2021/10/19

「サプリメントvs食事」の議論はもう終わりにしよう

NewsPicks Brand Design editor
コロナ禍で健康意識が高まり、普段の食生活を見直した人は多い。ここで多くの人が悩むのが「どこまで食事だけで頑張るべきか」、つまり、サプリメントをどれくらい摂り入れるべきかという問題だ。サプリメントのほうが効率がいい気もするが、食事だけで頑張ったほうが体にいい気もする……。こうなると、「大問題」と言ってもいい。
そこで今回は、日本で先駆けて「サプリメント」という表現を用いたファンケルの、機能性食品研究所所長・寺本祐之氏に取材。この大問題に答えを出す。
INDEX
  • 高い、怪しい。30年前のサプリメント事情
  • 「いきいきとした毎日に」。曖昧すぎる表現の理由
  • サプリメントは「養殖」された栄養素なのか
  • 「量」で勝負するサプリメントを選んではいけない

高い、怪しい。30年前のサプリメント事情

人生「100年時代」と呼ばれる今、将来的には多くの人が75歳を超えても現役で働き続けるとされる。疲れやすさを感じはじめる30代、40代のビジネスパーソンであれば、「パフォーマンス高く働き続けるために、今から何か対策しなくては」と考えることだろう。
ここ1年に関して言えば、コロナ太りを解消する目的で生活習慣を改めるケースも少なくない。
運動をはじめ、睡眠環境を整えて、酒量を改め、外食を減らし……。こうした対策を講じるうちに気になりだすのが「サプリメント」の存在だ。サプリメントは、食事よりも効率よく、自分の体にいい影響を与えてくれる、つまりは「効きそうな気がする」からだ。
実際、毎日サプリメントを摂取する人は約30%。過去に一度でも利用したことがある人は約80%というデータもある(※ファンケル「健康ニーズ調査2020」)。
出所:ご自身に関する健康ニーズ調査/ファンケル
その一方で、「必要な栄養素は食事だけで摂るべきだ(サプリメントに頼るのはよくない)」「サプリメントは効果が怪しい」と考える、「サプリメント忌避層」とでも呼ぶべき人たちも存在する。
「サプリメントに対して世の中の人が感じる『怪しさ』は、私たちも理解しています。ファンケルが健康食品事業を開始した1994年から、現在に至る27年は、それとの闘いだったと言っても過言ではありません」
こう話すのは、ファンケルの機能性食品研究所所長・寺本祐之氏だ。
ファンケルは、1994年に日本で先駆けて「サプリメント」という表現を用いて健康食品市場に参入。
当時、健康食品はすでに多く存在していたが、「桐箱に入ったローヤルゼリー」のように高価で手が出しづらかったり、訪問販売や限られたネットワークでのみ販売される商品も多く、手軽に手に入れられない状態だった。
「機能を表示をしてはいけない」というルールがあるのみで、機能性の担保の基準が存在しなかったために、高い上に効用が怪しいものもあったという。
「ファンケル創業者である池森の『アメリカのように誰もが日常的に必要な栄養素を摂取できるようにして、日本人を健康にしたい』という思いから健康食品事業がスタートしました。
『サプリメント』という表現を用いたのは、アメリカを見本にしたことと、それまでの怪しいイメージを払拭する意味があります。
ファンケルがサプリメント事業開始初期に作ったサプリメントたち。
具体的には、1ヵ月1万円以上が当たり前だったサプリメントの相場を、過剰包装の撤廃や、通信販売方式による代理店マージンのカットによって2000~3000円という正常な価格にしました。
安かろう悪かろうではなく、お客様に安心して飲んでもらうための工夫も続けています」(寺本氏)
そこから約30年、ファンケルのようなサプリメントのパイオニアの努力もあって、ようやくサプリメントは私たちにとって身近な存在になってきた。しかし、私たちはまだサプリメントについてよく知らない。
そもそも、サプリメントとは何なのか。私たちは、サプリメントとどのように付き合うべきなのだろうか。

