【矢野和男×北川拓也】世の中の歴史は「ウェルビーイング」に満ち溢れている

2021/10/10
プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月から「データ×ウェルビーイングマネジメント」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、データを用いた前向きで幸福な人や組織づくりの第一人者である矢野和男氏です。
開講に先立ち、矢野氏と楽天常務執行役員CDOの北川拓也氏の「データ×ウェルビーイング」をテーマとした対談を企画しました。

人は思った以上に言葉に出さない

──ありがとうございます。ぜひNewsPicksもその一助になればと思います。同士の北川さん、いまのお話を聞いていかがですか。
北川 こうして矢野さんとウェルビーイングのお話をさせていただいて改めて感じたのですが、人って思った以上に幸せについて言葉に出さないですよね。
ほぼ間違いなくすべての人が、幸せって大事だと思っている。でもあんまり話さない。
「ウェルビーイングについて話したからって、自分のお金が増えるわけじゃないし、幸せになるわけじゃないでしょ」って思っている人もいるかもしれません。
でも、語ると意外と幸せもお金も増えるんですよ(笑)。
例えば、お金のことが好きで、お金についてずっと話している人って、実際にお金が増えているケースが多いと思います。
同じように、ウェルビーイングが好きで、ウェルビーイングについてずっと話している人は実際にウェルビーイングが増えています。
人はもっと、ウェルビーイングについて道端会議すべきなのではないでしょうか。
ただ、感覚で捉えられがちなウェルビーイングを言語化するのは最初は難しいかもしれません。そこにはトレーニングが必要かと思いますが、矢野さんいかがでしょうか?
矢野 おっしゃるとおりです。ウエルビーイングという概念を語るには、基本的な知識とガイドが必要です。実はちょっとしたガイドがあれば誰でも幸せについて語ることができます。
そして、多少なりとも知識を得たら、自ら実践し、その体験を「人に教える」ということです。人に語り、教えることこそが自分が学ぶ最も有効な手段であり、幸せになる道でもあります。
なぜかと言うと、教えるということは、それ自体が他人に感謝されるのはもちろん、自分の頭脳や肉体に強いフィードバックをかけることにもなり、自分自身も高められるからです。
気心の知れた仲間たちと教え合い、語り合うことー。この繰り返しこそが、自ら幸せになるエキスパートへの道です。

資本や生産性を上げるのは当然

──ウェルビーイングが生産性を高めるとありましたが、矢野さん、詳しく教えてください。
矢野 そうですね、世界中で長年に渡る研究から、ウェルビーイングが生産性を高めることは様々なデータで検証されてきました。幸せで前向きな人が生産性が高く、そして前向きな人がますます生産性を高めることは当然といえば当然です。
しかし、これを前提に仕事をマネジメントしている組織は、まだまだ少数です。
これをさらに普及させるためにも、昨年7月にハピネスプラネットという会社を作りました。テクノロジーは人に寄り添い、前向きな判断や行動を支援できる力があります。この会社では継続的に前向きな1日づくりを支援するアプリなどを提供しています。
そのアプリを継続的に使っていただいている企業では、前向きに1日を始めると幸せの数字が続々と上がってくるという結果が出ています。
幸せ度が上がると、営業では受注率などに明確に現れますし、そんな人は次の期にもっと成績を伸ばしていく。
一方、営業成績が良い人が幸せになっていくかというと、必ずしもそんなことがないのが、また興味深いところでもあり、学問的にも様々な形で検証されていることです。
北川 改めて考えてみると、ウェルビーイングが資本的・生産性の意味で成功に繋がるのは当たり前の話です。
資本主義はあくまで価値を交換するために、お金という紙幣に換えて流通させる仕組みですよね。
そう考えると、価値の源泉であるウェルビーイングの総量を増やせば、勝手にお金に変わっていく流れは当たり前です。
組織のウェルビーイングを増やしたら、みんなが価値を生むようになるはずです。
ウェルビーイングの一つの在り方として、自分がすごく価値だと感じていることを見つけて、うわーっと盛り上がってみるのはどうでしょうか。
みなさんにも、ビジネスや学問やそれぞれの領域で必ずあるはずです。盛り上がるとそこからビジネスに変わったり、価値に変わったりします。
例えマネタイズの才能が無くとも、興奮して盛り上がっていたら、誰かがマネタイズをやってくれ、そこからビジネスになることはよくあります。

