2021/12/15

意外と知らない「リースの価値」が今、再評価されている理由

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 シェアリングやサブスクリプションサービスの普及に伴い、「物」を所有せずに体験だけを享受する価値観が広がっている。

しかし、物を貸し出すビジネス自体は古くから存在する。その源流ともいえるのが「リース」だ。オフィスのコピー機やパソコンだけでなく、船舶や航空機もリースの対象になるなど、実は幅広いビジネスであるという。

また、事業主(使用者)に代わって物を所有し循環させるその仕組みから、近年ではSDGsやサーキュラーエコノミーの文脈でも注目を集めている。

これまであまり知られることのなかったリースというビジネスの仕組み、そしてサーキュラーエコノミー(循環型経済)との関係性について、リース業界大手の東京センチュリー常務執行役員・佐藤耕一郎氏に伺った。
INDEX
  • モノからコトで、リースが再評価
  • リースはビジネスモデルが循環型だった
  • ビジネスになるくらいの環境意識を
  • 強固な顧客基盤が、新たな経営の軸を生む

モノからコトで、リースが再評価

──そもそも「リース業」とは、どういったものなのでしょうか?
佐藤 リースとは、主に企業が設備投資を行う際に必要な物を、リース会社から長期で借り受ける仕組みです。
 産業機械や営業で使う商用車、パソコンなどのIT機器、事務用品、さらには人工衛星、飛行機や家畜まであらゆる物がリースの対象になります。
──人工衛星……。そこまで幅広いとは驚きです。
 リースができない物はほとんどないと思います。ただし、リースに向く物と向かない物はあります。
 たとえばIT機器のように、わずか数年で技術革新が進み、陳腐化のサイクルが早い機械を大量に購入するのは企業にとってリスクですよね。その場合は、リースが有効な選択肢になります。
 また、工場の生産ラインで使う機械のように中長期で事業を行うための設備投資の際にも、レンタルよりも割安なリースが積極的に用いられます。
 逆に言えば、トレンド変化による陳腐化リスクが低いほか、短期やスポットでの利用が主になる物件は、リースよりも、レンタルやシェアリングのほうが向いている場合もあります。
──「リース」「レンタル」「シェアリング」は何が違うのでしょうか?
 レンタルはリースに比べ、主に短期間での利用ニーズに対応していて、ユーザー様にとっては中途解約ができる点もメリットです。たとえば、クルマや有期間の建設現場で使用される重機などはよくレンタルが活用されています。
 そしてシェアリングは、レンタルよりもさらに短時間の利用に対応し、個人ユーザー様が主体となります。代表例がカーシェアリングで、15分単位などスポット的な利用も可能です。
 簡単にいえばレンタルやシェアリングは短期利用が前提。リースは中長期の利用が前提で、企業の持続的な経済活動を支えるための仕組みと捉えていただくとわかりやすいと思います。
──「シェアリング」や「サブスクリプション」などのマーケットは盛り上がっている印象ですが、リース業界の市況はいかがでしょうか?
 リーマンショック以降、需要が一時期停滞した時期もありましたが、基本的には底堅いニーズがあります。
 その背景として、近年「モノからコトヘ」と考え方がシフトしつつあることも影響しているのではないかと思います。
 企業活動でいえば、その本質は自社で機械を所有することではなく、それを使って新しい価値を生み出すこと。つまり、自社で機械や道具を所有すること自体は、さしたる意味を持ちません。こうした価値観の変化も、リースが好調な要因の一つではないでしょうか。

リースはビジネスモデルが循環型だった

──自社での購入と比べたリースのメリットを教えてください。
 コスト面や会計処理などの面で、さまざまなメリットがあります。それに加えて昨今では、使用後の処分をリース会社に任せられる点が再評価されています
 所有者であるリース会社が環境関連法に則って適正に廃棄やリサイクルを行うので、環境に負荷をかけることがありません。サーキュラーエコノミーやSDGsの文脈でも、有効な手段として注目を集めているようです。
 東京センチュリーではこうした社会の動きに先立って、2016年から「循環型経済社会への実現に貢献」という経営理念を掲げています。
──リース会社がサーキュラーエコノミーを語ることを、やや意外に感じる人もいるのでは?
 確かに、リース会社とサーキュラーエコノミーが頭の中で結びつく人はあまり多くないかもしれませんね。
 でも実は、リース業自体がもともと3R(リデュース・リユース・リサイクル)を体現するようなビジネスモデルなんです。
 リース会社はモノを新品の状態から廃棄、再利用するまでのサイクルを管理する責任がある。SDGsやサーキュラーエコノミーという言葉が広まる前から、「循環」に対する意識が根づいています。
 そんななか、2016年にあえて経営理念として明言したのは、今後は循環型経済への転換が社会全体の命題になり、私たちが果たすべき役割もますます高まっていくだろうと考えたからです。
──その理念を体現するには、どういった取り組みが必要でしょうか?
 リース会社として最優先で取り組むべきなのは、物の廃棄処分やリサイクルの体制強化です。
 世界的な環境意識の高まりを受けて、今後は企業に対しても物を適法、適切に処理する姿勢がさらに厳しく問われていくでしょう。つまり、物を持つことに対する責任が、どんどん大きくなっていく
 実際、お客様から求められる廃棄やリサイクルのレベルも上がっていますし、リース会社としてもこれまで以上に注力していかなくてはいけないと考えています。

