【本田哲也×田中安人】今後求められる「マーケティングとPR」の視点の両立

2021/10/28
NewsPicks NewSchoolでは、2021年10月から「実践パーパスドリブン・マーケティング」、11月から「企業を変革する『ナラティブ』の創り方」を開講します。
実践パーパスドリブン・マーケティング」の講師を務めるのは吉野家CMOの田中安人氏、「企業を変革する『ナラティブ』の創り方」の講師を務めるのは、PRストラテジストの本田哲也氏です。
ともに「パーパス(企業の存在意義)」という時代の流れを捉えた2つのプロジェクト。開講に先立ち、以前からお互いをリスペクトしていたという2人の対談が実現しました。

「ナラティブ」と「三方良し」

──本田さんの今回のNewSchoolのプロジェクトでは、「ナラティブスクリプト」を作り上げることをひとつのゴールとしています。「ナラティブスクリプト」とはどのようなものなのでしょうか。
本田 「ナラティブスクリプト」はPRや広告などを展開する前に、「そもそもどういうナラティブにしたいのか」を可視化するための脚本のようなもので、いくつかポイントはあります。
1つは「パーパス」といった、企業の存在意義。前回も話したように、まだ形式知化や言語化できていない場合は、「パーパス」の追求は必須になります。
それから、「ナラティブ」は企業だけが主役のストーリーではないので、ステークホルダーの未来も描かなければなりません。そのため、「パーパス」と社会の流れや世の中の課題との接合点を見出すことで、全体の物語を作り出していきます。
田中 私もマーケティングの企画を考える際にそのようなアプローチを取るのでよくわかります。企業や社会を俯瞰して見なければいけませんよね。
本田 そうですね。“神の視点”と言えば大げさですが、俯瞰する必要があり、だからこそ当事者には難しかったりします。
いくら優秀な人材が集っている企業でも、自分たちを俯瞰するのは簡単ではないので、私たちとともに作り上げていくイメージです。
田中 俯瞰という考えを聞いて、ドイツの芸術家であるヨーゼフ・ボイスの“社会彫刻”という概念が思い浮かびました。
組織をコンサルティングして「パーパス」を見つけ、ストーリーを作り、どう社会の未来を彫刻していくかー。
「三方良し」の考えでもありますね。
同じ様に私にもマーケティング企画の、カタチがあり、今回のプロジェクトでは受講者にぜひ学んでもらいたいと考えています。わかりやすいところでは、私が提唱する桃太郎理論があります。
私自身、これまでに大変な思いをして気づきましたが、仕事は自分のためだけでは頑張り切れない部分が出てきます。桃太郎も同様で、村人を助けるためだからこそ鬼を倒せたと言えます。
もしも村人を助けるという大義がなければ、彼らは恐ろしい鬼に立ち向かえなかったのではないでしょうか。
本田 家来の犬、猿、雉も、きびだんごだけで命をかけるとは、考えてみればおかしい話ですからね。
田中 家来たちも、村人を助けるためだからこそ頑張れたのでしょう。
私も今まで数々の修羅場を経験しましたが、自分のためだけであれば乗り越えられなかったと思います。しかし、助けたい人達がいたからこそ踏ん張れたと言えます。
このような実践的マーケターとしてのリアルな体験から生み出した、メタ認知や自分を客観的に眺める手法、組織をどうストーリーテリングしていくかの型が、プロジェクトで最も伝えたい部分になります。

