【安田雅彦】価値を創る「ピープルマネジメント」のグランドデザインとはなにか

2021/10/28
プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月30日(土)から「価値創出のピープルマネジメント」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンにて「HRビジネスパートナー」を務め、ラッシュジャパンで人事統括を務めたのちにWe are the peopleを創業した安田雅彦氏です。
開講に先立ち、安田氏へのインタビューを実施しました。

これまでの人事キャリア

NewsPicks NewSchoolにて「価値創出のピープルマネジメント」のプロジェクトリーダーを務める安田雅彦と申します。
まず、私がどのように人事のキャリアを歩むことになったのかをお話させてください。
私は名古屋の南山大学を卒業後、新卒で1980年代に最盛期を迎えていた西武セゾングループの西友に入社し、1993年に人事部に異動になりました。
当時は大量採用時代で、西友も学卒300人、高卒600人といった規模での採用をしていました。
4月に新入社員研修をやり、研修後に3ヶ月、6ヶ月といったフォローを実施。そのタイミングで次の年の採用計画を立てる、こんなサイクルの仕事を黙々と続けていました。
そんな中、バブルがはじけて新卒採用は大幅な縮小を余儀なくされます。
私は既存社員やパート社員の教育訓練を主に担当、程なくして子会社であったアウトドアブランドのエル・エル・ビーン・ジャパン(現在のエル・エル・ビーン・インターナショナルの前身)に出向しましたが、その会社も業績の影響でL.L.Bean US本社とのライセンス契約を終了、精算することになってしまいました。
本社に戻ろうとした2001年当時は、コンビニの台頭などでスーパーマーケットはガタガタ、業界の雄であったダイエーが経営不振に陥るなど、総合小売業の地図が大きく変わり始めた時代でした。
安田 雅彦/株式会社 We Are The People 代表取締役
1967年生。1989年に南山大学卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向後に同社を退社し、 2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からジョンソン・エンド・ジョンソンにて Senior HR Business Partnerを務め、組織人事や人事制度改訂・導入、 Talent Managementフレーム運用、 M&Aなどをリード。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、 2015年より2021年7月末までラッシュジャパンにて Head of People(人事統括責任者・人事部長)を務める。現在は、株式会社We Are The Peopleを創業し、「ヒトの成長でビジネスをドライブする企業」「誰もが働きたいと思う職場」づくりに尽力。ソーシャル経済メディア「 NewsPicks」プロピッカー
だったら「人事のプロの道を突き詰めよう」と思い、当時人事のポジションを募集していたGUCCIに転職しました。現在のケリングジャパンです。
GUCCIでは西友時代よりも広範囲に渡る人事業務に携わることができたのですが、一方で「外資系HRというキャリアの世界があるんだ」ということも知りました。
だったら、このエリアで勝負してみよう!と思い立ち、グローバル規模で人事に関し先進的な企業を探し求め、縁あってジョンソン・エンド・ジョンソンに入社することになりました。
まだGAFAの影響力は今ほど無い時代、世界基準の働き方やリーダーシップのプロファイルは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのような外資消費財や外資金融がスタンダードを示していました。
「我が信条(Our Credo)」をベースとする経営とそれを実現するための人事・組織戦略、グローバルレベルでの人事オペレーションの変革、大規模なM&Aにおける人事実務、「人事ビジネスパートナー」という概念とその実際など、ジョンソン・エンド・ジョンソンでの業務は非常に学びになりました。
戦略人事とは何か、組織文化・価値観をどう浸透させるか、私の考え方のベースはこのジョンソン・エンド・ジョンソン時代に培われたと言えます。
2013年には、イギリスの製薬会社アストラゼネカから声をかけて頂き、転職することになりました。今ではコロナワクチンでも有名な企業です。
ジョンソン・エンド・ジョンソン時代には医療機器ビジネスに携わりましたが、成長と変化が著しい巨大製薬企業、いわゆるメガファーマのことはいつも気になっており、その組織や戦略に強い興味を持っていたからです。
アストラゼネカではBPのパートナーの統括、初めて「マネジャーのマネジャー」という仕事が経験できました。しかし、まだ国内に「人事」のタイトルを持つ「上司」がいた。
人事の上司がいないポジション、つまり人事部門の最終責任者になりたいと思っていたところ、2015年にラッシュジャパンに人事統括責任者として入社する機会を得ることができました。
ラッシュは私が想像していたよりもビッグビジネス、当時は世界49カ国で960店舗もあり、入社した頃は日本国内にも130店舗ほどありました。
更にラッシュジャパンは神奈川に自社の工場を持ち、ハンドメイドで商品の製造を行っていました。そして、そこからアジア7カ国のラッシュ店舗に輸出、つまり日本はアジアの製造拠点になるわけですが、このことは私が今までのキャリアで経験したことが無い「複雑性」であり、人材マネジメント・職場環境整備などのあらゆる意味での「原点回帰」となりました。
また、ラッシュは「化粧品ビジネスを通じて世の中をハッピーにする」「倫理観を全ての判断基準とする」という、いわゆる「パーパス(企業の存在意義)」が際立っている会社。
理念や価値観に一糸の矛盾も無く従うと会社・組織はどうなるのか、ということをラッシュの経験で学びました。ラッシュに務めたのは6年ほどで、最終的に企業人事でのキャリアは30年近くになりました。
この当時から、ラッシュのブランドプレゼンスを高めることに併せ、長きに渡る人事キャリアをシェアし、色々な方の参考にして頂くするという意図もあって、NewsPicksの登壇や中小企業へのアドバイスなど、様々な活動をさせていただきました。
そんな活動を続けるうちに、自分自身の中にも新しい機会にチャレンジをしたい!という野心がふつふつと湧き上がり、昨年We Are The Peopleという自らの会社を立ち上げ、今年7月末をもってラッシュを正式に退職、現在に至ります。