従来のルールと両輪でやっていく

矢野 もう一つ大事なことをお話させてください。まだまだ20世紀的なマネジメントをやっている日本の企業は多いですよね。
例えばルールやPCDA、業務の標準化など、もちろん組織を回すには必要なことではあります。
ただ、これらの既存のマネジメントには変化に適応しにくいという限界もあるのです。従って、この限界を越えるべく前向きに新たな試みによって付加価値を増やしていくこととも両立させないといけません。
読者の方にも、「前向きな職場を作りたい」と思っているのに、現実として「自分だけでは何もできない」と限界を感じている人もいらっしゃるかもしれません。
私達はそういう人に「そんなことないよ」と声をかけています。
それぞれの置かれた場所や権限、とれるリスクの中でできることは必ずあります。それを繰り返していくと動ける自由度が拡がっていきます。私はこれを大企業の中で実行してきました。自分の持てる権限の中で前に進むことは必ずできます。
それこそがビジネスの世界でウェルビーイングを高める第一歩です。
ウェルビーイングへの関心は伸び続けていて今もどんどん増えています。私がこのような活動を始めた15年前から比べると本気度が違ってきています。
例えば英語の書籍の中で、「happiness」や「well-being」という単語が使われる頻度もこの20年で飛躍的に増えています。
世の中の関心の在り方が変わってきている証拠でもあり、ただの心地よいかけ声に留まっていた「しあわせ」や「幸福」が、いよいよ実社会での判断や投資に影響を与え始めています。
最近では政府の骨太の方針や成長戦略といった公式の場でもウェルビーイングという言葉が使われるようになりました。その意味でSDGsはこのための序章のようなものです。
ただ、絶対値で言えば、ハピネスやウェルビーイングを語る人はまだまだ少ない。だからこそ「皆さんが広める側になりましょう」と私は言いたいのです。
広める側が一番幸せになります。
写真:Tonktiti/istock.com

人類はウェルビーイングを広げてきた

──熱いメッセージをありがとうございます。北川さんは、ウェルビーイングを広めるの戦略については、どういうものが考えられると思われますか?
北川 私は実は、人類の数千年の歴史は、ウェルビーイングを広げてきた歴史でもあると見ています。人類がやってきたことの全ては、我々がウェルビーイングになるための礎になっていると考えます。
千利休がいて、茶の文化があるから我々はウェルビーイングを感じられるし、ルネサンスもそう。科学によって知的好奇心を満たすこともそうですよね。
対数のスケールでみれば、ウェルビーイングはずっと伸びています。
世の中の歴史はウェルビーイングに満ち溢れているからこそ、我々はもっと過去に作られたウェルビーイングを愛でるべきではないでしょうか。
この100年間、資本主義が上手くいきすぎたおかげで、物質的、またはテクノロジー的な豊かさが、ウェルビーイングよりもさらに速いスピードで上がっていきました。
本来ならお金や健康に対してレバレッジをかければ、ウェルビーイングも連動して上昇するはずなのに、資本主義が強すぎる世界では、ウェルビーイングがそこについてきませんでした。
ただ、今日お話してきたように、いまの我々はお互いにウェルビーイングに話し合うなど、ちゃんとウェルビーイングに取り組めば一気にウェルビーイングを高めることができます。
ここから先、お金の価値も相対的に下がっていることもあり、どんな人でもウェルビーイングになれる時代が来ると私は認識しています。
──過去のウェルビーイングを愛でるべきという言葉は素敵ですよね。
北川 過去に積み上げてきた学問体系や文学、アートも、知れば知るほど興奮することしかないですよね。
皆、過去のウェルビーイングを好きになりきれていないってことが、いかにもったいないかってことに気が付いていないのではないでしょうか。
私も知らないことが山のようにある。例えば料理をする楽しさは、あんまり知らない。
最近ではちょっとやるようになりました。例えば、パンケーキを焼くにも、過去の蓄積であるレシピなどを見てなんとか作ってみるわけです。こういうことが、ウェルビーイングを高めるのです。
矢野 実は私、パンケーキ焼くのの名人ですよ。ミッキーとかブタさんとか(笑)。子どもに喜んでもらいたかったから、何度も試行錯誤するうちに自然とうまくなりました。
北川 とても良い話ですね。でも、それこそがウェルビーイングの本質なのかもしれませんね。今日はありがとうございました。
(構成:赤坂太一)
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