瞬間は「仕事で失敗したとき」が1位でした。学ぶ目的が長期的でポジティブであるのに対し、学ぶきっかけは短期的でネガティブなことだったというのも、ギャップがあって面白いですね。
今回の回答者は失敗から「学ぶ」という方が多いですが、失敗して諦めてしまったり、ネガティブ思考に陥ってしまったりする方もいます。両者の違いはどこにあるのかと考えてみると、「解を外に求めるか、内に求めるか」なのではないかと思うんです。
解を外に求める人は、「何をやったら、成功できたのか」と本を読んだり、成功者の話を聞いたりします。でもいいことが書いてある本や成功体験ばかりを見ても、できない自分との差にげんなりしてしまう。それではモチベ―ションが維持できませんよね。
逆に、解を内に求める人は、まず自分自身を振り返ります。「あれをしなかったから、こうなった」と、原因を自分に引き寄せられる。内省を繰り返す人は、大きな失敗だけでなく、日常の中でも「次は何を学べばいいのか」が見えてくると思います。
何かが起きたときの直後1分でいいので、自分のことを振り返ってみると良いですね。私は、直後1分と、寝る前に5分。その日にあったことを振り返るようにしています。この投資ができるかどうかが、実は大きな差になってくるのではないかと思います。
中長期の学びに資源配分できるか
また、もうひとつアンケートの中でギャップがあると感じたのは、ポジティブに学び、スキルにも自信がある方が多いのに、「自身の市場価値に納得していない」「5年前に想像していた自分になれていない」と回答した方が意外と多かったことです。
このギャップが生まれてしまう要因は、「短期の学び」と「中長期の学び」、どちらに自分の人生の時間を資源配分するかにあると思います。
短期的な学びは、「目の前の課題をどう乗り越えるか」であり、今やっている仕事の延長線上で積み上げていく経験学習です。仕事に真面目に取り組んでいる人ほど、短期的学びに多めに資源配分をする傾向がありますよね。
一方、中長期の学びは「数年先のありたい姿」から必要なことを逆算します。
仕事以外の軸でも学び、経験を積みながら、客観的に自分を見つめます。自分の専門性と違う領域の学びは、言葉もわからないし、つらいと感じる方もいるかもしれませんが、あえてそこに時間をかけるわけです。
「短期的にラクな選択の連続が、長期的な苦しみを導く」という真理がありますが、逆に短期的につらい経験の連続が、長期的には自分を助けるという発想もあると思います。
2030年に変わるもの、変わらないもの
長期的な学びを続けるためには、漠然としている未来をもう少し具体的にイメージしてみると良いでしょう。2030年の未来は、何が変わり、何が変わらないのか。考えてみましょう。
私は、外的なもの、フィジカルなものは変化していくと思います。
移動や買い物の手段、医療、モノの生産過程は変わります。量子コンピューターによる処理能力も上がり、世の中はどんどん便利になります。もうほとんどが変わると考えたほうがいいかもしれませんね。
一方、内的であり、ノンフィジカルなものは変わらないと思います。
例えば、何を善しとし、何を善しとしないのかという「真善美(しんぜんび)」。これは長い歴史を見ても、やっぱり変わらないものですよね。
人の欲求もそうです。先日、Audiobookの『草薙龍瞬 朗読 反応しない練習(特別版)~自分の心を失わないために~』を聞いて、仏教の「七つの煩悩」について知りました。
生存欲、睡眠欲、食欲、性欲、怠惰欲、感楽欲、承認欲。これは2,500年前に仏陀が提唱したらしいのですが、人間の営みやビジネスはほとんどがそこに向かうし、今も変わっていないんですね。
近年は、コロナ禍で大きな外的変化がありましたが、苦しいときに自分を支えてくれるものも、やはり内的なもの。信念や志だと感じています。
じゃあ自分の軸となる「信念や志」はどうやったら見えてくるのか。
