2022/2/26

【生の声】シェルターで凍える、日本人大学生のメッセージ

NewsPicks 副編集長(サンフランシスコ支局長)
ロシア軍は25日、ウクライナの首都キエフを完全に包囲した。
市内から約40キロ離れた空港では戦闘があり、防衛側のウクライナの特殊部隊200人が、攻撃によって死亡したという発表がロシア政府側からなされている。
そしてロシアのプーチン大統領は、停戦交渉の用意があると発表したが、その見通しはまだ不透明だ。
そんな中、首都キエフで学んでいた慶応大学2年生(休学中)の前原剛さんは、国外に脱出できなくなり、その苦しい様子をツイッターで伝えていた。
前原さんのツイートは、ロシアによる全面的な侵攻が始まった24日未明から、シリアスさを増していた。
「15分かかるシェルターへ走るべきか。それとも外へ出ずマンションの地下室へ行くべきなのか。この選択が後に響いてくると思うと、背筋が凍る」
「恐怖しかないけど、外に避難します」
「自宅でミサイルに粉々にされるか、地下鉄のシェルターでロシア工作員のテロに怯えるか、ユニットシティの地下駐車場の寒さに耐えるか。地獄の3択です…」
当時、キエフ市内にいた日本人は約120人だ。
NewsPicksは25日午前8時(東ヨーロッパ標準時間)、ウクライナの首都キエフ市内にある地下駐車場で夜を明かした、前原さんへのコンタクトに成功。30分ほど、電話で取材を試みた。
*編集部注:現在、前原さんは安全な場所に移動することができたとSNS上で報告しています。
慶応大学2年生の前原剛さん(写真:SNSプロフィールより掲載)

夜中に逃げ込んだ「地下駐車場」

いま25日の朝の午前8時です。あまりにも寒くて一睡もできませんでした。暖房も一切ありません。
キエフにあるユニットシティという、イノベーションパークの地下駐車場にいます。ここが保護施設になっており、およそ20〜30人がシェルターとして退避しています。
時折、戦闘機の立てる異様な音がします。午前1時ごろに警報音が鳴りました。キエフの領域をロシアの戦闘機が動いていたからだと思います。聞いたことのない、怪獣の発するような音なんです。
いまリュックの中には、ちょっとした食べ物があるだけ。避難先に、知り合いはゼロです。
ただ日本人が珍しいのか、周囲のみなさんがお茶くれたり、食べ物くれたり、助け合っています。僕は配車サービスなどが全部停止しており、家の荷物を持ってこれなかったのです。
前原さんが避難しているのは、首都キエフのイノベーション施設の地下駐車場(写真:前原さんのSNSに投稿された画像から掲載)
そもそも前日から脱出しようとしたのですが、2日前まで少しだけあった商用便(飛行機)が少し飛んでいたのですが、まったくなくなっていました。
陸路でリヴィウ(Lviv)に移動したくても、電車のチケットも買えない。道路は渋滞しており、誰もが逃げようとしていました。
自宅のマンションにも地下室があるのですが、関係者からメッセージがあり、古い建物などは崩壊したら、下敷きになってしまうリスクが高いことが分かりました。
そのため外出禁止令が出ている時間でしたが、15分ほど走って、キエフ市内にあるテック企業など入居しているイノベーションパーク(施設)に逃げたのです。
いま外務省などが動いてくれて、できればキエフからリヴィウという都市まで移動して、そこからさらにポーランドに退避して、日本に戻りたい。しかし現状では、リヴィウにすら移動できないのです。
キエフは24時間以内に「制圧」されるでしょう。
軍事施設や主要なインフラが破壊されており、キエフはとても無防備な状態に見えます。だから、ロシアによる「制圧」が終わるのをじっと待っています。そうでないと、あまりにも危険だからです。
実はすでに一度ポーランドに退避していたのですが、どうしてもキエフに戻る用事があり、2日間だけ戻っていました。そこで全面侵攻が始まりました。

キエフの「スタートアップハブ」で学んでいた

僕はいま、20歳の大学生です。
2021年の8月からヨーロッパに来ており、物価の安いポーランドを拠点にして、ドイツ、フランス、イギリスなどを回っていました。そこでは起業家であったり、会いたいと思っていた学者などを訪ねていました。
その中で、たまたまウクライナのテクノロジー産業が、とても活発で面白いという話を聞いたのです。キエフ市内には「ユニットシティ」という、とても野心的なテクノロジーパークがあり、そこを訪ねました。
首都キエフにある大型テクノロジーハブ「ユニットシティ」(写真:ユニットシティ公式HPより掲載)
このユニットシティには、(英語の自動添削サービスである)グラマリーであったり、エストニア発の配車サービスのボルトなど、さまざまなスタートアップのオフィスがこの大型施設に入っています。
ウクライナは、まだ日本人も少ないので、開拓したいという気持ちもありました。
そこでこの施設内にある「ユーコード・ITアカデミー」という、1年間にわたって、無料でプログラミングを学べる教育プログラムに参加したのです。
実践的なテクノロジーを学ぼうとしていたのですが、始めて1カ月でこのザマです。
僕には、ウクライナの友人がたくさんいます。このユニットシティで出会った人たちも含まれます。
ロシアの侵攻を受けて、首都キエフから離れるための列車に並ぶ人々(写真:Getty Images / Anadolu Agency)
そのうちの幾人かは、いま軍隊に参加しています。メッセージングアプリで、安否をお互いに確認することもあります。
そんな彼らと話をしていると、もともと戦争はウクライナが圧倒的に不利であることが、よく分かります。だからゼレンスキー大統領も、なんとか外交努力をしながら、欧米の支援を待っていました。
しかし、いまは欧米から見捨てられたと感じている。
だから、ロシアは止まらないでしょう。抑止力として求めていた、欧米の軍隊はついにこなかったわけです。キエフ市内で劇的な戦闘はないようですが、ベラルーシとの国境沿いや、ドンバス地方では、かなり悲惨な形で死者が出ていると聞きます。
ロシアとウクライナの攻防が終わり、速やかに外務省の連絡に従って、ここから移動したいと思っています。
*編集部注:日本時間26日午前5時現在、前原さんは下記のように報告しています。