2021/10/13

サステナブル時代に求められる「企業変革」とは?

NewsPicks studios インターン
ビジネスにおいても環境や人権、サステナビリティが重要視される時代。企業はどのように新しい価値を生み出していくべきか?
NewsPicks主催のトーク番組「New Session」では「デロイト流SX(Sustainability Transformation)の手引き」をテーマにセッションを実施。モニターデロイト/デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、シニアマネジャーの田中晴基氏と執行役員の丹羽弘善氏に、サステナビリティ時代の経営戦略について聞いた。

企業は「変化」に翻弄される

──多くの企業がSDGsを掲げるなか、外部環境はどのように変化していますか?
田中 今の外部環境を表す3つのキーワードがあります。
1つ目の「外部不経済の内部化」とは、サステナビリティに対する消費者の意識が変わり、環境破壊や人権侵害など「外部不経済」とされていたものが内部化して、企業の利益や価値に影響を与えることです。
2つ目は、環境や人権など非財務テーマにおける「何を、いつまでに、どこまで対応すると賞賛/批判されるのか」という“物差し”が、ステークホルダーの期待や世論の高まりによって変化することです。企業にとっては脅威や機会の到来がとても予見しにくい状況です。
最後の「コロナからのグレートリセット」とは、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済状況からただ戻るのではなく、より善い社会として経済復帰することを意味します。
各国の政府が、このグレートリセットを後押しする足元の状況において、1つ目に挙げた「外部不経済の内部化」や2つ目の「企業価値の“物差し”の変動」が加速していくと思います。
田中晴基。モニターデロイト CSV/Sustainability Lead。電機、不動産、鉄道、金融、エネルギー、航空など多様なクライアント企業に対し、サステナビリティを基軸とした経営変革を支援。特に気候変動や循環経済をテーマとしたビジョン・戦略策定、既存事業変革、新規事業創出・立ち上げ支援などに強みを持つ。直近ではアニマル・ウェルフェア(動物愛護)等のテーマも取り扱う。

パーパス経営の実装とは?

──企業の在り方が問われる社会状況で、経営におけるサステナビリティの位置付けはどのように変化しているのでしょうか。ビジネスとサステナビリティの融合は実現可能なのでしょうか。
田中 これまでのようにビジネスとサステナビリティを分けて考えるのは限界です。両者が「トレードオフ」の関係にある中で、企業が外部環境の変化に対応することは極めて難しく、投資家はじめステークホルダーの期待にも応えられないでしょう。
なので、これからは最初の目標設定からビジネスとサステナビリティを融合して考え、両者を「トレードオン」の関係にシフトしていくことが求められます。
もちろん言うはやすしで、こうした変化は簡単には成し得ません。どのレイヤーでも良いので小さな成功体験を少しずつ重ねながら、組織変革を進めていく必要があります。
──ビジネスとサステナビリティの融合を実現させる上でのポイントとは何でしょうか。
田中 足掛かりとなるのが、「5つの論点」です。
図にある1つ1つの論点にビジネスとサステナビリティの視点を込めながら、一連の戦略ストーリーとして紡ぎ上げることが一つの方向性となります。
──「5つの論点」で特にキーとなる点はありますか。
田中 田中 1〜3の「何を大義とするか」、「どこで戦うか」、「どう勝ち抜くか」はストーリーの核であり、一体として検討することが重要です。
「何を大義とするか」は企業のパーパスですが、これが足元の事業とつながらないケースが多々あります。パーパスを起点にいかに「どこで戦うか」にあたる事業ポートフォリオを変えるかがポイントです。
例えば、事業ドメインを「脱炭素」や「サーキュラーエコノミー」といった社会課題解決軸で定義する例も出始めています。そのうえで、ビジネスモデルや事業戦略もリフレーミングやCSVの観点で見直します。このプロセスを1度ではなく、反復して考えることで、全体のストーリーが固まっていくでしょう。

「エゴ」から「エコ」への展開

田中 特に、「5つの論点」の3つ目にある「どう勝ち抜くか」はこれまでと少し視点を変える必要があります。
今まで企業はターゲット顧客の課題解決を市場と捉え、その中で機能・品質・価格を軸に、基本的には一社単独の力で戦うことが主でした。
しかし、これからは社会課題解決が市場となります。一社単独ではなく、政府や自治体、NGO/NPOなどと連携した問題提起により新たな市場を興すことが必要です。
その中では、従来的な機能や品質、価格に加え、ステークホルダーの共感を呼び込む大義の大きさや、市場において自社の優位性を確立し得る強かなルール形成が新たな競争軸となりつつあります。
つまり、これまでの「Ego System」から「Eco System」に考えを変換すべきなのです。

日本企業はどうやって生き残るか?

