2021/12/8

【神保哲生】日本メディアの特権構造。「自分たちで育てる」意識で健全化へ

 JTがこれまでにない視点や考え方を活かし、さまざまなパートナーと社会課題に向き合うために発足させた「Rethink PROJECT」

 NewsPicksが「Rethink」という考え方やその必要性に共感したことから、Rethink PROJECTとNewsPicksがパートナーとしてタッグを組み、2020年7月にネット配信番組「Rethink Japan」がスタートしました。

 世界が大きな変化を迎えている今、歴史や叡智を起点に、私たちが直面する問題を新しい視点で捉えなおす番組です。

 大好評だった昨年につづき、今年も全8回(予定)の放送を通して、各業界の専門家と世の中の根底を “Rethink” していく様子をお届けします。

神保哲生 × 波頭亮 「メディア」を再考する

 Rethink Japan2、第7回は「メディア」をテーマに、ビデオジャーナリストの神保哲生さんをゲストに迎えてお届け。
 モデレーターは、佐々木紀彦(NewsPicks NewSchool 校長)と、経営コンサルタント・波頭亮さんです。
 10月に行われた第49回衆議院選挙について、メディア報道の観点で神保さんが解説するところから議論がスタート。
 日本のメディア構造における問題点や、近年の業界の変化、政治との関係、メディアの秘める可能性など、ジャーナリズムの立て直しに尽力する神保さんならではの視点で丁寧に解説してくださいます。
 投票率の低さに肩を落としていた波頭さんでしたが、神保さんの話を聞いて、最後には「元気が出た」と気持ちを新たにした様子。ジャーナリズムに関わる人のみならず、メディアから情報を受け取る全ての人へ、必聴のメッセージです。

メディア報道がもたらした衆議院選挙結果

佐々木 ちょうど衆院選が終わったばかり(収録前日が投開票日)ですが、今回の選挙をどう見ていらっしゃいますか? メディア報道も含めて、神保さんの見解をお聞かせください。
神保 今回の結果は、メディア報道がなせる業だったと思っています。元々自民党はコロナ対策に失敗し、選挙では非常に劣勢だと見られていましたよね。しかし自民党総裁選でその流れが一気に変わった。
 総裁選って本当は身内の選挙に過ぎないわけです。なのに、メディアがそれをあたかも日本国全員を巻き込んだような大イベントにしてしまった。候補者たちの発言が公約なのか何なのかも分からないまま、いたずらにそれを全部流したんです。候補者からしてみれば楽しい場所ですよ。言うだけ言って、責任を負う必要はないんだから。
 結果的に候補者の知名度は上がり、「侃々諤々と政策論争が行われる自民党に変わった」と党自体の印象がすごく良くなってしまった。
 つまり、自民党が仕掛けた“PR戦略”にメディアが丸々乗っかった形で、今回の衆院選の結果が生まれたんです。

機能不全の日本メディア。2つの問題点とは

波頭 日本は、そういうメディアの演出の上に世論が作られてしまう現状がありますよね。こういった支配的な巨大メディアの構図って何とか出来ないんですかね。
神保 少し古いんですが、興味深いデータがあります。2009年にプリンストン大学の研究者が「ある街で2社あった新聞社が1社になったことによる政治への影響」を綿密にリサーチしたところ、顕著に表れた変化は「投票率の急激な低下」と「現職の再選率の上昇」だったんです。メディアの衰退は、そんな現象を引き起こします。
 さて、今回の衆院選での投票率は55%でした。今回に限らずですが、日本の国政選挙の投票率はOECD加盟国で、常に最下位グループ。さらに日本の現職の再選率は世界最高水準なんですよ。
 先ほどの説から逆算すると、これはつまり、日本はメディアが全く機能していない国だと示唆しています。数だけはたくさんあるから、メディアが発達している国だと思われがちですが、それは嘘。どうしようもないメディアが"ビジネス"をして儲けているだけだから、民主主義のレベルが非常に低いままなんですよね。
 そんな日本のメディアには、2つの大きな問題があります。
 ひとつは、宮台真司(社会学者)が「鍵のかかった箱の中の鍵問題」と呼んでいるものです。日本の国民は大事なことを知らされていないけど、大事なことを知らされていないこと自体を知ることが出来ない。このパラドキシカルな問題はよく知られています。「我々は何を知らされていないかを知ることが出来ない」と。
神保哲生(じんぼう・てつお)ビデオジャーナリスト。ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信など米国報道機関の記者を経て独立。99年、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。主なテーマは地球環境、国際政治、メディア倫理など。
 もうひとつの大きな問題が「記者クラブ」です。
 ※記者クラブ:公的機関などの継続的な取材を目的として、新聞記者や放送記者らによって構成された団体。1969年11月創設。非営利の独立組織で、2011年4月に公益社団法人の認定を受けた。
 数年前にインターネットの広告収入が既存メディアを抜いたことがニュースになりましたが、それは当たり前の話です。せいぜい200社くらいしかないテレビや新聞の事業者に比べて、インターネット事業者は事実上無数にあるわけですから。
 ただし、ジャーナリズムにおいては、既存メディアに対するインターネットメディアの広告割合は、未だ1%にも満たないと思うんです。これは僕の皮膚感覚ですよ。
 「いやいや今はネットからいくらでも情報取れますよ」って言う人がいるけど、それは間違い。そもそもネット上に出回る情報の大元は2つしかありません。誰かが直接取材をして得た情報と、権力行使主体(行政や企業)から発表される情報。
 この両方に真にアクセスできるメディアって、実は記者クラブしかないんですよ。たった16社に独占されている。
 つまり、ネットから情報を得てると思っている人って、結局は記者クラブが知らせてきた材料の中で、加工したり料理したりしたものを食べてるだけ。おいしいものを食べてるつもりかもしれないけど、実はものすごく偏った栄養になっちゃってるんですよ。
 記者クラブもスポンサーも、日本のメディアは全面的に既得権益側です。つまり、国民は既得権益に不都合なものがほとんど入っていない情報だけを受けている。こんな日本のメディア構造では、何百回選挙をやったって、世の中が変わるような結果なんか出るわけがないんですね。

