2021/12/23

今オフィスを構えるなら「実は名古屋」な5つの理由

NewsPicks Brand Design chief editor
コロナ禍を経て、都心部のオフィス空室率は日に日に高まっている。オフィス縮小、移転などのニュースも珍しくない。今こそ、企業がオフィスの存在意義を問い直すタイミングと言えるだろう。
そんななか、マネーフォワードは2022年に名古屋に新たな開発拠点をオープンすることを発表した。今、名古屋を含む地方でビジネスをすることのメリットとは何か。マネーフォワードは、オフィスをどのような存在と定義したのか。名古屋市産業立地交流室長の木村元則氏と、マネーフォワードCTOの中出匠哉氏が意見をかわす。
INDEX
  • 東京のオフィス空室率6%。名古屋への移転は
  • 地方進出は企業の採用力を高める
  • 名古屋に企業が進出する5つのメリット
  • 東京では得られない地元愛が企業の味方になる
  • 名古屋への本社機能移転で補助金最大10億円の衝撃

東京のオフィス空室率6%。名古屋への移転は

木村 まず、マネーフォワードさん、名古屋へのご進出、ありがとうございます(笑)。
中出 こちらこそ、これからよろしくお願いします(笑)。これまでも名古屋には営業担当が在籍するオフィスがありましたが、今回は新たに開発拠点を立ち上げます。
 2~3年をかけて他の開発拠点と同じくらいの規模でエンジニアの採用を目指しますが、いい人がいれば積極的に採用していくつもりです。
 国内にはこれまでも福岡、京都、大阪に開発拠点を開設してきました。愛知県や名古屋市というと、ものづくりの街ということもあってか、これまではIT系の企業がそれほど多くない印象を受けました。
木村 私たちの肌感覚でもIT系企業はまだまだ少ないですね。ただし近年、もともと盛んだった自動車産業で、自動化や電子化といった切り口で優れた技術を持つ他社との協業が進んでいます。
 それをきっかけに、協業先となるIT系企業が増える土壌が形成されつつあると感じています。
 私たちとしても、オープンイノベーションの機運をもっと高めながら、ものづくり企業への高い波及効果や相乗効果が見込めるICT企業を積極的に誘致したいんです。
 企業の誘致における名古屋市のターゲットは以下の3つです。
中出 リモートで働ける環境がそれなりに整ってきているので、東京離れというか、地元に帰る方も結構多いようですし、「このタイミングで動こう」と決意する企業も多いんじゃないですか。名古屋はどんな状況でしょう。
木村 民間の調査会社や不動産業者の発表によれば、東京のオフィス空室率が現在6%ほど。名古屋もコロナ前の1%台だった状況から5%台を突破しています。
 東京の拠点縮小や東京以外への移転が進んでいるという話がありますが、見ていると、神奈川、千葉、埼玉といった近隣県への転出が多いようです。
 東京一極集中の是正は長年の国の政策課題です。コロナ禍でその是正が進み、地方移転が進むことには期待しますが、現状は黙っていても名古屋への転入が増える状況ではないですね。
中出 コロナ禍で名古屋市に進出した企業の方たちは、どんな意見ですか。
木村 中出さんのおっしゃるように、リモートワークが進み、東京にいなくてもいいと感じる方は増えていますね。
 コロナ禍、そしてその後のテレワーク普及・定着の可能性を見据え、名古屋という地域と親和性のある企業、働く場所を選ばない業種、あるいは事業規模がコンパクトで、フットワークの軽い企業にアプローチしていきたいです。
 これは先ほどの誘致ターゲットに共通する切り口です。
中出 私たちは、現在、週4日リモートで、1日は出勤というスタイルを採用しています。フルリモートではなく、ハイブリッドを目指しているので、東京かどうかではなく、オフィスはこれからも重要な存在だと捉えています。

