2021/12/30

【髙田春奈】Jクラブが考える、理想的な「地域経済圏」への貢献とは

ジャパネットたかた創業者の髙田明氏から引き継ぎ、JリーグクラブのV・ファーレン長崎の代表取締役社長に就任した髙田春奈氏。企業としての事業性を追求しながらも、地域とともに地域活性化や社会課題の解決を目指す髙田氏の連載をお届けします。連載第三回目は、「Jクラブが考える、理想的な地域経済圏への貢献」をテーマにつづってもらいました。
INDEX
  • Jクラブにおけるスポンサーの存在
  • お金を出してくれる人から強力な応援団へ
  • 共に社会課題を解決するパートナー
  • 地域経済圏こそパーパスを共有できる

Jクラブにおけるスポンサーの存在

 プロスポーツクラブにおいて、スポンサー企業からの支援は欠かせないものです。
 特にホームタウン制度を大切にするJリーグという組織体において、地域の経済界からのサポートは命綱ともいえるものだと思います。
 クラブの収入のうち、最大の割合を占めるのは「スポンサー収入」です。V・ファーレン長崎の2020年シーズンの売上は「18億5800万円」、そのうちスポンサー収入は「11億8200万円」と約63%を占めています。  
 一方、支出のトップは「チーム人件費」、つまり選手の報酬です。この数字はクラブの強化の度合いを示しているといえます。V・ファーレン長崎の2020年シーズンのチーム人件費は、「13億8200万円」と売上の約74%を占めています。
 これらの数字が示すのは、選手強化のためには収入が欠かせない、特にスポンサー企業からの支援なしには、チームを強くすることはできない、ということです。
 V・ファーレン長崎の場合、2016年も2020年も同じJ2というカテゴリーであり、いくら事業規模が拡大していても、競技面ではいずれも昇格という目標を達成することはできていません。
 「J1昇格」を命題として掲げるクラブとして、先行投資にも近い形で選手を強化してきましたが、これだけのスポンサー収入を長崎県内の企業だけで賄うのは難しいのが現実です。
 実際、1000万円以上の支援をいただいているオフィシャルパートナーのうち、ジャパネットグループを除く長崎の企業は約55%です。県外企業への依存が年々増えています。
 Jクラブは単なる私企業ではなく、地域に根差す公共性の高いクラブだと考えています。
 V・ファーレン長崎においても、ジャパネットがあるから成り立つ会社ではなく、さまざまな企業、団体が支える会社として、自立性を持たせたい、というのが私たちの目指す姿です。
 しかしV・ファーレン長崎が本気で上のカテゴリーを目指し、世界にも認められるクラブになろうと思えば、地場企業のみのオール長崎で成立させることには限界があります。先立つものがなければ選手たちのプロフェッショナルにふさわしい報酬も払えないからです。
 最近ではJリーグにも新しい企業が多く参入し、スポーツが自立したビジネスとして成立することを本気で目指しているクラブも増えています。
 一方で支援してくださる企業の多くは、昔も今も、地域活性のためのCSR(企業の社会的責任)的位置づけで考えられていることも事実です。
 つまり、スポーツにおいていかに地元企業の想いを結実しながら規模を拡大していくかは、大きな命題ともいえると思います

