2022/1/31
医療のペインは全世界にある。80億人市場を狙う日本発のプロダクトとは
Ubie株式会社 | NewsPicks Brand Design
Zoom、Microsoft Teams、Slack……。
コロナ禍で急速にユーザー数を伸ばしたプロダクトはいくつかあるが、日本にも今、驚異的なスピードで成長する医療アプリが存在するのをご存じだろうか。
その名を「ユビーAI受診相談」。
体調が優れない時、スマホで症状に関する質問に答えるだけで、関連する病名と適切な受診先を知ることができるプロダクトだ。
2020年のローンチから1年半で、月間利用者数は350万人を突破。
昨年9月には、3カ月で200万ユーザー増と、破竹の勢いの成長を見せている。
このプロダクトを手掛けるのが、医師とエンジニアが2017年に創業した医療スタートアップ・Ubie(以下、ユビー)だ。
創業4年半で累計44.8億円を調達。
同時に展開する医療機関向けBtoBプロダクトの成長も著しく、投資家やベンチャーキャピタルから高い期待を寄せられている。
ビジネスの射程は国内にとどまらない。
2020年には、初の海外拠点をシンガポールに設立。すでに現地でも堅調に事業を伸ばしており、BtoBに加え、BtoCプロダクトの提供も開始した。
今後も他のアジア諸国やアメリカ、そして全世界へのプロダクト展開を予定している。
世界的な健康寿命の延伸もあり、医療・ヘルスケアは今後も伸びが期待される業界だ。
だが、海外にはすでに現地で根を張る競合プレイヤーもいる。
そんな中、ユビーはどう世界を攻略しようとしているのか?
共同代表の阿部吉倫氏に戦略と勝ち筋を聞いた。
INDEX
- 1年半で350万人が利用するアプリに成長
- 「医療版のGoogle」を目指す
- アジア、欧米にノウハウを「輸出」
- 医療ニーズは国をまたいでも変わらない
- 「日本発」が強力な武器になる
- ビジネスで「数十億年の寿命」を生む
1年半で350万人が利用するアプリに成長
── 「ユビーAI受診相談」の月間利用者数がローンチから1年半で350万人を突破したと聞きました。成長の理由を教えてください。
阿部 ユーザーの悩みにプロダクトの提供価値が合致したから。シンプルですが、それが一番の理由だと思います。
ユビーAI受診相談は、これまでほぼマーケティングをしていません。
クチコミやネット検索などオーガニック流入によって、たくさんの方に使っていただけるアプリに成長しました。
これまで、患者さんがネット上で適切な医療情報を得るのはとても難しいことでした。
頭が痛いと思った時、ネットで原因を調べても、いろいろ出てきてどれが自分にあてはまるのかがわからない。
病院に行こうと思っても、適切な診療科を知るのが一苦労です。
そんな悩みを解決するのが、「ユビーAI受診相談」。
症状に関する個別化した質問に答えると、参考病名と適切な診療科を知ることができます。
── 実際にアプリを使ってみたら、とても細かく症状を聞かれて驚きました。裏側はどうなっているのですか?
約5万本の医学論文から得た症例と、3500種類以上の質問のストックから、患者さんの回答によって質問を出し分けています。
同じ頭痛でも、「頭のどこらへんが痛いのか」「締め付けられるように痛いのか、じわじわ痛いのか」「痛みはどれくらいの頻度なのか」によって、関連する病名は違う。
中には細かい質問もありますが、丁寧に問いを重ねることで、関連する病名を絞り込んでいくのです。
── なるほど。それにしても、膨大なデータベースを作るのは大変そうですね。
正直、かなり大変でした(苦笑)。
とにかく論文を読み込み、症状と関連する病名をAIの「脳みそ」となる機械学習ライブラリに打ち込んでいく。創業前の4年間は、ひたすら毎日それの繰り返しです。
そして完成したのが、医療機関向けに展開するプロダクト「ユビーAI問診」。
「ユビーAI問診」では、医療機関に訪れた患者さんに診察前に渡される紙の問診票の代わりにタブレット端末を手渡し、20問ほどの質問に答えてもらいます。
すると、「ユビーAI受診相談」と同じく、AIが参考病名を判断し、その結果が医師にデータとして転送される。これにより診察業務をはるかに効率化できるのです。
「ユビーAI受診相談」は、この「ユビーAI問診」の仕組みを応用し、2020年にローンチしました。
コロナ禍の影響もあり、ローンチ時に想定した以上のペースで伸びています。
昨年7月には「ユビーAI受診相談」のアプリからそのままかかりつけ医やクリニックを探せるサービスもスタート。現在、約1万5000軒のクリニックと連携しています。
「ユビーAI受診相談」は年次で30%、40%の成長を見込んでおり、数年以内には日本国内の誰もが知るプロダクトにしたいと考えています。
「医療版のGoogle」を目指す
── そもそも、なぜ「ユビーAI受診相談」や「ユビーAI問診」を作ろうと思ったのですか?