週刊文春のゲリラ報道、その限界

佐々木 神保さんは、『週刊文春』(文藝春秋)のようなジャーナリズムはどう評価されているんですか。記者クラブには属していないですが、かつてはロッキード事件(1976年)など政治的な報道を行ったこともありますよね。
神保 記者クラブは、アクセス権はあるけど、特権的な地位にいるために、書けないことが多い。一方で雑誌は、アクセス権がない代わりに失うものがない。彼らのようなゲリラ的ジャーナリズムも、ひとつの形としてありだと思っています。
 ただし、ロッキード事件が良い例で、アウトサイドからの取材には限界もある。
 最近になって春名幹男さんの本(『ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』 (角川書店))などで明らかにされていますが、ロッキード事件は田中角栄の汚職以上に深い事件だったんですよね。
 田中角栄は日本国内で大変人気があり、日ソ共同宣言や中東独自外交などを進めたアメリカにとって危険な政治家だった。ロッキード事件の元になったのは、アメリカ議会でのコーチャン証言でした。
 その後開示された資料の前半部分には、全日空のトライスター(旅客機)導入に関する田中角栄のことが書かれていたけど、後半にはP3Cという軍事機器導入など、もっと大物の、はるかに大金の癒着が書かれていたんです。しかし後半部分は伏せられたまま、前半のほんの一部だけが開示され、田中角栄だけが差し出された形になったわけです。
 当時「すごいじゃないか、ゲリラ」と文春がもてはやされましたが、彼らはこうした国際政治やアメリカ側の意図までは想像できなかった。
 その意味で、やっぱりゲリラ報道には限界があるんですよね。特派員がいて、支局もあって、アクセス権があるメインストリームメディアだったら、ちゃんと取材をして、そこまで明らかに出来たかもしれないのに。
 ゲリラはゲリラで、どんどんやるべきだと思いますが、メインストリームメディアが機能していなくて、そこから報道が出ないことが本当の問題なんですよね。

