[YF]世界を翔ける_1017

「女性」問題が政権を揺るがす?

安倍政権 よみがえる教訓「失敗は得意の分野から」

2014/10/17
政治の世界に「失敗は得意の分野から」という言葉がある。「女性の活躍」を政策の目玉に女性閣僚5人を誕生させた安倍晋三首相もその例外ではない、とベテラン政治記者は指摘する。就任直後から女性閣僚は過去の発言や在特会との関係を追求され、国会でも問題発言が飛び出すなど批判が相次いでいる。さらに政治資金問題も浮上した( 過去記事参照 )。安倍政権のどこに着目すべきなのか。豊富な取材から日本政治の次を探る。

5人の女性閣僚に囲まれ、記念撮影に臨む安倍晋三首相=首相官邸で2014年9月3日

女性閣僚:失言、在特会、伝統的な女性観

9月の内閣改造で、安倍晋三首相はライバルと思われる人材の多くを閣内、党役員で登用しただけでなく、党外向けにも思い切った手を打った。5人の女性閣僚を誕生させ、内閣支持率のアップを狙った。思惑通りにことは進み、「安倍一強」状況がますます強まった。だが、臨時国会が始まる前後から女性閣僚の不祥事発覚が相次ぎ、その後の内閣支持率は低下傾向に変わっている。

政府内でささやかれる“アキレスけん閣僚ランキング”には「松島みどり法相をはじめ高市早苗総務相、山谷えり子拉致問題担当相・国家公安委員長、有村治子女性活躍担当相らがエントリーされている」と、流布されている。

案の定、松島は10月1日の参院本会議に赤いストール姿で出席し、物議をかもした。本会議での服装は極めて厳しく制限されている。古い話になるが、かつて福田赳夫首相が議員バッジを付けずに衆院本会議場に入ろうとしたら、国会衛視に制止され、後に首相となった森喜朗官房副長官(当時)がとっさに自らのバッジを外し、福田首相の胸に移して事なきを得たことがあった。

最近では、次世代の党のアントニオ猪木参院議員が、トレードマークでもある赤いマフラー姿で昨年夏の本会議に出席しようとし、衛視の制止で外した。先例重視が国会運営の鉄則。参院規則では「帽子、外とう、襟巻など」の着用は禁止されている。それだけに、松島のファッションを野党が問題視した。

松島自身はあくまで「ストールではなくスカーフ」と主張したものの、翌日の本会議は開会が20分も遅れた。予算委審議が始まると、松島が地元の祭り会場で配った似顔絵入りのうちわが「寄付行為に当たる」と、野党から追及された。その上、野党の質問を「雑音」と発言。あらためて、陳謝する事態まで巻き起こしている。

山谷はヘイトスピーチが問題視されている在特会幹部との撮影写真で、高市は、入閣前の「『河野談話』見直しを」「他人に子供を預けた人の方が一方的に優遇される制度はダメ」発言でいずれも批判の矢面に立たされた。任命前から閣僚たる心得を体得すべき与党議員としての責務を怠った、と批判されても当然だ。

「女性閣僚で救われた安倍さんも、今度は足をすくわれる」

政治の世界では昔から「失敗は得意の分野から」と言われてきた。みんなの党の渡辺喜美前代表の実父で、「ミッチー」の愛称で親しまれた渡辺美智雄元副総理は、生前こんな解説をしてくれた。自民党内で派閥政治が全盛だった1970年代の話だ。「金権政治家として名をはせた角さん(田中角栄首相)は、結局、月刊文芸春秋に掲載された『田中角栄研究―その金脈と人脈』が契機となり、退陣を余儀なくされた。後を継いだ三木武夫首相は『民主主義の効用』を力説したが、総選挙で自民党は敗退し退陣に追い込まれた。いずれも得意分野で失脚した」。

安倍は政権の行方を賭ける「アベノミクス」の成否を握る成長戦略の一つに、女性力の活用を掲げている。だが、今回登用された多くの女性閣僚は、イデオロギー的にも安倍に近く、伝統的な女性像に固執してきた。改造内閣での女性閣僚多用効果は、不祥事で早くも薄らぎつつある。9月末での日経新聞の世論調査で、内閣支持率は改造直後の調査に比較し、60%から53%にダウンした。ミッチー節になぞらえるなら「女性閣僚で救われた安倍さんも、今度は女性閣僚で足をすくわれる」事態に陥りかねなくなっている。

1990年代に燃えさかった政治改革で、衆院選にも小選挙区制が導入された。選挙戦は政党単位が基本で、政権交代可能な2大政党化を促進させる効果が期待された。

政党単位の選挙戦となれば、政党間の差別化を図るだけではなく、政党との結びつきが希薄な無党派層にアピールする上でも、各党のトップリーダーの支持率、存在感は欠かせない。安倍が目指している官邸主導政治も、トップの個性をより顕著なものとする構図となっている。高い内閣支持率が政権維持の上で必須要件になっているのも、選挙制度改革によると言える。

半面、有権者の意識にも、大きな変化が生じている。上に記した日経調査の政党別支持率を見ると、自民党支持は7ポイント下げ37%に。逆に「支持政党なし」は、7ポイント増え45%と、改造前の水準に戻った。10月の朝日新聞の調査でも、無党派層は改造直後と同じ46%だった。さらに、注目すべきは、自民党に対抗できる政党の有無をただした設問だ。「必要だ」が80%と、「必要ない」の9%を大きく上回った。

解散はあるのか? 注目は消費税と公明党

野党の非力さばかりが目立ち、対抗勢力の再結集は道筋も見えていない。だからといって、自公を与党とする安倍政権が万全というわけにはいかない。第一、首相の専権事項といわれる解散権だが、そこに至るまでにはいくつものハードルを首相はクリアしなくてはならない。

解散するには、国会は開会中でなくてはならず、手続きとしては閣僚全員の署名、花押が必要となる。拒否する閣僚は罷免し、首相が兼任するなどの非常手段もある。2005年、小泉純一郎政権下の「郵政解散」時、小泉の説得をあくまで拒否し、解散反対を貫いた島村宜伸農相を、小泉は罷免した上で解散手続きを進めた。

「安倍一強」によって、自民党内からの異論は封じられる現状だが、問題は連立を組む公明党だ。解散のテーマと経緯、時期によっては同意が得られず、連立解消のケースも考えられる。うわさに上っている2016年夏の衆参同日選もその一つだ。山口那津男代表も「絶対反対」を表明している。

公明党の党是は「平和」と「福祉」。「平和」では、政権内のバランスを取りながらも、集団的自衛権の憲法解釈変更をはじめ、安全保障政策や防衛政策で合意案をまとめた。それだけに「福祉」では、断固たる姿勢を示そうとしている。まして山口は消費税率を2段階で10%に引き上げることを決めた野田佳彦政権時の民・自・公3党による「社会保障・税一体改革に関する確認書」に合意した当時から、党の最高指導者だ。折衷案として福祉財源を確保する一方で、所得の低い層への負担を和らげる軽減税率の導入が、支持団体から強く要求されている。

自民党にとり、公明党との連立は当面の国会運営だけでなく、選挙対策でも必要視されている。自民党長期政権を支えてきた支持基盤としての各種団体も、既得権益の再調整が進み、流動化が止まらない。公明党を支える創価学会票を、基礎票に数える自民党議員も少なくはない。連立解消となれば、当然ながら痛手を被る。消費税率の10% 引き上げ法案の取り扱いは、解散時期と直接絡んでいるだけに厄介だ。(敬称略)

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(写真:毎日新聞社)

※本連載は毎週金曜日に掲載する予定です