地方進出は企業の採用力を高める

木村 開発拠点は名古屋駅前のミッドランドスクエアに置かれるそうですね。
中出 名古屋駅の近くというのは、東京や大阪へのアクセスを考えてもメリットが大きいです。新幹線だと東京まで約1時間半、大阪だと50分弱。この距離感なら、関西拠点とのコラボも考えられます。
木村 リニアが開通すれば、東京まで約40分、大阪まで約30分とさらに移動時間は短縮されます。そのあかつきには、東京・名古屋・大阪が一体となる巨大都市構想「スーパー・メガリージョン」の中心地となり、交流人口は7000万人になる見込みです。
 ほかの地域でも、オフィスの立地は駅前や中心部が多いんですか。
中出 コストだけで考えると、中心地から少し離れるだけで賃料は安くなります。でも、開発拠点を設けるたび、「いいところにいいオフィスを」という考え方になってきました。
 というのも、採用において、立地やオフィスのグレードは重要なアピールポイントになるからです。
木村 なるほど。ミッドランドスクエアは名古屋駅に直結している名古屋一の超高層ビルで、展望台、ショッピングモールや映画館までありますからね。
 実は、テレワークが普及・定着していくと、名古屋圏に進出を決めていただいても、鉄道でわずか10分のところには中核市があったりして、名古屋進出=名古屋「市内」進出とならないのではないかと危惧していました。
 ですが、圏域内では「名古屋」という立地が強みになるということですね。もちろん、まずはこの圏域への進出を決めていただくことが第一歩ですが。
名古屋駅前の高層ビル群。iStock.com/kanzilyou
中出 ほかの拠点開発の経験から、「結局、オフィス環境も含めての採用活動だ」と学びました。そこに投資して、優秀な人材に来てもらうことで十分な投資対効果を生むことがわかっているので、そこは妥協しません。
 いい立地を押さえ、いいオフィスを構えたときのインパクトは、東京よりも地方のほうが大きいかもしれないと感じています。
 地方進出前は、エンジニアは東京に集まっているイメージがあったので、「なかなか人が集まらないのでは」と思い込んでいました。ところが、福岡、京都、大阪の3拠点で東京と同じくらい採用ができています。
木村 地方だとエンジニアの絶対数は少ないものの、競争相手も少ないので、そのぶん採用がしやすいというのはありそうですね。
 しかも、民間調査によれば名古屋の都心部は東京都心部と比べて賃料が6割以下の水準です。名古屋では比較的コストを抑えて、立地の良いところにオフィスを構えることができます。
中出 私たちは拠点によって給与を変えないので、生活コストの関係上、地方のほうが東京より豊かな生活を送りやすい、というのもあるでしょう。
木村 魅力ある企業が魅力的な立地と条件で募集をかければ、東京でなくても、ちゃんと応募が集まるということですね。
中出 逆に言えば、地方にも優秀な人はたくさんいるということです。

名古屋に企業が進出する5つのメリット

中出 これまでも新卒採用で、名古屋大学や名古屋工業大学の学生に出会ってきましたが、よく聞くのが「名古屋だとあまりIT系のインターンがなくて」とか「就職したいIT系企業が少ない」という話です。
 名古屋に限った話ではなく、IT系企業が東京に集中しているために、それ以外の地域のエンジニアが割りを食っている状況なんです。
 「東京に働きに来て」というだけでは、私たちの成長スピードに見合ったエンジニアが確保できないので、地方の優秀な人材を採用して、地方で働いてもらおうというのが、ここ数年、開発拠点を増やしてきた理由です。
 地方から東京へという流れも、今後減っていくのではないでしょうか。
木村 地方からすると、これまで就職先を求めて東京に出ていっていた学生さんが地元に留まる効果もあるので、ありがたい話です。名古屋市内で暮らす人の約90%が名古屋を「住みやすい街」と回答しているデータもあり、その部分にも自信はあります。
中出 「ずっと東京で働きたい」と思っている人ばかりじゃなく、「いつかは地元に帰って、地元で働きたい」と思っている人もいます。そういう人たちにとって、私たちのような企業が受け皿になれたらいいですね。
 正式に新しい名古屋オフィスがオープンするのは2022年春ですが、採用担当者からは「こんなに優秀な人が何人も応募してきてくれるとは」と、想像以上の手応えがあると聞いています。
 ほかの拠点でも、「これだけいい人が来てくれるのは、進出初期のボーナス期間かな」と感じることもありましたが、実際には進出後、その地域に根付いてくると、さらに応募が増えるんです。
木村 名古屋も優秀な理系学部を抱える大学は多いので、将来大いに活躍する優秀なIT人材の供給源になるはずです。
中出 拠点をどこに作るかというとき、都市の人口だけでなく、優秀な人材が輩出される源泉があるか、つまり、有力な大学数というのは欠かせない基準です。
 京都への進出もそうでしたが、たとえば京都大学で情報系を学んでいる学生って、関西だとインターン先があまりないんですよ。そういうギャップがある地域は、私たちにとっては狙い目です。
 インターン先が豊富で、実践的な経験を積む機会が多いぶん、選考時点では東京の学生のほうが経験値が高く、選ばれやすかった。
 ただ、「東京以外にも優秀な学生はいる」というのは、私たちもわかっていました。ですから、地方への進出を機に、地方の学生たちと、インターンの時期から接点を持つようにしています。
木村 名古屋市では、中学や高校などの教育機関と連携しながら、「就職するだけでなく、起業という選択肢もある」とお話しさせていただく機会も作っています。
 教育ですから、効果が出るまで時間はかかると思いますが、自ら起業したり、スタートアップに関心を持ったりする学生がこれまで以上に増えれば、人材という点で、さらに魅力的な土地になるはずです。
中出 それは楽しみですね。地方に開発拠点を置く最大のメリットは採用面です。「名古屋は優秀なエンジニアが多く魅力的だ」ということが知れ渡ると、競争相手が増えてしまうので、ちょっとだけ内緒にしてもらえるとありがたいんですが(笑)。