ピープルマネジメントのグランドデザイン

今回は、NewSchoolのプロジェクトのコアとなる「価値創出のピープルマネジメント」の概要について少しだけお話します。
今回プロジェクトを検討いただいている方は、現在人事をされている方も、人事をされていない方も、いろんな方がいらっしゃるかと思います。
昨年は産業医の大室正志先生と一緒に担当させていただきましたし、2019年にはNewsPicksアカデミアでもゼミを持たせていただきました。
プロジェクトを振り返ると、参加者の半分以上は人事以外の方でしたし、今回のプロジェクトもすべてのピープルマネジメントに関わる人に学びのある内容にしています。
ピープルマネジメントといっても指し示す範囲がとても広いですが、私がイメージするピープルマネジメントのグランドデザインをお話させてください。
こちらの図をご覧いただければと思いますが、私はピープルマネジメントの最終ゴールは、
「ヒトをドライバーとしたビジネス成長・スタッフエンゲージメントの向上・ビジネスを通じた価値の創出」
と位置づけています。
そのためには、ビジネスゴールと整合性のある人事・人材戦略、すなわち戦略人事が不可欠です。
「戦略人事」というと、難しい定義になりがちですが、シンプルに表現すると中長期のビジネスゴールを見据え、組織能力をどう成長させていくかという話です。
例えば、行きたいゴールから逆算すると、現在の組織は能力がまだまだ無い状態です。これは当然なのですが、将来いきたいところにいくための能力と、現在の能力とのギャップを計り、どのように戦略的に進めていくかー。これこそがまさに戦略人事と考えているのです。
そしてこの「ギャップ」を埋めるためには、究極的に言うと、今いる人材を育てるか、他から採用するか、しかありません。これらをどういうタイムラインで優先順位をつけてプランを立てていくか。それこそがタレントマネジメントであり、サクセッションプランに繋がります。
サクセションプランとは何でしょうか。
「後継者を育成しましょう」という話をすると、大体の経営者の方は「自分が居なくなったら」、「その人が転職したら」というように、リスクマネジメントの観点から見るケースが多い。
それも大切なのですが、ここでのポイントはそれではないのです。
自社・自部門の組織能力は、去年よりもどれぐらい上がっているのか。タレント育成はどれぐらい進んでいるか。
それらを「経営者・重要ポジションの後継者にふさわしい能力のある人材が、いまの組織にどれくらいいるか」という視点でレビューし、その「人材」をより充実させるためにどのようなアクション・育成戦略をとるのか。これが私の言う「サクセッションプラン」のポイントです。
そして、このような人材育成を進めていくための「土台」となるのが「給与報酬の制度」、「評価制度」、「等級昇格制度」、「人材育成制度」などの人事制度です。
順に見ていきましょう。
「給与報酬の制度」とは、給与体系の中に、やれば報われる、やる気がでる、市場性がある、という内容が含まれているということ。
「評価制度」は、納得性が高く、人材育成にも繋がるということ。
「等級昇格制度」はフェアで納得感がある、チャレンジ意欲が湧く、機会均等であるか、といったところが挙げられます。
最後の「人材育成」は制度なのか? という疑問があるかと思いますが、主体となるのは本人と、上司という人間同士の話です。組織に所属している人が、仕事を通して成長できるような仕組みを、体系的に捉えていくことが大事になります。

