(ブルームバーグ): ソフトバンク・ビジョン・ファンドの日本初の投資先となったバイオベンチャー企業、アキュリスファーマ(神奈川県藤沢市)はスリープ(睡眠)テックの分野で同ファンドが出資する米国企業との提携を検討している。

アキュリスの綱場一成最高経営責任者(CEO)はブルームバーグのインタビューで、最適な睡眠をウエアラブルウオッチで管理する米スリープテック企業との提携の可能性について、同ファンドと協議することを明らかにした。社名については公表できないとした。

神経や精神疾患領域の新薬開発を目指すアキュリスは今年1月に設立された。仏製薬企業バイオプロジェファーマが開発し、欧米で製造販売承認を受けている睡眠障害治療薬「ピトリサント」の日本における独占的開発・商業化の権利を持つ。ビジョン・ファンド2号は10月、日本での第1号案件として他の国内外投資家らと共同でアキュリスに対し68億円を出資した。

ソフトバンクGビジョンファンド、初の国内投資ー三井住友THなどと

アキュリスが最初にビジョン・ファンドと接触したのは5月。ソフトバンクグループの松井健太郎マネジングディレクターのチームに連絡を取り、オンライン会議などを重ねて出資が決まったという。綱場CEOは、ビジョン・ファンドによる出資は「大本命だった。狙いは彼らのネットワークで、デジタルソリューションや人工知能(AI)領域に入り込んでいかねばならない」と語った。

同CEOによると、ソフトバンクGのインベストメントディレクターであるピーター・パーク氏が11月、アキュリスの社外取締役に就任した。

孫社長も注目する睡眠ビジネス

ソフトバンクGの孫正義社長は2016年のビジョン・ファンド設立以来、AIによる社会変革を目指し、自身の目利き力を頼りにロボット開発企業からシェアオフィスの米ウィーワークに至るまで幅広いスタートアップに投資してきた。

同社長が今回、日本での投資テーマの一つに選んだのが睡眠障害。日中に過度の眠気を引き起こすナルコレプシーなどの症状は勉強や仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼすほか、記憶喪失やうつ病にもつながるリスクがあり、深刻な社会問題にもなっている。

ストレスや運動不足、過度のインターネット使用などを背景に、睡眠時間が8時間未満の人々の割合は世界的に増加している。米シンクタンクのランド研究所が16年にまとめた調査研究によると、睡眠に関係した日本の経済的損失は年間で推定1380億ドル(約15兆9000億円)。日本生活習慣病予防協会は、日本人成人の20%は慢性的な不眠状態で、15%は日中に過剰な眠気を感じていると指摘する。

スイスの製薬企業ノバルティスの日本法人前社長を務めた綱場CEOは、これまで数多くの医薬品開発に携わってきたが、「本当に日本の社会課題の解決に貢献しているのか」と疑念を持ち、「50歳を機に自分で起業したいと思った」という。

同CEOは、日本での権益を持つピトリサントは海外で販売されている他の睡眠障害治療薬に比べ依存性のリスクが少ないと優位性を指摘。今後はAIやテクノロジーも活用し、患者の選別や診断、治療の包括的なサービス提供に意欲を示した。また、海外では承認されながら日本ではまだ未承認の医薬品開発にも注力する予定で、てんかんや片頭痛、パーキンソン病などの領域を想定している。

ソフトバンクGの株価は24日、前営業日比3.3%安の6596円と4営業日続落し10日以来、2週間ぶりの安値水準となった。

(最終段落にソフトバンクGの株価動向を追記します)

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