2021/11/16

ニッチなBtoB情報もマスへ届く。『がっちりマンデー!!』発信の秘訣

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
TBSの日曜朝7時30分枠に、17年続く長寿番組がある。その名は『がっちりマンデー!!』。「儲かる」をキーワードに、経済やビジネスのさまざまな情報を視聴者に届けてきた。
なぜ同番組はこれほどまでに愛されてきたのか。ニッチなBtoBの情報までマスの視聴者に届ける秘訣とは?
メディアを取り巻く状況が大きく変化するなか、長寿番組が培ってきた情報発信のポイントを、プロデューサー兼ディレクターの大松雅和氏に聞いた。
INDEX
  • 「儲けるんじゃない、儲かるんだよ」
  • マニアックな業界と暮らしの接点
  • ライバルはNewsPicks?
  • テレビだから、取材させてもらえる情報がある

「儲けるんじゃない、儲かるんだよ」

──『がっちりマンデー!!』といえば「○○でがっちり!」のポーズでお馴染みですが、公然とお金の話を口にするのをためらう企業もありませんか?
大松 ありますね。特に最初の頃は大変でした。声をかけた企業のほとんどに「儲かっていると言いたくない」と出演を断られてしまって……。
 放送を重ねるうちに「お金儲けをいやらしい意味ではなく、ポジティブに捉える」という番組の趣旨が浸透して、徐々に風向きが変わってきました。
 取材では、さまざまな経営者にお会いします。ニトリ創業者の似鳥昭雄会長には、会うたびに「“儲ける”じゃなくて、“儲かる”なんだ」と言われるんです。
 世のため人のためのことをやって、その結果儲かるんだ、と。……「だから金儲けの話はやめなさい」と叱られるんですが(笑)。
 でもまさにそのとおりで、どうやったら良くなるか、どうやったら喜んでもらえるかを考え抜いた人が儲かって、ビジネスを続けている。
 だから『がっちりマンデー!!』では「儲かっている人には必ず理由があり、何かしら他と違うところがある」という前向きな話を伝えられるように心がけています。
──前身の『儲かりマンデー!!』が2004年に始まってから、今年で17年目になります。当初から現在のような「経済バラエティ」として始まったのでしょうか。
 そうですね。バラエティ班から「お金と経済をテーマにした番組をやろう」という企画が立ち上がり、スタートしました。
 初期は個人投資も取り上げていたんですが、企業やビジネスを取り上げたテーマの評判が良く、現在の形にシフトしていきました。
 経済がテーマの番組ということもあり、視聴者には男性ビジネスパーソンを想定していました。しかし実際に始まってみると、最初は20代後半~40代女性の視聴率がグッと上がってきたんです。
──まず女性からというのは意外ですね。
 当時は、経済をやわらかく伝える番組が珍しかったのでしょうね。
 経済番組や日経新聞のチェックまではしないけど、なんとなく経済に興味がある層の心を掴んだようです。そこからより幅広い視聴者に受け入れられていきました。

マニアックな業界と暮らしの接点

──『がっちりマンデー!!』の放送テーマでは、「回転寿司チェーンの秘密」といった身近な業界のみならず、「ポンプ業界だけで30分」などのニッチな領域まで及びます。情報をマスに届ける上で、意識されていることは?
 どんなにマニアックな業界でも、必ずどこかで僕らの暮らしにつながっています。その接点をきちんと伝えるようにしています。
 たとえば過去に何度か放送している「儲かる元素」は反響が大きいシリーズですね。
──儲かる元素? どういうことでしょうか。
 元素がなぜ儲かっているかを調査しました。チタンとリンはどっちが儲かっているか? モリブデンは電子レンジのマイクロ波を出す装置に、ストロンチウムはテーブルなどの塗料に活用されている、とか。
2019年4月28日の放送回では、ベリリウムやコバルト、亜鉛などを取り上げた。
 あまり耳馴染みのない領域でも、「実はこういうところに使われているんです。知ってました?」と伝えれば、驚きと共に、身近に感じてもらえるのではと思います。
──こうしたユニークな企画は、どのように決めているのでしょうか?
 2週間に1回の企画会議で、ディレクター6〜7人と構成作家でアイデア出しをして決めています。経済のプロは一人もいません(笑)。
 だからこそ自分が視聴者だと思って、ニュースを観たり生活したりするなかで抱いた「これはなぜ儲かっているんだろう?」という素朴な疑問からテーマを考えています。
 あえて視聴率が期待できるテーマやトレンドは意識せず、自分たちの興味関心を優先するようにしていますね。
──ニュースから着想したテーマでいうと、最近の例ではどんなものが?
 最近で評判が良かったものだと「僕たち全国制覇しました!」(2021年8月1日放送)という回ですね。
 きっかけは「くら寿司が7月に北海道へ初進出し、全国47都道府県で出店達成」のニュースでした。北海道が最後というのが意外で、「これまで北海道に店を出さなかったのには、何か理由があったのでは?」と考えたんです。
 そこで、いろんなチェーン店の“全国制覇の最後の店”を特集することにしました。調べてみると、ちゃんと経済の話につながるんですよ。
 たとえばワークマンが最後に出店したのは宮崎県。理由は、配送ルートがどうしても大回りになってしまうからでした。そこで近隣の県に店舗を増やし、新しく配送ルートを成立させたそうです。
 また、ネットカフェの快活CLUBは、地場に強い同業他社がいた高知県の進出に、最後まで時間がかかったといいます。
 おもしろい切り口が見つかると、意外な情報が集まって、企画として成立することが多いですね。そもそも“儲かる話”は毎年新しい話題が出てくるので、ネタが尽きません。
──番組が17年続く理由も、そこにあるでしょうか。
 そうですね。それと、当初設定した「儲かっている人に学ぶ」というコンセプトが良かったのだと思います。「あの会社はどうやって儲けているんだろう?」というのは、やっぱりみんな興味があるんですね。
 経済と聞くと遠く感じる人でも、儲かっている話と聞くと「どういうこと?」と前のめりになってくれるもの。コンセプトが普遍的で、さらにネタも尽きないので、ここまで続けてこられたのだと思います。