一番大きな理由は、患者さんが適切なタイミングで医療機関にアクセスできる環境をつくりたかったからです。
医療の現場にいると、「もっと早く病院に来ていれば、ここまで病気が深刻化しなかったのに」というシーンに多く直面します。これは本当に心苦しいことです。
早期発見・早期治療とよく言われますが、実際にそれができている人はごくわずか。ほとんどの人は、適切な治療タイミングを逸してしまっているわけですから。
そこで、私たちが目指すのは「シームレスなペイシェントジャーニー(患者体験)」の実現です。
ペイシェントジャーニーとは、発症から治療が終わるまでのフローのことを指します。
私たちは、この一連の流れを可視化し、一人ひとりの患者さんが適切なタイミングで、適切な医療を受けられる世界をつくりたい。
その手段として、「ユビーAI受診相談」で人々に適切なタイミングでの受診を促しています。
加えて、「ユビーAI受診相談」や「ユビーAI問診」で集めた、疾患の発症歴や服薬歴、年齢・性別・地域ごとの疾患傾向などをデータベースに統合。
機械学習エンジンを使って、シームレスなペイシェントジャーニーを実現するための準備を整えています。
目指すは、「医療版のGoogle」。
世界中の情報を集め、誰もがアクセス可能な状態をつくり出したGoogleのように、医療データを統合し、すべての人に適切な医療を届けたいと考えています。
アジア、欧米にノウハウを「輸出」
── 国内でもまだまだ伸びると思いますが、早くも海外展開をされていると聞きました。勝算はありますか。
もちろんあります。ただ、創業1年目にインドでテストマーケティングをした時は、見事に失敗したんですけどね(笑)。
インドの医療体制が整っておらず、日本でもまだ完成しきっていないプロダクトを持ち込むのは時期尚早だったのです。
その教訓を踏まえて、2020年には初の海外拠点となるシンガポールに法人を設立しました。
シンガポールはアジアのなかでも医療制度が充実している国。
同じく医療先進国の日本で得た、データやプロダクトのノウハウを「輸出」しやすいと考えました。
狙い通り、現地の医療機関向けのAI問診が続々と導入が決まっています。
生活者向けのAI受診相談も、日本でローンチした数カ月後には現地に投入し、ユーザー数が伸びている状況です。
医療先進国で価値が認められつつあるので、さらに多くの医療課題を抱える国では、間違いなくプロダクトが必要とされるはず。
日本とシンガポールで培った経験を元に、他の国にも進出予定です。
── 進出する国の優先順位はありますか?
まずはAPAC、そしてアメリカに進出予定です。
APACにはじめに進出する理由は、日本やシンガポールと物理的な距離が近いから。アメリカはビジネスインパクトの大きさです。
そこで、私たちのプロダクトが医療の効率性を数%でも改善したとします。
すると、アメリカの医療費は約400兆円ですから、少なく見積もっても数十億規模のビジネスになるはずだ、と。
まだ計画段階ですが、数年以内にはインドやアフリカなどにも進出し、世界で使われるプロダクトを目指したいと思います。
医療ニーズは国をまたいでも変わらない
── 日本から世界に羽ばたいたスタートアップはいくつかありますが、ローカライズに成功している企業は少ないイメージです。勝算はありますか?
あります。医療がおもしろいのは、国が変わっても相手が人間であればソリューションが変わらないこと。
多少の症例の差はあれども、同じ病気なのに、日本人とアメリカ人で治療法がまったく違う、なんてことはありません。
医療体制や生活の慣習が違うので、ある程度のローカライズは必要です。アプリ内の言語もそうですし、現地の保険制度も十分に考慮すべきでしょう。
ですが、ベースとなる問診エンジンは、国をまたいでも使える。私たちの強力な武器です。
加えて、マーケットの成長を見てもわかるとおり、医療や健康はすでにニーズが顕在化している領域です。
健康に長生きしたい。これは人間の極めてプリミティブな欲求で、なくなるとは考えにくい。
ですから、あとは国ごとのペインポイントを特定し、ひたすらプロダクトがマーケットにハマるかを検証するのみ。
地道ですが、それを繰り返せるかが、勝敗をわけると思っています。
── BtoBのプロダクトは、現地の医療機関との事業開発もポイントになりそうです。策はありますか?
