2021/12/17

テレビCMに革命をもたらすAX(Advertising Transformation)とは?

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企業や産業全体の変革をドライブする「突破考」は、どのように生まれ、どんな未来をもたらすのか? 知られざるストーリーに迫り、明日のビジネスへの糧を見つけるオリジナル番組『突破考』。

第5回となる今回は、ネット広告の台頭により変革が求められている「テレビCM」を通して、AX(Advertising Transformation)の可能性、ビジネス全体の未来像を考えていきます。

モデレーターは佐々木紀彦(PIVOT CEO)。そしてゲストに株式会社電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局の岸本渉氏、さらにデータアーティスト株式会社 代表取締役社長の山本覚氏にご登場いただきました。

未来の視聴率を予測

佐々木 岸本さんは、テレビCMの課題にどのように取り組んでいますか。
岸本 テレビCMの特徴は、広範囲かつ同タイミングで視聴者にメッセージ伝えられることです。
過去の視聴率データなどを計算し、どこの時間帯、どの番組にCMを流すかを決めるわけですが、ターゲットとする視聴者層にCMが届けられているかは課題の1つでした。
そこで私たちは高度な視聴率予測を実現する分析ツール「SHAREST」を開発しました。
SHARESTが出した予測値を参考にCMを流すタイミングを判断し、結果的にCMがどれくらいの視聴者に届き、どの程度の影響力を与えられるのかを把握できます。
佐々木 SHARESTではAIがどのように活用されていますか。
山本 視聴率と相関性のあるデータを集めたり、番組と出演者の組み合わせを分析するなど、AIは膨大な情報量を体系的に考える作業において役立っています。
佐々木 現状、「SHAREST」の精度はどのくらいでしょうか。
岸本 下記の表をご覧ください。
こちらは特定期間に放送された番組の予測視聴率の精度を表した指標です。最大値1の指標に対して、世帯と個人全体視聴率では0.96を超える精度となっています。
これまでは放送時に番組編成や出演者が大きく変更された場合、予想した視聴率に影響が出ていましたが、「SHAREST」は急な変更においても精度の高い視聴率を予測してくれます。

CM枠決定のカギは気象データ

佐々木 どの視聴者層に、どれほどの頻度でCMを流すかという部分以外に課題はありますか。
岸本 いつCMを流すのかは課題でした。
今はさまざまなデータを掛け合わせることで、CMを流すタイミングを図れます。
佐々木 その課題を解決する突破考とは何でしょうか
岸本 「ウレビヨリ」というシステムソリューションです。
こちらは日照時間、降水量、湿度などの天候データから、160のカテゴリーに分類されている商品群の売れ行き指数を算出、予測するシステムです。
佐々木 このシステムを活用することで、具体的に何がわかりますか。
岸本 天候データに基づき、どのタイミングで商品が売れるのかを分析することで、その商品のCMをどのタイミングで流すかを決めることができます。
気象要因と商品が売れるタイミングをひも付けることは、効果的な販促計画に生かせると考えています。
佐々木 ウレビヨリの活用法において、具体例はありますか。
岸本 下記の図は、ウレビヨリが分析したアイスクリームの売上検証の結果です。
図の上部はアイスクリームの売り上げ予測を指数化したグラフで、棒の色が緑だと例年に対して売れ行きが高く、グレーだとその逆になります。下部の灰色の棒グラフは過去の売り上げ平均を示し、青い棒は過去の平均からどれだけ売り上げが伸びたかを示しています。
このように商品がどれだけ売れるかを事前に予測して、どのタイミングでテレビCM、デジタル広告を流すのかを決められれば、広告効果は最大化されると考えます。
佐々木 CMを需要予測とマッチングさせることで売り上げの最大化が見込めそうですが、無駄なものを減らせることにも効果がありそうですね。
岸本 キャベツ価格の事例ですが、キャベツの価格が下がっているときは生産過多になっている状況でして、需要と供給が適切に連動しないとキャベツの廃棄ロスが発生します。一方で、価格が下がっている時期の野菜は旬ということもあり、一年で一番おいしい時期でもあるとお伺いしています。
野菜料理に使う調味料のCMをうまく投下すれば、旬の野菜を広く届けられると思うので、最適なタイミングでのCM投下は環境面においても重要だと考えます。
佐々木 まさにSDGs的にも良いということですね。
天候データのようなシステムは他分野でも応用可能なのでしょうか。
山本 暑いからアイスが売れるのはわかりますが、それ以外にもアイスを買いたくなる瞬間はたくさんあると思います。気象情報を他のデータと組み合わせることで、さまざまな角度から人の購買意欲を分析していきたいです。

AIで広告効果の最大化

佐々木 そもそもテレビCMにはどんな種類があるのでしょうか。
岸本 CMは主に2種類に分けられています。
1つはスポンサーから各番組ごとに提供していただくテレビタイムCM、もう1つはテレビスポットCMです。テレビスポットCMは番組ごとではなく、あらかじめ決められた条件のもとで、CMを流す番組やタイミングを放送局側に一任するメニューとなっています。
佐々木 テレビスポットCMは、流れる番組が放送局側で一度決まったら、その番組から動かないのでしょうか。
岸本 柔軟に動かすことは難しいです。放送局側が様々なクライアントのCMを各番組に配置していくことは、複雑なパズルを組み上げていくことに似ています。
仮にオンエアが迫ったタイミングでクライアントから変更の依頼があった場合は、放送局担当者の熟練した技術の協力があって初めて遂行できます。
佐々木 つまりはCM枠の柔軟性における課題があるということで、そこを解決する突破考がありましたらお願いします。
岸本 「RICH FLOW」という新しいソリューションの開発を進めています。
具体的にはAIを活用して、クライアントの売り上げを最大化できるCMの配置場所を見つける仕組みです。
佐々木 CM配置の最適化が行われて、実際に結果が出た例はありますか。
岸本 昨年「RICH FLOW」を用いて、森永製菓さんが販売する「チョコモナカジャンボ」のCM枠の最適化を行いました。
アイスクリームの需要が拡大するタイミングにCMを配置することで、結果的に広告の効果向上を図ることができました。今年もこの取り組みに多くの会社にご参加いただき、検証を進めています。
佐々木 山本さんから見て、テレビCMのAI活用は今後どのように進化していくと見ていますか。
山本 CMコンテンツの生成部分でもAIは生きてくると思います。実際にキャッチコピーを自動で書くことは既に運用されていて、一部の広告バナーではAIが書いたキャッチコピーを元に作られています。
将来的には、長めの動画のラフ案を書けるくらいAIを進化させたいです。
佐々木 それでは岸本さんと山本さんは、テレビCMを通してどんな未来をつくっていきたいですか。
岸本 放送局さんと協力して、テレビCMの価値を高めていきたいです。 
テレビ広告の柔軟性を高めることで、広告を出稿いただいた各社様の業績がより高まり、そこで働く方々の生活が豊かになったり、需給をマッチングさせることで廃棄ロスなどの無駄が軽減され、生活者の営みが豊かになります。
テレビCMを通じて経済と社会全体の幸福がより高められる、そのような未来を作っていきたいと思います。
山本 CMの視聴予測ができると、それに合わせて商品や番組設計を組み立てることが可能です。指標の予測があるからこそ、自分たちの行動を見直せます。ただその指標にとらわれすぎるのも良くないので、AIの予測値と直感のバランスを調整しながら物事を判断すべきだと思います。