2021/12/21

人生100年時代の「高齢者マーケティング」の新常識

INDEX
  • あえて「年齢」に触れない
  • 高齢者を「ひとくくり」にしない
  • 「エネルギー」に応じて売り込む
  • 潜在的ユーザー「全員」にアピール
  • 「実際のニーズ」に焦点を当てる
  • 25歳も、65歳も、80歳も

あえて「年齢」に触れない

クルーザーワン(CruzrOne)といえば、2019年にナイキが発売したソールが厚くクッション性の高いランニングシューズ。この靴のデザインは、ナイキのデザイナーであるティンカー・ハットフィールドと同社の共同創業者フィル・ナイトとの会話から生まれた、といわれる。
ハットフィールドがあるとき、1日8マイル(約13キロ)「歩く」ナイトの習慣はすばらしいと億万長者の会長をほめたところ、ナイトは直ちに間違いを正した。
「私は『走って』いるんだよ」クルーザーワンを宣伝するプロモーションビデオのなかで、少し不満そうな顔をしたナイトはそっけなく言う。「あまり速く走っていないだけだ」
ナイキは、スプリンターやさまざまな地形を走る長距離ランナーのためのシューズを作っている。ナイトとの会話からハットフィールドはアイデアを思いついた。急速に拡大しているのに、見過ごされがちな市場向けのシューズをデザインしよう、と。
それは「速く走らないランナー」のためのシューズだ。
「ゆっくり走るランナーのための靴も必要だよ」と、ビデオのなかのナイトは言う。「まさに私向きだ」
このビデオではっきりと語られていないのは、ナイトが80代であるということだ。年齢は、クルーザーワンの宣伝ではまったく触れられていない。
クルーザーワンを、「何らかの理由で非常に遅いペースで走るランナー」に優れたサポートを提供するシューズと位置づけることで、ナイキは高齢のアスリートのために設計された製品を一般向け市場で展開することができる。

高齢者を「ひとくくり」にしない