東京では得られない地元愛が企業の味方になる

中出 私たちは「この拠点ではこのプロダクトを」と、拠点単位、プロダクト単位で動いています。というのも、地方の開発拠点が本社の下請けのようになるのは健全な関係性ではないし、それぞれの拠点の色も出しにくいからです。
 ですから、今後「名古屋の拠点だからこそ」というプロダクトにも挑戦すると思いますよ。
木村 市役所ではいろいろな部署から課題を吸い上げて、「こういう課題を解決できる企業さん、ぜひ協力してください」と募集しています。
 さまざまな企業に対して、実証実験の場を提供することが目的ですが、名古屋ならではの事情が新しいプロダクトを生み出す機会になれば嬉しいです。
中出 それはスタートアップにとっては特にありがたいでしょうね。どれだけ技術があっても、アピールできる場がなければ、そこから先につながりませんから。
「ナゴヤ イノベーターズ ガレージ」は名古屋市と中部経済連合会がタッグを組んで設立した会員制のコワーキングスペース。中部圏で異業種異分野の交流・対流からイノベーションを誘発し、加速させることを目的としている。
 木村 私たちも「名古屋に拠点を置くべき」と認識してもらうために、いろいろ動いているところです。
「ナゴヤイノベーターズガレージ」や「なごのキャンパス」といった施設を中心に、異業種異分野の交流・対流からイノベーションを誘発し、加速させるような仕組みづくりも行っています。
 ナゴヤイノベーターズガレージは中部経済連合会という地元の経済団体と名古屋市が共同で設立した会員制のコワーキングスペースで、商業エリアである栄地区にあります。
「なごのキャンパス」は廃校になった小学校をリノベーションした施設で、名古屋駅から徒歩10分弱。いわゆるインキュベート施設として、シェアオフィスとしても入居できます。
なごのキャンパスはシェアオフィスとしても利用できる。
  2020年には、内閣府による「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」において、この地域がグローバル拠点都市のひとつに選ばれました。これを受け、名古屋市ではスタートアップの創出・育成のため、各種支援プログラムを実施しています。
コミュニティやエコシステムという点では、まだまだ盛り上げていける余地があると感じています。
中出 今回、名古屋への進出は私たちにとっても新しいチャレンジなんですよ。
 私たちが開発拠点を福岡に進出させた2017年時点で、福岡にスタートアップが拠点を持つことは、ある種のムーブメントになっていました。京都も、進出当時からスタートアップのコミュニティが形成されつつありました。
 一方、名古屋においては、私たちが先頭にいる。私たち自身も、コミュニティを作っていくお手伝いができればと思っているんです。数年後、「マネーフォワードが来てから、名古屋に来るIT企業が増えたよね」と言われるようになるといいんですが。

名古屋への本社機能移転で補助金最大10億円の衝撃

木村 本社機能等の集積促進のため、市では資金面でインセンティブとなる補助金制度も設けています。
 「本社機能等の移転・開設にかかる優遇制度(本社機能等立地促進補助金)」です。
 2020年度もこの補助金を使って、2社に進出を決定していただきました。一定の要件を満たした企業が本社機能等を移転していただいた場合、最大10億円をお支払いします。
 本社をまるごと移転していただくのが一番ありがたいですが、全社統括的な機能の一部(調査・企画部門や研究開発部門など)であっても対象になり得るので、まずはご相談いただければ。
中出 コロナ禍の影響もあって、渡りに船という企業もありそうです。アーリーステージの企業に対しては、私たちもサービス提供を通じてサポートしたいです。
木村 それ以外にも本市では、起業前や起業後間もない時期に補助や相談支援などを行う制度も用意しています。
 最近では名古屋にある地元金融機関もスタートアップ育成に前向きで、独自に支援プログラムを用意したり、他企業とのマッチング機会を用意したりと、資金調達においても、他地域と比べて遜色ない状況です。
中出 その地方のコミュニティって、地方に拠点を置く魅力のひとつなんです。「地元愛」を持った人たちのつながりって、東京だと絶対に得られませんから。
木村 そうなんです。そこはいくらテレワークが普及・定着しても、拠点なしで東京からリモート対応するだけでは得られない地方の大きな魅力です。ビジネスのきっかけもやはり、日頃顔を合わせる関係からより多くのものが生まれると思います。
 福岡や京都もそうだと思いますが、名古屋人の名古屋愛も、相当なものですよ。
中出 そういう愛を持った人たちと働いていると、気持ちがいいし、元気をもらえます。ぜひ一緒に名古屋を盛り上げていきましょう。