2021/9/22

「1000年後へ通じる選択を」SDGsの前から僕らは未来に本気だった

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経営のトレンドともいえる「SDGs」。しかし、単なる企業広報としてのSDGsにとどまるケースも企業も少なくない。

「本当にサステナブルかは、企業の『時間軸』に表れます」

そう語るのは、GPSSグループCEO・目﨑雅昭氏だ。同社はSDGs以前から、持続可能な社会を目指してサステナブルなエネルギー事業の開発を手掛けている。

サステナブルとビジネスはどのように両立できるのか。そして目崎氏の考える、本気でサステナブルな社会の実現に取り組む企業の「時間軸」とは。

今回は、電動小型モビリティによる「新しい公共交通」を目指す若き起業家、Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏との対話から、インフラの未来を考える。

「サステナブル」はSDGsの前から

目﨑 今回は「SDGs」に関する話ということなのですが、私たちははじめから「サステナビリティを経営のコアに据えて事業に取り組んできたので、SDGsを意識していないというのが正直なところです。
 もともとGPSSホールディングス(以下、GPSS)は、「サステナブルな社会」の実現を目指して2012年に立ち上げた会社で、現在はエネルギー事業を中心に事業を運営しています。
 2015年に制定されたSDGsの目標の多くは我々のビジョンとも重なり、「自分たちがやってきたことが、今SDGsとして共通言語化された」という感覚があります。
岡井 SDGsを意識しているわけではないというのは、よくわかります。
 Luupは、現在は電動アシスト自動車や電動キックボードといった電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを展開しています。
 その先に「30年後・50年後の交通インフラをつくる」というビジョンを掲げていますが、SDGsに当てはめて事業領域を選んだわけではありません。
 これまでの公共交通では取り残されているエリアや移動弱者の方にも届く交通インフラの構築、というLuupのビジョンは「誰一人として取り残さない」という、SDGsの基本理念にも合致するかもしれません。
「今はプロトタイプとして電動キックボードを実装していますが、より幅広いユーザーに使ってもらうために、将来的には4輪モビリティを導入したい」と岡井氏 (写真:つのだよしお/アフロ)
 SDGsは持続可能な社会を実現するために、世界中に掲げる大きな指針。30年、50年スパンで未来を見据えていれば、結果的に当てはまってくるんですよね。

