2022/3/16

【求人】福田康隆×富士通。停滞する営業組織を、どう変えるか

NewsPicks Brand Design editor
 組織の規模が大きくなるほど、成長のスピードは鈍化するもの。売上の停滞状態から脱却しようと、営業組織の再編に悩むマネージャーも多いのではないか。
 そんな営業組織改革に取り組む企業の一つが、富士通だ。2年前にインサイドセールス機能を持つデジタルセールス部門を立ち上げ、着実に成果を積み上げてきた。
 営業組織改革を成功に導く秘訣はあるのか。富士通の変革の現在地とは。
 富士通でデジタルセールス部門の立ち上げ・成長を担う友廣啓爾氏と、フィールドセールス組織の変革を担う江尻昌紀氏が、『THE MODEL』の著者である福田康隆氏と鼎談。そのヒントを探った。

“売上減”を許容できるか

──近年は営業組織の改革に取り組む企業が増えています。どのような共通課題があるのでしょうか?
福田 既存顧客の売上に“依存”してしまい、新たな成長の芽を育てられていないこと。これは、BtoB領域において多くの営業組織がぶつかっている壁ではないでしょうか。
 新たな市場や顧客の開拓は、人的リソースも時間もかかる割には、短期的な利益は少ない。それゆえに、エース営業をアサインするには、勇気が必要です。
 その結果、ついつい目先の売上に意識が向いて、新領域の開拓が疎かになっている。この課題は、特に大企業の営業組織に共通する課題だと感じています。
友廣 よくわかります。例えば、売り切りのオンプレミス型システムから、SaaSに代表されるクラウド型システムを売り出す場合、短期的な売上は必ず下がります
 前者は、一案件の受注で大きな売上を得られるのに対し、後者は毎月少額ずつ売上が立つモデルですからね。
 そこで経営層が問われるのが、「一時的に売上が下がってもいいからやろう」と意思決定できるかどうか。「腹を括れるか」が、鍵になると感じています。
福田 新規顧客の開拓を促すならば、それに加えて営業の評価設計も変える必要があります。
 新規顧客獲得後に売上を作れるようになるまでの間、数字に表れない働きや成果をきちんと評価し、昇進や報酬に反映する。
 稼いできた売上だけで評価していれば、新規顧客の担当者は相対的に損することになります。
 それでは積極的に新規開拓しようとする人は出てきませんから、評価制度設計も重要なポイントです。
江尻 私は富士通でフィールドセールスの組織変革を担い、ビジネスを創るビジネスプロデューサーへの転換を推進しているのですが、リソース配分の難しさは痛感しています。
 正直に言って、富士通は人員には比較的余裕がある。人的リソースが潤沢で、既存顧客からある程度の売上も見込めるがゆえに、既存顧客から営業を引き上げるという決断をしづらいのです。
 そのボトルネックを改善する第一歩として富士通が取り組んでいるのが、ジョブ型の推進ですね。営業も、職務内容を整理して定義づけ、適切な人員配置の基準にしています。
 ですが、全ての人員配置が最適かと言えば、理想とはまだ遠い状況。「2割のマーケットに8割のリソースをかけている」と懸念している役員もいるくらい、リソース配分には偏りがあると課題認識しています。
福田 その点も、カスタマーベースがしっかりしている組織ほど、抱えがちな課題ですね。
 本来、理想的な人的リソース配分の順序としては、目指すゴールを掲げ、そのために必要な営業体制を敷き、最適なスキルや経験を持つメンバーをアサインしていく、という流れです。
 しかし人員に余裕が出てくると、「人のためにポジションを用意する」という、本末転倒な現象が起きる。その結果、組織として目指すゴールと現状が、乖離してしまうのです。

富士通でインサイドセールスは機能するか?

友廣 こうした課題を解決し、より本質的なお客さまの課題解決ができるよう、富士通では2年ほど前から営業組織改革に取り組んでいます。
 具体的な変化としては、2020年にデジタルセールス部門(インサイドセールス機能)を立ち上げました。
 私たちが明確に注力していくべきは、新規顧客や新領域の開拓ですが、既存顧客で大きな売上を獲得できる営業が、新規開拓も得意かと言えばそうとも言えない。
 ならばインサイドセールス機能を持つ専門組織を作り、見込み顧客情報(リード)の取得といった役割を専門的に担えれば、営業の効率も質も上げられると考えた結果です。
 立ち上げから2年弱ですが、すでに50以上の案件でデジタルセールスと、いわゆるフィールドセールスであるビジネスプロデューサーが連携し、新規顧客の開拓につながっています。
 実際に成約に至った案件も生まれており、ビジネスプロデューサーに「自分たちでは手が回らない新規顧客に対応してほしい」と声をかけてもらうことも多くなりました。
福田 フィールドセールス側で手が回らないと抜け落ちていた新規リードを、デジタルセールス部門が拾って育てていくというのは、非常に良い連携ですね。
 ちなみに今、デジタルセールス部門はどれくらいの規模なんですか?
友廣 富士通には現在8000人の営業がいて、リソース配分の最適化を進めているところです。デジタルセールス部門は現在40人ほどですが、今後2年間で200人規模に拡大したいと考えています。
 営業効率をさらに高めるため、案件の「型化プロジェクト」も進めています。
 デジタルセールス部門からフィールドセールス部門がリードをもらう時、キーパーソンを教えてもらえただけで十分という人もいれば、ナーチャリング後の温まったリードが欲しいという人もいる。
 これらを型に当てはめてパターン化することで、リードの確度のすり合わせなどにかかっていたコミュニケーションコストを減らし、デジタルセールスとビジネスプロデューサーのやり取りをより効率化できると考えています。