──世界中で問題視される気候変動によってビジネスにどのような影響が起きていますか?
丹羽 世間の気候変動に対する意識は、2015年のパリ協定前後で大きく変わりました。その理由は、金融機関が気候変動は「第2のリーマンショック」になる可能性があると表明したからです。
他にもNPO法人やグレタ・トゥンベリさんらの一般市民が声を上げたのも、注目が高まった要因です。
丹羽弘善。デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。気候変動、及び中央官庁業務に従事。製造業向けコンサルティング、環境ベンチャー、商社との排出権取引に関するジョイントベンチャーの立ち上げ、取締役を経て現職。システム工学・金融工学を専門とし、政策提言、排出量取引スキームの構築、気候変動経営戦略業務に高度な専門性を有す。気候変動及び社会アジェンダの政策と経営戦略を基軸とした解決を目指し官民双方へのソリューションを提示している。
その影響によって、企業も気候変動を無視できない状況となり、今ではステークホルダーに対する企業の姿勢が変わっています。
企業は投資家に対して積極的に企業価値を提示していましたが、今では一般市民にも企業価値を提供する考えが出てきています。
二酸化炭素排出量が多い製品を作る企業に追加で関税がかかるなど、気候変動対策が重視される中で、企業は情報を収集しつつ、戦略的にビジネスを考える必要があります。
──気候変動問題がビジネスに影響する中で、日本企業が生き残るには何をすべきでしょうか?
丹羽 日本は世界に比べ、気候変動の影響を受けやすい国です。エネルギーや資源の自給率が非常に低く、島国で輸入にかかるコストが高いため、世界のカーボンニュートラル化が進めば日本企業の国際競争力が低下する恐れがあります。
結論から言うと、日本企業がカーボンニュートラルの取り組みで世界に秀でるためには“サーキュラーエコノミー”しかありません。
サーキュラーエコノミーとは、人口増加に基づく資源の枯渇などを踏まえ、“無駄なく“”合理的に”モノを使い続ける概念です。メルカリなどのマッチングはサーキュラーエコノミーのビジネスモデルのひとつです。
海外から輸入したモノを日本国内で循環させ、新たな資源を生み出すサーキュラーエコノミーを構築すれば、日本企業の競争力は向上すると思います。
──具体的にどういったモノがサーキュラーエコノミーのサイクルに乗ることができますか?
丹羽 例えばプラスチックなどはリサイクルし続けることが可能です。またモノが壊れた時に修理して使い続け、バージョンアップさせることもサーキュラーエコノミーのビジネスモデルになります。
今までのリサイクルは、不用となったモノを循環させてもモノの価値はそのままでした。しかし、現在はアップサイクルという方法があり、パンのかけらからビールを造るなど、リサイクルを通じて新たな価値を付与できます。
──その上での日本企業の勝ち筋とは?
丹羽 そもそも日本の強みとは高品質、高耐久性であると考えます。これはサーキュラーエコノミーの概念と親和性が高いです。壊れた部品を修理してアップデートすることをリファービッシュと言いますが、モノを長く使ってもらい、メンテナンスの段階で顧客と接点を作ることでビジネスの勝機も見えてくると思います。
また最近デマンドチェーンが、気候変動の文脈でも取り沙汰されています。これは需要を起点として生産プロセスを構築することです。
これにサーキュラーエコノミーの考えを融合させると、需要を把握しながらも、環境に配慮した製品を提供することができます。
デマンドチェーンを構築する上で重要なポイントは、顧客の情報を得るというITの技術の進展が重要になります。アパレル業界はこの流れが浸透しています。大量廃棄が問題になっている中、ペットボトルから靴を作るなど、アパレル業界の動きには参考になることが多いと思います。
高品質のモノを長く使う習慣を構築し、サーキュラー型のビジネルモデルにシフトする。そこにデマンドチェーンの構築を組み合わせ、相乗効果を狙うことが、日本の勝ち筋になるでしょう。
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