「サステナブルな社会」のための事業

岡井 GPSSは「はじめからサステナブルな社会を目指している」とのことですが、そのためにどのような事業を手掛けているのでしょうか。
目﨑 現在の主軸はエネルギーですが、農業や植樹など、サステナブルな社会の実現のためにさまざまな事業に取り組んでいます。
 どんな事業を手掛けるかの判断基準は、「サステナブルな社会の実現」に必要かです。社会のニーズや地球環境が変われば、いずれ経済や産業も大転換を迎えるでしょう。でも、そのときになって慌てて方向転換しては遅い。
 私たちの取り組む事業は、すべて「それまでにどんな準備ができるか」という視点から考えています。
 未来を見据えた視点で設計している私たちのエネルギー事業の特徴は大きく2つ、「100年後、1000年後を見据えたサステナビリティへのシビアな視点」と「地域との協業」です。
 まず、私たちが取り組むエネルギー事業は、いわゆる「再生可能エネルギー」すべてを対象としているわけではありません。
 たとえば、日本では再生可能エネルギーに含まれる木質バイオマスは、もともと間伐材の使い道として始まり、発電事業者への補助金政策を打ち出すなど、国がインセンティブをつけて奨励してきた手法です。
 しかし「本当にカーボンニュートラルにつながるのか、環境の破壊を引き起こしていないのか」と長らく議論され、2021年1月には「木質(森林)バイオマスはカーボンニュートラルではない」という趣旨の報告書が欧州委員会から発表されました。
 森林の保全を主として、間伐材に限ってエネルギー源とするならサステナブルかもしれません。しかし、森林を切り倒してまで取り組むべき発電方法ではない。
 GPSSが取り組むべきエネルギーとは言えないので、我々は木質バイオマス発電はやらないと決めているんです。
岡井 なるほど、再生可能エネルギーがすべてサステナブルとは言えないんですね。
目﨑 はい。「サステナブル」とは何か、私たちは常に追求しています。「再生可能」という言葉だけに注目すると、考えようによっては化石燃料だって、再生可能エネルギーと言えてしまうんです。
 なぜなら、何億年もかけてエネルギーへと変わるという点で、たしかに“再生”はしていますから。
 でもそれでは、真にサステナブルではありません。「エネルギー資源が作られる時間」とそれを「消費する時間」のスピードのギャップが大きすぎるんです。
今の資源を使い切ってしまうまでどれほどの年数が残されているのか。天然ガスや石油は今後約50年、石炭やウランは約130年以上先には枯渇するとも予測がされている(出典:「原子力・エネルギー」図面集)
 創出と消費の時間に大きなギャップがある限り、未来には枯渇する。
 私たちは半永久的に存在する太陽光や風、地熱や水といった自然の恵みや、家畜の糞尿や食品廃棄物などの人の消費によって仕方なく生じるゴミを活用して、エネルギーに変換しているのです。
 そうしたエネルギーの源は、日本各地に眠っています。だからこそ、GPSSでは「地域との協業」を大切にしています。
 太陽光や風力、中小水力、地熱などの各地の風土に最も適した方法で、地域の方々と一緒にエネルギーを生み出す。この「一緒に」が重要です。
 私たちが一方的に発電所の開発を進めるのではなく、地域自体がサステナビリティへの主体性を持つ。そこで初めて、その場所に根差した事業を作ることができるのです。
 地域とGPSSは、いわば「ともに同じ船に乗る仲間」。共同事業者としてパートナーシップを結び、発電所を保有・運営しています。
 発電所を設置する地域が共同事業者となることで、その土地でつくられたエネルギーが生み出す利益は地元に還元される仕組みです。
岡井 たしかに発電した利益を事業者に持っていかれては、その地域にとってのサステナビリティが実現したとは言えませんね。
目﨑 GPSSと地域の方たちとが積極的にコミットし合うには、還元は欠かせないですね。サステナビリティが持つ「ただなんとなく良いもの」なんてイメージだけではコミットし合えません。
 想像してみてください。自分が買ったマンションの目の前に、突然大きな風車が建つことになったとしたらどうでしょうか?
 そもそも地域の人たちにとって、自分たちの暮らしに根付いた自然や美しい景観はかけがえのないものです。それを少なからず損ねることになる開発には、抵抗があって当然です。
 外から来た私たちが一方的に発電所設置を勧めるのではなく、地域の側から主体的に選んでもらえること。その土地に暮らす人たちにとって、最良の選択だと感じてもらえることが、GPSSのエネルギー事業の要だと思っています。

SDGsのさらに先、未来のインフラ構築

岡井 SDGsやサステナブルがブームになり、最近ではいわゆる「グリーンウォッシュ」と呼ばれる表面的な環境保全や、環境問題と自社の活動を結びつけただけのマーケティングも少なくありませんよね。
目﨑 何が本当に「サステナブル」なのかを考えるとき、私は「時間軸」がポイントだと思っています。
 今はできるけど、未来永劫それを続けていけるのか。100年後、1000年後、1万年後という時間軸で見たときに、その選択がどんな未来をつくるのかを考えていく必要があります。
岡井 未来のための選択で言えば、クリーンなエネルギーの活用は、私たちLuupにとっても重要なテーマです。
 世の中の環境への意識が高まるにつれ、企業は環境に配慮しているのかがさらにシビアにチェックされます。
 どんなエネルギーを使っているのかも、今後サービスが選ばれるための大きなポイントになるでしょうね。
 Luupでも、ソーラーパネルを設置したポートで充電する仕組みの研究開発を進めています。
 クリーンなエネルギーを選ぶだけでなく、Luupでは「エネルギーの効率的な使い方」も重視しています。
「家から最寄り駅まで」のような、歩くには少し遠い2〜3kmの移動をするためには、バスなどの大きな乗り物を使いますよね。
 でも、定員いっぱいまで乗客が来るかコントロールしきれない大きなバスを走らせるのは、エネルギーの使い方からみると、とても非効率です。
 ちょっとした移動をするにも、自転車が走りやすいように道路が整備されたり、キックボードのようなマイクロモビリティが街なかに普及したりしていれば、移動にかかるエネルギーは少なくて済みます。
目﨑 エネルギー利用の効率化は、これからの社会に不可欠なテーマですね。
岡井 はい。そのためにも、技術革新を常にキャッチアップしていかなくてはなりません。だから、GPSSさんのような関連領域のビジネスにも注目し、常にモデルチェンジを図っています。
 逆を言えば、そうした新しい技術をLUUPを通じて社会に普及・浸透させていくのが、我々の社会的責任の一つと言えると思います。

