米 南部の州 企業のワクチン接種義務化 一時的な差し止め命令
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米国では100名以上の規模の企業でのワクチン接種を義務とするとの政府の法規制定に対しこれの差し止めを求めて行政訴訟が起こされている分の内、テキサス州やルイジアナ州など(南部)を管轄する裁判所からは、憲法違反の可能性があるので差し止め命令が出されたとのことです。
今後が気になりますが、民事における(現状維持目的の)仮差押えのようなものですので正式な判断ではなく、最終的に当該州で「100名以上の規模の企業でのワクチン接種の義務化」が否定されるかはまったくわかりません。また、迅速に「差し止め」ても裁判に際し根拠不備の「却下」とされると法規に基づく接種義務化は迅速に進みます。
(接種義務の法律がなくても)米国では日本と比べ、従業員と雇用主、双方の契約に基づいて雇用関係が成立しているという意識が強いと思います。従業員がワクチンを接種しない自由があれば、雇用主にもワクチンを接種できる従業員に対しワクチンを接種させる自由があるとの考え方から、すでに医療機関や航空会社が従業員に対して新しい就業ルールを通知し、ワクチンを接種しない方に対する解雇や一時帰休もはじまっています。しかしワクチン接種を雇用の条件にするのですから、従いたくない方が辞めることも止められず、急速な従業員減少で事業が成立しなくなることを危惧する意見もあります。
「南部」の件は、接種義務を国家が法規で強制できるかについて争われているものですが、ここで書かれている「憲法」とは「アメリカ合衆国憲法修正第9条(国民が保有する他の権利、1791 年成立)」を指すものと思います。ここには「特定の権利を列挙したことをもって、国民の保有する他の権利を否定しまたは軽視したものと解釈してはならない」ことが書かれています。
全体としては、第9修正条項は、(1)拒否が憲法の特定の権利の列挙に基づいている場合、無数の権利の拒否を明示的に禁止するものの、(2)拒否が憲法の特定の権限の列挙に基づいている場合、無数の権利の拒否は明示的に禁止していないようです。ただし、第9修正条項の解釈は法律専門家でもかなり分かれるようです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Ninth_Amendment_to_the_United_States_Constitutionワクチンの話題ではないですが、テキサス州で人を殺害していない黒人死刑囚の取材をした際、恩赦をめぐる地元の捉え方で象徴的な意見がありました。人の命を奪うかどうかの「人権問題」より、「黒人」の刑を執行するかどうか、知事の政治的な判断が注目されていました。
今回は、南部州の裁判所の判断です。連邦裁もありますが、両者の関係は複雑で、司法に限らずアメリカは「州の判断」が強く出ます。知事や行政の長が共和党か民主党によって違うでしょう。さらにトランプを支持した層は、いろんな意味で束縛されることを嫌う傾向にあるのではないでしょうか。南部の州からの感染再拡大の兆候がないかどうか注視したいところです。ワクチン義務化はなかなかハードルが高く、憲法上の問題として争われるのも仕方がないだろうが、問題はワクチン接種のインセンティブを高めるための方策をあれこれやっても効果が出なかったということ。それだけ米国の社会分断は深刻。