初めてメディア統制に乗り出した政権

波頭 僕はそういう報道も、本当は政治家主導でやるべきだと思うんだよね。見識のある政治家だったら、良き政治をするために「ジャーナリスト頑張ってよ」「指摘してよ」って言うべきだと思う。
神保 そうですね、近年の政治とメディアについても少しお話しします。
 ふり返ると、民主党政権の前の自民党政権っていうのは、「メディアには手を出しちゃいけない」という最低限の節度がありました。もちろん癒着関係やアドバルーン発言はありましたが、権力者として、メディアを力でねじ伏せることはなかった。
 そして民主党政権は、政治とメディアの密着した関係を、かなり厳しく改めようとする立場を取りました。メディアの問題のほんの一部ですが、初めて政権として改善に取り組もうとしたんですよね。
 当時の記者クラブのオープン化があったから、今は僕らも記者会見に出られるようになっています。でも、結果として既存メディアを全部敵に回すことにもなった。これは政権が短命に終わった原因のひとつだったと思います。
 その後誕生した第二次安倍政権は、第一次安倍政権から随分待機時間があったんです。その間に中枢メンバーたちは、しっかり研究をして、「日本のメディアは異常なほどたくさんの特権を持っていて、それら全てが政府から与えられているものだ」と理解した。その特権は主に3つです。
 ひとつはさっき言った、情報へのアクセス権。これは「政府が記者クラブだけに情報を出す」という政府が直接与えている特権ですよね。
 ふたつめは、再販売価格維持制度。この制度によって、新聞は市場原理に影響されないで人為的に高い値段で売ることが許されています。つまり、高い利益が得られるような仕組みがある。これも独占禁止法を適用しないという政府の決定によって守られている、政府から与えられた特権です。
 そして、クロスオーナーシップ。日本は新聞とテレビが完全に資本提携していますが、これは本来、先進国ではありえないことです。なぜなら、完全な資本のドッキングは、多様な議論が失われることや、相互チェック機能の不全を意味するから。
 多くの国ではクロスオーナーシップには、マスメディア集中排除原則によって何らかの制限がかけられているものですが、日本は政府の基準で制限がない。これも政府から与えられた特権だと言えますよね。
 言い換えれば、これらの特権は、政府がちょっと蛇口をひねればたちまち潰れてしまうものなんです。これを分かった上で安倍政権は、メディアに圧力をかけるために、権力を使った。
 たとえば記者会見の前の事前質問提出の仕組みなんかもそうですよね。今ある会見は、事前に質問の答えを秘書官が用意して、安部さんや管さんはそれを読むだけ。提出しなければ、質問する機会をもらえません。安倍政権は、政治がメディアに牙をむいた、初めての政権だったんです。

メディア業界、進む人材劣化

波頭 このままだと日本の報道って政府の広報機関になってしまうよね。
 今年のノーベル平和賞はジャーナリストでした。世界的に「ジャーナリズムは民主主義の大事な機能だ」って意識が強まってるんだと思う。それに比べて日本の報道の公正度合いって57位とか?
神保 67位ですね。報道の自由度ランキングで。
波頭 67位! そこまで低いんだよね。
 僕はやっぱり、ジャーナリズムに携わっている人たちがどっかで気概を見せないといけないと思うんだよ。日本のメディア構造を変えるためには、彼らのジャーナリストとしての良心に訴えかけていくしかないのかなって。
神保 いや、そこは波頭さん、違うんですよ。もう現場にいる若い人たちには、そもそもジャーナリストになりたいなんて人はいないですから。僕らの頃とは3段階くらいフェーズが変わってしまったんです。
 昔の記者たちはメディアの構造や特権を分かっていました。「書きたくても書けない」って時代が長く続いたんですね。次に、その構造に気付かずに、最初っから政府やメディア全体のイメージ戦略に乗っかったものを「真実」だと思って、そのまま書く人ばかりになった。記者の能力が劣化したわけです。
 でも、もう今はさらに次の段階で。ちゃんとした記事が書きたい人はメディア業界なんかに行かないフェーズに入ってるんですよ。メディアにそんなことが出来ないのが分かっちゃってるから。今いるのは、でたらめなことを書いているのが楽しい人たち。しかも今は特別給料が良い業界でもないでしょう。
 すでにメディアは、他の業界へ行けなかった“2軍”みたいな人が来るところになっている。そこまで人材劣化の段階が進んだかなという感じがしていますね。