「いきいきとした毎日に」。曖昧すぎる表現の理由

基礎的なことからおさらいしていこう。
まず、サプリメントとは、健康の維持・増進が期待できる特定の成分を濃縮し、錠剤やカプセル状にしたものだ。ただし、食品衛生法の分類ではあくまで「食品」。つまり、薬とは違って、すぐに痛みを改善するなどの即効性はなく、病気の治療を目的には使えない。
忌避層に多い「サプリメントは効果が怪しい(効かない)」という意見は、薬とサプリメントの役割の混同によるところが大きいのではないだろうか。寺本氏は、次のように説明する。
「不足すると良くないビタミンやミネラルのような栄養素を『補う』役割と、健康を維持・増進する役割。この2つが、サプリメントが持つ大きな役割です。
なかには摂った翌日から便の状態が変わるようなものもありますが、多くのサプリメントは1~3か月ほどの時間をかけて徐々に体調に変化が現れます。その形状から、感覚的に誤解する人もいますが、『サプリメント=弱い薬』ではないんです」(寺本氏)
極端なことを言えば、不調なく過ごせていることがサプリメントが「効いている」証。摂ったからといって、体の悪い症状が劇的に良くなったり、病気が治ったりするものではないのだ。
「薬」と「サプリメント」を区別するものとして食品衛生法と薬機法があるのだが、実はこれもサプリメントを長らく「怪しい」存在にしてきた一因だ。
たとえば、サプリメントは薬と誤認されないよう、体の構造や機能への効果効能や用法用量を謳うことができない。そのため、配合された成分に期待できる効果を「いきいきとした毎日に」「瞳はっきり」といった曖昧な表現で伝えるしかなかった。
「まるでジェスチャーゲームですよ(苦笑)」と寺本氏。すると、私たち消費者にとっては「何に効くのかわからない」という印象になる。
それが改善されたのは、2015年。消費者庁による「機能性表示食品制度」が導入され、企業側がエビデンスを出すことができれば、サプリメントの持っている機能を記載できるルールになったのだ。
アメリカなどでは30年以上前に実現されていたことで、遅すぎる感はあるが、この制度導入は双方にとってメリットがある。
ファンケルの「えんきん」は、2015年6月に、本初の目の機能性表示食品として発売を開始。「手元のピント調節力をサポート」すると、具体的な効果を謳っている。2021年4月に「手元のピント調節力の維持」「ぼやけの緩和」に加え、「目の疲労感の軽減」の機能を追加し、リニューアル発売。※2021年4月リニューアル商品パッケージ。
「『薬以外はすべて食品』という分類だった時代は、食品衛生法の範囲で体に害のないサプリメントを作るだけでよかった。効果効能を示すためのルールもなかったからです。ですが、今は効果を謳うためには、機能や安全性についてのエビデンスが必要です。
これによって、お客様は自分に必要なものが選びやすくなり、知名度の高い成分の人気にあやかったサプリメントの売り方は淘汰されつつあります」(寺本氏)
実際、効果を表示できるようになったことで、ファンケルの売り上げは2014年度の232億円に対し、2015年度は286億円、2016年度は320億円と大きく伸長。昨年度は411億円に到達している。