ライバルはNewsPicks?

──『がっちりマンデー!!』が始まった2004年は、ブログが流行り始め、Facebookがアメリカでサービスを開始した年でした。最近は見逃し配信など、テレビとネットを融合した取り組みも盛んです。
 YouTubeやSNSなどの登場は、それほど番組制作に影響しないのが正直なところですね。
 なぜかと言うと、儲かるカラクリは企業自らは発信しづらく、個人のYouTuberが取材して深く掘り下げるのも難しいでしょう。むしろ、ライバルはNewsPicksのような新たな経済メディアです(笑)。
──大変光栄です。
 ネットの情報発信という意味では、放送開始当初から放送内容の書き起こしを公式ホームページに掲載しており、最近はnoteでの発信を始めました。
 放送がある日曜の朝は、なかなかテレビを見てもらえない時間帯。せめてネットに書き起こしを載せて、どんな内容の番組かわかるようにしようと思い、ずっと続けています。
2004年から続くほぼすべての放送回の内容がアーカイブされた公式ページは、“儲かり話”の宝庫だ。
──視聴者とのタッチポイントで言えば、10月に初めてイベントを開催されましたね。
「出張!がっちりマンデー!! in福岡」ですね。
 これは番組知名度を上げるというより、まったく違うコンテンツ発信の試みです。マスではなく、“ビジネスに強い関心を持つ地方の方々”というコアな層に向けた情報発信ができないかと考えました。
 会場は200人ほど、ほぼ会社経営者の方で埋まりました。
番組初の地方イベント。MCの加藤浩次さんをはじめ、似鳥昭雄氏(ニトリHD会長)や星野佳路氏(星野リゾート代表)、秋元里奈氏(食べチョク代表)らゲストが福岡に集結。ライブ配信も行った
 福岡の“儲かる原石”企業を取材したVTRをもとにトークを繰り広げたり、社長たちがイベント参加者の悩みに答えるコーナーがあったり。
 いつもの『がっちりマンデー!!』とは毛色が違う、より専門的かつ具体的な情報を届けられたかなと思います。
 そして何より、地方の方々は情報よりもコミュニケーションを求めていると実感しました。
 質問コーナーのやりとりが、ものすごく盛り上がったんです。「こんなビジネスどう思いますか?」「いや、そんなのすぐやめなさい」とか。あまりにも盛り上がってしまい、2時間のイベントのはずが3時間半になったほど。
「自分たちのために話してくれる」という、ある意味究極のコアな発信に、すごく価値を感じてくださったのだと思います。第2回をやるなら、この時間を十分に取らなければいけませんね。

テレビだから、取材させてもらえる情報がある

──コアな情報発信も意識される一方で、改めてマスメディアとしてのテレビの強みについては、どう思われますか。
 やはり「リーチを持っている」という点は強みだと思います。こうしたアドバンテージがあるテレビだからこそ、見せて、教えて、中に入れてくれる
 そうして取材で得た情報を、わかりやすく、おもしろくパッケージにできるのも、テレビの強みではないでしょうか。
 番組は、最後まで見てもらわねば意味がありません。いかに視聴者を引きつけ、うまく説明できるかに、スタッフはいつも知恵を絞っています。そうしたノウハウやスキルを身につけた人材も、テレビの強みであり、財産だと思います。
 出演者の力も大きいです。MCの加藤浩次さんは、経営者から話を引き出すのがすごくうまいんですよ。
MCの加藤浩次さんと進藤晶子さん
「ということは、こういうことが大変じゃないですか?」「社長! ここ、すごいポイントですよね?」と、本質をついた質問をよくされるんです。
 収録が終わると、みなさん「加藤さんはすごく勉強しているね」と驚かれるんですが、実は加藤さんには事前の情報をまったく渡していなくって。
──そうなんですか!?
 知的好奇心がとても強い方なので、毎回テーマに対して興味を持って臨んでくださるんです。視聴者目線でしっかり突っ込んで、社長の言葉をうまく翻訳して伝えてくれる。加藤さんのセンスには、いつも助けられています。
──まさに番組コンセプトの「儲かっている人に学ぶ」を体現されているんですね。
 そうですね。業種業態は問わず、儲かっている話を取り上げる番組なので、ビジネスパーソンの方々にとって、何らかのヒントになるはずです。
 ちなみに、出演いただく社長の方々からは「日曜の朝、ゴルフに行く前に見ているよ」と言われることが多いんです。見逃し配信もあるので、気楽に見ていただけると、ビジネスにちょっと良いことがあるかもしれませんね。