変革のタイミングを逸した既存メディア

佐々木 既存メディアは人材が劣化している上に、経営体力も低下していますよね。そんな話をうかがうと、既存メディアが今後自ら変革するのはもう不可能だろうって気がするんですが……。まだ可能性はあるのでしょうか。
神保 佐々木さんの言う通り、既存メディアが変化するのは難しいと思います。まだ体力があったうち、ちょっと前までは、ビジネスモデル転換の可能性があるタイミングもあったと思うんだけど。
 たとえば今、新聞各社でオンライン版って出してるけど、すごい高いじゃないですか。本来紙に印刷して配るコストに比べれば、オンライン版って1/5くらいのコストで出来るはず。価格もそれくらいでないとおかしいわけです。
 でも、高いままの値段で販売してるのは、紙より安くすると紙版を解約されるから。それに、紙版と同じ購読者数を維持できたとしても、売り上げが1/5になっちゃうからです。
 やっぱりそれだけ、これまでの寡占市場かつ再販売価格維持制度のある紙版がおいしいってことなんですよね。それを脱皮するのって本当に難しい。
 新しい環境に移行するときって、価格破壊が起きることは当然だし、それまでの旨みを捨てる必要があるのも当然のこと。どんな産業でもその苦しみを味わってきたわけですよ。
 でもメディアはそのギャップが大きすぎたし、旨みを享受してきたカラクリをばらしたくもなかった。そんな理由で、能動的に新しいモデルへ脱却するタイミングを逸してしまったんだと思います。
 唯一まだ可能性があるとすれば、紙の分野で完全に競争に負けつつある企業でしょうね。そんな会社こそ、逆に早くオンラインメディアへ移行すればいい。オンラインメディアの中で比べれば潤沢なリソースを持っているんだから。しかもクロスオーナーシップだからグループにはテレビ局もあったりするでしょう。それも強みになると思いますよ。
 まあでも、申し訳ないけど、僕はもう彼らは死にゆくしかないと思っていて。僕らのような新しいインターネットメディアをやっている立場から言うと、とにかく邪魔だけはしないで、早くその場所を空けてくれるといいなっていうのが正直なところです。
 既存メディアはまず、僕らが情報にアクセスするのをブロックしていますよね。記者クラブによって情報を独占されているから、僕らは取材さえさせてもらえない。たとえば裁判所の傍聴席だって、記者クラブにはリザーブされているけど、僕らは抽選に当たらないと傍聴できないんです。一事が万事そんな具合で。
 そして、多くの国民は既存メディアのニュースを見て、全ての情報を知った気になっています。人って3回しかごはんを食べないじゃないですか。今はうちから情報を出したって、「4回目のごはんはいらない」とはねられてしまうんですよ。だから早く既存メディアにはどいてもらって、うちのごはんを3回目のごはんにしてもらえると嬉しいなと思いますね。

ジャーナリズム健全化の手立ては、受け手側の意識改革

波頭 何か改善の手立てってありますか。日本のジャーナリズム、あるいはメディア健全化の手立て。
神保 僕は、受け手の問題だと思っていますね。
 専門的な言葉になりますが、「伝送路」という言葉があります。簡単に言えば新聞の宅配手段やテレビの周波数などのことで、メディアは伝送路を通して受け手に情報を届けている。グーテンベルク革命以降500年以上、伝送路はすごく希少なものでした。その希少さゆえに、伝送路を持った事業者は、それだけで威張っていられたんです。
 しかしインターネットの登場で、事実上伝送路は無限にオープンになり、誰でも伝送路を持てるようになりました。つまり、今ではジャーナリズムも、誰もが参入できる「普通の産業」になった。とはいえ、ジャーナリズムは公共的な産業だし、しかも公的な資金を入れちゃいけない、唯一のビジネスです。
 今は、こういう新しい環境下でジャーナリズムを成り立たせなければいけない、ジャーナリズムにとって受難の時代だと思います。
 それでもジャーナリズムを成立させる方法はいくつかあります。BBC(英国放送協会。ラジオ・テレビを一括運営するイギリスの公共放送局)などは公的な形でお金を入れながら、どうにか公共性を保とうと苦労してやっているし、プロパブリカ(アメリカに拠点を置く非営利の報道機関)のように、寄付的に公的セクターからお金を集めるやり方をしているところもある。
 うち(ビデオニュースドットコム。神保さんが開局したニュース専門のインターネット放送局)は、「市場からサブスクリプションを集めても、公共的なジャーナリズムは成り立つ」ということを証明しようとしています。
 でも、ジャーナリズム機能を社会の中に残していくことは、こういう工夫をしている事業者が儲かるか儲からないかというビジネス的観点を超えた問題だと思うんですよ。ジャーナリズムの生き残りは、国民一人一人が得る情報のクオリティに直結します。
 つまり、民主主義のクオリティが維持できるかどうかの問題なんですよね。受け手側がそういうふうに、「ジャーナリズムの生き残り問題は、自分の問題でもある」と思うかどうかが重要なんです。
 これまではジャーナリズムなんて特権的な地位にいる人たちが偉そうにやってるものだったから、メディアに対して、皆さんは対岸を見るようにして、石をぶつけてればよかった。でも、もう今はその橋はなくなりました。
 メディアは自分たちで育てていかないとまずいんです。特権があるからと足を引っ張って、何かあったら文句をぶつけるだけっていうスタンスでは、メディアはとても育ちません。
 メディアの環境が大きく変わったこと、その中で公共的なジャーナリズムを自分たちの問題として捉えて、自ら育てていかなければいけないということ。こうした受け手側の認識の変化が必要だと思っています。
 見渡せば、玉石混交ではありますが、新しいメディアにチャレンジしている人は実はたくさんいますから。今はまだメディアに「普通の産業」としてのノウハウがないだけで、受け手側の意識が変わればしっかりビジネスとしても成り立つモデルが出てくるはずです。それはもう時間の問題だと思いますね。
 とはいえ、僕は20年もやっていますが、まだまだですね。大げさじゃなく、新しいモデルの構築には100年くらいかかると思っています。自分で結果を出そうなんて思ったら絶望しか残らないんでね。次の世代にちゃんと引き継いでいければいいかな、という心づもりでやってます。
波頭 今の言葉は僕の心に沁みましたね。僕は神保さんよりもっと小さなコンサルティングをずっとやっていて。自分の利益や成長のためじゃなくて、「本来の戦略コンサルティングってこういう仕事だったんだよ」っていう原型を維持するのが自分の役割だと思って続けてるんですよ。
 神保さんがやられていることとは違うけど、同じような思いがあるんだなと知って、ちょっと嬉しいですね。

