2021/12/13

【落合・豊田】万博は「2025年以後の世界」への投資機会だ

NewsPicks Re:gion 編集長
 NewsPicks Re:gionは11月、大阪府にて第2弾カンファレンス「WestShip」を開催した。本記事では「大阪・関西万博によって関西と日本を変える方法」について語られたオープニングトークを再現してお届けする。

人類はそろそろ「動く建築」ぐらいつくるはず

石山 2025年4月から10月にかけて、日本国際博覧会、通称「大阪・関西万博」の開催が予定されています。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。2800万人の来場者数、世界150カ国と25の国際機関の参加を目標にしています。
 今回の万博は日本にどんな変化をもたらすか、そのためにこれから関西はどう動くべきか。そして2025年以降の「アフター万博」に私たちはどんな未来を描くのかを考えていきます。
 最初に、万博の事業プロデューサーを務める落合陽一さんの動画をご覧ください。
 圧倒的な未来感にワクワクします。落合さんは8つあるパビリオンのうちの1つ「いのちを磨く」の担当です。なぜ、このような動く建築をつくろうと?
落合 人類ってだいたい普通のことしかしないんですよ。実行可能性とか採算性とかいろんなリスクを考えると、よっぽどのことがないと変なことはしない。だから期間限定の建築ってなかなかつくるチャンスがなかったんです。
 でも、人類もそろそろ動く建築ぐらいはつくるだろうと。
 なので、我々のパビリオンでは、動画にも出てきた変形構造体建築による「デジタルネイチャー(計算機が自然に溶け込んだ世界)」の象徴、それともう一つ「デジタルヒューマン(人間と同じような姿や動作を持つAIアバター)」を実現させようと思っています。
 僕の知る中で最高に面白い建築家と、最高に面白いロボット研究家と、最高に面白いメディアアートの専門家が集まった最高のチームで、70年万博を超えるインパクトをつくります。
石山 豊田さんは、万博誘致における会場計画アドバイザーとして、モノと情報がシームレスにつながる未来の建築像を打ち出されたとうかがっています。
豊田 誘致段階での会場計画のコンセプトは「非中心・離散」です。これまでの万博では「太陽の塔」のようなモニュメントがあって、物理的な会場やモノをどうつくるかの話が主流でした。
 しかし未来の社会基盤では、物理的な領域だけでなく、情報的な領域も重要な要素になる。そこでは離散性や編集性が重視されます。物理的な都市や会場も変わらなければならないはずです。
 大阪・関西万博は、ディセントラライゼーション(decentralization 地方分権化)という時代の本質が、物理構造にどう反映されるかを示す絶好のタイミングであり、試金石でもあると考えています。
石山 その未来の社会基盤が、豊田さんの被っているキャップに書かれている「コモングラウンド(共有基盤)」ですね。これによってモノと情報がシームレスにつながり、人間やモビリティやアバター、ロボットが共存できる。
豊田 そのとおりです。建築家の仕事も、建物をつくるだけでなく、物理空間と情報空間を接続する環境をつくる方向にどんどん変わりつつあります。
 梅田駅からタクシーで5分ぐらいのところに「大阪コモングラウンド・リビングラボ」という実験場をつくっています。いろんな企業に参画いただいて、コモングラウンドの開発と実装の実証実験をしているところです。