受講者像のイメージ

──具体的にはどのような受講者像をイメージされていますか?
田中 一番は壁にぶち当たっているマーケターですね。他には、例えばベンチャー企業の経営層でも大手企業の部長職でも問題ありません。イノベーションを起こそうとしながら、突破できていない人にぜひ受講して欲しいですね。
新しいことをやろうとすると、ほぼ100パーセントの確率で抵抗勢力が出てくるものです。プロジェクトでは、そんな抵抗勢力の壁を突破する方法も教えます。私自身、0→1の事業開発が得意ですが、毎回抵抗勢力との戦いがあります。しかし、その壁を突破できれば、世の中は劇的に変わっていくものです。
もちろん、全員が0→1をする必要はありません。人によっては、1→10や10→100が得意な場合もありますから、自分が何が得意かを把握できるプログラムも用意しています。
また、これからの時代は組織と自分の「パーパス」が合致して働かなければ幸せになれません。プロジェクトでは、組織の「パーパス」と個人の「パーパス」を発見するプログラムも考えていますから、ぜひ新しい自分や新しい風景に出会ってもらいたいですね。
本田 私の講座は「ナラティブ」の作り方がコンセプトですが、受講者にとっては「ナラティブ」があれば何が変わるのか、という疑問が浮かぶかも知れません。
現在は、今まで通りのやり方では商品が売れなかったり、人材が集まらなかったり、投資資金が集まらなかったりと、あらゆる領域で地殻変動が起こっている時代です。
しかし、それらに共通する解決策の1つとして、「ナラティブアプローチ」があります。物語を作ることで人を魅了し、巻き込んでいくという手法です。
つまるところ、「ナラティブ」は「パーパス」の具現化でしかありませんが、物語にならないと物事は伝わっていかないものです。実際に良い物語は人々に語り継がれてきました。
同じように、「ナラティブアプローチ」という物語化は、人が人に伝えるネットワーク効果も生み出し、商品が売れ、社員数が増え、投資家が集まるといった、具体的な変化が起こります。
今回のプロジェクトでは、その「ナラティブ」の具体的な作り方を学べるようにしたいと考えています。
対象者としては、スタートアップの経営者をはじめ、大企業の幹部候補や経営企画といった人材はもちろん、商品の売買や採用を考えるとマーケターや人事も当てはまります。
今までのやり方でうまくいかなくなりモヤモヤを抱えていたり、事業に決定打がないと悩んでいる方には、うってつけのプロジェクトになるはずです。
(写真:kieferpix/istock.com)
田中 物語化自体が、人々が伝え聞くネットワークを生かした営業活動とも言えますね。
本田 それこそがナラティブの本質になります。ただ、流通するのは本物の物語だけです。今の世の中は、フェイクの物語は流通しない時代に移って来ています。

“規模の戦い”から、“ナラティブの戦い”へ

──最後にマーケティングとPRというそれぞれの視点で、お二人は今後の世の中がどう変化すると見ているか、教えてください。
田中 どこの企業も、今は自分たちの存在価値を見つけたがっている印象があります。その流れから、今後はトヨタ自動車の「トヨタイムズ」に代表されるように、オウンドメディアに力を入れる企業がより増えていくのではないでしょうか。
まずは自分たちの「パーパス」や「ナラティブ」を作ることは大前提です。そして、発信を考えれば、オウンドメディアが最適解ではないかと思います。
ただ、オウンドメディアでの発信をメディアに見つけてもらい、マスに展開されていくという流れをコントロールできる人材はまだまだ少数です。
そう考えると、今後求められるのは、マーケティングとPRという両方の視点を持ちながら、さらにディレクションもできる人材になるでしょう。
本田 確かに、今や「パーパス」や「ナラティブ」を当たり前のように理解できている組織でないと、結果が出ないようになってきたという実感はありますね。
田中 あとは、私自身、最近は“競争”ではなく“共創”を企画に盛り込むようになり、共創の時代へ突入していく予感はあります。
同じ価値観の相手と議論を深めていければ、ネットワークは豊かになるものです。今回のプロジェクトにも言えることですが、価値観の近い人たちと考えを共有するとも言えます。
マーケティング業界でも数年ほど前からCMO同士での横のつながりが増え、電話で直接「あの案件ってどうっているの?」と、コミュニケーションをとるようになってきました。
一昔前あれば考えられない状況ですが、ネットワークによって情報を共有し、価値観の近い相手と議論することで、日本のマーケティングレベルが確かに上がっている実感はあります。
(写真:kieferpix/istock.com)
本田 PR目線としては、今後のビジネスにおいては、“ナラティブ力”が重要になっていくのではないでしょうか。
昨今の炎上案件や失敗例を分析すると、批判されるかどうかの分かれ目は「ナラティブ」があるかどうかに大きく左右されていると見えます。日本の政治はその代表で、説明が不足しているかどうかではなく、そもそも「ナラティブ」がないから共感を得られず批判も受けやすいと言えそうです。
そして、現代はSDGsやESGの重要性が高まり、価値観が多様化して多くのステークホルダーを巻き込まなければ物事が成立しない時代です。
その異なる考えの人々やグループを効率よく効果的に巻き込む解決策が「ナラティブ」であると考えれば、ビジネスの潮流はこれまでの“規模の戦い”から、“ナラティブの戦い”に移っていくはずです。
(構成:小谷紘友 )
NewsPicks NewSchoolでは、2021年10月から「実践パーパスドリブン・マーケティング」、11月から「企業を変革する『ナラティブ』の創り方」を開講します。詳細はこちらをご覧ください。