「寄り添い」は本当に正しいか?

福田 効率化という意味では、日本企業の顧客に対するマインドセットも、変えていく必要があると感じるんです。
 例えばフィールドセールスやカスタマーサクセス部門は、「顧客に寄り添ってできる限りの支援をすべき」という印象を持たれがちです。ですが、顧客に言われれば週末でも出社して何でもしてあげるべきなのかで言えば、そうとも限りません。
江尻 非常に共感します。富士通にはまさに、お客さまへの「寄り添い文化」が根付いていて、営業部門でも寄り添いが何より大事だとされています。
 もちろん重要な視点ではありますが、きちんとリソース配分して、売上を伸ばしていくことを考えれば、どこまで寄り添うかという線引きはある程度必要だと考えているんです。
 そういう意味でもデジタルセールスは、1本の電話という限られた時間の中で、顧客の成功のために課題を引き出している。高い営業力が必要な役割を担っていると、非常にリスペクトしているんです。
福田 そうですよね。重要なのは「顧客の成功とは何か」を定義し、その実現に向けてサポートすることだと考えています。
 それが明確になれば、適切な解決策も自ずと導き出される。過度な労力や時間をかけなくても、お客さまのビジネスや事業を成功に導くことは可能です。
 これは大企業に限った話ではなく、スタートアップでも起こりがちです。
「顧客のために」と考えるのは良いのですが、カスタマーサクセス部門に過剰な人員投資をしているケースがあります。会社として新規と既存にバランスよく投資しなければ継続的な成長はできません。
 顧客に“正しく”寄り添えているかの見極めは、意外に重要なポイントなんです。

富士通は、変化の真っ只中

──従来からの営業組織であるフィールドセールスと、新しいインサイドセールスは成り立ちや文化が異なるため、連携がうまくいかない企業も多いようです。
江尻 正直に言うと、富士通のフィールドセールス部門も他部門との連携は得意ではありませんでした。
「お客さまと直に接する自分たちが会社を背負っているのだ」という自信や責任感があるからこそ、デジタルセールス部門やマーケティング部門との間に壁があったことも事実です。
 しかし、その状況も変わりつつあります。デジタルセールス部門との連携によって成功した事例も出てきており、手応えを感じてくれるメンバーも、この2年で増えてきました。
 デジタルセールスもビジネスプロデューサーも、異なったスキルを持つプロフェッショナル。互いをリスペクトし合える文化を醸成していきたいと感じています。
友廣 キャリア形成という面でも、自分のプロフェッションを社内でしっかりと磨き、それを活かして主体的に部署を異動していけるような、そんな空気を作っていきたいですよね。
福田 まさに、メンバー自身のキャリアパスとして、インサイドセールスやフィールドセールスの部門を活用してもらえるようになるといいですね。
 組織文化はある日突然変化するものではなく、日々の行動や経験が蓄積されて、徐々に形作られていくもの。
 フィールドセールスとデジタルセールスの協業による成功事例が一つ、また一つと積み重なっていく。そして「両者がバディを組むと成果が出せるのだ」という空気が醸成されていく。
 そうすることで、ようやく組織のカルチャーも変わるものなんです。富士通は、この変化の過程の真っ只中にいるのでしょう。
友廣 実は私も、営業組織改革によって富士通に新しいカルチャーを浸透させたいと考えています。私はよく「お節介になれ」と話すのですが、これは要するにエンパシーを持てということ。
 自分の所属がどの部門であれ、相手の気持ちになって「こんなことに困っていませんか?」と手を差し伸べて連携する。理想論かもしれませんが、そんな空気が広まれば、組織のサイロ化も防げるのではないかと。
 もう一つ、私が目指しているのが、「多様性のある組織」作りです。
 デジタルセールス部門に採用するのは、社内の営業出身者だけではありません。元SEもいれば、社外からの採用もある。若手もいれば、定年間近のベテランもいます。
 あえて様々なバックボーンを持つ人材を集め、一人一人が持つ多様なスキルや経験を組み合わせれば、これまでにない相乗効果を生み出せる。
 富士通で一番働きがいのある組織を目指したいですし、結果的に会社全体を活性化できると確信しています。