メディアの生き残り戦略。メディアにはダイナミックな力がある

神保 最後にひとつ、もしジャーナリズムに興味のある人がいれば、と思ってメディアの生き残り戦略の話をしますね。
 メディアが扱う情報にはまず、不特定多数の人に影響を与える情報があります(A)。それから、多くの人が関心を持っている情報もある(B)。そしてその2つが重なる、影響があって皆が関心を持っている情報もあります(C)。
 ここ(B)は、全く自分に影響はないのに関心がある、いわば野次馬的な情報ですね。
自分に影響はないのに関心がある、野次馬的情報(B)
 逆にここ(A)は影響があるのに関心を持てていない情報で、これを皆が知らないのがまずいんですよね。
自分に影響があるのに関心を持てていない情報=知らないといけないこと(A)
 メディアっていうのは、当然影響のあること(A)を報じなくちゃいけないけど、関心のないことを報じても見てもらえない。だから関心のあること(B)を報じる。だけど、誰にも影響がないことを報じてるって公共的なジャンルとは言えません。だから結局、間(C)しか報じられなくなってしまう。これが最初にジャーナリズムの限界と言われる点です。
 でも、これはスタティック(静的)なメディアの位置づけに過ぎません。メディアにはダイナミック(動的)な見方もあるんですよ。こちらが重要。
 メディアには、影響のある情報(A)に人々の関心をひきつけていくような報道が出来るはずなんです(AのBにかかる領域を広げていく)。つまり、この辺(CとBの境)にあるものをどんどん報じることで、より影響のある問題に、より関心を持たせていくことが出来る。そういう“ダイナミックな力”も我々は持っているんです。
メディアは、間(C)を広げていく力を持っている
 メディアに関心を持っている方がいれば、これはぜひ覚えておくといいと思います。「メディアなんて儲からないでしょ」と言うんじゃなくて、儲かるように出来るかどうかを考える。狭いところ(C)でやろうとしても、影響(A)だけでやろうとしても早晩行き詰まりますし、ただ人の関心を追いかける(B)だけじゃ意義がない。
 この動的な力には、ビジネスとしての可能性もまだまだあると思います。
佐々木 なるほど。メディアには需要創造機能がある、と。アルゴリズムに頼りすぎてしまうと、関心(B)ばっかりになっちゃいそうですね。
神保 そうそうそう。
佐々木 今、神保さんが語ってくださったような、メディアのビジネスにおけるノウハウを次世代が学べる機会ってないのでしょうか。
神保 なかなかないですね。ジャーナリズム、メディア教育自体が日本はほとんどないですから。メディア産業が、そういう情報を自分たちで勉強しながら発信していくことで、少しずつ広めていくしかないのかなと思います。
 いつかは家庭内の日常的なところで、「プッシュされている情報ばかりを消費しちゃダメだよ」「自分でプルするんだぞ」って会話が当たり前に出るようになったらいいですよね。
佐々木 波頭さん、本日はいかがでしたか。
波頭 昨日が総選挙で、実は私もちょっとシュンとしてたんだよね。これだけ論点があって、ギリギリの選択を迫られているところに来てるのに、投票率が55%。史上ワースト3位だからね。
 でも今日神保さんのお話をうかがって、メディアのフロントラインでちゃんと具体的な手立てを持って、ジャーナリズムを立て直そうとしてる方がいるんだって思った。僕もお役に立てるように頑張らなきゃと思いましたね。
佐々木 元気が出ましたね。今日はありがとうございました!
 Rethink PROJECT (https://rethink-pjt.jp

 視点を変えれば、世の中は変わる。

 私たちは「Rethink」をキーワードに、これまでにない視点や考え方を活かして、

 パートナーのみなさまと「新しい明日」をともに創りあげるために社会課題と向き合うプロジェクトです。

「Rethink」は2021年4月より全8話シリーズ(予定)毎月1回配信。

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