2021/11/18

【佐藤優×北野唯我】ビジネスに、なぜ読書は必要なのか?

元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏と、ワンキャリア取締役で作家の北野唯我氏を迎え、番組「はたらく哲学・前篇」が11月6日に配信された。本記事では、11月18日に配信される「後篇」の内容を一部先出しで公開する。
視聴はこちら(タップで動画ルームに移動します)。

読書とは人生のショートカット

番組後篇のテーマは「キャリアと人生戦略」。佐藤氏、北野氏はビジネスパーソンに向けた読書体験の重要性を説く。今後のキャリアを切り拓く上で、なぜ読書が必要なのか。
北野 社会人がキャリアを積む上で、読書はどのようなメリットをもたらすと思いますか。
佐藤 読書は著者の代理経験を得られます。
 例えば、北野さんが書いた『転職の思考法』を読めば、1500円ほどで転職のノウハウが学べますよね。
 また4〜5時間あれば、1冊読むことができますので、転職コンサルタントに頼むよりも、お金と時間をかけないで済みます。その意味で読書は非常にコストパフォーマンスが高いです。
佐藤優。東京都生まれ。同志社大学卒業後、外務省に入省。在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。著作に『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』など。
北野 私も代理経験を得られることに同意見です。会社経営の実務をしているので実践こそが重要だと以前は考えていましたが、読書をすることで得られる理論も経営に役立つことを知りました。
 読書は自分の寿命を超えた知にタッチできる唯一のツールだと思います。
北野唯我。兵庫県出身。博報堂、ボストンコンサルティンググループなどを経験し、現在、ワンキャリア取締役。戦略領域・人事領域・広報クリエイティブ領域を統括。作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)は23万部を突破。
佐藤 理論とは複雑性を削減するシステムです。自分自身の経験を抽象化するのは何十年もかかりますが、読書はそれをショートカットしてくれます。
 その上で、北野さんが書いた本を読んでいて非常に感じたことが一つあります。それは30代経営者と昔の経営者が執筆した本では、文章の抽象度合いが異なることです。
 昔活躍されていた経営者が執筆した本は、「俺が若い頃は亀に乗って竜宮城に行ったもんだ」のようなエピソード集でとどまっている傾向があります。
 言わば、具体例を抽象化できていない状態です。エピソードは本当なんだけど、そのエピソードを普遍化する作業は、ある程度、学術的な訓練を受けていないとできないことなんですよね。
 なので、今の若い世代が、ソニーの盛田昭夫さんやパナソニックの松下幸之助さんが書かれた経営哲学書を読んでも、役に立たないことがあるでしょう。
 その点で言いますと、北野さんは今の若い人たちの良いロールモデルになっていると思います。北野さんのノウハウが書籍化されていることはありがたいことです。
北野 ありがとうございます。読者は私の本を鵜呑みにしすぎず、本から得た知識を自分なりに解釈して力を付けていただければと思います。

必読の厳選10冊はこれだ

 「はたらく哲学(後篇)」では、佐藤氏・北野氏から今後のキャリアを考える上で役立つ本を紹介していただいた。両作家は、どのような書籍から英知を養ったのか。
 番組では、両氏が厳選するビジネスパーソン必読の10冊を紹介している。本記事では先読みできるようにその一部を抜粋。あなたの今後の働き方を左右する一冊として、ぜひ参考にして頂きたい。

佐藤優氏、推薦の5冊

「意思決定として退却することの難しさを説いた一冊です」(佐藤)
 限られた条件下で人が取る合理的な行動は、不条理な結果を生んでしまうという「限定合理性」を旧日本軍の失敗に照らし合わせて解説している書。限定合理性の中で動いた組織がいかにして失敗するのか。正しくない選択を導いた組織のプロセスが書かれている。
 第4次安倍内閣の国家安全保障局長を務めた北村滋氏が記した、日本のインテリジェンス機関が抱える課題を多角的に分析した一冊。
 なかでも本書で出てくる、経済の視点から国家の安全保障に取り組む「経済安全保障」は押さえたいキーワードだ。
 経済安全保障の主な例として、トランプ政権時のアメリカが、国内で中国の企業「バイトダンス」が運営する「TikTok」のダウンロードの禁止措置を取ったことが挙げられる。
「これから国家がますます経済に介入していくと思います。その条件下でビジネスがどうなっていくのか、若手で起業を目指す人、国際的に活躍しようと考えている人は本書に目を通しておいたほうがいい」(佐藤氏)
 経済安全保障が本格的に推進されるなか、ビジネスルールはどうなっていくのか。本書で把握しておきたい。
 ドナルド・トランプに強い影響を与えたナショナリズム論の名著。
 時代ごとにグローバリズムもしくはナショナリズムの揺り戻しが繰り返されているなかで、保守主義的な考え方は今後社会にどのような影響を与えているのか。
 一般的に誤解されがちな「国民国家の真髄」を問い直す。
 本書は「SDGsは大衆のアヘン」というインパクトのある出だしから始まる。著者である斎藤幸平氏は経済成長を基軸とする、行き過ぎた資本主義が現代の気候変動や環境破壊をもたらすと主張する。
「豊かさとは、良好な職場環境とは何か」など、生きていく上で発生する様々な悩みを、佐藤氏がデカルトを始めとした賢人たちの思想と照らし合わせて、紐解いていく一冊。
 仕事や人間関係などで起きる不安の原因を本書で知ることで、世の中の本質を見抜くために必要な思考を深められる。

北野唯我氏、推薦の5冊

「僕はこの本を読んで自分の未熟さを痛感しました」(北野氏)
 D・カーネギーによる自己啓発書の原点とも呼ばれる一冊。カーネギーがそれまでの人生で培ってきた経験を参考に、人を突き動かすために必要な人間関係の鉄則が示されている。世界的ロングセラー。
「大きな会社で働いているが、果たしてそれは正解なのかなと悩んでいる人に薦めたい」(北野氏)
 マイクロソフトでの重要ポストを拒否した主人公・ジョンウッドが、教育環境の整っていないネパールの学校を立て直すノンフィクション作品。
 その後、287校もの学校を建設したウッドは、発展途上国の教育を支援する「ルーム・トゥ・リード」のCEOとなった。なぜ彼が巨大企業の要職を捨ててまでこの活動に身を捧げたのか、そしてなぜこれだけの成果を上げられたのか、そのエッセンスが本書には詰まっている。
 オフラインとデジタルが融合した「アフターデジタル」の世界で、ビジネスはどのように変化しているのか。
 本書ではアフターデジタルで成功した先進企業の紹介の他、今後加速するDX化に向け、我々が持つべき視点を示す。
 ユニクロ社員が実際に使用しているノートを商品化した一冊。各ページにはファーストリテイリング代表取締役会長兼社長である柳井正氏の格言が書かれており、その欄外は読者が気付いたことをメモできる仕様となっている。
「読めば、読むほど柳井さんは愚直なことを淡々とこなしているのがわかる。私は定期的にこのノートを見直しています」(北野氏)
 転職に必要な思考を学べる本書では、仕事を見つける際の「判断軸」を養える。
「今の会社にとどまるかどうかを考える上でも読む価値はあります」と佐藤氏が推すように、転職希望者以外の社会人や学生でも、学びを得られる内容となっている。
「はたらく哲学(後篇)」では、本記事で紹介した「読書経験の勧め」以外にも「学生時代の過ごし方」や「テクノロジー」などを考察していきながら、キャリアを捉え直していく。
11月18日配信の本編をお楽しみに。