【本間充】「ユーザーを正しく理解する」ことがデータ分析の最重要イシューだ

2021/10/15
「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月から「戦略的データサイエンス実習」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、データサイエンス分野の第一人者である本間充氏です。
今回は開講に先駆け、本間氏が過去に出演したMOOC「データアナリティクス入門」の内容をハイライトし掲載します。

データ分析は誰でも出来る

現代において、データ分析の重要性は、改めて説明する必要もないほど高まっています。
しかし、データを扱うためには、難解な統計ツールがなければ不可能だと考えられている場合が少なくありません。データ分析は専門知識を持つ、ごく限られた人材にしかできないと見られているとも言えます。
ただ、実はデータ分析やデータを使ったビジネスの改善は誰にでもできるものです。
今回のNewsPicksの講座では、その手法を詳しく解説していきたいと考えています。
そもそもデータを用いた会話は、実は職場でも普段から何気なくかわされています。例えば食事について。
ある人は、「このご飯おいしかったよ」と話し、またある人は「あそこはグルメサイトで評価1位なんだよ」と口にすることがあるかも知れません。
ほかにも企業業績について、「今年の業績、いいらしいよ」と表現する人もいれば、「昨対比20%増加みたい」と具体的に言及することもあるはずです。
これらの会話は似たような内容ながら、大きな違いがあります。「おいしい」「業績がいい」といった会話は、極めて主観的な内容になります。主観は個人の感想であり、全員が同じように捉えるとは限りません。
一方で「グルメサイト1位」「昨対比20%上昇」といった、数字というデータを用いた会話は、極めて客観的な内容と言えます。客観は数字などで誰が聞いても同じ印象を受けるもので、ビジネスにも非常に向いているとされています。
本間 充/マーケティングサイエンスラボ代表取締役
北海道大学数学科修了。花王株式会社に入社。研究員、デジタルマーケティングなどを実践。プログラミング、データ分析、スーパーコンピューター運用、広告作成など多岐にわたる業務を実行。その後、アビームコンサルティングに入社、現在は顧問として、DXやマーケティング領域のコンサルタントを行う。さらに、アカデミックでは社会と科学をつなぐ研究、教育を行っている。

ユーザーを正しく理解する

そんなデータには、2種類の活用法があります。
まず、すでに挙げた誰でも同じ印象を受ける客観性を用いて、過去の事例をしっかりと把握すること。これは、次への予想や新しい発見につなげる未来の事例への活用になります。
過去の振り返りだけでなく、将来に向けて自分たちがどのようなビジネスをすればよいのかまで、明るく照らすこともできる。
それ故に、新しい時代のビジネスを考える上で、昨今はデータの重要度が飛躍的に高まっていると言えます。
そんな時代のため、社内でデータドリブンビジネスやデータドリブンマーケティングが話題にあがることも多いのではないでしょうか。
今の時代、「企業としてデータを活用しなければビジネスで正しい判断を下せない」と考えても決して不思議ではありません。
しかし、データ全盛の現代のマーケティングにおいて、ユーザーを正しく理解することこそ非常に重要なトピックスと言えます。
例えば「30代男性」をイメージするとき、未婚の会社員を想像する場合もあれば、既婚の会社員の場合もあるかも知れません。ただ、現実には既婚で社長の場合もあり得ますし、未婚で学生の30代もいる可能性はあります。
現代において、「30代男性」とひとくくりにしても、実態はかなり幅があると言えます。
同じような例として、日本国民の年間所得のグラフが挙げられます。
平成28年度の場合では、かなりグラフの形はいびつになっています。決して、富士山のような左右対称な山なりではありません。
ただ、平成8年度やそれ以前のグラフは、富士山のような左右対称でした。当時は「国民総中流」という言葉があり、マスマーケティングで使用できるような、平均値も存在しました。
現在の非富士山型のグラフにも、545万円という平均値はあります。しかし、中央値はまた別にあります。そして、最も山の高いポイントは200万円台だったりします。
そうなると、日本の平均所得は545万円と言われた瞬間は、545万円を頂点とする左右対称の山なりのグラフを想像しても、それは実態とまったく異なるイメージになってしまいます。
マーケティングにおいて、実態に合ったイメージをつかむことは非常に重要です。もしもかつてのように、平均値が最も数が多いのであれば、マスマーケティングは有用でした。
ところが、現代のように平均値と中央値がとも数が多くはない状況では、マスマーケティングも効果がなくなってきていると言えます。
そのため、マーケティングにデータを持ち込もうとする際は、「データ分析に明るい人材がいなければいけない」「データ分析ソフトが必要だ」という話になりがちです。