良好な関係性を組織の中に持つ

「価値創出のピープルマネジメント」を実現するために、その根幹として大切にすべきことが2つあります。
一つは、いかに良好な関係性を組織の中に持つということ。
「人間関係は相性」と考えがちですが、決してそうではありません。
最近は「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉もよく聞かれますが、「違い」を体系的に理解すること、組織の関係性・コミュニケーションにおいて自己理解・他者理解・他者受容のプロセスを持つこと、そして1on1meetingの習慣化やフィードバックカルチャーの浸透など、不断の努力で良好な関係を維持こと、さらにその関係性を維持する仕組みをきちんとつくることが極めて大事です。
そして、何よりこの関係性の質の向上の鍵となるのがその企業の「パーパス」です。
パーパスとは、「われわれは何者なのか」という存在意義。図で表現されているように組織文化や価値観にも繋がるため、人事に限らず組織全体としてパーパスを明文化することは非常に大事になってきます。
そして、明確にするだけでなく、高度な経営判断からオフィスルールに至るまで徹底し、そしてそれらの浸透度を定期的に確かめる必要があります。
ここまでの話と少し粒感が変わってきますが、例えば、評価制度をパーパス浸透のシステムと位置づけることもあります。
これまで評価制度は賞与や昇給の計算ツールと理解されてきた部分があると思いますが、それだけではありません。
この会社で働くとはどういうことなのか、この会社で発揮するパフォーマンスとはどういう状態を指すのかー。
全ての人事制度は「メッセージ」でなければならず、このような内容を評価制度に組み込むことも、パーパスの組織浸透に大きく貢献するものと考えます。

組織文化や価値観

もう一つ大事になってくるものは、「当社らしさ」や「当社の価値基準」といった組織文化や価値観です。
私が過去5社で働いてきて、理念や価値観そしてパーパスが徹底されていたとはっきり言える会社はジョンソン・エンド・ジョンソンとラッシュの2社しかありません。
この2社に共通していたことが4つあります。まず一つ目は、パーパスのような理念などが「成文化され、周知されていること」です。ウチの会社はこれを大事にしているよ、という看板が掛かっているイメージです。
二つ目は前述していますが、それらが「あらゆる判断・ルールに徹底され、矛盾がないこと」。経営判断や人事制度はもちろんこと、オフィスルールやセールスプロモーションにも徹底されている。
三つ目は「浸透度合いを定点観測(サーベイ)し、できていない部門・チームに改善を促すこと」。できていないことを放置せず、その状態を改善していくために、どういうプランでアクションしていくか、どうパーパスにコミットさせるか、ということを、徹底的にやっていました。
そして最後四つ目は「価値観や大切なことについて社内で定期的に議論すること」です。「議論する」という、それだけの時間を持つということが大事です。
先の2社でも理念や価値基準について議論する時間を定期的に持っていました。正解のない議論をひたすらするだけの時間です。
例えばラッシュでは「We Believe」という信念がありました。年に数回、世の中の出来事に理念を照らし合わせて、一般の社員からリーダーシップチームまで全員で議論していました。それは参加者全員が同等の立場での議論です。
いずれにせよ、「その会社が掲げている理念(パーパス)に自分たちの行動は通ずる」という文脈を持つことが、組織のエンゲージメント向上に繋がっていきます。
これまでお話してきたことを、整合性を持ち、戦略的に設計していくことこそが、人をドライバーとしたビジネス成長や、スタッフエンゲージメントの向上を含めた「価値創出」のピープルマネジメントのロジックとなります。
具体的にどういったプロセスや手法で実現させるか、どのように制度に反映させるか、仕組みにするか。
こんなことをプロジェクト内で対話を重ねながら、詳しくお話していきたいと思います。本当の「正解」を持っているのは皆さん自身だと私は考えます。
ご応募、お待ちしております。
(構成:赤坂太一、写真:Takumi Fukushima)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月から「価値創出のピープルマネジメント」を開講します。詳細はこちらをご覧ください。