インフラとして普及するための課題は

岡井 ただ、サステナブルであればどんな技術でも取り入れられるのかというと、やはりコストという課題はあります。
 交通インフラとしての普及を目指す以上、ユーザーが無理なく払えるような金額設定はマストです。
 目﨑さんは、GPSSがインフラとして普及を目指す上でどこに課題を感じていますか?
目﨑 最大の課題は「時間が足りないこと」ですね。
 世界的にも、SDGsや脱炭素といった、環境に対する人々の意識はどんどん高まっています。
 11月にも閣議決定される「第6次エネルギー基本計画」では、全電源に占める再生可能エネルギーの比率の目標が大幅に引き上げられ、36~38%程度を目指すと明記されています。
 今後はますます多くの企業が、再生可能エネルギーを求めることになるでしょう。
岡井 消費者としても経営者としても、どんなエネルギーを使うか選択できるなら、もちろんクリーンなエネルギーを選びたいですからね。
目﨑 そうですよね。しかし、今はそのニーズに供給スピードが追いついていません。
 自然エネルギーは、発電所1基で広いエリアをカバーできる従来の化石燃料による発電ほどの発電量がありません。インフラとして普及させるためには、必然的に全国各地に発電施設を分散させる必要があります。
 しかしたくさん造ろうにも、資源のある場所はどこか、そこに発電所が設置できるのかなどのリサーチに始まり、開発にはとにかく時間がかかるんです。
GPSSの開発スキームは、「共同事業契約(地域のステークホルダーと共同事業体を作り、利益の方向を同じくした事業スキームの設計)」「地域合意(周辺住民とのコミュニケーション)」が特徴だ。(GPSSのHPより)
 複雑な調整を重ねて、計画から運用開始まで10年かかることもあります。この供給不足の改善は、より早くクリーンなエネルギーを普及させるためにも急務ですね。

「両立」のハードシングスはどこに

目﨑 今回のテーマであるサステナブルとビジネスの両立で最も悩ましいのが、資金調達とガバナンスの問題かもしれません。経営者としてサステナブルを見据えた意思決定をする上でのハードシングスだと感じます。
岡井 「超長期のビジョンを理解して投資してもらえるか」が重要ですね。
 資金調達をするときに、「10年後に今の売り上げの200倍を目指します」と約束するのか、「こういうサービスをこの安定度で、これぐらいの値段で提供します」という約束をするのかでは、その先の戦略が大きく変わっていきます。
 Luupは「未来のインフラ、新しい公共交通をつくる」ことを最優先事項に決めています。投資した資金の回収などは、あえてその次のプライオリティと位置づけています。
「それでは投資できない」と言われるケースもありますが、未来のビジョンを見据えた上で「今の僕らにできる約束」をする姿勢は貫きたい。
目﨑 より多くの開発プロジェクトを実現するにはもっと資金調達をしていくべきなのですが、我々の独立性が担保できないと、目指すサステナブルの実現から離れてしまう可能性もあります。このバランスも我々にとって大きな課題です。
 我々のビジョンに心から共感してくれる仲間を集めて、資金や人材のリソースを増やしながら成長し続けたい。
 そのためにも、私たちの志をこれまで以上に積極的に発信する必要がありますね。
 独立性をキープしつつ成長を続け、未来に必要不可欠なエネルギーの供給スピードを上げていきたい。私たちの目指すサステナブルな社会の実現は、100年のスパンでは足りないと思っています。
 1000年、1万年先を見据えて、そこから逆算して今の事業に取り組んでいる。その礎をつくり、次の世代に託せるような会社となるのが今の私たちの使命だと思っています。