竹中平蔵の経済がわかる

竹中平蔵の「経済がわかる」

円安の2つの理由と、これからの円相場

2014/10/9
「この先の日本経済がどうなっていくのか」「世界経済はどのように動いているのか」――経営者にとっても、ビジネスパーソンにとっても、日々の経済動向をウォッチすることが不可欠です。本連載では、竹中平蔵氏が、経済の時事テーマやキーワードについて、鋭くわかりやすく読み解きます。

円の乱高下をどう見るか?

円相場の動きが活発ですが、これをどのように捉えればいいでしょうか。市場の動きの背景には、常に何らかの要因があるので、市場の今の動きを追うことはいい勉強の機会になります。

事実関係を整理しておきましょう。

『日本経済新聞』(10月1日付朝刊)によれば、先月9月は大きな変化のあった1か月でした。円の対ドルレートは5円超下落し、安倍政権下で月間最速のペースになったのです。

9月円安の2つの要因

数年前までの日本は、拙いマクロ経済運営から明らかに行き過ぎた円高に悩まされていました。しかしそれが、アベノミクスの下での金融緩和で円安の方向に向かってきました。それはそれで順調な調整プロセスなのですが、ここに来て円安のピッチが速すぎることに、産業界も戸惑っているのです。

特に、輸出企業にとって円安は歓迎されますが、輸入に依存する企業には逆の効果が生じます。一般的な認識として、輸出大企業が潤う一方で、原料・エネルギーコスト高で地方の中小企業が疲弊するという現象になったのです。

9月に円安が進んだ背景に、2つの要因があったと考えられます。

第1は、アメリカ経済が順調で、金融緩和からの軌道修正(いわゆるテイパリング)が明らかになってきたことです。結果的にドル建て資産の期待金利が上がり、相対的に円建て資産の期待利回りが下がるので、円安になるのです。

第2は、日本の貿易赤字の拡大と経常収支の黒字縮小が明確になってきたことです。円相場は4月以降、101~103円の狭い範囲で膠着していたのですが、9月の相場はそこから大きく動くことになりました。

一方、株式市場はどうだったでしょうか。

日経平均はなかなか1万6000円の壁を越えられなかったのですが、9月1か月間で4.5%(年率では50%を超えるペースになります)上昇し、9月末に1万6173円をつけました。消費税増税による落ち込みから、少し回復したという要因もありますが、基本的には夏以降のアメリカを中心とした株価上昇を反映したものです。

その意味では、日本に関する限り、「円安・株高」という従来型の組み合わせが実現したとも言えます。

しかしここで、またまた一つの波乱がありました。10月2日には、前日110円09銭だった対ドルレートが、一時108円55銭にまで上昇したのです。

1日で約1.5%の変化というのは、極めて大きなものです。9月の円下落があまりに急であったこと、地政学的なリスクが高まるなかで円のような「安全資産」に注目が集まったこと、などがその要因として挙げられています。

言うまでもなく相場は変動するものですから、日々の動きに一喜一憂してはいけませんが、9月以降急激な円安とその反動といった形で、いま相場が不安定化しているという認識を持っておくことは必要です。

9月の円安は行き過ぎ?

それでは、今後、円相場はどのように推移するのでしょうか。中小企業を対象とした日本商工会議所のアンケート調査では、多くの企業が1ドル=100~105円が妥当と考えており、9月の円安は行きすぎだと考えているようです。

私は、必ずしもそうは思っていません。リーマンショック前の水準から判断すると、1ドル=110円というのは決して「行き過ぎた円安」とは言えないのです。リーマンショック前の株価最高値は約1万8000円(2007年)ですが、その年の平均為替レートは1ドル117.7円でした。

メディアでは円安批判の声が大きくなっています。しかし、9月の円安反動で今後は円安が止まるというふうに、単純に割り切る段階には、まだ至っていないと考えるべきでしょう。

今週の経済ニュースの要旨

「円、9月に5円超下落 安倍政権下で月間最速 経済界、急ピッチを警戒」『日本経済新聞』2014年10月1日付(朝刊第3面)

円相場は4月以降、101~103円の狭い範囲で膠着していたが、8月下旬以降、一気に円安が加速した。30日の東京市場の円相場は1ドル=109円41銭と、08年8月下旬以来約6年ぶりの円安水準で取引を終えた。月間の下落幅が5円を超えるのは09年12月以来、4年9カ月ぶりのこと。

当初は円高是正を歓迎していた経済界でも、急ピッチの円安を警戒する声が強まってきた。経団連の榊原定征会長は29日、現在の円安について「注視が必要だ」と言及し、経済同友会の長谷川閑史代表幹事も30日の記者会見で、さらなる円安加速に懸念を示した。

※本連載は毎週木曜日に更新する予定です

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竹中平蔵