現地のパートナー戦略は、かなり重要です。
私たちがシンガポール事業をスムーズに立ち上げられたのも、アライアンス先であるグローバル製薬企業の存在もかなり大きかった。
現地の医療機関を一から開拓するのは大変ですが、彼らとの提携実績もあって、スムーズに商談をまとめることができました。
他の国に関しても、製薬企業などを中心に、現地のパートナーとなる企業とともにビジネスを進めていくつもりです。
──大手の製薬企業がユビーとアライアンス組む理由は何でしょう?
患者さんの「治療機会の最大化」というゴールが合致しているからです。
多くの製薬企業は、画期的な薬を開発しているのにかかわらず、それがきちんと人々に届いていないことに、歯がゆい思いをしていました。
その理由は、先ほど申し上げたとおり、病気の早期発見・早期治療ができていないから。
早く見つかれば薬で治ったかもしれない病気も、ある時点を越えると難しくなってしまうのです。
そこで、私たちのようなサービスとアライアンスを組み、多くの患者さんに適切なタイミングで薬が届けられる機会を創出したい、と考えているわけです。
「日本発」が強力な武器になる
──ビジネスポテンシャルの大きい領域だと思いますが、競合プロダクトはあるのでしょうか?
国内に競合はいない認識です。
すでにローンチから4年間分のデータの蓄積があるので、ここから追いつかれる可能性も極めて低いと踏んでいます。
海外には10社ほどAIを用いた問診エンジンを開発する企業がありますが、私たちのエンジンは世界トップ水準だと自負しています。
── 自信の理由はなんですか?
「日本発」であることが大きなアドバンテージです。
他国と比較しても日本は圧倒的に医療体制が整っているので、そもそもの受診数が多いし、得られるデータも細かくて質が高い。
ゆえに、精度の高いエンジンができるわけです。
また、toCとtoB、2つのプロダクトを持っているのも大きいですね。競合はどちらか1つの場合がほとんどです。
ユビーには、現在「ユビーAI受診相談」と「ユビーAI問診」、そしてアライアンス先の製薬企業から、医療に関連する情報が大量に集まってきています。
それらの情報をデータベースに蓄積し、問診エンジンに学習させていく。
シンプルですが、この繰り返しでプロダクトを磨き込んでいくことが、圧倒的な強みになると考えています。
ビジネスで「数十億年の寿命」を生む
── 今後日本や海外でビジネスを展開するにあたって、課題はありますか?
一番は、一緒に走ってくれる仲間が足りていないことです。
まだまだやりたいこと、やらなくてはならないことは山積み。ですが、すべてに手が回っているわけではありません。
そこで、ビジネスを0から創り、推し進めてくれるメンバーを募集しています。
グローバルビジネスの経験や、医療・製薬業界の知見がある方はもちろん歓迎ですが、それ以上に重視しているのはカルチャーフィットです。
今活躍しているメンバーも、投資銀行やコンサルティングファーム、官僚、Googleやリクルート、DeNA、メルカリなど事業会社の出身者から、医師、製薬関係など医療現場の経験者までバックグラウンドは本当にさまざま。
既存ベストプラクティスにとらわれず、その時々の最適解を導き出す「突破力」を持っている。
失敗を恐れず、大胆な仮説検証へのチャレンジに心が燃やせる。そんな方に、ぜひジョインしていただきたいですね。
── 応募を検討している方に向けて、ユビーならではのやりがいを教えてください。
何より、ビジネスを通してまだ見ぬ「寿命」を創出できることです。
医療体験を整えることで、仮に10億人の寿命を10年伸ばせたとしたら、累計100億年分の寿命を生み出したという計算になります。
これほど社会的にも経済的にもインパクトの大きいビジネスはないのではないでしょうか。
「世界の医療体験を変える」。壮大ですが、私たちは本気でこのチャレンジに取り組んでいます。
このビジョンに共感してくださる方がいれば、ぜひ仲間になっていただけるとうれしいです。
撮影 小島マサヒロ
デザイン 小谷玖実
編集 高橋智香、中島洋一
デザイン 小谷玖実
編集 高橋智香、中島洋一
Ubie株式会社 | NewsPicks Brand Design