中国政府、アリペイ分割検討 融資事業向けに新アプリ=FT
コメント
選択しているユーザー
<2020年11月のコメント再掲>
アントはサブプライムローン(花唄&借唄)債権をABS=資産担保証券化によってオフバラ→キャッシュ化し、そのキャッシュを再びサブプライムローン事業に充ててABS発行、という自家発電方式でサブプライムローン事業を急拡大させて来ました。日本でも話題になるダブルイレブンでは若年層が花唄で大量消費します。そしてアントのサブプライムローン債権のABS化比率は実に98%以上です。
要するに「外部から調達した資金を貸すだけ貸しまくった挙句に証券化でオフバラした後はデフォルトしようがしまいが知ったこっちゃありません」というモラルハザードが貸手側に生まれます。アリペイの信用スコアに基づいてクレジットリスクは管理されていますが、信用スコアのアルゴリズムはアリババのブラックボックスなのでデフォルトリスクは客観的に評価出来ない点も問題です。
つまり、証券化前提でサブプライム層に住宅ローン貸しまくった末のデフォルト連鎖で引き起こされたリーマンショック、と同じ火種をアントは中国の資本市場にバラ撒いているのです。
中国全体の貸出の4割を占めると言われるシャドーバンキング=ノンバンクによる信用創造は不良債権の温床となっており、中国金融当局も最近様々な規制を打ち出しています。P2Pレンディング撲滅もその一環。アントにモロに関係するのはいわゆる4倍ルール:①貸付金利のLPR×4倍キャップ=年利約15.4%(8/20以前は24or36%)、②発行ABS総額の純資産×4倍キャップ。しかしアントは純資産の14.65倍に相当する5000億元超のABSを直近4年で既に発行しており、暫く当局の要求水準には達しないでしょう。予想に反して11/24に200億元の追加ABS発行が当局に承認されましたが、皮肉にも上場が更に遠ざかりました。
で、この規制に伴うアント事業資産価値の毀損が史上最大規模のIPO後に起こったとしたら、公募価格でアント株を掴んだ一般投資家の多くに甚大なダメージが生じます。IPO後に株価が90%以上暴落したペトロチャイナショック時は共産党を非難する声が国内で強まり(中国では投資は自己責任という概念が浸透しきっていない)、当局はこの二の舞を避けたいのです。
注目のコメント
昨年アントが公表した上場目論見書によると、融資事業が決済事業を超え、最大の稼ぎ頭になっています。
問題視されているのが、融資の原資となる資金の調達方法です。アントの上場目論見書にこう記されています。
「我々は、当社のプラットフォームを通じて実施された融資の規模に応じ、提携金融機関から技術サービス料を得ている。我々のアプローチは、自社のバランスシートを利用せず、担保も提供しない。2020年6月30日現在、当社のプラットフォームを通じて実施された融資残高のうち、約98%が提携金融機関による貸出か証券化されている。」
つまり、2兆元に上る巨額融資のほとんどは、アントが自己資金を投じることなく、提携金融機関などの外部資金を用いることで信用リスクを外部に転嫁し、自らはリスクを取らず手数料で稼ぐというアプローチをとっているのです。
今年に入り関連規制が矢継ぎ早に出されています、フィンテック企業の融資事業に関しては、今後も厳しい対応が迫られると思います。報道が事実ならば中国政府によるアリペイの事実上の統治です。力が強くなりすぎたアリペイを分割し、戦略物資であるビッグデータを召し上げる。今後他の企業にも波及する可能性があります。
西村先生のコメントにあります通り、アリババの融資事業は、自分のお金は使わず、借り手と貸し手のマッチングをして儲けるビジネスだったため、返済能力のない若者、学生などの与信審査もじゃんじゃん通して借金まみれにし、貸し手である金融機関も多額の不良債権を抱える、という大問題が起こっていました。そこに政府が「やりたい放題しすぎだろ、いい加減にせい」と規制をかけた、という格好です。
どこまで介入するかはこれから明らかになってくると思いますが、これをもってアリババの終わり、とか、中国政府により民間企業統治のはじまり、みたいなのは大袈裟な気もします。