正しくグラフにして確認する

しかし、データを扱う上で最も必要となってくるのは、データを正しくグラフにして確認すること。
ソフトを駆使するよりも、データをグラフにして眺めると、対象とする市場の現状やユーザーの実態を把握できるようになるものです。
データドリブンビジネスの第一歩は、まずグラフを書くことです。ただ、実際にどのデータを扱えばいいのか戸惑うかも知れません。
世には分析したいことも、そのデータも数多くあります。例えば私も、マーケター時代は「テレビコマーシャルと売上の関係を調べてみたい」などと考えていました。
もしも同じように調べたい事例がある場合は、必要なデータの見極めが非常に重要になってきます。
もちろん簡単なことではありませんが、私が考えるいくつかのステップがあります。
まずはじめは、問題の理解になります。テレビコマーシャルと売上を例にすると、分析のテーマ自体は「テレビコマーシャルと売上」になります。
しかし、実際に分析したいと考えているのは、売上に関係があるマーケティング要素は何なのか。「何が売上に関係あるのか」こそが本質的な問題と言えます。
次に、データを見ることなく必要なデータを考えることです。例えば売上に関係があるのはテレビコマーシャルかも知れませんし、商品の店頭価格かも知れません。
あるいは、ユーザーが商品をほしいと考える期待値の可能性もあります。それらの関連性が考えられる様々なデータを、大人数でブレストしながら洗い出します。
そして、そのブレストで出した数あるデータを、関連性の高い順番に並べ替えていきます。これまでは、実際のデータは一切触れていません。あくまでも仮定や過去の経験からデータを考えていきます。
次なるステップではじめて、実際にビジネスの場から得られたデータとようやく向き合います。ただ、このステップにおける注意点は、必要なデータが全て取れていると考えないことです。
例えば、テレビコマーシャルと売上の関連や、ユーザーの期待値といったデータは取れていない可能性があり、まず不足があるかの確認をしなければなりません。もし不足しているデータがあれば、それを補う作業をしていきます。

必要なデータは取れているか

この入手できなかったデータをどうするかを決めずして、データ分析を始めてしまってはまさしく間違いのもとになります。まずは自分たちが必要なデータが取れているかどうかに着目するところからはじめてみてください。
とはいえ、関係するデータが出そろったとしても、実際にそのデータをどう分析すればいいのか、非常に頭を悩ませると思います。その際の大きなヒントとなるのが、「アイデアブレスト」になります。
マーケティングでも、データを表として眺めるケースは少なくありませんが、そこから大きな発見が生まれることは稀と言えます。それより大事なことは、大人数でデータについて、「ここから何かが起きているのではないか」と論じること。
データはある事象の結果にしか過ぎませんから、何かが起こった結果がデータに表れているわけです。その何が起きていたのかを、みんなで想像しながら議論することこそ、「アイディエーション」になります。
データドリブンビジネスのメリットのひとつとして、今まで目に見えなかった部分がデータになることで、「ひょっとしたら、こんなことが起きているのではないだろうか」「もしかしたら今までの常識の中に問題があるのではないか」といった、新たな発見が挙げられます。
同じ様に、データを大人数で議論することで、集合知から大きなヒントが生まれ、新たな手法につながっていく場合は少なくありません。
すなわち、データを駆使した新しいマーケティングや新しいビジネスとは、データを分析ソフトにかけて予測するのではなく、実のところはデータから大胆なアイデアを出して改善策が生まれる点こそ本質と言えます。
もしも主観的な観点同士の議論になれば収集はつかないものですが、客観性のあるデータを使うことで、クリエイティブな議論の活性化が促されます。
データから何が起きているかを読み取ることが、建設的な議論の一助になることを願っています。
(構成:小谷紘友、写真:遠藤素子)
※後編に続く
「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月から「戦略的データサイエンス実習」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。