サプリメントは「養殖」された栄養素なのか

次に検証したいのは、忌避層の「必要な栄養素は食事だけで摂るべきだ」という意見だ。サプリメントに含まれる栄養素は人工的なものであり、食品から摂る栄養素のほうが健康的(な気がする)。
非常に感覚的なことだが、「たしかに」と共感した人も多いのではないだろうか。しかし、寺本氏の話を聞くと、「サプリメントか食品か」という対立構造自体が違うようだ。
「サプリメントは、薬の代替でないのと同様に、食品の代替でもありません。健康的な食事を摂った上で、足りない栄養素を補ったり、健康の維持・増進の対策としてプラスで摂取したりするものなのです。
また、効果を出すためには現実的でない量の食品を食べなければいけない栄養素や、食品だと吸収率が低く、十分な効果を発揮しない栄養素も存在します。
たとえば妊婦さんに必要な葉酸は、ほうれん草などに多く含まれますが、サプリメントで摂るようにと母子手帳でも指導されています」(寺本氏)
食品からの摂取にこだわれば、目的を果たせないこともあるということだ。そもそも、胎児の健康維持のために妊娠前から妊娠初期に必要な葉酸の摂取基準は、食品ではなくサプリメントを摂取した際のデータをもとに定められているという。
大原則は、「サプリメントか食品か」ではなく、「食事に気をつけた上で、サプリメント」。サプリメントは、それだけ摂っておけば不摂生な生活をしていいという万能薬ではないし、逆に食品より効率的に栄養を摂れるものもあるからだ。
とはいえ、人工的なものに対する拒否感は自然なものだ。
「たとえば、『食品添加物』や『合成◯◯』と聞くと、とても体に悪いように感じますよね。ですが、それらは国の安全基準を通過しているので、用量さえ守られていれば、体に悪いどころかむしろ健康に役立つのです。
また、人工的な成分を含むイメージがあるかもしれませんが、実は、サプリメントに使われる成分は、天然物から抽出されたものであるケースが多いです。
食品は誰もが当たり前に摂っている安心感がある一方で、サプリメントの使用率は30%程度。未知のものに対する不安は当然あると思います。加えて、先述したサプリメントの表示上の怪しさや、かつて存在した不誠実な企業による悪印象も影響しているでしょう」(寺本氏)
そこでファンケルでは、消費者に安心してサプリメントを摂取してもらうための努力を続けている。機能性表示食品の届出による、わかりやすい表示もそのひとつ。さらに、サプリメントに含まれる成分の安全性に関する研究データをいち早く公開したのもファンケルだ。
薬との「飲み合わせ」についても独自に調査し、相談窓口を設けて消費者からの質問に直接答えることも続けている。

「量」で勝負するサプリメントを選んではいけない

さまざまな不安が取り除かれた今、私たちが知りたいのは「どれが自分に合ったサプリメントなのか」ということだ。ドラッグストアに行けば、山のようなサプリメントが売られている。
「健康診断の結果は、サプリメントを摂る際のひとつの目安になります。ある程度の年齢になると、体重が増えたり、数値が悪い項目が出てきたりするものです。
たとえば血糖値が少しずつ上がってきているなら、血糖値を抑える機能性表示食品のサプリメントを飲んでみる。免疫力をサポートしたいと思ったら、そうした機能性表示食品のサプリメントを探してみてください」(寺本氏)
今は多くが機能性表示食品として機能を表示しているため、簡単に自分に必要なものが見つけられる。また、自分に不足している栄養素がわからない場合は、ファンケルで電話相談も受け付けているので、それを利用するのもひとつの手だろう。
「自分に必要な栄養素が知りたい」「サプリメント選びに自信がない」といった消費者の声から生まれたのが、昨年2月にスタートした「パーソナルワン」というサービスだ。アンケートと尿検査の結果をもとに自身の栄養状態をグラフで「見える化」し、一人ひとりに最適なサプリメントをオーダーメイドで提供する。
自分に必要な栄養素がわかれば、あとは商品を選ぶのみだが、寺本氏は「消費者心理としてありがちな落とし穴がある」と言う。たとえばパッケージに同じ栄養素の名前が書かれていた場合、何を基準に商品を選ぶだろうか。
企業名、機能性表示の有無、値段……。もっともやってはいけないのは、「量」で選ぶことだという。
「ビタミンC1000mgより、2000mgのほうがお得感があるのはよくわかります。ですが、そもそも倍量摂取すれば倍健康になれるというものではありません。大切なのは摂取量ではなく、機能する量。
『どこよりもたくさんの量を含有していますよ』というのは、機能性表示ができなかった時代の戦い方で、もっともナンセンスなんですよ」
たとえ優れた成分でも、きちんと効率的に働かなければ、その力を発揮することはできない。
ファンケルでは、吸収されにくい成分をしっかりと「届ける」こと、留まりにくい成分をじっくり「留める」こと、成分の配合バランスでさらに効果を「高める」ことでサプリメントの機能を最大限に発揮させる、「体内効率」を追求した開発を行っている。
これこそが、サプリメントの「質」を左右するのだ。
サプリメントか食事か、選ぶのはもうやめよう。この大問題には、決着がついた。