万博は「スマートシティの実装機会」だ

石山 お二人は、大阪・関西万博が日本に何をもたらすとお考えですか? 先のオリンピックでは旧態依然とした日本の姿を世界にさらけ出した一方で、ジェンダー意識などの面で社会の価値観がアップデートされるきっかけにもなりました。
豊田 誘致の際、大企業の経営者や科学者の方など、錚々たる方々にヒアリングをさせていただいたのですが、「万博をきっかけにこの道に入った」という人が驚くほど多かったんです。
 70年代はほかにメディアがなかったので、どの領域をとっても万博で提示するものがチャンピオンプロダクトになり得た。そのインパクトは非常に大きかったと思われます。
 でもいまは、テーマパークならUSJ、ゲームなら『フォートナイト』。コンテンツもネットで無料で見られるものが断然面白かったりする。万博は各領域のチャンピオンプロダクトには勝てないんです。
 となると、万博の価値とは一体何なのか。私たちは新たに考えないといけません。
 ただ、70年万博の「太陽の塔」に相当するものは何なのかという発想だと、大きなチャンスを逸してしまう。私は大阪・関西万博は「スマートシティの実装機会」ととらえるべきだと思っています。
 何千億円もかけて、住民がいない仮の都市を立てて、実証実験を繰り返して、データを取って公開して、半年後には後腐れなく壊しちゃう。こんなことはGoogleにもできない。この機会をうまく生かしたいと思いますね。
石山 豊田さんは、「プラットフォーマー第5世代」を誰が取りにいくのかというお話をよくされています。
豊田 ここ40年間のプラットフォーマー企業の変遷については長くなるのでググっていただければと思いますが、プラットフォーマー企業の第5世代はおそらく、既存の都市をいかに情報的に扱えるかが鍵になる。つまり主戦場はスマートシティになります。
 そこをGAFAが狙っているのですが、彼らは情報には強くてもモノとの接続の仕方が意外とわからない。だから製造側の持つノウハウや技術は金鉱脈化しているんです。
 ものづくりの得意な日本企業が、モノと情報を接続するための言語や感覚を持っていないのは非常にもったいない。万博は、モノ側からトンネルを掘る意識を取り戻し、その価値を提示する絶好の機会ととらえるべきです。
石山 日本はもうアメリカのGAFAや中国のアリババには勝てないとよく言われます。でも、未来の都市ではモノと情報がシームレスに接続されると考えたら、万博は大きなチャンスになるわけですね。
 落合さんは、万博が日本に何をもたらすとお考えですか?
落合 朝起きて、ごはんを食べて、買い物をして、オフィスで働く。いま、こういったコロナ前までの都市のライフスタイルがリセットされる世界がやってきています。
 身体の質量をどう捉えるか、環境と生活の関係は、身体性をどうやって突破するか。
 その答えの一つでもあるデジタルヒューマンは、リアルな私の代わりに何ができるのか。アートの形はどうなるか。万博の一つひとつのプロジェクトで未来のライフスタイルの世界観が描けると思います。
 そのためにも、万博の個別のプロジェクトは未来の綺羅星の「点」に過ぎないけれども、俯瞰して全体を見ると「面」になっているような設計をすることが大事です。
豊田 落合さんが言ったように、ライフスタイルもいま、コロナを契機に身体や場所に閉じる必要がなくなってきています。
 これまでは、何かするには自分の身体をその場に持っていく必要があったけれども、いまからは違う。オンラインやアバターで自分の20%だけを会議に参加させる、自分の感覚の3%を別のことに使うなんてことも可能で、離散的な選択肢が急激に広がっていますよね。
 自己のあり方、価値のあり方、社会への貢献の仕方、所属の仕方も劇的に変わっていくはずです。身体や場所に閉じていた選択肢に離散性や流動性が生まれたら、マーケットも可能性も劇的に広がるんじゃないでしょうか。
石山 万博は2800万人の来場を予定しているそうですが、それ以上にオンラインでの参加があるかもしれないですね。
豊田 2020年4月、人気ゲーム『フォートナイト』内でラッパーのトラヴィス・スコットのライブが3日間にわたり計5回開催されました。参加人数は累計2770万人にのぼります。
 万博は半年間にわたります。オンライン来場が28億人ぐらいあってもおかしくありません。4年後にはアバター来場とか、誰かの身体を借りて2時間だけ万博体験を共有するとか、もっとしやすくなっているはず。
 大阪・関西万博を機にデジタルかアナログかの二項対立ではない、グラデーションのある参加のあり方があたりまえになる。その受け皿が「落合パビリオン」になると期待しています。

税金だけでエコシステムをつくるのは不均衡

落合 僕もそれを期待しているので、協賛や出資をしてくれる人や企業を募集してます。
 というのは、そういう参加形式のエコシステムをつくるなら、税金だけでやるのは不均衡なんですよ。
 万博の機会により公共性の高いビジネスをつくったり、そこから生まれたプロダクトをみんなが使うようになったり、そこでできたプラットフォームに既存のIT企業が接続されたりするのが、本当のサステナブルな万博です。
 そして、それが民間にベネフィットとして還元されるような万博にすることが重要です。
豊田 いまは巨大企業が1社でエコシステムをつくるのが最先端かもしれない。
でも、社会のプラットフォームになるようなものを生み出したいなら、『ドラゴンボール』の「元気玉」みたいに、社会全体から少しずつお金を集めるやり方でつくるべきかもしれないですね。
石山 じつは万博には、企業や団体、個人が参画できる機会が幅広くたくさん用意されているそうですね。
落合 されていますね。
豊田 協賛とかパビリオンとか、大きな単位で集めようとするから重くなっちゃう。この2時間の枠だけ買うとか、1口いくらとか、万博をいろんな小さな参加の形をシステムとしてつくる社会実験の場にしてみたらどうでしょうか。
 企業の参加や協賛も「1社何十億円、or Nothing」ではなくて、準備の段階だけ参加する、プラットフォームづくりに貢献する、準備過程に参加した経験を生かして未来の産業実装につなげていくとか、いろいろあるはず。
 企業はもっと、万博を契機に社会のエコシステムをいかに活性化させるかのビジョンを持ってもいいと思います。