ビジネスになるくらいの環境意識を

──欧米ではグローバルスタンダードを守らない企業は、投資家や労働者から敬遠され、資金調達や人材確保の面でも不利になるといわれています。社会的責任の観点だけでなく、経営視点でも環境への取り組みは無視できないものになっているのでしょうか。
 おっしゃる通り、日本に進出するグローバル企業からは、当然ながら物の廃棄に関してもグローバルスタンダードの遵守を求められます。
 「こういう処理方法でやってもらえないなら、あなたの会社とは契約できません」と。今後は、日本企業もその方向へ向かうのではないかと思います。
──廃棄能力やリサイクル能力を強化する、具体的な施策を教えてください。
 当面は、パソコンをはじめとするIT資産のリファービッシュ*の機能を強化していきます。
*初期不良などで返品された電化製品や情報機器、または使用済み製品の修理・再生を行い、再出荷すること
 私たちは2017年に株式会社TRYを設立し、年間20万台以上のIT機器のリファービッシュを行ってきました。
 すでに国内では最高水準の処理能力を持っていますが、今後はこれをグローバルスタンダードまで引き上げていきたいと考えています。
「ソフトウェア消去」「物理的破壊」「磁気的破壊」の3つの方式で情報機器のデータ消去を行う。
 リースを終えたパソコンやサーバーのデータを消去して再販売するだけでなく、廃棄したIT機器をプラスチックと金属、レアメタル等に分別し、資源としてリサイクルできるような体制も作っていきます。
 このようなIT資産のライフサイクルマネジメントができて初めて、サーキュラーエコノミーを語れるのではないでしょうか。
──リファービッシュ事業は、ビジネスとしても成り立つとお考えですか?
 はい。私どもとしては、これをただのコストセンターとして捉えているわけではありません。
 すでに欧米では「ITAD(IT Asset Disposition)」と呼ばれるビジネスが成り立っています。これは、情報管理や環境保護などのコンプライアンスに準拠した方法で、IT資産を適正に処分するサービスです。
 逆に言えば、日本もそれがビジネスになるくらい環境への意識を高めていかなければなりません。そのためにも、私たちが率先して布石を打っていきたい。
 物を所有する責任から逃げず、アグレッシブに取り組み続けることが、やがて我々の最大の強みになる。そう考えています。

強固な顧客基盤が、新たな経営の軸を生む

──リファービッシュ事業以外に、サーキュラーエコノミーの実現に向けた施策はありますか?
 実は10年近く前からリース業以外に、環境・エネルギー事業にも注力しています。
 2016年には社名から「リース」という業態を表す言葉を外し、金融機能を生かしつつも、サービスや事業を自ら手掛け、新しいマーケットを開拓する側面を打ち出してきました。
 以来、さまざまなパートナー企業といくつもの共同事業をスタートさせています。今後はこれらの事業をさらに拡大し、大きな経営の軸にしていきたいと考えています。
 これはあくまで個人的な見解ですが、私たちが目指すべきは、サーキュラーエコノミー社会における“バリューアップパートナー”だろう、と。
 つまり「サーキュラーエコノミーにまつわるものは、東京センチュリーに任せておけば間違いない」と信頼される企業ですね。そのためにも、当面は再生可能エネルギー事業をさらに推進していきます。
 京セラとは2012年に「京セラTCLソーラー合同会社」を設立し、太陽光発電の売電事業を運営しています。
 また直近でいえば、2021年8月に伊藤忠商事と「IBeeT(アイビート)」という合弁会社を設立しました。家庭用蓄電池システムをサブスクリプションモデルで提供し、脱炭素社会の実現への貢献を目的としています。
 ほかにも、ここ数年は四半期に1度のペースで合弁企業を立ち上げています。
──続々と協業が進んでいるのですね。
 ええ。このスピード感で展開できるのは、これまでの取引を通じて、あらかじめ相互の信頼関係を築けていればこそですね。
 私たちには約2万5000社の顧客基盤があり、さまざまな専門性を持つ企業とつながっています。共同事業のパートナー企業の多くも、もともとは東京センチュリーのお客様でした。
 今後は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた再エネビジネスが国内外で急拡大するでしょう。そのなかで、多様な企業と強固なつながりを持つ私たちだからこそできるアプローチがあるはずです。
 これまでの太陽光発電に加え、洋上風力や水素、アンモニアといった次世代エネルギー、蓄電池なども含めて広義の再エネビジネスと捉え、各分野のプロフェッショナル企業と最適な提携を組むことで拡大を目指します。
 そのためには新たなパートナーシップは欠かせません。これまで接点のなかったスタートアップ企業などとも、ぜひご一緒したいと考えています。
 私たちが目指しているのは、既成概念を取り払い、持続可能な新しいビジネスを創造すること。そのためには、刺激的な新しいプレイヤーの力が欠かせませんし、実際にそうした企業とのリレーションを強めています。
 2019年には、JFEエンジニアリングさんと共同投資ビークル「J&TC Frontier」を設立し、社会課題の解決につながる新技術を持つスタートアップ企業への出資を開始しました。
 環境・エネルギー関連、防災・減災、ヘルスケアなど、現時点で出資先は15社に上ります。こうしたなかからも、将来的に新たな共同事業が生まれていくはずです。