お金を出してくれる人から強力な応援団へ

 長崎県全域をホームタウンとするV・ファーレン長崎を一番に応援してくれるのは、長崎県内の企業であることは間違いありません。
 それはクラブの変化や成長を一番近くで見守り、その影響を一番間近で受ける存在であるからです。だからこそ金額の多寡では測り得ない、「共に戦うパートナー」としての、地元企業の存在感を確立する必要があると考えています。
 V・ファーレン長崎では今年、少額でも参加していただけるような「V・サポーター」という制度を作り、賛同してくださる企業を募ることを始めました。
 V・サポーターは、「試合応援」、「アカデミー」、「ピース(平和)」、「タウン」、「ショップ」という5つのカテゴリーで、クラブの活動を支援してもらえる制度です。最小5万円から入ってもらうことができます。
 例えば「試合応援サポーター」であれば、チケットの大量購入をメインとした権益にして、従業員の皆さんの福利厚生や顧客へのプレゼントなどに使用いただき、チームを盛り上げていただきます。
 「アカデミーサポーター」はアカデミーユニフォームへの広告掲出やイベントへの支援を通して、子どもたちの育成に参加してもらいます。
 「タウンサポーター」はクラブのタウン活動を行うスタッフのウェアに広告掲載していただくだけでなく、クラブと一緒にホームタウン活動や社会連携活動を企画実行して、社会貢献を応援していただきます。
 「ショップサポーター」は特に目に見えて拡大しやすいプランで、このお店はV・ファーレン長崎を応援していますよ、という印を掲示していただくことで、応援の輪を広げていただくとともに、お店の利用者を増やしていくことを目指しています。
 そういったサポーター企業様は、金額では測れない支援をくださいます。私たちにとっては心強い応援団でありますが、長崎という地域にとってもクラブをハブとした「地域経済圏」の拡大が実現できているのではないかと感じます。

共に社会課題を解決するパートナー

 最近はSDGsに取り組む企業も増え、「パーパス経営」という言葉も聞く機会が増えていますが、その先進的な事例を持っているのがグローバル企業です。私たちのパートナー企業にも、ケルヒャージャパンさんやエレクトロラックス・ジャパンさんなど、ヨーロッパに本社を持ち、企業理念が確立した企業様も多くあります。
 日本はどうしてもCSRというビジネスの外側として社会貢献活動を捉えがちですが、グローバル企業はその存在意義そのものに、社会課題の解決があります。そのような企業様は、クラブを単なる広告の種とは見られていません。
 共に理念を共有する仲間として、クラブのホームタウン活動や社会連携活動にも興味を示してくださり、時に活動を共にしたりもします。
 例えば今年、ケルヒャージャパンさんからのお声がけで、長崎市の原爆資料館の壁面を清掃する活動を実施しました。
 ケルヒャーさんはすでにリオデジャネイロのキリスト像や日本でも広島の平和公園のモニュメントなど、世界の重要な建造物で同様のプロジェクトを実施されており、その中に長崎の重要な場所である原爆資料館が入ることができました。
 そのきっかけがV・ファーレン長崎です。爆心地のすぐ近くで生まれ育ったトップチームの松田浩監督や、クラブマスコットのヴィヴィくんも参加することができたのはとても意義深いことだと思います。

地域経済圏こそパーパスを共有できる

 パーパスはグローバル企業でしか持てないものではなく、どんな規模の企業にも心ひとつで持ちうるものです。そう考えると、むしろ同じ地域で、同じ歴史や社会課題を共有する地域経済圏の仲間は、共通する理念で結束しやすいことが魅力でもあると思います。
 私たちが作ったV・サポーター制度は、タウン活動、アカデミー活動、平和活動など、まさに社会に根差すテーマに対して賛同した企業が集まる制度です。その金額は一口5万円からと少額です。でもその想いに共感して、気軽に始めることができる。
 「Think Globally, Act Locally」(地球規模で考え、足元から行動せよ)という言葉もありますが、志は高く、身近な人たちと共に活動できる地域のつながりは、ホームタウンを軸とするJリーグクラブの経営における生命線であり、武器となりうるものだと思います。
 私も地元のスポンサー様とお話をすると、長崎という土地や未来を担う子どもたちへ強い想いを持っている方が多いといつも感じます。
 地域の企業にこそ秘めたパーパスがあり、その中心にJクラブが存在する。そこから地域経済圏が形成されるとしたら、それこそが私たちの存在意義といえるのではないでしょうか。
 そして私たちが強くなり、上位カテゴリーにあがって国内外に存在感を示すことによって、さらに想いが届く範囲が広がります。
 パーパスを共有した「地域経済圏」を地域の中でクローズした狭い世界に終わらせるのか、それともそのパーパスをもっと多くの人へ広げ、地域経済を促進する源にするのか、そのカギを握っているのも私たちなのかもしれません。