その挑戦は「失敗」か「ポジティブな探検」か

石山 万博によって私たちの社会にいろいろな変化が起こりそうですが、残り4年、関西は具体的にどう動くべきでしょう? 豊田さんは企業連合的なプラットフォームが必要だと提唱されています。
豊田 企業の開発の人は「やりましょう」と乗り気なのに、法務や総務の人が出てくると「できません」と言われて終わるケースは非常に多いですね。
 その根本原因は、人材の流動性の低さです。日本ではまだまだ終身雇用制度が根強くある。一度会社に入るとずっと同じ環境で評価されて生きていかないといけないとなると、冒険して失敗したくないと思ってしまう。
 ヨーロッパの自治体、特にスマートシティ担当部署の中にはPh.D.を持つ人がいて、技術開発をしたり、学会に行ったりしている。その人がIT企業に転職したり、大学に戻ったりという光景も普通に見られます。
 そんなふうに立場を変える機動性のある人がマーケットにいるのがあたりまえにならないと、発想も評価の視点も変わらない。そういう意味では産官学の連携がこれから重要になってくる気がしています。
石山 豊田さんは「日本の企業にもっと遊び心を」ともおっしゃっていますね。
豊田 「新大陸」を見つけたいなら、見えているテリトリーの外側に行かなければいけません。誰かが遊び心をもって最初の人になって探検して、地図を描く必要がある。でも探検をして、荒野の向こうに新大陸があるとは限らないわけです。
 その挑戦を「失敗」ととらえず、「ポジティブな探検」ととらえることができるか。
 社会も企業も、ポジティブな探検をどんどん奨励すべきです。そうなって初めて、大阪・関西万博を生かせる社会になるんじゃないかと思います。
石山 実際に、遊び心を生かした事例は何かありますか?
豊田 これは私がやっていることなのですが、たとえば「ゲームエンジン」を使ってコモングラウンドをつくれるのではと思っています。うまくいけばこの上でMaaSの都市実装のテストができますし、入り口をエンタメにもできるでしょう。
 新しい都市OSもMaaSも未来の社会に絶対必要ですが、正論で物事が動くことって社会ではまずない。社会を動かすには、入り口に楽しさが必要です。万博も同じだと思います。

レガシーではなく「直接的なビジネス」を残す

石山 落合さんは「お金が必要だ」とおっしゃっています。その真意は?
落合 万博のいいところは、オリンピックと違って責任の所在が明確なこと。僕のパビリオンは僕の責任。お金集めも僕の責任らしいです。合議制で物事が決まるオリンピックとは違うらしい。
 でもイベントに協賛するときのファイナンシャルスキームって限られていますよね。だからいろいろなビジネスやスキームも構築しないとうまくいかないと思う。
 そうならないように、一同頑張って考えています。産官学の連携、特に民間の力が必要です。
石山 万博は民間の力でいかようにも大きくできるし、ワクワクさせることができると?
落合 そうです。だから「協賛」ではなく「投資」と考えてほしい。我々もリターンを返すために必死に考えているので、ぜひ一度、お話を聞いていただければと思います。
 「レガシー」で利潤を上げるのは極めて難しい。そこを中心に考えていくのは厳しい。そして人間は懐かしさには勝てないんですよ。70年万博はあらゆる意味でうまくいったイベントなので、今回も放っておくと万博が「思い出横丁」になりかねない。
 オリンピックと比べたら万博の予算規模はすごく少ないけれど、自由度は高いんですね。
 未来への投資として、どれだけの予算をどこに回すかを考えてみてほしいと思います。そして協賛・投資をお願いします。
豊田 落合さんの言っていることは半分冗談に聞こえるかもしれないけど、本質だと思いますよ。お金の流動性を増やせば増やすほど、経済は活性化します。その方便として、企業には万博を使ってほしいですね。
 新しいモチベーションを探していこうという機運を社会につくることが大事です。万博はその起点の場所になり得ます。
石山 企業の新規事業担当の方とお話をすると、新しいことをせよと言われても失敗はできない、コロナもあって何に投資すればいいのかと悩んでおられることを実感します。万博は、その投資先として大きな土壌になりそうだと思いました。
 最後に、関西と日本の未来をつくるために、このセッション後にみなさんに第一歩として始めてほしいアクションをお伺いしたいと思います。
落合 2025年日本国際博覧会協会に連絡して、「落合パビリオンに協賛・出資するにはどうしたらいいか」と聞いていただけると、私が前向きにプレゼン資料を持って行かせていただきます
 僕と直接のお友達ならメールでもいいですし、NewsPicks宛にご連絡をいただいても問題ないので、よろしくお願いします。
豊田 吉本新喜劇ばりの、予想通りのオチがつきましたね(笑)。関西のみなさんにお伝えしたいのは、万博は、あくまできっかけだということ。私たちはその先の社会基盤となる技術やビジネスをつくらなければいけません。
 そのための拠点が、4年後の関西にあるのは奇跡的です。この千載一遇の機会をぜひ生かしてほしい。「大阪コモングラウンド・リビングラボ」に参加してもいいし、落合パビリオンにお金を入れてもいい。
 とにかく、これまでの常識とは違うことをやってみたらどうなるかという実験を1個でもいいからやってみる。
 「関西の、関西による、関西のための万博」ではなく、どこか1つだけでも「関西」の枠を外して違うものを入れてみる。そうすれば停滞する状況は変わると思います。