これは、丁寧に自分の内面に向き合い、棚卸しをしてほしいと思います。これまで歩んできた道の中で、何にワクワクして、どんなことで前向きになれたのか。何が幸せだと感じたのか。そういう中に、自分の軸のエッセンスが散りばめられています。
他人の物差しで自分を評価するのではなく、まずは自分の物差しで自分を評価してあげることが大切です。
答えのない「問い」の解を求め続ける
能力という視点でみると、この先、答えのある問いを解決する方法、知能・知識と言われる領域は、機械や人工知能が人間を凌駕するでしょう。答えのある問いを解決する能力は、どんどんコモディティ化されていきます。
逆に、「答えのない問い」に対し考え続け、行動し続ける能力は今まで以上に重要になってくると思います。これは、知性・知恵と言われる部分でもあります。
答えのない問いとは、例えば「ユーザーにとっての幸せはなにか」「組織にとって良い状態とはどんなものか」のような問い。私は講師をやっているので、「講師ってそもそも必要なのか」「講師の役割はどう変わるのか」など、よく考えます。
「問い」を持ちながら情報に向き合っていると、必要な情報が集まってくるんです。100%情報を把握するのは不可能ですし、それでもいい。大切なのは、自分が興味を持つ領域の未来について、問いを持ち続け、楽しみながらインプットし続けることです。
「この学びが何か未来に役立つかもしれない」と、信じてみる。義務的に学ぶのではなく、「もし役に立たなくても、楽しいからいいや」くらいの気持ちでインプットするのが長く続けるコツですね。
自分の軸を持ち、問いを立て、学び続ける。そして将来に対して、何を考え、どう行動するか。小さな一歩でも、踏み続けられるかどうかが重要です。
思い描く未来を作るための3つの準備
「未来」を予測し、自分自身のありたい姿を実現するために準備できること。まとめると3つあります。
まず1つ目は、申し上げたように「自分の信念や志を見定めること」です。ただ、大きすぎる志はイメージが湧きにくく、一歩目を踏み出しにくいかもしれません。小さく刻んで、一歩一歩踏み出していくのが大切だと思います。
2つ目は、ビジネスの原理原則を理解し、それを活用する力を身につけることです。これはグロービスの講義でもよくお伝えしていることです。
ビジネスも社会もどんどん変化していきますが、根底に流れる原則はシンプルな場合が多いんですよね。例えば、「なぜ会議の生産性が低いのか」「なぜメンバーのモチベーションが低下しているのか」「同じ業界で、成長・停滞する会社があるのはなぜか」。
こういう問いの解は、ビジネスの原理原則を知っていれば、シンプルに理解できます。
いざ大きな変化が起きたときにも、原理原則を応用し、柔軟性を持って対応できる。適した「問い」を立てられるようになります。悩むのではなく、考えられるようになるのが大事ですね。
そして3つ目は、学びや変化を楽しむ能力をつけることです。これには、自分が楽しいと思うような、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。
何かを学んだら、ちょっとやってみて、小さな発見を大切に蓄積していく。ずっと積み重ねていくと、自分は変えられますし、変化が起きても、いざとなったら行動できる実感が持てるはずです。
学びながら、変化を楽しむ。もちろん市場価値が上がるのも大事ですが、何よりも人生が楽しく、前向きになるんじゃないかと思いますね。
ビジネスの原理原則やフレームワークは、どんどんコモディティ化していきます。少し前まではフレームワークを使うのは、経営層や経営層に近い方たちだけでしたが、今は働く現場の一人一人が戦略思考を求められる時代です。
この先、フレームワークがコモディティ化し、チームや組織に浸透すると、プロセスが効率化され、空いた時間でもっとクリエイティブな時間の使い方ができる。新しい価値がどんどん生まれてくるでしょう。
そんな未来において、自分はどうありたいのか。信念と問いを持ち続け、楽しみながら小さな一歩を踏み出してほしいと思います。
執筆:安住久美子
撮影:大橋友樹
デザイン:小谷玖実
編集:奈良岡崇子